あぱかば・ブログ篇

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2009年 01月 25日

東京国際キルトフェスティバル

東京ドームできのうまで開催されていた、東京国際キルトフェスティバルに行ってきた。

幾日か前に書いた当ブログ編み物始めますかのコメント欄でご案内をいただいたので、是非行ってみたいと思ったのだが、その後、顔の湿疹がひどくなり(猿面冠者アゲイン。ステロイド剤投与の功罪)、正直に言ってここのところあまり外出したくない気分となっていた。
しかも私はキルト制作など今までやったことも見たこともなく、この先も始める可能性は薄そうなわりに「入場料が、意外と高い……(当日券2000円)」という情けない要素もあって、ちょっと迷っているうちに日が過ぎてとうとう最終日になってしまった。
いざ最終日ちかくになってみると、“行かないと、きっとずっと後悔するだろう。”という気持ちのほうが大きくなってきて、やっぱり行くことにした。

会場へ向かいながら、不思議な気分だった。
どうして行くんだろ?
それは“縁”という言い方でしか説明のつかない、衝動なの。
そしてきっと目当ての作品の前に立ったら、説明のつかない感情に衝かれて泣いてしまうだろうなあという予想も、立っている。

東京ドームのアリーナは、大盛況であった。
ご自分が作品を出展されているのか、布や製品などのグッズを買うのが目当てなのか、そぞろ歩いているのはやや年配寄りのご婦人が多くを占めていて、皆さんそれぞれに熱気を帯びた視線を大作に投げ、のんびりと布の間をめぐっていた。
彼女たちのペースで歩いていたら楽しいだろうが、丸一日かけても時間が足りないだろう。
インフォメーションでめざす作家の名前を出し、そこ目がけて足早に移動する。
歩きながら目の端でいろんな作品を鑑賞する。
斬新な作品もあり、昔ながらの作品あり、ひとくちにキルトといってもバリエーションは無限にあるものだと短時間で感心する。
しかし、私が見ようとしているのは、すべてのキルトではなく、水野めぐみさんという方の作品だった。

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「君と動物達がくれたもの」
他の作家とすこしちがうスタンスを作っている方に見えた。
もちろん、駆け足で他の作品の前を通り過ぎただけの印象なのだけど。

水野めぐみさんという方は、イラストレーターであり旅本作家の故イトヒロさんのお知り合いで、昨年、イトヒロさんの著書『旅の虫眼鏡』から動物の図案をいただいて作品を制作したとのことだった。
そのイトヒロさんの最期を看取った方が、水野めぐみさんの作品が東京ドームで展示されることを知らせてくださった。
それまでの経緯は、「元気でな!」とイトヒロさんが手を振るに記した。
そこに書いたように、私は、イトヒロさんという方を存命中には直接存じ上げないままとなった。
つまり、私は、イトヒロさんをじかに知らないし、看取った看護師さんをじかに知らないし、お知り合いというキルト作家の水野さんというかたをじかに知らない。
でも、現実にここに来ている。
愛らしい動物の目やしぐさと、原色をいっさい使わないのに鮮やかで印象的な作風に見入っている。
そのことの不思議さで胸がいっぱいになる。

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“縁”というのは、あるんだな。
ここのところ、よく感じる。

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『フランキー&ジョニー 恋のためらい』というラブロマンス映画があった。
刑務所での刑期を終えたアル・パチーノが、ダイナーでコックとして働きはじめる。
間もなく、ダイナーの仲間のひとりが、老母を亡くす。
仲間は皆でお葬式に行き、新参者のアル・パチーノも行く。
ヒロインは彼が棺の前で涙をぬぐうのを見て、あとで彼に尋ねる。
「どうしてさっき泣いてたの?亡くなったのは、あなたにとっては知り合いでもなんでもない人なのに。」
彼はぽつんと答える。
「人の死は悲しい。」

この映画を観た当時は学生だったから、このセリフの重さ、というか真実味が、ピンと来なかった。
今になると、本当にそうだなとしか言いようがない。
イトヒロさんを知らないままだったのに、死が悼まれる。
無条件に、悲しいことだ。
故人を直接知らなくても、その周りの人たちの、死を悼む表現の仕方から、いかにその人が大きな人だったのか、うかがえる。
田中真知さんのブログ、蔵前仁一さんのブログ、子ヤギさん(看護師さん)の年賀レターの発送、そして水野めぐみさんという方の、キルトでの表現。
このキルト作品は直接に死を悼んでいるわけではないだろうけれど、制作中、イトヒロさんのことをきっと思ったはずだ。
そうやって、人からいい追悼をしてもらえるって、すばらしいな。

夫は、30年以上前に亡くなった私の父を、もちろん直接には知らない。
けれど、父のいた共同通信社の『五〇年史』かなにかに、父の過労死のことが書かれていて、そこに部下による追悼文が書かれていたのを読んだという。
泣いたと。
「こんな追悼文を書いてもらえるなら、俺も早死にしてもいいかなっと思うくらいの名文で……泣けたぜ。追悼文を書いたその人もすごいけど、それを書かせたあなたのお父さんという人が、どれだけの人物だったかと思ったよ。」
キルトを見ながら、夫の言葉が浮かんだ。

早く亡くなるのは、いいことではないに決まっている。
でもその人が遺したものは、誰かを突き動かして、誰かを揺さぶる。

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だってこの作品の前には、いつでも人垣ができていて、写真もろくに撮れないほど。
「あらかわいいわこれ!」
「見てこの表情、かわいいわねえ……!」
「わあこれいいわねえ!なんともいいわね。」
これほど作品があふれかえる会場でも、人はちゃんと、ここで足を止めるんだもん。

by apakaba | 2009-01-25 20:14 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(12)
Commented at 2009-01-26 17:15 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by apakaba at 2009-01-26 17:28
カギコメの方、初めまして。
どうもありがとうございます!
ご紹介の写真は、すでに検索して拝見しておりました。えへへ。
でもあれがご本人なのかどうかは、わからないなぁと思っていました。
やはり、イトヒロさんご本人だったのですね。
今年の大作を見ることが叶わなかった彼の代わりに、私が見よう!ナンテ、おこがましいことは思ってはいませんが、本当に「君と動物達がくれたもの」の前にはずっと人だかりが絶えませんでした。
それがとてもうれしかったです。
美術展や写真展に行っても、「いいな」という作品の前って、自然と足が止まりますからね。

私のブログは長文が多いので読むのがメンドクサイのですが、よかったらまたいらしてください。
ほんとに、縁は存在するなと思っています。
Commented by のこのこ at 2009-01-26 21:11 x
ステキ~この大作!
キルトってめんどくさいからとてもやろうとは思わないけど、ここま出くると手芸の域を超えてアートね。モザイク画みたいな。
どれだけの時間がかかったんでしょう・・・・すごいわ人間の力って。

ステキなご縁があってよかったですね。やはり何かひとつ持っている(マキさんの場合は文章を書くこと)といいことあるよね。
Commented by 私も同じ at 2009-01-27 04:01 x
[君と動物たちがくれたもの]キルト
を観ている三谷さんを想像してみた。

なぜ?足を運んだか?なんて理由は要らないですね~

行かなくては後悔するかも知れない。
そんな気持ちにさせた、この縁が惹きつける不思議な力って 凄い~。
感動~。
素敵な縁の巡り合わせがあるのですね。
人に支えられて人は繋がっていて、人に 気付きをもらって 大切なことを気づかせてもらっているんだな。って思いました。

私も、しっかり生きていかなきゃ。
大切な家族、友達、友人を 大切にしよう。と感じるよ。
Commented by apakaba at 2009-01-27 08:30
キルトレス。
のこのこさん、ステキでしょーーーッ!←作ってないけど自慢!
そうそう、モザイク画みたい。
モザイクって、旅行してると見る機会があるじゃない?
私はヨルダンとかシリアとかで、世界最古の……とかも見たけど、本当に感激しますね。
それに通じる感激がありました。
しかも、色合いにすごく一貫性を感じた。
「私はこういう色でやっていく」「このカラーで生きる」という意志を感じるのよ。

キルトってさ。
手間なのは見ればわかるけど、一歩間違えると、なんというか……鈍くさいモノが多くない?
苦労はわかるがとくに自分の生活の中に入ってきてほしくないぞというような。
それがぜんっぜんないの!
これだけ大きな作品でも、「きゃーほしいー家に飾りたい!」と思ってしまうのよ。人の暮らしにスッと寄り添ってくれる感じ。
うんとかわいらしいのに、どこか洗練されているんですよね。
それがよかったなあ。
Commented by apakaba at 2009-01-27 08:54
キルトつづき。
私も同じさん(というのは顔の湿疹の方でしょうか?)、けっこうマジ泣きでしたよ。
どこかへ行ったり、会う約束をしたりするとき、「どうしようかな」と思ったら、「するのとしないのと、どっちが後悔しそうだろう」と考えてみると、自然に答えが出ますね。
そしてそれに従うと、ほぼ後悔はしませんね。(あれ、当たり前か。後悔しそうにないほうを選んでるんだから。)

「気づき」という言葉は、私もよく考えます。
私は映画が好きなのでよく見ているのですが、モチーフとして「主人公に“気づき”が訪れる」という作品がとても好きですね。
娯楽仕立てだとしても。
Commented by ぴよ at 2009-01-27 09:21 x
素敵なご縁ですねぇ。
過去日記も読みましたけど、人と人を繋ぐもの、縁とか運命等と呼ばれるものの不思議を感じますよ。
キルトも小さな布と布を繋ぐ事で全く別の新たな世界を得るという部分が「人の縁」との共通性を感じます。

水野めぐみさんは有名なキルターさんですね。
ぴよは一応趣味でキルトも作るので(最近はめっきり布集めだけで作品作ってないですけど。涙)、彼女の作品は何度か見た事があります。
「キルトジャパン」という雑誌が好きでよく買うんですけど、彼女の作品はこの雑誌によく掲載されていますよ。
カントリー風の愛らしい作風のモノが多い方ですよね。
好きなキルターさんのお一人なんですよ♪
Commented by apakaba at 2009-01-27 09:46
ぴよさん、洋行帰りなのにさっそくありがとう。
あなたのいない間にばしばしブログが進んでしまいました。
ほんと、長文ブログは読んでくれる人が限られるから、再訪者サマサマですわ!

>キルトも小さな布と布を繋ぐ事で全く別の新たな世界を得るという部分が「人の縁」との共通性を感じます。

うまいねえ……これどこかで使わせてもらおう。メモメモ
でもキルトはおもしろいですね。
布1枚でいたときとまるで別の顔を持ち始めるというのがね。

やはりあなたは水野めぐみさんをご存じだったのね。
キルトをやると聞いていたから、知ってるかなあと思っていました。
縁の辺りの、緑の刺繍など、見てるだけで倒れてしまいそう!
端から内側へ向かって、徐々に緑色が薄くなっていくグラデーションが圧巻の細かさよ!
Commented by 子ヤギ at 2009-01-27 20:39 x
あぱかぱさんへ

「泉には、綺麗な泉も濁った泉もある。
人は、泉を選んで、水を飲んだりするように
泉は、綺麗な人でも、貧しい人でも、誰にでも、水を与える。
人は、泉を選んでも、泉は人を選ばない。」


縁は、育てるからこそ、繫がるのでしょうね。自分流の水を絶やさない泉を大切にしていきたい。な・・・と今日ブログを拝読しながら思いました。

ありがとう。




Commented by apakaba at 2009-01-27 21:29
子ヤギさん、こちらこそ、ご案内ありがとうございました。
子ヤギさんが教えてくれなかったら、東京国際キルトフェスティバルという大きな催しの存在すら、知らなかったことでしょう。
それがあんなふうにすごい人出、すごい熱気、あのようにすばらしい作品がどっさり並んでいたなんて!

感動して泣けるのって魂の浄化になるといいますね。
最近、落涙することが多くて、カタルシスがぞくぞくと訪れています。
かな〜り、湿疹の治りも早くなるはずだと信じたい。
Commented at 2009-01-27 23:25 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by apakaba at 2009-01-29 10:06
カギコメの方、ありがとうございます。
きのう、週に一度の通院でまた皮膚科に行ってきましたが、やはり2年だとのこと。
2年とか言われると気が遠くなりそうだけど、でもよく考えてみたら2年すれば元に戻ることが約束されているんだから(しかも完治ということで長めに見ているんだろうし)、こんな楽で幸せな病気もないですよね。
考え方次第だわー病気って。


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