2009年 09月 17日
京王線を新宿と反対方向に乗っていくと、高幡不動という駅がある。 京王線沿線付近に越してきて8年以上が経つのに、今まで行ったことがなかった。 引っ越しをすれば、誰でも沿線の駅名を始発から終点まで、何度もくり返し目でたどったことがあるだろう。 高幡不動という駅名を、引っ越し当時から気になっていたのだが、行く機会がなかった。 「あ〜どっか行きたいなー。遠くには行けないし。でも出かけたい。」と思い立って、初めて高幡不動尊に行ってきた。 *いつものようにカメラを忘れてしまったので、高幡不動尊金剛寺のサイトを参考にしてください。 不動堂に祀られている不動明王とこんがら童子・せいたか童子は鮮やかな彩色が施されて、いかにも新しい感じがするが、奥殿(おくどの)に祀られている重要文化財の三像は、風格がまったくちがう。 ↑ 奥殿でもらったリーフレットを撮っただけでどうもスミマセン。 この不動明王像は、平安時代の木造の像としては関東唯一の巨像であるとのこと。 この木造の三像をかたどって鋳造したものが、本尊として不動堂に祀られているのだった。 不動堂のすぐ後ろに奥殿が位置しているのに、どうしてまた、本物というかオリジナルの像を不動堂に据えないのだろう。理由はわからなかったが、まったく同じ造型の像なのに、オリジナルの迫力や重量感やありがたみが、金属製の模造のほうではまるっきり失われていることがとてもおもしろかった。 当然、単純な“重量”なら、金属のほうがずっとあるはずなのに。 この奥殿は300円の拝観料を払うと、収蔵された展示品を見ることができる。 コンパクトな建物に似合わず、どっさりと展示品があってお得な感じもするが、如何せん展示方法があまりにも無節操であり、工夫のなさに驚いてしまう。 平安期の大日如来像も二十世紀の日本画もこのあたりで出土したのかなんだかわからない石とかも、土方歳三直筆の手紙も、まるで年代順を無視してぎゅうぎゅうに並べてあるだけ。 かえって、なにを見たのか混乱して、印象がなくなる。 来てみるまで知らなかったが、ここは土方歳三の菩提寺でもあった。 せっかく重要な美術品や歴史的価値のあるものをたくさん持っているのに、商売っ気がないというか。 メチャクチャな展示にとまどいながら進んでいくと、ある一角で 「あーっ!歓喜天(かんぎてん)だ!こんなとこに歓喜天がある!すごい!」 と思わず声を上げた。 歓喜天(かんぎてん)とは、ヒンドゥー教のガネーシャ神を起源とする神で、二体一組の立像として表されることが主である。 ガネーシャなので象の頭をしていて、向かい合って抱き合っている。 私は何年も前から、この歓喜天に強く惹かれていた。 今はほとんど手を加えていないメインサイトの書評欄に、『歓喜天とガネーシャ神(長谷川明 著)』という本の評を書いている。 「ガネーシャ」の項に、その異様なイラストはあった。 はじめは度肝を抜かれた、極彩色の大衆宗教画にもすっかり目が慣れてきたところへ、「歓喜天双身像」の、単純な白黒のイラストはかえってセンセーショナルで、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感さえ覚えた。 頭だけが象で、人間のからだをし、立ったままいだきあう、一対の像。 グロテスクなのに蠱惑的。 邪道に堕ちるすれすれのキワをあぶなく渡る、そんな仇(あだ)っぽい造型に、私は戦慄し、また抗いがたい魅力を感じた。 この像の秘密を知りたい。なんとなくこわい、だけど知りたい。 人が成長していくにつれ、避けてはとおれないセックスへの興味に、それは酷似していた。 それもそのはず、歓喜天は、性力信仰を司る神としての一面を持った、非常に特異な神格だったのである。 (書評全文を読むには、メインサイトAPAKABA?の下のバーから、book reviewをクリックしてください。) これを書いた2002年当時は、まさか日本最古の歓喜天像を自分が見ることができるとは思ってもいなかった。 感激で胸がいっぱいだった。 ↑ またもリーフレットの写真でどうもスミマセン。 これが、高幡不動の奥殿に乱雑に安置されていた(乱雑に安置というのは矛盾か)お宝のうちのひとつだったのである。 ね、象が抱き合ってるでしょ。 えっ、わからない? いや、1000年昔には抱き合っていたはずだ。 1000年昔に、どんなお顔の、どんな装束の二体が愛を交わしていたのか、想像の翼がぐんぐんと伸びていってしまう。 高幡不動尊に行って、よかったなあ! 思いつきにしては収穫が大きかった! 先日、世界陸上で性別疑惑が持ち上がり、“両性具有”と判明した南アフリカのセメンヤ選手のニュースを、子供たちが見ていた。 「両性具有ってなんなの!」 「男でしょ?どう見ても。」 「でもこっちの写真だと女っぽい。」 「それは服が女の服だからだろう?」 「両性具有ってなに?!」 「両性具有というのは、ひとつの体に男と女の両方の特徴を備えている人のこと。どっちでもあってどっちでもないのね。」 私が言うと、 「えーっ!おっぱいもあって、きんたまもあるとか?」 「どうしてそんなことになるの?」 「まあ、たまにだけどそういう人はいるのよね。」 「いやー気持ち悪い。」 「んー、でも、地域によっては、両性具有というのは、より神に近い存在とされるところもあるのよ。」 「なんで神なの?」 「宗教では男と女が合体することで初めて完全な存在になるという考えのものがけっこう多いのね。たとえばホラ、廊下に飾ってある、おかーさんがネパールで買ってきた絵(タンカ。チベット仏教絵画)にも、たくさん、男の神様と女の神様が合体しているのが描いてあるでしょう。 片方だけではダメで、両方そろっていて初めて、本当に力を出せるという考えなのね。 インドの宗教画でも、体を右と左で縦に分けて、男と女の神様がどっちも描いてるのとか、あるのよね。 ひとつの体で両方兼ね備えているなら、それは完璧な体だという考え方だね。」 「なるほどー。へええー。」 話しながら、子供がいつか高幡不動に行って歓喜天像を見るといいなあと思っていた。 合体しなくちゃ始まらない! 合体しなくちゃなにも生まれない! ぼろぼろな木の像が呼んでいる。 *以前、『両性具有の美(白州正子 著)』という本の評も書きました。メインサイトに置いてあります。
by apakaba
| 2009-09-17 23:40
| 国内旅行
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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