2009年 09月 29日

Little fats & Swingin' hot shot partyを知っているか?

吉祥寺へ買い物に行き、井の頭公園のそばのカレー屋に入る。
ずっと、低くBGMがかかっている。
私は、食事中に日本語の歌詞がついた音楽がかかっている店というのが好きではない。
座って本を読んでいるのに日本語の歌詞が耳から入ってくると、気が散るからである。
今日も、あれ、日本語だなあ、いやだなあ、と座りながら反射的に思った。
しかし、今日の歌は不思議と耳にすいすいと入ってきて、ちっとも不快ではない。
音量が低いのでよく聴き取れないが、ママの自慢のソースがあれば食べられないものはない……とか、あのコとふたりで寝るには(このベッドは)せますぎる……とか、日本語の歌詞でにぎやかなジャズを唄っていた。
この店の名物である、牛すじと揚げ野菜のカレーを食べながら、サラリーマンの一団のおしゃべりにかき消されそうな低い音量に、いつの間にか耳を澄ます。

「潮風のような声だ」と、ひとりでに頭に浮かんだフレーズに、自分で“あっ”と声を上げそうになった。
この声は、もしかしたら、ずーっと前に井の頭公園で路上表現(ストリートパフォーマンス)をしていたバンドの人ではないのか?
アマチュアバンドじゃなかったのか?
ここは公園のすぐそばだから、地元出身パフォーマー応援のつもりで、この店でかけているのかな?
でも本当にあの人だろうか。
音楽のスタイルはそれっぽいと感じたけれど、なにしろ彼らの演奏を、かれこれ10年ちかく前にたまたま一度聴いただけだから、自信がない。
でも……似ている。
あの人の声を、あの最後に唄った歌を、今でもたまに思い出すことがあるから。

彼らのことを、井の頭公園の“路上表現”で思い出すことなどと題して3年前に書いている。
そこでボーカルの人のことを、こうつづっている。

リーダーはボーカル兼トランペットの、タンクのような体つきの男の人で、彼の声は風に乗ってきた潮の香りのようだった。

そのとき唄った最後の歌というのは、On the sunny side of the streetだった。

最後の曲のとき、彼がこう語った。
この曲は僕が一番好きな、ジャズのスタンダードです。
On the sunny side of the street——つらい日があっても、道を歩くときは陽のあたるほうを歩いていこうというすばらしい詞です。
僕たちも、音楽をやっている人生という道の、陽のあたる側を歩いていきたいと思っています。

ルイ・アームストロングほどしょっぱい声ではないけれど……両足を開いてがっちり地面につけ、胸を張って唄っていた、タンクのような、クジラのような体躯の彼の声は、そろそろ傾いてきた冬晴れのひだまりに流れていった。
歌が終わり、人垣が崩れていって、私も帰途についた。
最後の曲がずっと頭に残っていた。
あれからもう5年くらいたっているが、今でもたまにあの曲と、リーダーのあの人の姿を思い出す。
冬晴れの公園に流れる潮風のような声を思い出す。


あの歌さえ聴けば、あの人だという確信が持てるのに。
まあ無理だけど。
ずっとBGMとしてかかっているのに、まさかあの歌がこのタイミングでぴたりとかかるはずがない。
気になるなあー。
あの人なんだろうか?

次の瞬間に、私は胸がいっぱいになって涙が出そうになる。
まさしくOn the sunny side of the streetの、陽気さとちょっぴりの哀愁が混じり合ったトランペットが流れてきた!
やっぱり彼だった!
ずうっと前に井の頭公園で語っていた言葉どおり、“僕の一番好きな歌”を、アルバムに入れたんだな。
声と演奏もよかったけれど、あのMCで、長く私の記憶に残ることになったのだ。

レジで、思いきって店員さんたちに、
「あのーこの音楽は、なんという人たちの演奏ですか?もしかしたら、井の頭公園で昔、聴いたことがある人かなと思ったので。」
と尋ねてみた。
そっけなかった若い店員さんたちは、きゅうにふつうの女の子の顔にもどって、
「えっ。ええとー、ええとー、リトルファッツアンドなんとかっていう……すみませんはっきりわからないんですけど、店長が気に入っていて、かけているんです。そういえば昔、井の頭公園で路上(表現)やってたって聞いたことがありますー。」
と答えてくれた。

帰宅してから検索してみたら、Little fats & Swingin' hot shot partyという名前のバンドであることがわかった。



活躍していたんだな。
一度しか見かけたことのない人たちだし、この先、井の頭公園で会うこともないとは思うけれど、何年たっても心にくり返し甦ってくる声と語り。
やっぱり、そういう人が、売れていくのだなあ。

by apakaba | 2009-09-29 15:38 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(8)
Commented by kotaroco at 2009-09-29 21:34
いいバンドですね!
私も気に入りました!生で聴きたい!!!
それにしても・・・長いバンド名(笑)

昔昔・・・夫婦で失業中に、毎日井の頭公園へ
通っていました。
何をするあてもなく・・・
井の頭沿線に住んでおりましたので。
その頃はパフォーマーはいなかったなぁ(遠い目)
Commented by ogawa at 2009-09-29 22:37 x
耳の記憶ですね。

たぶん、井の頭公園での耳の記憶が印象深かったのでしょう。

声とペットの音色が、ブルースっぽくていいなぁ。
Commented by apakaba at 2009-09-30 09:24
kotarocoさん、こんなボケボケの映像でも、魅力を感じる音楽だというのが伝わりますね。
力があるということなんだなあと思います。
路上だと、完全に観客参加型になるので、いっしょに手拍子したり、踊ったりも自然に発生しておもしろいんですよー。

本当の「路上」だと交通の迷惑ということで止められたりもするようですが、井の頭公園にはまだのどかさが残っています。
私も井の頭沿線です!
いいトコですよねえ。
便利なのにのどかで……大好きです。
きのう、神田川を散歩してたらアオサギがいたもんな。

それにしても、夫婦で失業中とはおつかれさまでした。
また井の頭公園に行ってみてください。
そのときの気分を思い出して、今ならそれはそれできっとなつかし〜く感じられると思います。
Commented by apakaba at 2009-09-30 09:33
ogawaさん、私の好きなタイプの声ですねえ。
路上(表現)で足を止めてしばらく見ていたのはあのとき一度きりです。
いろんなところでよくパフォーマーを見かけるけど、イマドキな甘ったれた歌詞「自分を信じて〜」とか「夢追いかけていたよ〜」とか、聞くに堪えないことを唄っているのでそそくさと立ち去るだけだもん。

ボーカルの人のMCがとても心に残りました。
胸を張って陽の当たるほうを行こう……というのが、不況どん底のアメリカで作られた歌で、その歌詞を自分のものとして理解している人だなあと感じました。
Commented by さると at 2009-09-30 15:30 x
すごいわー
一度聞いた演奏を覚えてるなんて!
いやはやそれにしても偶然耳にするってのも何かの縁かもしれませんねー
Commented by apakaba at 2009-09-30 15:47
さるとさん、自分でも不思議でした。
それももともとファンだったとかじゃなくて、ほんとに偶然耳に入っただけだし、うんと前だしね。
よほどそのときの印象が深かったのですね。
でも力のある人って、芝居でも絵でも、そういうものじゃない?
一度きりの邂逅でも、そのあと何度も何度も思い出して余韻がよみがえるというような……
Commented by さちよ at 2009-10-04 11:54 x
昨日、little fatsのライブ行って来ました☆

このブログの事を、ボーカルの方がMCで話してましたよぉ♪

「ちなみに今話したエキサイトのブログを読んで今日来たっていう方いますか?」
と、ボーカルの方が聞いたところ、一人の男性が挙手。
ライブハウスでは
「おぉ~!」
と拍手がおこってました☆

そんなステキな出来事があったので、思わずカキコミ。。。
Commented by apakaba at 2009-10-04 21:09
さちよさん、ようこそお越しくださいました。
書き込みありがとうございます!
とても、とても感激しました。
私のような一般人が、感動したことをつづって、それをご当人が読んでくださるということなど、一昔前までなら決してあり得ませんでしたね。
それができてしまうのがネットの時代ならではです。
MCで話してくださったとは、夢のように光栄なことです。
しかも、他のかたも読んでくださっていたとは……カンムリョウです。
ブログやってたよかったよ!!!!

音楽を、言葉に変換することって、もっとも難しいことだと思っています。
絵もよく見に行きますが、絵や写真より、音のほうがさらに難しいような。
彼の声は、風に乗ってきた潮の香りのようだった……というのは、せいいっぱいの表現でした。
これからも陰ながら応援していきたいなと思っています!
私は吉祥寺出没組だし!


<< 広島・岡山旅行その2 観光地!...      広島・岡山旅行その1 神の島へ >>