あぱかば・ブログ篇

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2009年 12月 23日

男たるもの、

無気力脱出のためにとりあえずおいしいものを食べよう。
ランチに、東京で一番おいしいボルシチが出ると思っている近くの店へ。
以前、ボルシチの写真を載せた。
これを書いたのが5月だからそれ以来である。

隣のテーブルに、60歳を少し超えたくらいの男性ひとりと、同年配の女性ふたりという三人連れが座ってきた。
前にも書いたが、ロシア料理店のお客は平均年齢が高いと思う。
しばしば、これくらいの年代以上の初老紳士淑女の皆さんが憩っているのを見かける。

その男性は、ロシアに留学をしていた経験があるらしい。
席間がせまいので、彼のよく通る声でなんでも筒抜けなのである。
茶色い柄物のセーターを着た、黙っていれば地味そのものの小柄な男性なのだが、“ココはオレの場”とばかりに、座った瞬間から自信満々。
安物のブローチ1個が、せいいっぱいの外出着の飾りになっているような、野暮ったいおばさんふたりを相手に、この食事をカンペキに楽しませようと心を砕いているのがありありと伝わってくる。

「ボクは、ここには週一回のペースで来ていますからね。ここ、ジュースもおいしいですよ、○○さんはこけもものジュースなんかどうですか?」
「へえ、こけもも?そんなジュースがあるんですか?」
素直に喜ぶ女性陣。
「ええありますよ、では食前にどうぞ。」
ハンサムな若いロシア人のボーイを呼び、ロシア語でそのボーイの名前を聞き出し、注文。
こまごまと、デキルところを見せている。
淑女たちにはジュースを……そしてボクには、冷凍庫から出してきたウオツカをね。
「まあ!××さんって、お強いのね!」
「いや、はっはっは。これくらいは……」

飲み物が出てきたところまで聞いていて、可笑しくなってきた。
“男たるもの、こうあるべし”という固定観念の一典型を演じきっているじゃないの、このおじさんは。
男たるもの、淑女の飲み物の注文はリードすべし。
男たるもの、酒に強くあるべし。
男たるもの、外国人との意思の疎通はさりげなく。

「まあこのボルシチ、きれいな赤ねえ!これはなんの色かしら。ビーツからだけじゃ、こんなには、無理でしょう?」
「いやいや、これはビーツの色ですよ。砂糖大根の一種ですからね、甘いでしょう。レシピ、うちにありますよ。教えましょうか。
ああそれとビーツで思い出した、ぜひおふたりに食べさせたいものがあるんですよ!ビーツを使った、非常におもしろい料理でね。見てびっくりですよ!ダレダレさん(ボーイ)、あれ、持ってきて。」
「まあっ、なにかしら!」
男たるもの、料理にも造詣深くあるべし。
男たるもの、淑女を退屈させてはならず、つねに話題を提供すべし。

「ボクがロシアの寮にいた時分にはね、夏にはこれが出たんですよ。きのこ類も重宝したものです。
ああ遠慮せずに食べて。これはぜひごちそうしようと思っていたから、ボクおごります。
ああそうだ。(席を立ち、厨房へ半身をつっこみロシア語で指示)いま、コーヒーをサービスでつけるように言ってきました。料理の値段は下げないけど、ボクは週1で顔を出してるからね。これは店からのサービス。ボクはロシアンティーで。バラのジャムを入れてね。」
「バラのジャム、きれいですわね!」
男たるもの、なじみの店を持つべし。
男たるもの、食事のしめくくりはスムースにロマンティックに。

華麗なまでの陳腐さに、隣の席で失笑しそうだった。
彼の心は、“今日は、女性をふたり喜ばせた。”という幸福感で満たされているのだろう。
私なら絶対に同席したくないなあと思いながら、このふたりのおばさんもよくやるよと気づいた。

女たるもの、つねに男性よりモノを知らず、男性の前では無邪気に喜び、すすめられるままにおいしく食べ、男性のホストぶりに感嘆する態度を貫くべし。

どうなんだろう?
この手の“男たるもの男(ああややこし)”は、ある年代を境に絶滅するような気がする。
若い男は決してこんなトークで食事をリードしない。
昔懐かしいといえば懐かしい。
昔懐かしいけど懇意にはなりたくないタイプ。
しかし、徹底的に男性の下にポジションを確保する女というのは、まだいるのかな?
なんでもかんでも「あら!」「まあ!」と感嘆するの。
「あら!」「まあ!」がおばさん風であるなら、「すごーい!」とかをとりあえず連発するような。

ほんとに、男と女っていうのはなあ……
それよりも、この男性が週1でかよってきているというのは、私にとって気が重い情報だなあ。
気に入りのボルシチが、彼と近い席では台無しになってしまう。
新たな悩みが生まれて、無気力のことを忘れていた。

by apakaba | 2009-12-23 01:03 | 生活の話題 | Comments(5)
Commented by 副店長 at 2009-12-23 09:36 x
「美味しんぼ」にときどきでてくるキャラですね。

このおじさんの隣に座っていた山岡がボソッと
「これは本当のボルシチじゃない・・・。こんなもんをありがたがって食べているなんて」

「なんだと! おい若造、おれはロシアに1年留学していたんだ。いくらでもボルシチなんか食ったことがある。許さんぞ!」

「じゃあ、本当のボルシチを食べさせてあげますよ・・・」

みたいな展開。

こういう昔型の男性は、長い海外ツアーなんかにいくと、たいてい他の客ともめる。自分が偉いと思っているから、人の話がまちがっていたりすると看過できずに、「それは違うさ」といい始める。言われたほうは当然、カチンときますからね。

いま昭和30年代40年代の映画をときどき観ているのですが、酒場のシーンでは、たいてい、注文は「おい!もう一本!」とか、「酒だ」というような物言い。それがふつうだったようです。

いつから男が「すみません」「お願いします」と注文するようになったのだろうか? 私の世代はすでに後者。
Commented by apakaba at 2009-12-23 15:33
副店長、アハハハハハ!笑う!
あまりにもそのとおりです!(山岡)
いや、その店のボルシチは山岡にけなされるようなモノではありませんが。

いろんなエスニック料理店に入ると、ちょっとかの国になじみがあるような人が集っていたりしますが、ロシア料理店は圧倒的に、この手のロシア郷愁組が多いです。

>いま昭和30年代40年代の映画をときどき観ているのですが

私も、「まるで小津映画の中の男女のやりとりみたいだ」って思っていました。
小津映画の中では、男がいないシーンでは女達は自由奔放で、男のバカさ加減をあざ笑うのですがね。
Commented by kaneniwa at 2009-12-23 23:56
若くても年をとってても、
何だか男は哀れだなぁ。

女は大変だ。

男は哀れだ。

BYマーヒー
Commented by ぴよ at 2009-12-24 01:49 x
長年「昭和初期組」のおっさん(じいさん?)の相手をする事で日銭を稼いでいる身なので、こんな会話は何とも思いません。
コレは私の職場での日常的な会話のヒトコマですよ(苦笑)

どうでしょうね・・・いわゆる「団塊の世代」と呼ばれる方の何割か辺りまでがこの手のタイプに該当するであろうと思いますね。
この手の会話が成立するには眞紀さんもご指摘の通り、お相手をする女性も男性の会話に乗っかってあげて「リードさせてあげる」という逆接待を心得ていないといけません。
むしろこの会話が成立する決め手は女性の合いの手に掛かっているかと。

この「逆接待」が出来ない女性が昨今増えましてね、
そんな訳で心得ている私に、この不況下にも仕事がある訳ですよ♪(笑)
Commented by apakaba at 2009-12-24 11:50
マーヒーさん、生物として、男のほうが早く寿命が尽きてしまうのは、むべなるかなって思いますね。

ぴよさん、あ〜感じ取ってくれてうれしいわ。
この昭和初期な男と女のやりとり。
世代で輪切りにできることとできないことってあるけど(たとえば携帯電話への依存度は、輪切りにできない。おばさんは携帯依存症が多い!)、この“男たるもの”な会話は世代でばっつり輪切りにできるものだと思う。
その架け橋となるのが、昭和中後期なあたしたち世代の女……か?


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