2009年 12月 25日

クリスマス歌舞伎・野田版 鼠小僧

野田秀樹の芝居を、ずーっと観たいと思っていてチケットが取れず、ゆうべやっと歌舞伎で観ることができた。

今年は毎月一度というくらいの頻度で歌舞伎座にかよっていた。
今年観た名演の数々を、思い出すだけでもうっとりしてしまう。
奇しくもクリスマスイブに当たったきのう、『野田版 鼠小僧』は今年最後の鑑賞を締めくくるにふさわしい作品だった。

長屋で嫌われ者のけちな棺桶屋を営む三太(さんた)が、ひょんなことから盗みを犯し、街では勝手に三太の盗みを鼠小僧の仕業と噂するようになっていく。
三太は、長屋の連中には正体を隠しながら、夜な夜な、カッコいい義賊の鼠小僧になりすますことに快感を覚えるようになるが……という、野田秀樹が書き下ろした現代歌舞伎だ。
お金にしか興味のなかった三太が、幼いみなしごとの交流を通じて、だんだんと人間らしい情愛を取り戻し、クライマックスには
「おい、今日は何日だ?24日だろ?師走の24日っていったらお前、三太(=サンタ)が年に一度の大仕事をする晩だよ……」
と、ある決意をするのだが、このセリフ一つでもわかるように、現代の小劇場らしい芝居と、伝統的な世話物歌舞伎の要素が同居する。
腹の皮がよじれるほど笑い、最後には涙をぬぐう。
現代に生きる我々は、昔の歌舞伎ファンが想像もつかないようなイブの夜を、この上なく贅沢に過ごすことができる。

野田の天才ぶりは私が学生だったころから名高かったけれど、実際に観てその名が伊達ではないことがわかった。
歌舞伎という芸能をとことん理解している、その上で、今を生きる人間にしか作れないものを差し出す。
舞台という限られた空間の特性を120%生かす。
勘三郎・勘太郎・三津五郎・染五郎をはじめとする、当代きっての役者たちを使い切る。
野田秀樹は、当代きっての劇作家であり演出家だ。

歌舞伎役者の身体能力の高さときたら、そこらへんのちゃちなタレントあがりの俳優などには決して務まらないだろう。
染五郎が追っ手をかわして屋根瓦のセットを駆け抜ければ、そこは江戸の夜になるし、目明しの勘太郎が花道を走れば10メートルが150メートルも走ったように伸びて見える。
歌舞伎役者は、鍛え方がちがうもの。

きのうはちょうど、市川海老蔵と小林麻央が結納を交わした日でもあった。
セリフの中に、
「いえいえ、誰もおりまでせんでした。ましてや小林麻央なんかおりませんでした〜」
と勘三郎がふざけるシーンもあるが、歌舞伎を観ない人にとってはこの縁組みは“女たらしの海老蔵に嫁ぐ小林麻央がかわいそう”という見方になるのかもしれない。
しかし、歌舞伎を観る人間にとって、歌舞伎役者というものは、なにもかもが常人のレベルをはるかに超えた存在ですから。
テレビに出ている一般的な“芸能人”と同レベルでくくられるような人生を、彼ら、送ってはいません。
そうでなければ、あれほどの踊り、あれほどの所作、あれほどの声音、あれほどのカリスマ性を、舞台の上で発揮できないもん。
くだんの海老蔵も、セリフ回しはまだまだひよっこだが、二枚目役のときの立ち姿なら、花道に出た瞬間、客席全部から感嘆のため息が漏れるほどに美しい。
血筋としか言いようがない美しさだ。
小林麻央嬢には、とにかく美しい男の子を生んでくれとしか思わない。

梨園の妻といえば、きのう三田寛子が来ていたが、無地の明るい紫色の着物があまりにも美しいので、夫とふたりで見とれてしまった。
三田寛子だと気がつくよりも「いい着物着てる人がいる!……あ?三田寛子?」と気づいたというくらいに、いい着物だった。
夫は、
「いやーきれいな着物だなあ。柄もなにも入っていなくて、あそこまで目を惹くってことは、相当にいい着物だぜ。
歌舞伎役者の妻なんて、挨拶まわりとかで、ほんとに裏に回って支える役だからな。気を遣う仕事だよな。派手な柄物で目立ってもだめ、でもいいものは着ていないとだめ、と。
ああいうふうにして差をつけるんだな。」
と、しきりに感心していた。
歌舞伎座に行くと、富司純子を見かけることもあるし、この先、小林麻央嬢を見かける日も近いかもしれない。
小林麻央嬢には、市川家のために、がんばってほしい。
いや、本気で言ってるんですよ。
そして末永く、歌舞伎を楽しませてもらいたい。

きのうは天才・野田秀樹と、サンタの勘三郎のおかげで、すばらしいクリスマスイブになった。

by apakaba | 2009-12-25 18:46 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(4)
Commented by えみぞう at 2012-12-05 13:39 x
仕事中だというのに泣いちゃったよ。
Commented by apakaba at 2012-12-05 22:16
勘三郎がこんなに早く亡くなるなんて、想像もしていなかったから、彼については意外となんにも書いていなかった。
これまでそうとういっぱい見たけど、このサンタのときが一番よかったなあ。
最後、泣きました。
Commented at 2012-12-23 00:05 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by apakaba at 2012-12-23 17:44
カギコメさま、コメントありがとうございます。
ブログをたくさん更新されていてすばらしいですねえ。
リンクありがとうございます。
横浜は私の生まれ育ったところで、親戚縁者はみんな横浜なのです。
とてもなつかしいです。
私もそちらのブログを見習って頻繁更新すべくがんばります!

勘三郎の死は本当に悲しかったですが、息子二人は南座で名演をしているようですよ。
見守りましょうね。


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