2010年 07月 28日
第17回のつづき。 [3日目・午後5時] エスカレーターで地上に上がったところ。 ドラマチックな出口だった。 体が地下から出て行くにつれて、また別の国へ来たような気分になる。 「うわあ」と思わず声が出た。 MRTでリトルインディア駅からたった3駅の、チャイナタウンだ。 ホームグラウンドにしていたリトルインディアとは、雰囲気がガラッと変わった。 東京も、せまい範囲内でも駅が変わると街の雰囲気が激変する場所だが、それを徹底した感じ。 当たり前だけど、ああ〜なんて中国っぽいのだろう。 ショッピングを楽しむインド人ファミリー。 チャイナタウンに来ても、やっぱりインド人を撮るのはクセか。 「あたしのもの、なんにも買ってくれないもん、暑いだけでつまんない。」 気を取り直して中国っぽい風情をさがす。 そろそろ、提灯にも灯りが入るころだ。 ああ、本当に旅行も終わりだな。 滞在中に、やりたかったことをピックアップしておいた。 全部はできなかったが、けっこう達成した。 ・リバークルーズ→○ ・占星術→○ ・マッサージ→△(中国式とタイ式はできたが、アーユルヴェーダができなかった) ・超近代建築探訪→○ ・オリジナルな写真をいっぱい撮るぞ→○ ・知人に頼まれたシリアルナントカスープ購入→○ ・いろんなシンガポーリアンと会話する→○ ・プラナカン満喫→○ ・あれ食べたい、これ食べたい→△(カエルちゃん以外は、カヤトーストはじめ、いろいろ食べた) こうして書き出してみると、こんなに短期間のうちに、ほぼ達成しているじゃないか。 がんばったねえ。 長旅だけが旅じゃない、と、つくづく思う。 けれどもそれは、“長旅なんて必要ない”ということと同義ではではなくて、若いころに時間をたっぷり使った旅をたくさんしてきたからこそ、駆け足でも楽しむことができるようになったのだと思う。 一旅行者としてのふるまい方(身の処し方・コミュニケーションの方途)を知っているから、無駄な労力や衝突で旅の貴重な時間を浪費せずとも行動できるのである。 これが最後のヒンドゥー寺院だ。 シンガポール最古のヒンドゥー寺院であるスリ・マリアマン寺院は、残念ながら改修中だった。 インドではマリアマンではなくてマリアンマというけどな……これも「ドービーガート(=洗濯屋の階段。川岸の洗濯場のこと)」がここではいつしか「ドービーゴート」と訛って変化したのと同じか。 ……考えるとはなしに考えながら、場所を変えて写真を撮る。 十数年前、巨大ゴープラムを見たくて、南インドをまわる旅行を計画していたことがあった。 タミルナードゥをくまなく歩こうと思い、安宿はもちろん、泊まれそうな駅や、列車の時刻表や、入ってみたいレストランまで調べあげた。 子供たちが幼くて、長旅など夢のまた夢だったけれど、飽きもせずに大きな紙に計画表を書いて検討していた。 あれから子供は大きくなり、それなのに未だタミルナードゥをほっつき歩く長旅には行かれないままだ。 でも、今はそれがとくに悔やまれるわけでもないの。 2日半でもこれだけ楽しめるんだもん。 いっぺんに、いろんな国に行ってきたみたいに! この国が地上の楽園だなどとは、思っていない。 多民族国家ならではのひずみもあるだろうし、永遠の右肩上がりの経済成長なんてあるわけない。 この旅行記は、超短期旅行者として、いかに楽しく過ごすかということだけを重点に置いて書いてきた。 旅好きな人々の間で、なんだか不当に評価の低いシンガポールを、「いや、こんなにおもしろかったよ!」と擁護したい気持ちでもあった。 いいよねえシンガポール。 行ってみたく、なったでしょ? さて、もう夜中のフライトまで時間がなくなってきた。 最後の晩餐くらい、ドアのある店にしてみるか? 少し高級な中華料理店などを物色していたが、!!!!!!!!!!!!! ドアなんか、いりませーーーーーーん! 結局最後まで、ドアのない料理屋のがたつくテーブルに、吸い寄せられた。 メニューを見ると、カエルちゃん料理はそれなりのお値段だが、「raw frog」というのだけがひどく安かった。 生のカエル? カエルの刺し身みたいなもの? それはすごい、絶対に試してみたい。 注文をとりにきたおばさんに 「この raw frog というのは、なに?これ食べてみたいんだけど。」 と尋ねてみた。 思っていたのとまったくちがって、これは「生きたカエルを持ちカエル」ということだったのだ。 「持って帰るの?跳ねるよ!」 と脅され、おとなしくクレイポット煮込みにする。 カエルちゃんサイコー! raw frog を頼まないでまったくよかったぜ。 今まで、日本でカエルのからあげは食べたことがあるが、あれとはフレッシュさのレベルがぜんぜんちがうのであった! おおげさではなく、口のなかで肉がプリッと跳ね上がりそう。 脂っこさがまるでなく、シコシコしていながらしなやか。 細い骨の一本一本まで、しゃぶり尽くす。 からあげでは「鳥肉みたいだ」と思っていたけれど、これほどフレッシュだと、歯ごたえで一番似ているのはむしろすっぽん。 最後の最後に、△だった達成項目が○になったのがうれしかった。 これ以上のフレッシュさは望めないもんね。 ありがとうカエルちゃんたち。 テーブルを離れて箱に近づき、夢中で写真を撮っていると、外国人観光客が5人ほど、私の前を通りかかった。 スペイン人のように見えるその人々は、好奇心と恐怖心が半々になったような顔をしてこの箱を指さしている。 やがて人懐こそうなひとりの男が、 「このなかには……カエルが入っているんだろ?」 と、私に聞いてきた。 「そうだよ。フタを開けるのは要注意!ジャンプするよ、ゥワッ!!」 脅かすと、立ちすくむ団体。 「これ、食べるの?うまいの?」 同じ男が顔をしかめて尋ねてくるから、 「うまいよー!ほんとにおいしい!」 と大声で請け合う。 しかしスペイン男は 「ウソだろー信じられないよ。食べるなんて……」 と、箱と私の顔を交互に見ては、両方ともどっちもどっちのゲテモノだという顔つきをする。 「ほんとだってば食べてごらんよ!私は大好き!」 「うへえー。」 「おいしいんだってば!試してみて!」 タイガービールで赤い顔をさらに真っ赤にして、ぞろぞろ立ち去ってゆくスペイン団体の後ろ姿に向かって、私は絡みつく。 (完結) *明日、目次を作ります。
by apakaba
| 2010-07-28 19:49
| シンガポール2010
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Comments(14)
最後はチャイナタウンと蛙ですか・・・なるほど。
最初に私がシンガポールに言ったのが1985年。 そのころはチャイナタウンは健在でした。 そして2000年頃はシンガポール政府の政策でチャイナタウンは壊滅状態でしたが、最近は再度、スポットライトを浴びているのですね。 そんなことはどうでもよく、一言。 蛙が美味そうだ。
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apakaba at 2010-07-29 23:30
ogawaさん、長々とした連載になってしまってどうもスミマセン。
私が初めてシンガポールに行ったのは1984年くらいかな? チャイナタウンのことなどまったく覚えていません。 でもこの2日半のことは一生忘れません、たぶん!
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minmei316 at 2010-07-30 10:26
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apakaba at 2010-07-30 15:06
minmeiさん、どうもありがとうございます!
そんなわけで、心残り(△項目)はアーユルヴェーダひとつとなりました。 あんなにminmeiさんが気にしてくれていたのに…… 次回の課題といたします。 ブログでは短い旅行記のほうが読んでもらえるというのは、アタマではわかっているのだけど、ついついクセで長くなってしまいます。
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ぴよ
at 2010-07-30 22:24
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カエルたーん♪好き好き好きーっ!!
おっしゃるとーり、自称「旅好き」の方々の間でシンガは余り人気がないですね。 私はすごく興味のある国ですが、残念ながら未だ行く機会に恵まれません。 だからこの旅行記はとても興味深く読ませて頂きました。 その国に対して敬意と愛を感じる旅行記でした。 とても数日の間に起こった出来事だとは思えない程の分量! この国に来てめいいっぱい満喫した様子が本当に手に取るように伝わりましたよ。素晴らしい国だったんですねぇ。
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apakaba at 2010-07-31 12:05
ぴよさん、どうもありがとうございます。
フレッシュカエルちゃんを食べるためだけに、旅行する価値はあると思います! 私は結局のところ、ただただ足で歩いて、人の写真を撮るということばかりしていたけど、いわゆる“レジャー!”もどっさり充実しているし、一大レジャーアイランドというミリョクもあるんだろうな。 カレや友だち同士やファミリーでも楽しい!(はず!) 一人旅でも楽しい! というところだと思うわ。 超絶オススメ! でも、私がどこに行ってもだいたい同じ感じで喜んでしまうタイプだからなのかもしれない。
シンガポールに2日いただけで、これだけの長文を書けるとは・・・さすがです。
私なら写真を貼って1ページで終わりです。(苦笑) シンガポール政府観光局に売り込んだらいかが? モニターツアーで招待されるかもよ・・・
いやぁ、堪能いたしました。
最後は、カエルで、無事帰る、ですね(^^ゞ スペインではタコやイカは食べるのにね。 食の世界は不思議です。まぁ、違う方向にいく可能性もあるから、軽いジャブにしときますけど、捕鯨反対者にはカエルを食べていただき、感想を聞きたいですね。 素晴らしい言葉と写真、ありがとうございました!
追記です。
しょっぱなの写真。いいですねぇ。異様な雰囲気を感じ、見入ってしまいました。行き違う男性の間にある柵?を中心して、シンメトリーの構図で撮れば、さらに不思議な感覚、例えば、過去と未来のようなテーマが生まれそうな… 2枚目の中国版グレムリンたちが可愛すぎる(^v^)いろいろぐじゃぐじゃ言ってそうで、画面から飛び出してきそうですね。 ラストの水槽のかえるちゃんの「手」が心に残りました。
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apakaba at 2010-08-02 11:15
シンガポール最終回レス。
カルロスさん、最初と最後にありがとう。 そんなに長文でもなくて、写真の点数が多いから長く感じるだけじゃないかなー。 (いや、やっぱりふつうに較べたら長いか) >シンガポール政府観光局に売り込んだらいかが? モニターツアーで招待されるかもよ・・・ おもしろいこと考えるねえー。 また行きたいしな!
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apakaba at 2010-08-02 11:58
グッドバランスさん、最後までありがとう。
鯨も大好きです!!!!!! ユダヤ教ではイカ・タコはアウトだね。(ウロコのないお魚系) 今まであまり写真を撮ることをしてこなかったので、写真をいっぱい撮る旅行というのはおもしろいものだなと思いました。 被写体てんこもりなシンガポールでしたねえー。
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タカモト
at 2010-08-03 22:53
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いやぁ、長かったよ。(笑)
この滞在期間でこれだけ書けるのはマジにスゴイよ。 文章力の凄さと感受性の強さなんだと納得しますぜ♪ 読んでいたら。 シンガポールってそんなに良かったのかぁ・・・と。 一般的には「買物天国」と言われて。 特に男子なんかはスルー(またはトランジット)の都市かと思ってたけど。 また行きたくなるよ。(カジノのオープンしたし・・・・笑) 俺もお疲れ様ですけど書くほうもお疲れ様でした♪ 次回の記も頑張ってな。
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apakaba at 2010-08-04 11:30
シンガポールレス。
Matsuiさん、是非まとめて読んでくださいー夏休みの課題図書です! またコメお待ちしてます。 タカモトさん、長いおつきあいありがとう! 途中あきらかに挫折したでしょ。 ひとりでもみんなでも愉快なシンガポール。 まー私はあまりよその国へ行って「見るトコない」「つまんない国」とか悪く言うのってスキじゃないのよ。 |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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