2010年 09月 14日
その4のつづき。 今回は文章を最小限にして、写真中心でいく。 そのほうが、ベネッセハウスと、ここの立地のすばらしさが見えると思う。 朝食は“パーク”棟のはずれにあるテラスレストラン「海の星」で。 客室から歩いていく途中、こんな、夢みたいに美しい通路を通る。 きのうは気がつかなかったので、美しさにびっくりしてしまう。 テレジータ・フェルナンデス作「ブラインド・ブルー・ランドスケープ」というアートで、15000個のガラスのキューブが通路一面に貼り付けてあり、キューブの一面は鏡になっている。 夜になったら、眺めはいったいどう変化するのだろう? この通路から外を見たところ。 まだ今日は始まったばかりだ。 ブルーの通路を抜けると、一転してポップアート。 ギャップが楽しい。 カラフルなニキ・ド・サンファール作品が広い庭に点在していて、親子連れは足を止めてよじ登ったり見上げたりして楽しんでいた。 ベンチにガラスが嵌め込んであり、そのガラスを砕いてばらまいたように、光が地面に散らばっているのがきれいだ。 テラスレストランは、ゆうべの日本料理レストラン「一扇(いっせん)」よりもカジュアルな雰囲気。 やっぱり山小屋風。 しかしビュッフェに並べられたお料理は、東京の高級ホテルよりももっとしゃれている。 料理を盛りつけたプレートが“小さい”ことにも好感を持った。 小さければ料理の減るのが速いので、しょっちゅうスタッフがチェックしなければならず、それだけフレッシュだから。 乾いたサラダや、保温しっぱなしで固まり過ぎたタマゴなどは、ここにはない。 ここのアートは、両壁面だ。 ミケランジェロ・ピストレット作「フレスコ画5」は、片方がオレンジ、ちょうど真向かいのもう一面がブルーで塗られており、ところどころに貼られたガラス面が互いを映す。 ブルーの方にはオレンジが、オレンジの方にはブルーの壁の一部が、角度によって映ったり映らなかったりする、偶発的なおもしろさのあるアートだ。 反対側。 お客さんたちは朝ごはんのおいしさに夢中で、あまりこのおもしろさに気づいていないように見えたが…… デッキに出て食べたらさぞいい気分だろう。 ……これほど暑くなければね……さすがに、外で食べている人はいない。 食後に外へ出れば、目の前が海。 カメラを砂浜に置いてあなた任せのノーファインダー(波に注意だ!) 朝の散歩のお目当ては、あれだ! オウノウ!(懊悩) オウノウ!(懊悩) この炎天下の上天気、あまりにも美しい空と海と島々の風景に、敢然と挑戦状を叩きつける黄かぼちゃの勇姿! いや、とくに挑戦してはいないのかもしれないが、これがあるだけで、目の前ののどかな風景は一変して非現実的なパラレルワールドへ。 ここは日本なのか、どこなのか? 自然を愛でる気分は黄かぼちゃの存在でいきなり混乱の底へたたき落とされる。 やがて、“これなしには、この風景は考えられない”となる……クサマ中毒者、一丁上がりだ。 夫(@重症クサマ中毒者)が夢中で写真を撮っているのを、数メートル離れて見守っているおじさんがいた。 一人で立っているので、監視員かとばかり思っていたが、どうも観光客らしい。 夫の撮影が一段落するまで、順番を辛抱強く待っている。 でも手ぶら。撮影に来たわけではなさそうだ。 やっと夫がどくと、あッ。 相撲を取っています! おじさんは、ひとしきり渾身の力で黄かぼちゃを押してみて、それから両手でたたいてみて、ぐるぐると周りを回っている。 満足したらしい。 どうしても、黄かぼちゃにさわってみたかったのね。 こんなふうに、人々が好奇心を抑えられなくなり、自分もこのパラレルワールドに参加したくなってしまう、それが草間彌生の魔術的魅力だ。 フェリーでも思ったが、若いお客さんも目立つ。 若い人が世界トップレベルのアートに触れることは、とてもいいことだな。 帰り道もしつこく撮影。 本当にきれいだ。 もっと引いて撮れば、ガラスキューブに映る自分の姿を撮ることができたのだが、失敗。 ついついきれいだからと寄り過ぎてしまう。 このブルーの通路を通ったあとは、今度は暗いコンクリートの通路を通る。 そこに、「あっ」と声を上げるようなきれいな作品が、ひっそりとあった。 須田悦弘作の「バラ」は、なんと木でつくられている。 これまで須田悦弘という作家を知らなかった我々は、ひとめで虜になった。 雑草や草花を、木やブリキなどの素材で本物そっくりにつくる作家であった。 うっとりするほどきれいで、木でできているのに本物の植物よりももっと命のはかなさを表していて、かなしささえ覚える。 夫は自分用のお土産に、作品の写真集を買った。 私の体調があいかわらずよくないので、一休みするためにラウンジへ。 悲しいことに、先ほどのおいしそうな朝食も、実はほとんど食べていない。 カフェインを避けてハーブティーを飲んだ。 これも宿泊客は無料。ゲストバンザイ。 グランドピアノ越しに見える作品は、トーマス・シュトゥルート「パラダイス35、ニュー・スミュルナ・ビーチ、フロリダ」。 同氏による「フィレンツェ、オーディエンス8(アカデミア)」。 いい写真だったなあ。 とにかくどの場所にいても、一流アートだらけなのですよ。 カウンターは安藤さんらしい白木のそっけないつくり。 ここにずっと座って沈没していてもいいのだが…… せっかくの旅行だから……今日は遠出をしないで、ベネッセハウスミュージアムだけをまわることにしよう。 ラウンジから、我々の部屋が見える。 右奥の、黄色いタオルを干してある部屋のさらに奥、一番端の部屋だ。 (その6・ベネッセハウスミュージアムと、ホテル贅沢三昧へつづく)
by apakaba
| 2010-09-14 11:54
| 直島旅行2010
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Comments(6)
キューブの窓は、ウホー!という感じですね(どんな感じよ)イイですねぇ。写真も、だんだん洗練されてくるようですね。気持ち的にも乗っていたのかな。一晩、休まれたので、力が戻ってきたのでしょうか。
今回は「黄かぼちゃとおじさん」(仮称)がストーリーを持った組み写真になっていましたね。今までの眞紀様のフォト・エッセイでは、一枚の写真に対して、一編の記述、的な要素が多かったと存じますが。今後のアップがますます楽しみです。 白木のカウンターを拝見し、安藤氏=日本らしさ?を感じたような(気が)しました。それはカウンターの写真の2枚前の外人のお姉ちゃんなのですが、お姉ちゃんはともかく、欧米人は虫の音を雑音としか捉えていない、という話を聞いたことがあります。さすれば、音情報だけではなく、視覚情報の受け止め方も、違っているんだろうなぁ、欧米の作家(建築家)なら、我々から見れば「考えに考えた、いかにも芸術!」的なカウンターを作るんだろうなぁと想像しました。
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apakaba at 2010-09-16 09:02
直島その5レス。
グッドバランスさん、不人気連載におつきあいありがとう。(トホホ) 私は写真を撮ること自体がほぼなにもできない赤ちゃん状態で、カメラは夫から与えられたリコーGXRという、妙に高級なセレクト。 2台買って、夫は50ミリ、私にはズームレンズ24〜72ミリを付けられた(あくまで、受動態なあたし)。 とにかくトーシロー以下のトーシローなので、なんでも広角でいこうとする暴走気配の私。 しかし海の写真や、その4の最後のほうの杉本博司コーナーの写真のように、「広角バンザイ」な撮れ方は楽しいです。 建築については、とにかく安藤建築は「含羞さえ感じるほどの地味さ」がポイントだと思っています。 オレがオレがというイメージを持っている人も多いのが、残念です。 もちろんコンペで勝つにはオレがオレがの態度は大事でしょうけど、ゴージャスさにまるで興味を示さないところは好きです。 今回宿泊した部屋のミニマリズムは、まるでル・コルビュジエみたいだー!と感動しました。
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minmei316 at 2010-09-17 11:25
わたしもきっと草間彌生の黄カボチャが目の前にあったら
とりあえずは相撲をとるかも・・・ わたしもその魔術にはまってみたくなりますね てか、それよりも木で作られたバラに興味津々 「須田悦弘」ね、覚えておこっと
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apakaba at 2010-09-18 14:41
直島その5minmeiさんレス。
おそらく、草間彌生ってちょこっと見ただけだと「うへえ、毒々しい」と敬遠するというか、拒絶反応を示す人が多いと思います。 それこそ「直島の美しい自然を、毒されてる」とか。 でもやっぱり、実物の存在感はすごいです。 圧倒されます。 須田氏はほかにもいろんな作品がありました。 すばらしいです!トリコですよ!
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at 2011-05-06 17:41
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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apakaba at 2011-05-09 07:49
カギコメさま、お問い合わせありがとうございました。
感激しました! |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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