2010年 09月 16日
その5のつづき。 体調最悪のため、おいしそうな朝食をほとんどなにも食べられないままで、散策をすることになった。 今日は遠出をせず、我々の泊まっている“パーク”棟から歩いて行かれる“ミュージアム”棟へ。 “ミュージアム”は、美術館ベネッセハウスミュージアムと、ホテル、そしてきのうの夜、私が夕食をほぼ食べられなかった日本料理「一扇(いっせん)」のある棟である。 “パーク”から“ミュージアム”まで、宿泊者専用バスも出ているが、徒歩なら、途中に点在する屋外アートが楽しめる。 きのう地中美術館で見たウォルター・デ・マリアの作品が、海辺にあった。 つるつるに磨かれた石は、このように晴れていれば鏡のようになる。 撮影している自分の姿が、2個の目玉に映っているみたいだ。 なにがおもしろいのか、わからない……という人の気持ちも、わかる気がするアートだが、撮る角度をいろいろ変えてみると飽きない。 天気によっても印象ががらっと変わりそうだ。 桟橋を先端まで歩こう。 なぜなら、あそこからでないとよく見えないアートが見えるはずだから。 あれがそうだ! 崖にぽつんと取り残されているのは、杉本博司の海の連作「タイム・エクスポーズド」のひとつであるはず……なのだが…… 桟橋から見ても、遠過ぎてなにが写っているのかさっぱりワカラン。 カメラのズームは24-72ミリなので、せいいっぱい寄ったつもりでもこれが限界。 もしも泳いであの崖に渡ってみたとしても、あの高さではやはり見えないだろう。 なんか笑っちゃう。 いずれにせよ、「タイム・エクスポーズド」は世界中の海を、空と海の比率を同じにして撮っている作品だから、どの写真でも、素人目には区別はつかない。 海を見分けることはできない、というのが、この連作の狙いである。 アート鑑賞者ではなく、瀬戸内の海に向かって、世界のどこかの海の写真を見せている。 すごく不思議な光景だが、笑ってしまう。 魚がたくさんはねている、いい海だ。 大竹伸朗作「シップヤード・ワークス」の穴から海をのぞくのもまたよきかな。 海中心に撮る。 空中心に撮る(カメラを砂浜に置いてノーファインダー)。 しかし、空の雲を見てください。 朝より雲が多くなってきたと思いませんか。 見る見るうちに雲が集まってきて、ベネッセハウスミュージアムに着いたとたん、どしゃ降りとなった。 美大のゼミ旅行かなにかだろう、女子学生たちが、きゃーきゃー叫びながら駆け込んできた。 私が腹痛に耐えかねてライブラリーで休んでいるときも、学生たちは歓声を上げながら見学をしてまわっていた。 楽しそう。 いい思い出になるだろうな。 でもこの島の真の価値は、ベネッセハウスに泊まってこそだぞ!という無粋な発言は、若い人には控えておく。 屋内の撮影は禁止なのでほとんど写真がないのが残念だが、ライブラリーやカフェの壁にいたるまで、どのコーナーにもアートが飾ってある。 ゆうべ日没を見て感動した「一扇」のテラスにある、杉本博司の連作が、通り雨に濡れている。 屋外で濡れている様子を撮ろうと外に出てみると、 とても大きなカマキリが作品のそばにいた。 私はカマキリが好きなのでつかみたかったが、高すぎて手が届かなかった。 いかにも安藤建築らしい空間。 ここは撮影可かな? 館内の展示室で、思いきり撮影をしている人もいたが、さすがにそれはしなかった。 ここは半分開放空間のようだったので撮ってみる。 私の腹痛はまったく鳴りを潜めず、お昼ごはんの時間だったがまるで食欲が出ない。 一扇であっさりした和食ランチでもと思っていたが、店の入り口に立つと「やっぱり食べられない」とまわれ右。 結局、ミュージアムカフェという軽食コーナーで、キウイジュースだけ飲んだ。 しかしこのキウイジュースは、地場のものを使っているらしく、不調を一瞬ぶっ飛ばされるほどにおいしかった。 へたな食事よりも、よほど幸せになれるジュースだった。 もしも体調が悪くなければ、私はふだんジュースというものをほとんど飲まないので(お茶か酒しか興味なし)、ここへ来てもまずキウイジュースを頼むことはなかっただろう。 そう考えると、幸せと不幸せは隣同士てやってくると思える。 同じことを、イスラエルを旅行したときも思った。 エルサレムで夫婦揃って突然の激しい下痢におそわれ、ふたりとも一晩中苦しんで、翌日、まともな食事ができずにパンを買って食べた。 その菓子パンが、しみじみと滋養を感じるおいしさだったのだ。 「もしも体調を崩さなかったら、あいかわらずビール飲んでバクバク食べて、このパンを買おうとは思わなかっただろうね。」 と話したのだった。 もちろん、体調がいいほうがいいのだが……あちこち行っているといろんな旅になるものだ。 ひととおりミュージアムをまわって、ホテルに引き上げた。 このヒトは、宿泊者専用のドアの横で、見張りのように立っている。 早々に散策を切り上げて帰ってきたのは、このあとスパでオイルマッサージを予約していたからだ。 施術の30分前に行くと、屋外のジャクージに入れる。 夫婦でお湯に浸かって、写真を撮り合ったりしているバカップル。 激しい雨はすっかり上がって、また上天気が戻ってきた。 このハーブティーは、「ナオシマ」というオリジナルブレンドで、たいへんおいしかった。 ショップで4種類のオリジナルブレンドを販売していると聞き、買い物好きの夫は、店頭にあったハーブティーをほとんど買い占めていた。 ジャクージとマッサージで、すっかりくつろぎ、お腹も温まった。 今夜こそはゆうべの二の舞にならないようにしたい! きのうの和食は体調不良で味見程度にしか食べられず、ほとんど残してしまったから、今夜の洋食はせめて半分は食べたい。 がんばるぞ。 またドレスアップして、テラスレストランへ。 スパのおかげで、きのうより食べられそうな予感! しかし無理せず、アルコールは最小限にする。 右にわずかに写っている、「本日の柑橘類のカクテル」という、ふだんの私なら「これ、ジュースですよね?お酒入ってませんよね?」と、ホッピーの「なかみ」追加オーダーをしてしまいそうなごく軽いカクテルだけを飲んだ。 テーブルに置かれたオリーブオイルも地場のもの。 まだ陽が暮れてこない。 海に向かって、隣り合って座るというロマンチックなお席だ。 しかし我々は今さらロマンチックな会話よりも、おいしいお料理にいちいち驚きつつ撮影するばかりである。 ガスパチョときゅうりのジュレ。 隅っこに載っているあじのマリネがバカウマー!あじ大好きなの。 しかし生ものは最小限に抑えることにして、泣く泣く夫に半分わけた。 まぐろのタルタル。 これ自体はよくある料理だが、点々と垂らされたソースがどれもしっかりした風味でいちいちおいしい。 しかし生ものは最小限に、以下同文……悔しい。 おいしいことくらい、見ればワカルダロなお皿の数々。 他にもプレデザートのオリーブのシャーベット、夫が頼んだマスカットやアイスのさわやかなデザートなども、夏らしくて最高。 写真に出ている、私の頼んだデザートは、赤ピーマンのブリュレである。 腹痛と言いながらこういうものはぺろっと平らげてしまう。 ゆうべの和食もすばらしかったが、こちらのレストランでも、あらためて料理のレベルの高さにびっくりした。 しかも、安い。 このコースで8000円だ! 東京でこれだけのレベルのものは、もちろん食べられる。 お金さえ出せばね。 でも8000円では、絶対に絶対に不可能! おそるべきホテルではないの。 というか、おそるべき島だよ。ここ。 ついでながら、レストランのお給仕は、あいかわらず、これだけのお料理にまったく見合わない、真心はこもっているけれどスマートとはかけ離れた素人っぽい雰囲気だし……なんだかもう、驚くことばかりだ。 (その7・ディナー後の散策と三日目の体調不良へつづく)
by apakaba
| 2010-09-16 18:00
| 直島旅行2010
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Comments(6)
なんだか、登場する作品が、私の好きな傾向になってきました。
スクロールするのが楽しいです。 冒頭の目玉なんて、2枚目の写真はおっぱいだもんね。 桟橋もアートだったら、良かったですね。 しかし、遠すぎる額縁?には笑えました。 シップヤードワークスは、トムとジェリーに出てくる穴あきチーズを思い出しました。 カマキリも、実は作品、だったら素敵ですね。 さらに、料理がたしかに、美味しそう!ホント。 健康第一ですねぇ、眞紀様… 海の彼方に見える、三角の山が気になりました…
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apakaba at 2010-09-18 14:57
グッドバランスさん、おお、おつきあいありがとうございます。
え、おっぱいだったか? ……本当だおっぱいだった。 自分では気がつかなかったことをコメントでもらえることが一番楽しいですわ。 三角の形の島は、とてもかわゆいですね。 マスコットみたいな感じで、どこから撮っても入ってくるの。 伊豆諸島の利島にも似てるかな。 ああいう形の島(キスチョコの形)って、けっこうよく見ますね。
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ぴよ
at 2010-09-19 22:34
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ここ数日バタバタしてたのでまとめて更新された旅行記読んでます。
和食の画像が体調不良で撮影されなかったのが返す返すも悔しい! ・・・そう言わざるを得ない、素晴らしいお料理の数々(よだれダーダー) ホテルに宿泊していない人も見学する為に入れるんですね。 旅行記を読んでいて「ほー」と思ったわ。 その地で一番有名なホテルってどんな感じか入ってみたいなーという 欲求はあるんだけど、宿泊もしてないのに・・・と物怖じして 今まで入った事がなかったですわ。今度からチャレンジしてみようかしら♪ いやいや。 私だっていい年齢なんだし家庭収入だって人から後ろ指をさされるような レベルではないんだろうし、どうせなら自分もその地に滞在して 眞紀さんのように体感するべきですよね(苦笑)
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apakaba at 2010-09-20 00:34
その6ぴよさん、こちらこそ妙に更新が早くてなんかスミマセン。
連休にぼさっと家にいることが丸わかりですな。 和食のときは、絶対に隣の席のお客さんは私を「つわり?」と思ったことでしょう。 「ぱく、もぐもぐ……うっ!」だだだだ(トイレへ) という迷惑千万な客でした。 この“パーク”棟も含めて全部が「ベネッセハウスミュージアム」というひとくくりなので、宿泊者専用スペース以外はどんどん見学に来ます。 夜の見学ツアーとかもあって、暗がりのなかで熱心に解説をきいている団体さんがいたり。 え、でも私はいつも旅先の「街一番のホテル」にはじゃんじゃん入ってしまうわ。 ロビーをひとまわりするだけでも。 楽しい経験だもんね。
えーと、ちょっと誤解が生じそうで・・・
私の傾向 = おっぱい を申し上げたいわけではなく、 私の好きな傾向のアートがたくさん出てきたが、その初っ端に、変わったアングルで撮られた目玉のような作品がありますが、おっぱいに見えて面白いですね、と… ま、いいけどさ^_^;
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apakaba at 2010-09-21 22:03
直島その6レス。
グッドバランスさん、男がおっぱいを好きでなくて、誰が好きになるのですか。 |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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