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あぱかば・ブログ篇

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2010年 09月 30日

直島旅行その8・護王神社——“神”への階段

その7のつづき。

近所の飲み友達から、「直島に行って、ベネッセハウスにも泊まってきた。お料理もおいしくて、とてもよかった」という話を聞いたのは6年ほど前のような覚えがあるが、そのときは「どうしても行きたい」とまでは思っていなかった。
直島へのあこがれが決定的になったのは、5年前に行った「杉本博司 時間の終わり」展(記事こちら)でのことだった。
彼が手がけたという、直島の「護王神社」をつくるプロジェクトをそこで知った。

江戸時代から祀られていた護王神社は、老朽化にともない再建が待たれていた。
1998年から始まった「家プロジェクト」の一環として、この古い神社を、形式にとらわれず自由な発想をもって現代によみがえらせることとなった。
この模型が、5年前の杉本博司展に陳列されており、写真作品や造型作品に驚かされつづけていた私は、“ここにどうしても行ってみたい”と強く思ったのだ。

神聖な気に満ちた場に……神は宿る……この島の気が流れているところは……、もう少しか……?

同じ言葉を頭の中で反芻し、よろよろと山道を登る。
体調が普通どおりであったらどうということもない登り坂だが、今の自分には、快晴の暑さも相まって地獄の道中だ。
神の気を求めて地獄の道中とは皮肉、いや、世界の聖地をめざす巡礼だって困難な道を行くものだ!
ガンバレ!

直島旅行その8・護王神社——“神”への階段_c0042704_15312070.jpg

小山の頂に、とても小さな神社があった。





直島旅行その8・護王神社——“神”への階段_c0042704_19424620.jpg


5年間、あこがれていた護王神社だ!
新築当時の写真を見たことがあるが、写真よりも、建築材がほどよく色あせてきて、風格を感じさせる。

直島旅行その8・護王神社——“神”への階段_c0042704_21224767.jpg


真夏の光に溶けない氷……これが、見たかった……!

杉本博司氏は、ガラスと無垢の木材を組み合わせるのが好きだ。
ベネッセハウス“パーク”棟にある彼のコーナーにも、無垢の白木でできた低いベンチが置いてあり、脚の部分はガラスをゆるやかな三角柱の形に切って横倒しにしたものだった。
静岡の三島にある、彼が設計した美術館 IZU PHOTO MUSEUM にも、ベネッセハウスと同じく、白木とガラスのベンチがあった。
(この美術館の開館展でひどく感動したことをブログに書いた。こちらも是非どうぞ。IZU PHOTO MUSEUM開館展 杉本博司—光の自然(じねん)

直島旅行その8・護王神社——“神”への階段_c0042704_951735.jpg


ごくせまい通路の入り口から、神社の地下室へ入っていく。
本殿は小高い山の上にあり、その山腹に地下室がつくってある。
灯はいっさいなく真っ暗闇だ。
しかしやがて光が見えてくる。
地下室には、巨石にかこまれて、やはりガラスの階段が設えてあり、しかもそれがそのまま地上の階段へつながっていたのである。
地上の階段へと通ずるわずかな隙間から外の光が差してきて、地下のガラスの階段を見せている。

“神なるもの”のイメージに打たれる。

緑の濃い小山の頂。眼下に、遠く瀬戸内の海。
光を通し、吸い込み、反射させるガラスという素材。
陽射しを浴びる地上の階段、視界を奪う暗闇の隘路、そして直島産の巨石の荒々しい肌にかこまれた地下でくり返される、ガラスを使った光の集約。
あちらの世界とこちらの世界が交信するイメージの、極限まで抽象的な具象化。
こんなふうに、“神”を表現するとは……!!
杉本氏が天才なのはわかっていたつもりだったが、ここへ来て、私は言葉を失った。

ここのことを検索していて、あるページで「ガラスの階段が本殿から地下の石室につながっています」という説明文を読んだが、これではまるで逆だ。
「地下から、地上へと」つながっているのだ。
上昇していくのだ。
あの階段は、のぼっていくための、一方通行の階段なのだ。

「私さ、この階段、実際に上っていいんだと思ってた。踏んじゃいけないのね。」
「そりゃそうだよ。危ないだろ。」
「そうだよねー。でも、来て初めて知ったけど、あの階段の一番上のところって、本殿にくっついていないんだね。ちょっぴりだけ離れているのね。そこがおもしろいね。」
「あの階段は、人が歩いて上ってはいけないんだよ。きっとそうなんだ。」
夫はそう言った。
私には、二本の足であのガラスを踏むことがかなわなくても、意識は、スルスルと、高いところへ上昇していく階段に見えた。

直島旅行その8・護王神社——“神”への階段_c0042704_10283968.jpg


山を下りる。
模型を見て以来、5年越しであこがれてきた護王神社は、模型の何倍もインスピレーションを喚起してくれた。
ああ本当に来てよかった……!


※杉本博司氏自身による解説ページはこちら
新築の白木が初々しい。
でも天気が味方して、私の写真のほうが楽しそうに見えるかも?
撮影禁止で撮れなかった地下の石室も、このページで見られます。これがまた感動ひとしお!

その9・角屋と南寺へつづく)

by apakaba | 2010-09-30 10:42 | 直島旅行2010 | Comments(3)
Commented by ogawa at 2010-09-30 23:12 x
これが杉本博司の護王神社なのですか。
私も「時間の終わり展」で見ましたが、実際の建築を見ると、写真ごしとはいえ、確かに存在している。
それは杉本博司の依り代としての神社ですね。

これだけの社であれば神も降りてくるでしょう。

Commented by apakaba at 2010-09-30 23:20
ここはまさしく“イメージ”に打たれましたね。

建築は、建築家からのメッセージですね。
べつに建築家がその場に張り付いていて「私がここをこう造った意図は……」などと解説してくれるわけではない。
できあがったらその人はもういなくなっちゃう。
見学者は、いかに建築家からのメッセージを受け取るかだ、と、いつも思います。(前にも書いた気がするけど。というかいつも思っている)

神は降りてきてくれるし、同時に、人間の意識もあの階段をのぼっていける。
足を使わずに、スルスルと。
あのガラスの階段にはノックアウトされました!
Commented by apakaba at 2010-09-30 23:23
天気が上々だったのもよかったのかもしれない。
でも雪が積もっていたりしたら、感動で泣いちゃうかも!


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