2011年 11月 02日

軽井沢千住博美術館

千住博美術館(公式サイト)が10月10日にオープンするという記事を読んで以来、一刻も早く行ってみたかった。
公式サイトや紹介記事に添えられた館内の美しい写真のおかげで、さらにあこがれがふくらんでいた。
(写真満載の紹介記事はこちら

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あいにくの曇り空。晴れていれば庭木がきれいだっただろうな

だが実際に行って、歩いているうちに、とまどいが大きくなっていった。

写真から受けていたすがすがしい印象は、写真どおり、いや、写真以上のすがすがしさとなった。
この建築は、かのSANAAの西沢立衛の設計による。
軽井沢の自然の景観に沿うような、公園のようでもありリビングルームでもあるような開かれた明るい空間、というのが西沢氏のコンセプトである。
傾斜地に建つこの建築は、傾斜をそのまま活かしているため、入口からゆるやかにくだっている。
たしかに自動ドアから建物の内部に入っているのに、ふんだんに採り入れられる外光とガラスをとおして見える豊かな植栽によって、まるで戸外にいるかのような気分でいられるのだ。

足の裏にあの傾斜を感じながら美術を鑑賞するというのはまったく不思議な体験だ。
ためしにスピーディーに館内をまわってみると、平衡感覚があやしくなり、なんとなく乗り物酔いのような、頭がふらっとするような感覚さえ覚える。
階段でもなく、スロープでもない。
そういう快適な人工物に飼いならされていない地面。
床面はコンクリートでしっかり固められているから本当は人工物なのだけれど、地形をできるかぎり活かすということがこれほど愉快だとは思わなかった。
作品はちゃんと地面から水平の角度で展示されているのに、鑑賞者はかかとがちょっぴり下がっていたり両足の裏がそれぞればらばらに傾いていたりしている。
登山をしていて、川のそばや頂上で小休止するときのような感じ。
風景に感嘆して眺めまわしながらも、足の裏では少しでも安定した位置を得ようとさぐりながら立っているような。
設計者の意図が十分に伝わる、成功した建築だと思った。

それに較べ、肝心の展示作品は、この建物に“そぐわない”と思ってしまったのだ。
西沢より千住の表現者としての力が劣っているといっているのではない。
ただ、建物の持つ凄烈なる清冽さと、千住作品の持つ凄烈なる清冽さ(言葉遊びめいているが)がフィットしていないのである。
遠目から撮った紹介写真ではひたすらかろやかで美しく感じられていた館内だが、実際に展示に近づいてみると違和感が大きくなる。
なぜだろう。

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「陰影礼賛なんだよな。」
夫が違和感の正体を開く。
「やっぱり、あの人は、“日本画の人”なんだな。あんなに明るい場所で見る絵じゃないんだよ。」
——俺は初めて滝の絵(滝は千住博のメインのモチーフの一つ)を見たときに、『本当に水が落ちてる!流れている!』と思ったんだよ。
でも、本当の本当には、水ってあんなふうに流れてない。
でもあの人の絵を見ると、いかにも本当に、滝がああして流れているように見える。
写実的にすべてを描いていないのに、あたかも真実の水であるかのように描き出すのは、日本画だからこそできることでしょう。
そしてそんな日本画の力は、陰のなかでこそ最も効果的に引き出されるものなんだ!——

私はそんなことを考えつきもしなかったが、いわれてみれば、たしかに、彼の作品は暗いところでいよいよ清冽に、そして凄烈になっていく。

直島の作品「石橋(そのときの記事)」でも、日本家屋の奥の蔵に、息が苦しくなるほどの迫力のある滝の絵がかかっていた。
絵を前にたたずんでいると、服が滝つぼの水しぶきで濡れてきそうなくらいだった。
もうひとつの作品、母屋の襖絵も同じ。
長い庇にさえぎられて、庭に降りそそぐ日光は完全に力を失い、室内はほの暗かった。
羽田空港にもところどころに千住作品があるが、とりわけ国際線ターミナルの到着階にある青い滝の作品「Water Shrine」は、フライトで疲れた体をひきずって入国審査へと向かう途中の暗がりに浮かび上がるようにして置かれており、寝不足にしょぼついた目にはこの世のものとは思えないほど幻惑的に映り、また、“帰ってきた、ここはニッポンだ”と、目から脳裡までいっぺんに覚醒させられるのだった(その記事。最後に作品の写真があります)。

明るいところで見ると稚拙さが目立ってしまうから、ということでは決してなく、暗さのなかでいよいよよさが際立つものだからなのだ。
日本画とは、日本の美とは、そういうものなのではないか?と、夫は感じたという。
美に暗さをもとめる気質を、持っているのだろうなあ……と。

あの美術館には、たとえば西洋の印象派の絵とか、草間彌生みたいな、陽光を受けて輝くような作家が似合うのかもしれない。
明るい美術館をつくって自分の作品を展示したいというのは千住博氏の希望だったというが、私の率直な感想はこんな感じだった。
やはり、いろいろな場所に実際に出かけて見てみる(足の裏でも感じてみる)のは、おもしろい。

by apakaba | 2011-11-02 17:13 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(4)
Commented by minmei316 at 2011-11-02 18:30
記事を読む前に美術館のサイトを開いて写真を見てきたんですけど
なんか建物が歪んでいるように見えたのはそのせいでしたか
確かにちょっと車酔いしそうな感じですね^^
日本画が影の中でこそより引き立つ・・・・
勉強させていただきましたm(_ _)m
Commented by apakaba at 2011-11-02 18:36
あ、そうそう、ぐんにゃりした感じに写りますね。
足もとが自然の地形のままですからねえ。
おもしろいですよ。
彫刻とか塑像とか、造形モノを入れると映えそう。
中の写真を撮りたいけど撮影禁止で、残念です〜!
Commented by Akiko at 2011-11-02 21:55 x
「陰影礼賛なんだよな」違和感の正体を開く
看破!感心することしきり。私の千住博のイメージは直島なんです。ちなみに直島は帰省ついでに2回行きましたが、いつも一人でうろうろしているだけなのでステキホテルは縁がなく、憧れのままです。
建築とのコラボを楽しむというマキさんの視点が面白くて参考になります。金沢21世紀美術館や十和田市現代美術館なんかもかっこいいですね。
Commented by apakaba at 2011-11-02 22:51
「正体を開く」という日本語はきっとないのだろうけど、思いついたのでつい採用してしまいました。

彼が陰影礼賛と言っていたのは、『空間感』を読んだばかりだったからというのも大きいでしょうね!
私も今日はずっと『空間感』を読んでいるのですが、建築とアートのコラボという点でいくとやっぱり杉本博司は突拍子もない天才だと思わざるを得ません!

直島いっしょに行きましょうよ。
ステキホテルには絶対に泊まったほうがいいです、というか泊まらないなんてウソです!!!!!!!!!!!(ワリカンなら安上がりでしょ!)


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