2012年 03月 17日
きのうの晩ごはんは「アキタコマチ」と二人だった。 ここ2,3日で地震がつづいていた。 ゆっさゆっさとのんきな感じに揺れるのは怖くないが、震源が近いと地鳴りがして怖い。 揺れ始める直前に「ズズズズ……」と地面がうなるような感覚があり、眠っていても、揺れる前にぱっと目が覚めてしまう。 私 :いやー今さらのんきすぎるんだけど、さすがになんか備えるべきかな私も。 「アキタコマチ」 :今さら!遅い!流行遅れでしょ! 私 :うん、どう考えても1年遅いんだけどさ。でも東京に当たる確率70%とかいわれちゃって、あんな地鳴りつきの地震がつづくとさ。さすがに私も。 ア :水は? 私 :水は大丈夫。たくさん備蓄してる。食べるものも、お菓子とかならあるしね。やっぱりなんとかなるか。最初の一発を生き延びれば、あとはなんだかんだいってもここは都会で人はたくさん住んでるし、どうにかなりそうな甘い考えなわけよ。 ア :あとはトイレだね。あと下着を少し用意しろっていうよ。 私 :下着?下着なんて換えなくても大丈夫じゃないの? ア :はじめの数日は生きることに必死だから大丈夫だけど、そのあと避難生活に入ったときに、人間の尊厳をできるだけ保ちたい、ふだんにより近く暮らしたいという欲求が強くなるんだって。トイレもそうでしょう。簡易トイレみたいなものを用意するのはいいと思うよ。それこそ、生理用品とか。 私 :そうかー。家がつぶれたら下着を探し出すのも難しいもんね。この部屋(居間)の食器棚からはみんな割れ物が落ちてくるだろうけど、アタマ打って死ぬほど重いものは上のほうにはないし、全部割れちゃったとしてもさほど惜しくないものばかりだし、よく割れ物の上を歩ける靴を用意しろっていうけど、私いつもスリッパ履いてるから玄関くらいなら到達できるもん。 あとやっぱり怖いのは火事かな。津波は、このあたりには到達しないだろうし、でも火事は、いくらうちが気をつけていたって、隣近所から火が出たら防げないもん。うちなんか木造でよく燃えそうだし。煙で死ぬとかツライよなー。 二階が落ちてきて圧死とかも嫌だけど。一発で死ぬなら簡単そう。 ア :おかーさんはこの家にいる確率が一番高いからね。 私 :うん、出かけているときはもうそのときの運しだいだからとくになにも考えてない。考えてもしょうがないもん。家族みんながバラバラに外出していたら、それぞれ自力でがんばってくれってことでさ。……で、結局、なにを準備したらいいんだろうね?大事なものってなんだろう。 そう考えていくと、パソコンくらいしかないんだよね。 服とか持ち物はろくでもないものばかりだし、金額的に価値があるっていったら指輪とかの貴金属類だけど、そんなのもまあ、しょうがないし。それに火事になっても泥棒さえ来なければあとで掘り起こせるしねえ。 それよりパソコンがだめになったらショックだよ(わが家は各自がノートを使っている)。 ア :オレも……うん、パソコンのデータだな。 私 :やっぱデータのクラウド化ですかねえ。私も家で地震が起きて今すぐ外に出ないといけなくなったら、せいぜいiPhoneと、犬だよね連れ出せるのは。犬もパソコンも、は、無理だわ。 ア :なんだかんだいったって生き物のほうが大事だもんね。いくらコーシローが一人でも生きられる強い犬だといっても、パソコン選んで犬放りっぱなしというわけにはいかないでしょ。そしたらやっぱり、首輪はいつもつけておいたほうがいいのかな。連れ出しやすいように。 私 :火事で地面が熱くなってたら犬抱っこはけっこうキツイな……重いから。 ア :まー、結局ここまで東京直下くるくるいわれると、もう備えなんて無駄なような気がする。備えあれば憂い無しなんてウソだよ。憂いを完全に払うことなんてできない。 オレは、なぜか根拠のない自信があって、最初の一発は生き延びられる気がするの。自分が死ぬなんてちょっとも思ってない。どこにいても。中央線に乗っていて閉じこめられて横倒しになって、とか、そうなるかもしれないけどあまり想像できないし危機を逃れると思ってるの。 だから自分のことはほとんど心配してない。 オレがこわいのは、……あのさ東日本のエピソードっていっぱいあるじゃない。あれで、おばあさんが、その母親のすごい高齢の寝たきりのおばあさんを、津波が来るって警報が鳴って見殺しにした話を読んだんだけど、オレはそういうことが本当にこわい。 そのおばあさんは、寝たきりの母親に「あなた自分で逃げてね」と声をかけて逃げたんだって。 逃げられるわけないのに。 でも一瞬で判断しなきゃ、自分もいっしょに死んじゃう。 寝ている母親に「自分で逃げてね」と言わなければならなかったおばあさんの気持ちを考えると、ほんとにつらいよね。そして避難はしたものの、家も、寝たきりの母親も流されて、すべてなくなって、身寄りもなくなって、……その行動を責める人なんていないだろうけど、でも「どうして自分は生きてるんだろう」と思わずにはいられないだろうし、この先ずっと、母親を見殺しにしたことで自分を責めるだろうし。 もう、かわいそうとかいう話じゃないよね、つらすぎるよ。 私 :震災のそういう話はネット見てるといくらでも出てくるじゃない。東北にはそういう思いをしてる人がたくさん生きてるんだよね……まったくすごいことだよ。 ア :オレは、自分がそのおばあさんみたいなことになってしまったら、どうしようかと思ったりする。 『はだしのゲン』みたいなことに。おかーさん読んでないの? 『はだしのゲン』は地震じゃなくて戦争だけど、空襲で家が崩れてきて、お母さんとかがその下敷きになるの。 お母さんは下敷きになりながら「おまえは逃げて、生きるのよ」とか言うんだよ。 ゲンの力では柱はどけられないし、どけたところでもうお母さんの体はつぶれてるし、そんなことしてたらいっしょに死んじゃうし、それでゲンは兄弟を連れて逃げるの。それで助かるの。 オレがおそれているのは、そういう状況。 自分が家族とか周りの人を見殺しにして生き延びた、とか思ってしまうこと。 私 :はーお前はなんでそんな自分がゲンなの。お前の想像では、つねにおかーさんのほうが柱でつぶれる仕様になっちゃってるの?自分が柱でつぶれるほうには、ならないわけ? ア :うん。ならない。だって最初の一発は大丈夫という根拠のない自信があるから。 私 :そういうのって……家族が、それぞれお互いをどれくらい理解していたかという積み重ねに尽きると思うよ。 たとえばまあ私がつぶれる側として、ふだんの、これまでの、おかーさんの発言。態度。人生への考え方。そういうものを知っているかどうかでしょう。 いつも言ってるじゃない、「まーべつにおかーさんはいつ死んでもちっともかまわない。自分が死ぬのはどうでもいいのよ。子供が死ぬほうがずっとつらい。子供には生きてほしい。」って。 そしたらそのいよいよのときだって、判断がついて後悔も少ないじゃない。 “親を見殺しにした”という後悔はもちろんついてまわるだろうけど、「まあでも、おかーさんもふだんからああ言ってたことだし。オレが無事に生きてることを、きっと喜んでくれてるよな。うん。ちゃんと生きよう」と納得はできるじゃない。 ア :そうだね。そういうのって、ふだんから家族の考えをわかってないと、いつまでも自分を責めちゃうよね。避難のためになにか用意しておく……もある程度の安心のためには大事だけど、最初を生き延びさえしたら、あとは圧倒的に心の問題だもんね。ずーっと、つづくんだもんね。 私 :そうだよ。うちはワインもいっぱい買ってあるし、火事で全焼とかにならなければ酒でも飲んでしばらくしのごうよ。 ア :アハハ!
by apakaba
| 2012-03-17 11:10
| 子供
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Comments(6)
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kaneniwa at 2012-03-17 20:02
あと、備えておくといいのが安全靴だと思います。
ガラスや陶器などの破片のなかを裸足で歩くのが いかに大変かは 『ダイ・ハード』 のちょっとしたシーンでも わかるし、中越地震や中越沖震災の跡を見ても実感しました。 寝室に新品を箱のまま一つ置いてあったのですが、 でも薪割り作業に最適なので使っちゃています。 もしもの時には何とか玄関まではたどり着かないと。 BYマーヒー
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apakaba at 2012-03-17 20:42
そうそう、ガラスに裸足といえば、多くの人がダイ・ハードを思い出すでしょうね!
私は「スリッパをいつも履いてるからダイジョブか」と思ってるけど(玄関までほんの数メートルだし!すいませんねせまい家で)、子供が全員スリッパを履いてるわけでもないから、子供用には靴が各部屋にあったほうがいいか。うん。
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saheizi-inokori at 2012-03-18 15:11
辛いね、考えたくない。
私をおいていく子供の気持ちを思うと可哀そうだからその場でできたら自殺してしまいたいです。
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apakaba at 2012-03-18 15:47
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えみぞう
at 2012-03-19 12:03
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「それこそ生理用品とか」に感動しました。
わかっちゃいるけど高校生男子がなかなか言えるセリフじゃないわー。きちんと女性を理解していることと 家族を慮っている証拠だわ。いい男だねぇ。 うちは万が一に備え、猫のご飯だけは確保してます。避難しなければならなくなっても我慢も含めて人間は何とかなるけど、ペットはいつ食事が回ってくるかわからないもの。
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apakaba at 2012-03-19 16:01
えみぞうさん、次男はほんとに、目端が利き思いやりもある男です。
私の想像では、まっさきに次男が先立ってしまいそうな感じがしてるんだけど。 ああいう気の回るヤツって夭折しそうな気がして。 でも本人が大丈夫と言ってるからそれを信じておこう。 そうか〜おうちにいるネコは、うちのなんでも食べて頑丈な犬とちがって、やっぱりケアしてあげないと飢えてしまうもんね。 ナルホド! ペット問題は、東日本でもずいぶん話題になっていましたね。 「人間が大変なのに、犬だの猫だの言ってられないだろう!」という人もいれば、その犬や猫のおかげで気持ちを保っていられる人もいた。 |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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