2012年 08月 28日

夫を迎えに行ったはずが

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暗闇がこわいのは……心に闇があるからデスカ?

夜になってから犬の散歩に行き、そろそろ夫が帰ってくるかもしれないと思って通勤の道を家から駅に向かって歩いてみる。
うちのほうは、夜道がけっこう暗い。
細い夜道で、街灯の光を背にした男性が遠くからこっちに歩いてくる。
夫は非常に背が高くて痩せ型の特徴ある体型なので、人込みにいても決して見間違えることはないのだが、その男性は夫ほどではないが痩せ型の長身で、一人きりで逆光の中だったから、「あれ?夫かな」と思った。

私は住宅地の裏道のT字路の角に立っていた。
シルエットのままで近づいてくる男性を見ながら
「夫かなあ、でもちょっとだけ背が低いみたいだし、歩き方も投げやりな感じでちがうみたい。でも夏休み明けの出勤でバテて、あんな歩き方をしてるのかも?あ、わかった、私だと気付いて、おどけてあんな歩き方をしてるんだ。」
と考えていた。
いや、どうもちがう、ちがう気がする……と思い始めているのだが、さりげなく視線を外す機会を失って、「ちがう、別人だ」とわかってきているのに凝視をつづけてしまった。
ほんのすぐそばまで迫っているのに、あいかわらずその人の顔は完全な暗闇で見えないままだ。
私は金縛りにあったように角に立ちすくんでいた。

その人は、赤の他人の私(もう別人だと認識しているが100%の確信はない)が立っているのに、少しも歩調を緩めることなくずんずんと近づいてくる。
私にまっすぐ突進してくるようにだ。
その、迷いのない歩行のテンポに魅入られるように、私は凝視をつづける。
「夫なの?ちがうってば。いや、でもひょっとしたら夫かも?いやそんなはずない。でも、この歩くスピード。見ず知らずの人間のそばを通りすぎるスピードじゃないわ」

闇の中から出た。
私の頭上の街灯に照らされ、ついにその人の顔がまともに見えた。
やっぱり、夫とは似ても似つかない、別の男性だ。
彼はきわめて不機嫌そうに、私に突進してくる。
ぶつかる。
え、もしかして突き飛ばされるのかな私?
刺されちゃうとか?
目が据わってるし。
この人こわい!助けて!

人間の思考って、緊張の高まる瞬間は、一秒の何分の一というわずかな時間であっても、これくらいのことは頭をよぎるものなのである。

私の体の脇をぎりぎりぶつからずに彼は通りすぎた。
そのまま歩を緩めずに、私の立っていた角に建つ家へ吸い込まれていった。

至近距離で見た彼がいまいましそうな顔をしていたのは、疲れていたのもあるだろうが、私が彼の帰り道の最短コースに立ち塞がっていたからではないか。
しかもバカみたいに数十メートルも先から見つめつづけて。
そうではなくて、犬を連れていたのが気に障ったのかもしれない。
うちの壁におしっこをひっかけたりしたら承知しないぞ……なんて思いながら、歩いてきたのかもしれない。

いずれにせよ刺されなくてよかった。
やっぱり暗い夜道はこわい。
犬を連れていなかったら、ふたりの距離が最も近づいた瞬間、私は恐怖に声を上げてしまったかもしれない。

by apakaba | 2012-08-28 23:05 | 生活の話題 | Comments(0)


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