2013年 01月 28日

トゥバの喉歌ホーメイLIVE

聞いたことのない国の、聴いたことのない音楽を聴いた。
ロシア連邦、南シベリアに位置するトゥバ共和国という小国の歌唱「ホーメイ」である。
ホーメイの大きな特徴は、喉を締め付けて楽器のような音を出す歌唱法であり、「喉歌」と呼ばれているという。

c0042704_1217428.jpg
マサラワーラー×カフェスロー特製コラボカレー!
マトンカレーと、里芋と菜の花のカレー、付け合わせ含め今日もスバラシー


会場は、国分寺のカフェスロー。
一週間前にも、南インドの新年のお祭り「ポンガル」でインド舞踊や音楽のライブを見に来ていたが、何度来ても、いいカフェである。
歌手は男性のオトクン・ドスタイさんと、女性のチョドゥラー・トゥマットさんのお二人で、モンゴロイドの親しみやすい風貌と、時折入る短いMCでの笑顔に観客がなごむ。
二人の歌手による民族楽器の演奏と歌唱は、土の匂い、草の匂い、風の音、動物の声などを思い起こさせる音楽であった。

喉歌と呼ばれる倍音唱法を初めて聴いた。
低音域を唄っていると思うといつの間にかそこに「ピューッ」とも「ビィーン」とも聞こえるような、笛のような高音が忍び込み、響いてくる。
聴いている耳もビィーンとしびれてきて、倍音唱法が始まると「来た来た来た!」と高揚してくる。
それでいて、「自然の中に存在しない音は出さない」とでもいうような、やさしく素朴なメロディーが深い安心感をもたらして、いつの間にか眠り込んでいる人もちらほらといる。
高揚と弛緩。
だみ声と笛の響きのような音を同時に出す「喉歌」そのものの、異なる二つの感情が入り交じりつつ流れる時間。

ちょっと前の旅行記出版ブームのときにさんざん使われていた「初めてだけど、なつかしい」などという手垢まみれのフレーズを、今さら思い出すとは思わなかった。

子供のころは誰でも、自分の身体が親友だった。
赤ちゃんはおもちゃを与えられるよりずっと前から、自分の舌や唇を使って音を出し、飽きることなく遊ぶ。
ブブブブブブ……
タッター!タッター!うっくん。んまんまんまんま。
もう少し大きくなると、わざと奇声を発してみたり、唇を指ではじいたり、人の声やしゃべりかたを真似たり、動物や物音を声で表して遊ぶ。
でも、大人になるにつれ、人は自分の身体が持つ可能性を忘れてしまう。
ホーメイが「初めてだけど、なつかしい」と感じさせるのは、すべての楽器を凌駕するこの素晴らしい楽器=人間の身体でかつて遊んでいた時代に帰れるからだ。
この歌唱法がどれほど前に成立したのかは知らないが、物質的な豊かさを大自然が圧倒していた昔に、人間が自然からの音や声に耳を澄まし、自分の身体の音や声に耳を澄ましていた時代に発生していったことはまちがいない、と思った。

聴きながら、これまで訪れたさまざまな旅先や、行ったことのない南シベリアの風景や、最近見た映画などがとりとめなく浮かんだ。
草原を吹き渡る風。
インドでカーラチャクラ法要に参列したときに聴いた、ダライ・ラマ法王の五臓六腑に沁みわたる読経の声。
つい先日見た映画『レ・ミゼラブル』で唄っていた、ラッセル・クロウの、繊細な演技そのものの歌声。
世界は、広い。
まだまだ、世界のいろんなところに、私の知らないものすごいアートが数えきれないほどある。
音楽、舞踊、絵画、たった一個しか作られない工芸品、ごく小さなコミュニティーでの宗教行事や祈り……「まだ知らないことがたくさんある」って、なんと胸が躍ることだろう!
世界を知ることが大好きだ。
わずか数週間前まで存在さえ知らなかったトゥバ共和国が、今ではなつかしく近しいものに感じられる。
なんて素敵なことだろうか。
これからもいろんな世界を知りたい!

女性歌手チョドゥラー・トゥマットさんがリーダーを務めるグループ「トゥバ・クズ」の動画。
ビュンビュンと喉歌が響き渡ってます。


by apakaba | 2013-01-28 12:50 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(6)
Commented by Akiko at 2013-01-28 18:19 x
トゥバ共和国を初めて聞きましたが、モンゴルのホーミーと近いのだろうと思ってぐぐったらやはりモンゴルと国境を接しているとのこと。おかげでまた国と文化を知りました。ホーミーは映画で聞いたのだったか、昔TVCMでも使われていたような。
この記事でここにコメントをするべきではないと思いつつ、レミゼの「繊細な演技そのものの歌声」がアン・ハサウェイでもなくラッセル・クロウとは。
Commented by apakaba at 2013-01-28 19:59
ホーミーとかフーメイとか、似たような呼称のようですね。
お顔立ちも完全にモンゴル系ですよね〜。
またいつか、顔立ちや文化の入り交じった中央アジア辺りにも行ってみたいなあ。

ところでラッセル・クロウですよね。おほほ。
アン・ハサウェイは、たしかに上手だったけれど、歌を生業としている人ほどには感動しないというか。
ラッセル・クロウは、みんなよりはさして歌唱力に優れていたわけではないのだけど、彼にしかできない唄い方というか演じ方というか……演劇らしさを感じたのです。
彼の低音から高音へ、高音から低音へと移るときにちらちらっと入るハスキーな部分が、なんとも心情を豊かに表現していると感じましたね。
Commented by 井生 明 at 2013-01-29 23:39 x
あぱかばさん

こんばんわ!
カフェスローでのホーメイライブを楽しんで頂き、どうもありがとうございました!
そして、素敵な感想をブログにして頂き、これまたありがとうございます!
トゥバも南インドと同じで「こんな人たちがいて、こんな風に、こんな音楽をやってる!だから俺は好きだー!!ってカンジなのです(笑)長嶋茂雄的に言うと。
久しぶりにトゥバの人と接して、またあの土地を思い出しました。
そろそろ行かなきゃって気になりました。
あぱかばさんもそのうち是非行ってみてくださいね。
きっと気に入ると思います!

そうそう、僕も常に「まだ知らないことがたくさんある」って、なんと胸が躍ることだろう!って思うような「知らないフェチ」でありたいと思っています!!ぐふふ。

Commented by apakaba at 2013-01-30 07:59
明さま、どうもありがとうございましたアンドおつかれさまでした。
や〜、ほんとに、まだ知らない世界へのあこがれをかき立てられるライブでした。
そして息子もお世話になりました。
FBにに記事書いてるみたいだから、読んでやってね!
またいろいろ参加させてくださーい!
Commented by 井生 明 at 2013-02-25 22:10 x
あら、息子さんのFB記事、スルーしちゃってたみたいです•••。掘り起こしてみます!オトクンは先日再来日して、一週間ほど滞在し再び冬のシベリアに帰って行きました!(笑)まだまだ激寒のようです•••。
Commented by apakaba at 2013-02-26 09:52
明さん、ヤングあきらは一生懸命書いていたみたいですよ。
写真はそれなりに撮れるけど、今まで文章を書いて大人に読んでもらうことはしていなかったから緊張しているようだけど。

シベリア、行きたくて何度か計画してみたけど冬は困難ですね……いつか夏に行くチャンスができたらまた相談させてね!


<< 家計縮小傾向!      エッフェル塔試論/松浦寿輝(ち... >>