あぱかば・ブログ篇

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2013年 12月 04日

何を見ても美しいと感じる

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45歳で父が急死したのは37年前だ。
9月の誕生日で、父親の亡くなった年齢を抜いた。
ずっと年上の存在だった父は、これからは“年下の男のコ”のカテゴリに入るわけだ。
46歳の目で見る世界、47歳の目で見る世界……年を取っていく私は父が見ることのなかったものを見て、老年の心境へと入っていく。
外見的にも精神的にも文化的にも、今の人間は親の世代より若いから、年齢で輪切りにすることは無意味だろうか?
私は、生命体としての人間が、生まれて美しい時期を過ぎて老いて死んでいくという大きな営みへの相対し方は、やっぱり親の世代も今も同じだという感覚を持っている。

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晴れた朝、犬の散歩に出ると、何を見ても「美しい」と感じる。
紅葉を眺めるのは無論のこと、ただ茶色く枯れて落ちていくだけのケヤキやナラの葉の形を見ても美しく感じるし、木の枝や根っこのごつごつした曲がり具合を見ても美しく感じる。
かわいた音を立てて歩道を転がっていく落ち葉もいいが、川に落ちて集まっている紅葉した葉っぱは、桜の花筏に勝るとも劣らない美しさだ。
地上のかわいた葉っぱよりも、水に濡れると赤がつややかだ。
もはや水面から沈んで、腐るのを待つだけの落ち葉が川底に暗くかたまっているのが見える。
その様子も美しい。

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しばらく前から、鯉の死骸が川の浅瀬に引っかかったままになっていることに気づいていた。
鯉の死骸を、川沿いの道を通るたびに見ていた。
少しずつ元の体ではなくなっていき、今日見たらついに骨だけになっていた。
立派な骨が川の水から飛び出して屹立していた。
韓国人アーティストのイ・ブルの問題作「荘厳な輝き(生魚にビーズなどの装飾を施して腐っていくのを見せる展示作品)」そのものだった。

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とにかく何を見ても美しいと思う。
自然のものに美しくないものがない。
紅葉の写真は誰でも撮るが、写真にするときは枯れた葉は注意深くよけて、きれいに染まった葉だけが存在しているように撮る。
でも本当は、その脇にくしゃくしゃに茶色くなった葉やまだ赤くなりきっていない葉が絶対にある。
それらを含めてすべて美しいし、今を盛りと赤くなった葉の一群れに光が当たると、赤に心を奪われる。
人工の色ではなくて、自然の中の色が自然の日の光で照らされるからあんなに美しい(だからライトアップには興味がない)。

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老齢の方々が、春の桜や秋の紅葉を見て「きれいねえ!本当にきれい!」と、惜しみなく感嘆の声を上げていることがよくあるが、今まで私は「あの年なら、数えきれないほどの回数の春や秋を過ごしてきただろうに。それでもなお飽きずに『きれいきれい』と言うのか」と不思議だった。
近頃になって、やっとあの人たちの心持ちがわかるようになった。
「ああ今年もまたここの見事な景色を見られてよかったわ!」
「命の洗濯ね!きれいなものを見て寿命が延びた!」
「来年も見られるかしら!それまで生きられるかしら。」
「アハハハハ!」
なんていうお決まりのやりとりが、グッと胸にくる。

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人間が自然の一員だというのは頭ではわかっているが、若いころはかえって感じにくい。
自分の体が老いていくことで、その事実は初めてわがことになる。
私も浅瀬に引っかかった鯉のように死ぬ。
くしゃくしゃに縮れた落ち葉のように死ぬ。
でもそれぞれの中に確実に美しさがある、と、思うことは、自分を肯定することなのだろうか?
父は秋の日の木漏れ日や腐っていく鯉を見たか?
それに自分を映したか?
7歳上の姉とちがって、私には父がいないことが当たり前の人生だった。
父を追慕したこともほとんどなかった。
しかし、父の年を抜かした今になって、父の不在が心から残念だ。
老人になった父ではなく、45歳で死んだときのままの父に尋ねたい。

by apakaba | 2013-12-04 14:49 | 生活の話題 | Comments(2)
Commented by kajikko at 2013-12-04 18:16 x
いい随想ですね。老いというものを、確実に感じるようになる歳だよね、もう。
答のない問い。宗教的な問いに関係している気がする。
Commented by apakaba at 2013-12-04 18:55
そういうお年頃ね。
父親ラヴということはないのだけど(ラヴというほど知らない)、純粋に興味ある。
でも生きていたって結局そんな話はしないのだろうし(生きている母親ともしない)、わからないまま、自分も老いて誰にも何も言わずに、世の中のすべてに美を感じて死んでいくんだろうなあ


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