2016年 02月 19日

またまた別の、保育園時代の子

去年の5月に、2回つづけて、前に勤めていた保育園で見ていた子たちのことを書いた。

保育園時代の子


保育園にはさほど長く勤めていなかったから、思い出が少ない。
それだけに、最初に見た子のことはいつまでも覚えている。

私はその子を「あーちゃん」と呼んでいた。
あーちゃんは、前に書いた「こうくん」や「つーちゃん」と同じ年、今は2年生になっている男の子だった。
あーちゃんは人気のある子だった。
クールで頭がよくて絵がとびきり上手で、保育園いちの問題児も、あーちゃんのことは尊敬していた。
メガネをかけた大人びた子で、男の子同士にありがちなくだらないケンカをしたり、感情をむき出しにして怒ったりは決してしなかった。
ご両親も、なんとなくアートの香りのするすてきな感じの人たちだった。

しかしご両親は忙しいようで、あーちゃんは土曜日も保育園に預けられていた。
土曜の保育は平日よりも格段に子供の数が少ない。
保育園は幼稚園に較べてはるかに保育時間が長いので、子供達はそれなりに疲れている。
土曜も終日保育園にいるのは、幼児にとってやはり過酷なことなのだ。
しかも、土曜保育は同じ年の友達がほとんど来ないため、年下の子たちと同室で長時間遊ばなければならない。
これは一番年齢の高いクラスの子、とくに元気をもてあます男の子にとっては苦痛なことなのだ。

あーちゃんと同い年で土曜も来ていた子は、そうとうの暴れん坊で、誰彼なくボカスカ殴ってしまうような子だった。
この子も「ザ・男の子」という子でかわいかったけれど、どちらかというと絵を描いたり本を読んだりしていたいあーちゃんと、本気の取っ組み合いすれすれの遊びをしたい肉体派のその子では、長時間一緒にいたら双方にストレスが溜まる。
肉体派の子はあーちゃんに手荒くつっかかり、大人なあーちゃんはひたすら耐えていた。

ある日、私が彼らの保育室に入ると、当然のように肉体派の子ががばっと体ごと飛びかかってきた。
その子にひととおりかまってやると満足して立ち去った。
その一瞬の隙に、あーちゃんがスルスルっと寄ってきた。
きっと上手に描けた絵でも見せてくれるのだなと思って膝をついて待つと、まったく思いがけなかったことに……あーちゃんがぎゅっと抱きついてきた。
そんな子じゃないと思ってた。
今まで一度も、こんな子どもらしい甘えを見せてこない子だった。
知的でクールでおしゃれで、ふだんはあーちゃんとしゃべっていると、体の小さい大人と話しているような感覚だったのに。
私のような下っ端パートタイマーに、こんなことをするほど、あーちゃんには、抱えきれない疲労があったのか。
すごい力で抱きついてきたから、私も力を込めて抱きしめかえした。
ほんの数秒のできごとで、あーちゃんの気持ちが私の体に流れ込んできた。

ぱっと離れて何事もなかったかのように立ち去った。
それっきり、卒園するまで、あーちゃんは私にスキンシップを求めてくることはなかった。

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一度でも抱きしめた子は、どんな子であっても忘れられない。
精神年齢の高いあーちゃんが、小学校に入ってそれなりに苦労することを予感していた。
2年前の3月に卒園してから、一度も会っていない。
あーちゃんはどうしているかな……幸せだといいな……と、思い出してきた。

あさって、あーちゃんの入った小学校の近くで、私の所属している影絵劇団の公演がある。
私のいる劇団が本拠地にしている小学校とはちがう小学校に進んだから、彼は私の劇を見たことがない。
あさって、あーちゃんが来てくれるといいな。
君のためにやるよ。
あれ、あの声は……と、あーちゃんが遠い記憶をたぐってくれるようないい声を、出せるように準備しておくよ。


by apakaba | 2016-02-19 21:16 | 生活の話題 | Comments(0)


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