2006年 05月 01日

ヴェンダース夫妻の写真展。

きのう、表参道ヒルズで開催中の、『ヴィム&ドナータ ヴェンダース写真展 尾道への旅』を見てきた。

映画監督ヴィム・ヴェンダースの映画作品を、じつはほとんど観たことがないのだけれど、いつの時代にもコアなファンを持つ監督だ。
同行のあづま川さんは、
「ヴェンダースが映画の中で出す青は独特で……、少しくすんだような青が好きみたいで、写真でもその青をよく撮っています。」
と教えてくれた。

とんちんかんな日本への憧憬を抱く欧米人ほどの短絡さはないが、やっぱりちょっぴり、“日本人”が鑑賞すると「これも撮るのか……」と一抹の含羞も感じる「日本の風景」は、言われてみればどこかに、目を吸い寄せられる“青”が配された写真が多かった。

大のばしにした写真はどれも粒子がざらざらと浮き出たようなプリントになっていた。
わざと粒子の粗さを浮き出した写真にしているのか、大きくしたらそうなってしまったのか、わからなかったけれど、たしかにそれは“映画的”なプリントだった。

というか、写真を撮る人間としてのヴィム・ヴェンダースの腕が、うまいのかそうでもないのかそれすらもなんだかよくわからないのだけれど、ざらざらの写真を眺めていても、見る側の気分がざらつくことはなく、心の底はしんと落ち着いてくる。
赤・青・黄色・緑と、意外と色の氾濫を好んでいるようにもとれる画面は、ノスタルジーとも安手のオリエント趣味ともちがう、いい枯れ方をしていた。

妻のドナータというのは写真家で、こちらは手のひらに収まるほどのサイズの、モノクロ写真だけを並べていた。
さすが、手管を感じる写真であった。
これがたった半年ばかり前に撮った写真とは信じられないほど、写真の中では日本が“昔の日本”にされてしまっていた。
原宿の、奇抜な厚化粧のコスプレ娘ですら、たおやかで慈愛に満ちた表情を浮き出していた。
ドナータ・ヴェンダースの目は、本当に対象の中に“それ(慈愛の表情や、タイムスリップしたような光景”をもとめ、見ていたということなのだろうか。

映画人つながりだからというわけでもないだろうが、しきりと映画『アメリカン・ビューティー』が思い出された。
風に舞うビニール袋を、“この世でもっとも美しい映像”だと観ずる青年、あれはヴェンダース夫妻のカメラが見ている世界と同じだ。
あなたが日本の“そこ”を美しいと感じたら、きっと“そこ”が美しいポイント。
そういうことなんだろうなと、なんとなく納得した。

by apakaba | 2006-05-01 23:58 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(10)
Commented by sesami at 2006-05-02 00:30 x
>ざらざらの写真を眺めていても、見る側の気分がざらつくことはなく、心の底はしんと落ち着いてくる。

ん〜、うまいこと言いますねっ! やられた〜。
確かに確かに。私もむしろあのざらざら感が好きでした。
近寄ってみるとざらざらしているんだけれど、
引いてみると絵画的なんですよね。

写真には、その人の意図ももちろん出ますけど
人柄が出る。なるほどなあと思いましたわ。
Commented by apakaba at 2006-05-02 10:09
sesamiさん、先日はどうも!
sesamiさんとごいっしょしたことを、書こうか書くまいか……あづま川さんはどうとでもお料理するんですが(いいのか?)、お初の女性のことを書くのは悪いかなあと思いまして。
たのしかったですね。またご一緒させてください!!

きのうの夜、かなり焦って書き上げたのでいまひとつなレビューになってしまいましたが、グサグサとやられる写真ではないんだけど、心のどこか深くに沈んでいて、ふとしたはずみにふわーっと浮上してくるようなタイプの、写真だった(と、思いませんか!)
Commented by あづま川 at 2006-05-03 01:50 x
どうにでも料理してください。まないたの上の鯉ですから。
眞紀さんにだったらどう切られようがむかれようがかまいません
・・・ってなに言ってるんだ。

『アメリカン・ビューティー』のビニール袋のシーンはぼくもとても印象に残ってますが、なるほど、そう言われると共通するところがあるかもしれませんね。でもあの映画、ダメな人は全然受けつけないみたいですが。
Commented by apakaba at 2006-05-03 10:58
あづま川さん、先日はステキーな時間をありがとうございました。
また是非誘ってください。
「アメリカン・ビューティー」はたしかに、好き嫌いの分かれそうな映画ですね。私も、2回見て2回目でやっといいなあと思いました。
ケヴィン・スペイシーはかなりひいきです。
あの監督、好きなんです。
あのシーンに関して、宮台真司氏が映画評集「絶望 断念 福音 映画」という本の中で印象的な分析をしていて、それを読んでからまた見たら、なるほどと感じ入りました。
是非、「アメリカン・ビューティー」の記述だけでも立ち読みしてみてください!
何度もここでおすすめしていますが、超絶おすすめ本です!
Commented by あづま川 at 2006-05-03 13:31 x
タイミングよく、本日付の朝日新聞の文化欄にヴェンダース写真展の記事が載っています。夫妻のコメントもあって、なかなか参考になりますよ。

宮台真司氏の著書、こんど立ち読みしてみますね。
ケヴィン・スペイシーの映画だと、「ユージュアル・サスペクツ」が好きだなー。
Commented by apakaba at 2006-05-03 15:02
「ユージュアル・サスペクツ」いいですね。
まだ彼がうさんくささぷんぷんだったころの。
「う、こいつ絶対一癖あるぞ」って感じで……

新聞評になるといきなり混み出すんですよね……空いてるときに行けてよかったね。
Commented by Morikon at 2006-05-04 00:17 x
「カイザー・ソゼ(ゾゼ?)」な話ですね。
あの映画は予想以上に面白かった。
でも中盤で彼のセリフの矛盾に気づき、
あ、コイツが黒幕だな、と思いつつ最後まで見てました。
果たして、気づいて良かったのか悪かったのか(苦笑)
ケビン・スペイシーで好きな作品は、ズバリ「LAコンフィデンシャル」。

そうだ、メール送ったのですが届いてますか?
もし未着でしたら再送しますです。
Commented by sesami at 2006-05-04 11:44 x
平日夜に行った知人の話だと、がらすきだったそうですよ。
でも新聞評に載ったとなると、急に込み出すでしょうね。

>心のどこか深くに沈んでいて、ふとしたはずみにふわーっと浮上してくるようなタイプの、写真だった(と、思いませんか!)

思います思います。彼の映画もそんな感じなんです。
写真と映画のトーンには相通じるものがあるなあとも思いました。
Commented by sesami at 2006-05-08 05:28 x
そろそろ復帰でしょうか?
何事もなく連休を終えてしまったわたくしですが、
一週間あけてようやっと写真展のことなどなど書いてみました。
あのあと大人〜な会話を繰り広げたとは思えない(思わせない・笑)
まじめモードにて。TBしま〜す!
Commented by apakaba at 2006-05-08 09:44
ヴェンダースへレス。
Morikonさん、LAコンフィデンシャルは近所のレンタルではビデオしかなく、DVDが出ていないので、どうも借りる気になれず……でもずっと見たいと思っていました。
この機会に思い切って借りてみます。

sesamiさん、ご案内ありがとうございました!!
すっっごくいい評でした!
かなり勉強になりました。いやほんと。
軽い文章が上手なブロガーさんはたくさんいますが、きっちり骨子のあるものを書ける人はあまりいません。
sesamiさんはやはりステキーな方だったことよ。


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