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あぱかば・ブログ篇

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2006年 09月 05日

1990年の春休み.37 パキスタン篇

<初めて読まれる方へ>
この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。
前回までのあらすじ
セリームの家での沈没生活をついにやめて、ラホール涙の別れ。
ラホール駅で、ペジ(セリームの友人)の父のコネをあてにして、今日の列車に乗れると踏んでいる。

2月19日(つづき)
 駅のオフィスの中にある、VIPルームに通される。
 ペジの父は不在だったが、見るからに偉い人という感じの父の友人が私たちを待っていた。
 ありがたきかなコネクション、おかげさまで、言われるままに書類にサインしてほどなく、ラホールから国境のチェックポストのあるワガー駅までの切符を手にすることができた。
 そればかりではなく、同行者までつけてもらった。
 バンクーバー在住だというおじさん(インド人)にVIPルームで突然引き合わされ、
 「この人もインドへ国境越えするから、くっついて行きなさい。困ったことは相談するように。」
 と言われた。
 実はそのおじさんもその場で決められたらしく面食らっていた。まるまっこい輪郭の中にまるまっこいパーツが点在しており、頭髪は白くて薄い。似顔絵のすぐ描けそうな人である。白いトレーナーの胸いっぱいに赤く描かれたカナダの国旗が頭痛い。手荷物はなぜか靴の箱ひとつきりで、そのあまりの軽装に私たちは違和感を覚えた。
 セリームが
 「このおじさん、すごいカネモチらしいヨ!」
 と耳打ちするもにわかには信じられなかった(カネモチだからおそらくポーターに荷物を運ばせていたのだろうね)。

 ワガーであたたかい午後の陽射しの中をチェックポストのオフィスへ向かって歩いていると、道の両端に支柱を立てた異様なほど大きな白いゲートがあり、横木には「GOOD-BYE」と太く青い文字が書かれていた。金釘流の下手な看板だった。これが国境である。
 「ぐっどばい……なんかすっごいリアリティー。」
 パキスタンで最後に目にした文字は、アラビア文字ではなくごつごつした英字だった。それがなにか余計に孤独感を募らせるというか、やけにタビビトの心にしっくりくるのである。また二人きりに戻るのだ。

 このゲートの下で、ここまで見送ってくれたセリームたちと別れた。
 セリームとは、どうせ日本でまた会うだろう、と思っているのでまったくなんの感慨もない。ペジとシェキには、まあ一生会わないんだろうなあ。ペジとはそんなに親しくなかったし、シェキはどうせ大嫌いだから、先ほどの涙の別れとはうって変わって、気楽な気持ちで手を振ってバイバイした*1。

*1・・・しかしその後、日本に戻った私たちのところにセリームからは連絡がなく、会わずじまいになってしまった。奥さんが嫉妬して怒ったのかなどと推測したが、わからなかった。あれほど親密につきあっていたのに、これが永の別れとなった。
一方ペジは、帰国直後から私のところに熱烈なラブレターを何度もよこして私を困憊させた。


  この一本道の先にパキスタン側のチェックポストがあり、200メートルほどの中間緩衝地帯をはさんでインド側のチェックポストのあるアターリーへとつながっている。
 道の両側は原っぱで、菜の花が咲き乱れている。大きなザックを背負ってのろのろ進み、振り返ってみるとまだ3人が私たちを見ていた。
 青い空、緑の草原、黄色い菜の花。白いゲート。そのゲートの下で、三つのシルエットは妙に小さく感じられる。
 私たちはまた手を振った。三つの影も手を振った。

 パキスタンという国のことを、自分がこんなにも近しく懐かしく感じられる日が来るなんて、思いもかけなかったよ……。

by apakaba | 2006-09-05 00:15 | 1990年の春休み | Comments(6)
Commented by K国 at 2006-09-06 07:56 x
私も結婚するまでは旅をしたくなると会社を辞めてから行ってた
昔はそうでもしないと長期休暇など取れない、それでも残りのお金を計算しながらだったので、一箇所にノンビリ滞在するなど思いつかなかった
次の一か月分の生活費しかなくなった時、行き先で仕事を見つけて働いた、それも旅の一部と思えば旅なのかな

やっとパキスタンから脱出しましたね、展開が楽しみ
Commented by apakaba at 2006-09-06 09:27
毎日毎日、移動をしていく旅というのも、スキです。
一泊ずつして、荷物を解く必要もない……みたいなのも、私はわりと好きですね。
一箇所滞在も楽しいですが。
旅先のバイト、私もしました。でもあれはあまりおもしろくなかったな。

これからインドへ戻ります。
でもその前に、たった200メートル歩くまでに、トンデモナイトラブルが……!!!
Commented by ミケ at 2006-09-06 12:19 x
どんなトラブルか気になりますっ!(>o<)

オカネモチのおじさん
ポーターに荷物を持たせていたとしたら・・
なぜ靴の箱だけ自分で? とヘンなところが気になりました。
Commented by apakaba at 2006-09-06 17:44
いつもいつも、トラブルと道連れです!
あまりにもくだらない国境越えです。
きっとおじさんは靴が大好きで、靴の扱いを自分でしたかったんじゃないでしょうか。
Commented by ogawa at 2006-09-06 22:41 x
トラベルとトラブルは兄弟のようなものです。
語源同じだしね。
とりあえずパキスタン脱出ということで、人の出会いと別れ
旅をしていれば必ず経験しますよね。
次は喧噪のインドに戻るのですね・・・その前にトラブル。
果たしてどんな解決をみたのかな?
Commented by apakaba at 2006-09-06 23:41
そうなんです。でも眞紀と巻(誠一郎)は関係ありません。
イエメン戦のあまりのダメっぷりにわけのわかんないことを書いてしまいました。
またインドに戻ってうれしいな!
インドでも破廉恥ですよ!


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