2006年 09月 21日

「ピカソとモディリアーニの時代」——色彩の競演の果てに

久しぶりにBunkamuraザ・ミュージアムでアタリの美術展を見た。
リール近代美術館所蔵の作品展(特集ページはこちら)である。
展覧会全体の印象は、やや解説過剰気味とはいえ、見応え十分の作品をよく集めてきたという感じ。
とくにキュビスム展示のボリュームはたっぷりだが、私は見たそばから忘れてしまう。
むしろ、山のようなキュビスム作品のあとにたった一点だけ展示されていた、ユトリロのパリの風景には足が止まり目が吸い寄せられた。
パリの小路を奥へ奥へといざなう極端な遠近法ばかりが理由ではないと思った。
ユトリロのパリの絵には、いつも胸を締め付けられる。
綺麗でもおしゃれでもなく、でも100年変わらない街角を、実によくうつしている。

ブース別では、モディリアーニの一連のコレクションがもっとも瞠目に値すると思う。
画家の内面のうつろいを強く感じさせる作品がそろっていた。
写真では色が沈んでしまうけれど、『母と子』における、二人の人物の顔に乗せた、絵の具の翳りない輝きにはしばし目がとまった。

しかし、私にとって今回の展示でなによりも強烈な印象を残したのは、ビュフェであった。
偶然、先日「ビュフェ美術館にて」という記事を書いたばかりだが、あの中で私ははからずもこう書いた。

「アナベルに出会うまで、彼の作風は暗く、色彩がとぼしく、出口の見えないような陰鬱さがあった。
彼女が生涯のミューズとなって、彼の絵に明るい色彩と人生を肯定するような画風があらわれた。」

まさにこの記述の前半部分にあるとおりの、暗く救いようのない世界観を写しとった、かなり大きな作品が並んでいた。
これが見ていてキツかった、やばかった、ピンチだった。

と、いきなり崩れたレビューになってしまうのだが、平常心でいられない絵……決して家に飾りたいとは思えない、眺めるのがつらくなる絵だ。
裸体の人間の群像が描かれていて、その顔はどう見てもおじさん。
粗暴さを漂わす額の深い皺、飛び出しぎみの魚のような目(大きく見開いているがなにも映さないかのよう)、中途半端にきたならしく伸びたオールバックの髪。見たくもないような中年の男の顔だ。
それなのに、ああ、身体はおばさんなのである。
豊満と呼ぶべきか迷うような垂れた胸、ウエストなど存在しないゆるんだ腹部。
一瞬、吐き気を覚えた。
顔がおじさん、身体がおばさん!
それも、目を背けたくなるほど、醜悪な。
身体も顔も、すでに死んで腐臭を放っていると見えるような灰色だ。
見てはいけないものを間違えてのぞき見てしまったような感覚だった。

ビュフェが描きたかったことは、なに?
あの絵を見て、綺麗だと感じる人はいないだろうし、心が晴れる人も絶対にいないだろう。
表現したかったことは、なに?
もちろん、ビュフェについて不勉強で知識のない私には結論づけることはできない。
ただ、この絵を見た人が「ううっ」とくることは確実だ。
人の心にのしかかり、強い印象を残す——それがこの絵のレーゾンデートルに、十分なり得ている、とは思う。

クレーやカンディンスキーのうっとりする色彩を楽しんだ後の最後にこの重い絵を持ってくるのは、時代順に並んでいるとはいえ、なにか意地の悪いレトリックさえ感じる展示だ。

会期10月22日まで。
おじさんとおばさんの合体を、見てきてください。

by apakaba | 2006-09-21 19:25 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(9)
Commented by ogawa at 2006-09-21 21:41 x
ピカソ、ブラックなどキュビズムは、理解しようとすると
困惑してしまいますよね。
そこからモディリアーニにユトリロですか。
目に鮮やかですね。
ユトリロなんてキュビズムの対極にある作家ですよね。
ユトリロは好きですね、私の部屋に飾っているのは、
知人の画家がユトリロ風に書いてくれたパリの風景の画なんです。

ビュフェが最後とな、なかなか凝った演出で。
でも気持ち悪そうだな・・・フム。
でも、それだけ一度に見ることができるなら良い展覧会かな。
Commented by apakaba at 2006-09-21 22:07
キュビスムは……タイトルと、絵の脇に貼られた親切な解説と、自分の想像力(その日の体調とか、機嫌とかも含め)を総動員して、なんとなく見えるような気がするだけです。
それが面倒な気分のときには、ただ目の端へとこぼれ落ちていくばかりです。私にはですが。
印象派、キュビスム、エコール・ド・パリへの系譜は、まあたいていの人は好きなんだろうけど、やっぱりいいですね。
ユトリロのよるべないロクデナシな人生も好きです。
重く曇った日にパリを歩いていたら、「おお、ユトリロだあ!」と型どおりの反応をしてしまったわよ。
Commented by ぴよ at 2006-09-21 23:03 x
明らかにおじさん顔なのに、体は確実におばさんって人は現実にもいますよねぇ。
たまに見掛けて一瞬「ん?どっちだ?」と思う事ありますよ(笑)

モディリアーニ、好きだなぁ~♪画集持ってるよぅ~
ピカソも実は好き。彼の素描画集を持ってるんだけど
(ピカソが幼少~美術学校時代に描いた素描が中心)
とにかく物凄い才能ですよ。12歳頃に描いた素描が載ってるんだけど
とてもじゃないけど大人でも描けない。物凄く正確で、尚且つ画力がある。
どうしてもピカソと言うとゲルニカに代表される具象画(彼は抽象画ではない)
がイメージとしてあるけど、彼の素描力は本物です。本当に素晴らしい!

あー。この展覧会、名古屋にも来ないかなぁ~!見に行きたいなぁ~!
Commented by apakaba at 2006-09-21 23:31
そうそう、おじさんだかおばさんだかはっきりしてほしいヒトね……いるいる。
ピカソは一番好きな画家です。キュビスム時代はさほど好きでもないけど。平たく言って、「絵、うまい」ですよね。
デッサン力が、ふつうじゃないですね。

http://apakaba.exblog.jp/m2004-12-01/#557397

何度かピカソ評を書いているんだけど、一番最近のレビューがこれです。よかったら読んでねん。

http://apakaba.exblog.jp/m2004-10-01/#569810
もういっちょ、これもピカソのレビュー。
Commented by Morikon at 2006-09-22 00:11 x
私も絵描きの端くれだから分かりますが、幼少期のピカソの
デッサン力はずば抜けていますね、まさに天才。
晩年は、天才の壁を突き抜けて
神がかり的な境地に達したせいか、
私には理解しづらい作品が多いんですが。
でも「ゲルニカ」は別、絵の向こうから悲鳴が聞こえてくる。
あんな絵、他に見たことありません。
Commented by apakaba at 2006-09-22 11:44
まあ、生涯に8万点の絵を描いた人なので、いいものもある、悪いものもある!(スネークマンショー)
今回の展示では、ピカソでよかったのはひとつふたつといったところでした。あの人、差が激しいからね……でも展覧会のタイトルに「ピカソ」が入っていると、お客を呼べますよねとりあえず。
ゲルニカはレプリカでも、同サイズの展示のときにかなりググッとやられました。ホンモノが見たいです。
Commented by Kay at 2006-09-22 12:32 x
ゲルニカの実物? マドリッドのプラド美術館で見ました。大きな部屋にこれだけ、実際に見ると鳥肌立つような悲惨さが叫んでいるようでした。
Commented by K国 at 2006-09-22 12:34 x
ユトリロ好きですね、日本人の感性に合う、毎日見ても見飽きない魅力があると思いません。
モジリアニを見ると竹久夢二を思い出す、和服と洋服が違うくらいで
きっと性格も似てたのでは
Commented by apakaba at 2006-09-22 12:47
プラド美術館には行きたいですねえ。あの絵は外に出ませんから……ピカソ展はたびたびやっているので、よく行っていますが、何年か前にゲルニカの制作風景など詳細に紹介した展覧会があり、感動しました。

K国さん、
>モジリアニを見ると竹久夢二を思い出す
はははははは……おもしろい!


<< 1990年の春休み.40 ふた...      1990年の春休み.39 ふた... >>