2006年 11月 14日
<初めて読まれる方へ> この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。 前回までのあらすじ デリーでボケボケしていることに、急に焦燥感を覚えた私は、相方に「もっと観光したい」とだけ言い、デリー滞在を1日延ばすことに決定。 ナシーム・ゲストハウスのマスターがいろいろと親切にしてくれる。 2月21日(水)晴 鉄道のチケットの変更に一緒に行くから、朝一番にここに来なさい、とナシーム・ゲストハウスのマスターに言われていたのに、寝不足続きがたたってすっかり寝坊してしまった。 しまった!マスターの好意を無にするわけにはいかん、と顔も洗わずにリキシャに飛び乗る。 ところがこのリキシャときたらナシームの位置を知らないくせに走り出したようで、まったく見覚えのない場所に私たちを降ろして去ってしまった。よくあるんだこういうことって。 通行人に道を聞いて走っていき、石垣に階段があったのでこっちだろうと見当を付けて駆け上がると、な、なんじゃここは、見渡す限り画面いっぱいのチキン。Back to the futureの一場面のような意外にしてあきれる場面転換である。 白いニワトリたちは、両手で抱えられるくらいの大きさの銀の針金でできたカゴに、ぎっしりと詰め込まれていた。そのカゴが目の高さ程まで積み上げられ、その積み上がったカゴのかたまりが狭い道の両脇にずーっと並んでいる。その騒々しさ、におい、飛び散る羽の汚らしさといったら、鳥が嫌いでなくても気が狂いそうになってくる。 ヒロはあれを見て、インド人がタンドリーチキンやチキンマサラをいくら食べてもいっこうにチキンがなくならない謎が解けたと言っていた。そして私は、なぜこっちのタマゴがあれほどグッタリとして黄身が薄いのかがわかった気がした。だってあの過密のカゴの中でつつきまわされて、ほとんど死んだようなのもいるんだもん。 こう書くといかにも細かく観察したかのようだが、実際はナシームをさがしつつ、追っ手から逃れようとするマイケル・J・フォックスのようにあちこち走りながら横目で見ただけなのだ。 鳥カゴのせいですっかり方向がわからなくなって困り果てているとき、ちょうどマスターが鳥どもの向こうから私たちを迎えに来てくれた。 寝過ごしたことを謝りたくても、ウルドゥーしか通じないのでそれができない。 「ソーリー、ムーアーフキージーエ。」 と、パキスタンで覚えた「ごめんなさい」を連発する。 当然このまま直行するかと思いきや、なぜかナシーム・ゲストハウスへと案内され、紅茶とクッキーを振る舞われた。きのうあれほど朝一番で鉄道の払い戻しをする!と念を押されていたのに、こんなのんびりしたもてなしをされると腰砕けになる。急いでてものんびりなんだよなあ彼らって、と、せっかちな日本人旅行者はキャラウェイのたくさん入ったクッキーを朝食代わりにモクモクと食べたのであった。 私たちはリキシャに乗り、マスターと、いつの間にか同行することとなった、マスターをちょっとだけ小柄にしたような恰幅のいい紳士がスクーターに二人乗りして駅へ向かった。その二人の姿ときたら、もう誰にも追随を許さない押しの強さである。またがられているスクーターが気の毒というか、オモチャのように見えるのだ。 駅ではすぐに払い戻しをしてくれた。半額が返ってきた。 そのまま明日のチケットを取るためにブッキングオフィスへ。ヒロはなぜか入り口で警備のものにとっつかまってしまい、入れなかった。なにを怪しまれたのかはわからずじまいだった。 オフィスの中をドカドカと進む二人はやはり圧巻である。 あっという間に予約を取り直してくれた。 そして連れだってダルパン(我々の泊まっているホテル)に戻ってきた。 マスターはダルパンのマスターに何ごとかを説明している。きのうから我々にとっては、ホテルを移ることになるのかどうかだけが関心の的なのに、それについてはなんの説明もなされないまま、私たちの頭越しに話が進んでいるようである。 ダルパンのマスターが訳して言うには、明日は汽車の発車時刻が早いので、ニューデリー駅に近いこのダルパンに留まったほうが私たちには都合がいいだろう、わざわざ駅から遠いナシームに移ってくることはない、ということらしい。ナシームのマスターは相変わらず目をギロギロさせたまま鷹揚にうんうんとうなずいている。自分の儲けより私たちの予定を優先させてくれたわけだ。 「サ、サンキュー、シュックリア。」 と言い終わるか終わらないうちに、マスターとその友人の二人は巨体をドカドカと揺すって去っていった。それきりである。世話になるだけなってしまった。我々が本当になにもできない子供だと思っていたようである。嵐のような親切であった。 私たちは呆然と部屋に戻り、そのまま再び恥ずかしく眠りこけた。 昼ごろ起き出し、だんだん増えて行動のじゃまになってきていたおみやげを航空便で日本に送るために、郵便局に行くことにした。 ホテルマンに頼んで小包用の布をもらい、送り荷物を包んでもらう。しかし布が弱くて薄いので、日本までもつかどうかまったく自信がない。 リキシャのジジイはGPO(中央郵便局)を知らなかったらしく、またしてもとんでもなく変なところに降ろされてしまった。今日二度目だ。 本物のGPO目指して、いやー歩いた歩いた。 おそろしく田舎びたところを通っていったので、まあそれはそれでおもしろかったけど。 デリーも中心部をちょっとでも外れると、あんなふうになっているのか……と驚く。 ぼろぼろのバラックの前で遊んでいる子供たちを見て、ああいう光景を撮りたい、と思ったけれど、気がひけてあきらめる。 生活の写真て、やっぱり魅力的だけれどそこまでずうずうしくできない。向こうはどうせ気にしないだろうけど。 重たい小包をかわりばんこに持ったり片手ずつで一緒に持ったりしながら、やっとのことでGPOに着いたものの、受付のおばさんがすんごいイジワルでした。 商売をするインド人はほっぺたがとろけて落ちそうなくらい愛想がいいのに、駅やら郵便局やらの窓口に座っている人々はなんだってこうも無愛想なんだろうか。同じインド人とは信じられない。 「しっかり包んでいないから中身が動いて包みの布が破れやすい。もう一度やり直し。自分たちでうまくできないなら25ルピー(250円)払って『包み屋』にやってもらうように。」 私たちは悔しくて仕方がなかったが、確かにうまく包めていないので、どこからともなく現れた梱包を専門とする男(『包み屋』)に頼んで一からやり直してもらった。これに大変時間がかかった。しかも航空便が880ルピー(8800円)というのでその高さに打ちのめされた。我々の宿代の何泊分になるだろうか! まあそんなわけで用事は済み、いよいよデリーを観光するのだ。
by apakaba
| 2006-11-14 18:37
| 1990年の春休み
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Comments(4)
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ミケ
at 2006-11-15 12:30
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まったく見当違いの場所に降ろされたり、すごく親切だったり・・・
インドの人って極端な人が多いのでしょうか? ”生活の写真” 今は撮るの平気ですか? 私は気がひけてなかなか撮れないんです。
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apakaba at 2006-11-15 12:58
ミケさん、一ヶ月もあいてしまったのに見捨てないでくれてありがとう!!
ミケさんのために最後まで書くよ!!(まだずっとつづく!) リキシャマンは、イジワルでそうしているのではなく、とにかく仕事がほしくて必死なので、わからない場所でも「OKOK」とかいって走り出してしまうのです。お客さえ乗せれば賃金が発生するからね。 インド人は親切な人が多いです。 また、魔術のようにだまされることもあります。 写真は……技術的な面では進歩しないけど、だんだん撮れるようになってきたと思います。 人にいやがられないように撮ることが。年の功ですかね。
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ogawa
at 2006-11-15 22:52
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なんか懐かしい情景だなぁ。
バックパックの旅をしていると、こんな経験は日常茶飯事だったのに 今はどこも旅をしやすくなったなぁ~とつくづく思う。 「切符を買うのに一日、手紙を書いて一日。」 なんともふざけた言葉だけど、そんなに効率よく旅なんて できないよ・・・という戒めの言葉でもあったな。 今日の文章を読むと無性に旅に出たくなってくるなぁ。 BGMで「異邦人」を聞いているせいもあるかな。
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apakaba at 2006-11-15 23:41
ogawaさんありがとう!
ogawaさんのために最後まで書くよ!!(まだずっとつづく!) この日、早朝から昼過ぎまで、やったことといえば切符を買い換えるのと郵便物を出すだけ……ハハハ、ほんと懐かしいですね。 今でも私の旅はそういう感じですが。バカバカしいもんですよ。 読んでくれている人が、とっても少ないってわかっているんだけど、やっぱり旅行記の連載はやめられません。 読んでくれる人はこんなツマンナイ半日のことでもおもしろく読んでくれるから。 でもこのあと、けっこうイイ感じの展開が待っています。 今が一番だるいかも。次回から写真も復活します。 |
アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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