2005年 01月 11日

ふるさとは遠きにありて……

私の実家は横浜の南のはずれ、鎌倉のそばにある。
母と継父がふたりで住んでいる。
車がなくては暮らせない、へんぴなところだ。
私が嫁に出た当時は50代だった母も、そろそろ70代に近い。
不便な場所でいつまでもふたりというのも心配なので、こちらへ呼び寄せることにした。
なーんていうと聞こえはいいけれど、家を私たちが用意したわけでもなく、3年前、たまたまうちのお隣が空いたので、母が買ったのだ。

買った当時は、まだもう少し実家の方で暮らしたいという希望があったので、とりあえず貸家にしておき、この春、いよいよ隣へ越してくることになった。
あまり先延ばしにしてしまうと、今度は年をとりすぎて新しい暮らしに慣れるのが難しくなってくるからである。

ずっと、子供たちにはないしょにしてきた。
家を借りているお隣の人に、もうすぐおじいちゃんとおばあちゃんが越してくるんだよなどと口を滑らせたら、追い出すようで気の毒だからだ(まあ、結局は出ていっていただくんだけど)。
今年の新年会は実家で開き、そのときに発表しようと母が言い出した。
祖父母が大好きな子供たちは、さぞ喜ぶだろう。
バンザーイバンザーイと、盛り上がりすぎて狂ったように暴れ回るかもしれない。
ビデオに録画しなきゃあ!

「おばあちゃんたち、お隣のおうちへ越してこようかなーと思うんだけどー。」
と、ビデオをひそかに手元近くへ用意して母が切り出すと、はじめなにを言い出したのかわからなかった子供たちは、半信半疑の表情で「ええ?」と聞き返す。
中途半端に笑っている。
「おじいちゃんもおばあちゃんも年とってきたから、そっちの近くがいいかなーと思うのよ。」
とさらに言うと、なんと、予想だにしなかったことに、3人そろって
「ええーっ!?やだそんなの!」
と怒り出すではないか。

思いがけない反応に、私も母もとまどう。
わけを尋ねてみると、
「このおうち(実家)が好き!この家に来られなくなるなんていやだ!」
「そうだよ!庭もあるし、公園で虫取りしたり。」
「そうそう!庭庭!」
たしかにうちには庭はほぼないけどー。
ただの自転車置き場になってるけどー。

夜になると、とうとう「ササニシキ」は泣きだした。
「ほんとうにこの家おわりなの、もう来るのは最後なの。」
なんなんだよもうー。
ずっとあたためていた“発表”と大ちがいだよ。

嫁に行くまで育った家に、私はほとんど愛着がない。
薄情な人間だと自分で思うが、あそこはもう母と継父のふたりの居場所であり、自分の生活とは関係ないと感じる。
それだけに、あそこで生まれ育ったわけでもない自分の子供たちがあれほど実家に執着していたとは、まったく考えたことがなかった。
あの反応には完全に、虚を突かれた。

長期休みのたびに泊まりに来ていたからな。
別荘のような感覚だったのだろう。
大好きなおじいちゃんとおばあちゃんがとにかくそばにいればいい、ってことでは、ないのだった。

3人でよくしゃべっていたものだ。
「夏休みにさー、横浜の家に行くとかならずスイカが出てさー、そのときかならず、せみが鳴くんだよ。」
思い出も込みの家、か。
春の引っ越しまでの間に、なぜ私たちのそばへ来るのか、くり返し説明して、きちんと納得してもらわなければならない。

by apakaba | 2005-01-11 23:28 | 生活の話題 | Comments(0)


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