人気ブログランキング | 話題のタグを見る

あぱかば・ブログ篇

apakaba.exblog.jp
ブログトップ
2007年 03月 28日

『暮しの手帖』沢木耕太郎の映画時評終了に反対する

北海道旅行の話を中断して……

さっき本屋さんで立ち読みしていた。
暮しの手帖は必ず読む。
だって沢木耕太郎の映画レビュー連載があるから。
読んだ本や映画や美術展などについて、私もこの場で拙文を書いているが、沢木の暮しの手帖誌上でのレビューは、私にとって一つの目標である。

彼のレビューを読むと、その映画を観たくなる。
たまに、題材である映画そのものを観なくても彼のレビューを読むだけで、観た気になって満足してしまうことさえある。
彼は日本で非常に数少ない、“ジブンのことを語っても読ませる作家”だ。
彼の文章には、かならずジブン自身がたっぷり出てくる。
それが「ニュージャーナリズム」の大きな特徴なのだろうが、後進の書き手はジャーナリストとして絶対に必要な分析力・洞察力をあっさり捨てて安いセンチメンタリズムに流れてしまい、読めた物ではないということが多い。

沢木の魅力など、ここで長々述べる必要はないだろう。
いうまでもなく、読む者に心を沿わせる/読む者が心を沿わせる——書かれたものをはさんで、二者が双方向性を強く感じさせるところである。
映画評も、随所にジブンに関するエピソードが語られる。
その映画を観に行く日の朝のこと。
映画館での他のお客さんたちの反応。
映画を見終わって帰途につくときのこと。
脈絡なく心に浮かぶ、遠い日の思い出のこと。
これが好きで毎号が楽しみだった。

ところが!!!
現在出ている号を最後に、連載が終了するというのだ!
沢木本人からの挨拶の文が、本編の末尾に書かれていた。
なんでも、現在の編集の方針に沿わないということらしい。
短いお別れの文章から、連載終了を告げられた悔しさが読み取れた。
ものを書く場所じたいは他にも用意されているだろうが、暮しの手帖誌上に書く、ということが、どれだけ自分にとって意義深いことだったか。
本誌の読者ならわかってくれるだろうという信頼感が、どれだけ筆を軽く進ませてくれてきたか。

そのように書かれた箇所(立ち読みでさっと目を通しただけなので、文章はこのとおりではなく私の文章になっています)には胸がいっぱいになった。
そう、ものを書く、書くことに限らずなにかを表現する立場の人間にとって、受け取り手に信頼を置いているというのは、あらゆるレベルの表現行為において大きな励みになる。
あなたなら、わかってくれるよね。
ってこと。

暮しの手帖も古色蒼然としていた時期を過ぎ、かなり雰囲気が軽くリニューアルされている。
それはそれなりに、いいと思う。
しかし沢木の連載終了がなぜなのか、わけがわからない。
暮しの手帖には失望した。

by apakaba | 2007-03-28 16:16 | ニュース・評論 | Comments(7)
Commented by ogawa at 2007-03-28 22:19 x
世界は「使われなかった人生」であふれている

これが沢木氏の暮らしの手帳で書かれていた映画評の単行本の
タイトルですよね。
この評を読んでいると、おそらくB級映画であっても「おお、この映画
を見たい」という気持ちをかり立たせてくれる評論でしたよね。
氏の世界観をジブンのことのように語って引き込んでしまう力。
これは誰にもマネのできないことですよね。

あえて、文ではなく言葉で引き込んでくれたという挙げ方をすると
故・淀川長治氏でしょうか。

そっか連載終了ですか・・・寂しいですね。
続編が単行本になることを期待してます。
最後はどの映画評でしたか?
Commented by apakaba at 2007-03-28 22:23
最後は、なんと邦画でした。
私は邦画をほぼ観ないので少しがっかりしましたが、それでも「観ようかな」って思った。
「それでもボクはやってない」という、痴漢のえん罪の映画でしたよ。

やはり、誠実さなのかな。彼にあるのは。
彼は正しくて、誠実だ。
たとえ出勤一日目にして会社をやめるような人間でも、どこかに、根の部分に、誠実なところがあるんだろうなと思わされますね。
私も(自分のことに引き寄せるのは甚だ僭越だけれども)、まあ基本的にろくでなしな人生ですよ。
それでも根のところに誠実さがあれば、沢木氏のような人として生きていける(かも!)って思えるのだ。
Commented by apakaba at 2007-03-28 22:24
なんかレスがややヨッパライ気味だ
Commented by ogawa at 2007-03-28 22:55 x
>なんかレスがややヨッパライ気味だ

だいじょーぶ、ちゃんと意味は通じてるよ(^^)
沢木氏は、自分はいい加減だと言いつつも、誠実なんだよね。
それが読み手に良くわかるから、映画評も「フムフム」と読んで
しまうんだよね。
Commented by apakaba at 2007-03-28 23:08
彼が正しくて誠実な人間だというのは、あのシャベリを聞けばだれでもわかるな。
やはり、ひとかどの人物というのは、どこかに正しさを持っているものだと思うんですよ。
そして、若いころから才能のきらめきがあるんだな。
彼の横国(ヨココク)出てすぐに書いたデビュー作なんて、これが20代前半の青二才の書いたものなのか!っていう、圧倒的なきらめきがありますね。
ニュージャーナリズムの旗手とか言われているけど、やはりそんなふうに、エポックメイキングなことをする人って10年、20年にひとりしか出てこないんだと思う。
と、このへんの話は長くなるのでまた今度。
Commented by ぴよ at 2007-03-29 13:29 x
いい書き手が編集部との軋轢で連載を終了するというのは
何とも悲しく空しい事だと思いますよ。
時として商業主義や会社の方針、スポンサーとの兼ね合いで、
書き手の自由を奪ったり制約を課すというのはよく聞く話。
多くの書き手はそのニーズに応える為に自分の本来書きたい事を
諦めてしまうんだろうけど、沢木氏はそれを良しとしなかった。
そういう遣り取りがあったんじゃないか?と邪推しますね。

何にしろ、連載終了は本当に本当に惜しい事。
Commented by apakaba at 2007-03-30 10:16
ぴよさん、いやー、まあねえ、暮しの手帖もいろいろ大変なんだろうとは察するんですよ。広告取らないから、財政がどれだけ苦しいかって。
私も昔から応援してきた雑誌だし。
でも氏の連載がとても楽しみだったので、あえて本文中では感情に走ったことを書きました。


<< 一泊二日、北海道強行軍その3      一泊二日、北海道強行軍その2 >>