2007年 07月 14日
旅の本を読まなくなって久しい。 20年くらい前から10年間ほどは、むさぼるように旅の本を読んでいた。 ふっつりと読まなくなったのは、我も我もと本を出す、レベルの低い書籍が増えたことと、ネットの普及により、そこそこのレベルの旅行記なら、いくらでもウエブをさがせば読むことができるようになったことによる。 読むに値する「作品」と呼べる本が、新しく出てこない。 『ふるさとの仏像をみる』の著者である内田和浩さんと、一度宴席でごいっしょした。 穏やかそうな風貌の方で、酒好きでお話がうまく、とても楽しい時間を過ごした。 本が出たら必ず買いますと約束した。 大きな書店で、知っている人の本がどっさり並んでいるのを見るのはうれしいものだ。 しかし、値段を見たら、「あれ、ちょっと高い?」と思ってしまった。 「でもなあ、内田さんに読んで書評を書くと約束したし、何千円もするわけじゃないんだから。お友だちだしー。」 など、独り言とともにレジへ向かった。 日本全国のお寺を訪ね歩き、出会った仏像をレポートする。 ぱらぱらめくってみると、意外なことに、私の知っているお寺や仏像は、紹介されている全国46のお寺のうち、たった一つだった。 私がお寺をさほどよく知らないというのもあるが、それにしても、日本人なら誰もが知っている有名どころをあえて出さないことで、“日本は、広いんだなあ”と実感させられる。 毎日少しずつ、ていねいに読んでいった。 はじめに「ちょっと高いかな?」と思ったのはまちがいだった。 「知らないお寺ばかりか。読んでおもしろいかしら?」という心配も、杞憂だった。 内田さんは、ただの酒飲みではなかったんだなあ、やはりプロだったんだなあと思わされた。 旅行誌上での連載という、限られた紙幅のなかで、過不足なく紹介をし、こぼれ話を入れ、ご住職や参拝者の様子を描く。 テレビの紀行番組のカメラのように、仏像に思いきり寄ってみたり、本堂や辺りの風景を俯瞰したり、著者の自在に動く視線を感じる。 こういう企画ものは、淡々とした紹介に終わってしまうことが多いのだが、著者はそこまで機械的に筆を進めることはできない、なぜならこの人自身が、とってもとっても仏像が好きだから。 “仏像が好きだ”と、ご本人の口から聞いたことはないけれども、でも読めばわかる。 好きなんだなということが。 好きなら書くのもたやすいだろうというのは浅はかな考えで、私には、「好きなものを、取材するのは楽しかったことだろうけど、まとめて書いていくのは大変だっただろうに」と思えた。 好きだからといって感情に溺れてはいけないし、制約は多いだろうし、ほどよく淡々と、ほどよく感動を織り交ぜて、平易に紹介していくのは、見た目以上に難しい仕事のはずだ。 うまくまとめるものだ、さすがプロ。 もう一つ、私事ながらなによりうれしかったことは、私がたった一つだけ知っていて、行ったことがあるお寺が、本の最後を飾る大分県の龍岩寺だったことだ。 2年前、ブログによくコメントをくださるK国さんのお宅に遊びに行ったとき、ここへ連れて行ってもらったのだ。 行ったときは、山の奥というロケーションに感動したものだったが、こうして立派な本になって紹介されているのを改めて見ると、「わあ、私っていいところに行ってきたんだな。K国さんはよくあそこへ連れていってくれたものだ。内田さんも行かれたのか。内田さんも、よくここを書いてくれたものだ。」と、二重にしみじみとうれしさを感じる。 日本は広い。 日本中に、こんなに美しく、愛らしく、威厳に満ちた御仏(みほとけ)が静かに、皆さんの来訪を待っている。 読めば絶対に、旅立ちたくなる。 私にとっては、これは久しぶりの、旅へのあこがれをかきたてる「旅本」だった。
by apakaba
| 2007-07-14 00:19
| 文芸・文学・言語
|
Comments(16)
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K国
at 2007-07-14 07:21
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「ふるさとの仏像を見る」ですね、買いますよ。
龍岩寺が出てるなんて嬉しいですね、山の上の切り立った岩にへばりついたような社に、3メーターの大きな仏像が3体,何度行っても好きな所です。気に入ってくれるかどうかと思いながら案内しましたがよかったです。
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apakaba at 2007-07-14 07:45
さっそくお買いあげありがとうごじゃいまーちゅ!
龍岩寺は連載の最後を飾っています。まあ、一番西だからなのですが。 あのときは、あのロケーションのすごさと、ここまで資材を運んで、オーバーハングの場所に社をつくったという執念に驚き感動して、仏像じたいは時代が新しいものなのかな?と勘違いしていました。 著書の本文にも出てくるように、自然が守ってくれてあまりにも保存がよいので、古さを感じさせないのですよね。 造形も素朴そのもので……私は、鎌倉時代の派手〜な仏像が好きなんですが、あそこは山にふさわしい素朴さがたいへん似合っていてヨカッタです。
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与太郎
at 2007-07-14 08:44
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今回の大分オフ会、9月15日には是非ご案内いただけるとありがたいですね。といっても、kayさんは行く時間がとれないかな?
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apakaba at 2007-07-14 09:22
足もとにかなり注意しないと、天気が悪いと大変ですよ。
でも行くだけの価値はあります!
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たまんちゅ
at 2007-07-14 11:30
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この本絶対買います!!!
みうらじゅん好きから転じて仏像に興味が湧き、ここ数年奈良・京都のお寺を見に行ったりしてます。仏像の塗り絵も始めたんですよ。 「ふるさとの仏像を見る」絶対買います!今から本屋さん行ってこよ。 私が行ったお寺も載ってるといいなぁ。。。
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たまんちゅ
at 2007-07-14 11:32
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K国
at 2007-07-14 16:04
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ぴよ
at 2007-07-14 22:18
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amazonで注文して買ったんだけど・・・実はまだパラパラと写真を見ただけで読んでないんですよ(薄涙)
読みたい本が溜まってて、文庫本じゃないと外に持ち出して読まないからなかなか読めないでいるのよ。いかーん! イタリア旅行が近いから、今イタリア系の本で手一杯。 旅行から帰ってからゆっくり楽しませて頂きますぅ
ミタニさん、本当にありがとうございます! おかげさまでいくつか書評にもとりあげていただいたのですが、このミタニさんのレビューがいちばん書いた本人にとって嬉しい内容でした。
それにしてもミタニさんの書かれたものはいつも血が通っているなあと、敬服いたします。 コメントを書かれている皆様にも心より感謝いたします。 御礼まで。
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apakaba at 2007-07-15 11:12
ふるさとの……レス。
たまんちゅさん、力の入った連投ありがとうございます! 多分、「あれ、知らないところがいっぱい?」と思うんだけど、またそれが「いつかきっと行こう!」っていうあこがれになっていくんですよ。 K国さん、与太郎さんが滑らないように気をつけてご案内さしあげてください。 テレビで斎藤由貴も登っていたなあ。 そうそう、「コシヒカリ」が夏休みに遊びに行きたいと言っています(ただの私信)。 ぴよさん、ひゃーもう買ってくれていたのね。 内田さんと飲んだことあったっけ?すごくおもしろいのよ〜飲みのとき! また機会を見つけて、誘い出しましょう! 内田さん、いや私はシロートなので……お恥ずかしい。 ちょびっとでも売り上げに貢献できれば。 また飲みましょう。
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K国
at 2007-07-15 18:37
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たまには兄貴とはなれて一人も良いかもしれない、いつでもオッケーです。
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apakaba at 2007-07-15 18:43
いいですね。仏像。前も書いたかもしれないけど、仏像の本をいろいろ読んで、ハマりました。仏像の世界は本当に深い世界ですよね。読めば読むほど、見れば見るほど、神秘の世界、日本人の真の世界に入り込んでいく。
仏像キットが売っていたので、彫ろうか?と思ったり・・。
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apakaba at 2007-07-16 23:12
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福田タケシ
at 2007-08-29 21:41
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はじめまして、福田タケシと申します。よろしくお願いします。
このたびは「ふるさとの仏像をみる」のレビューを書いてくださってありがとうございます。あの本の仏像のほとんどを撮影いたしました。内田さんとは古い友達であの取材では北海道と沖縄を除く、日本国内で4年間にわたり、弥次喜多道中いたしました。古寺取材の面白さもさることながら、地方の美味しもの、酒を堪能。 mixi経由でお邪魔いたしました。 mixi : magrib 福田タケシ
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apakaba at 2007-09-01 07:54
福田タケシさま、コメントありがとうございます。
休んでいたので、レスが遅くなって申し訳ないことでした。 そして、拙レビューも読んでくださってありがとうございました。 写真に関して、本文中で一言も触れていないのは、「写真だけを立ち読みでさっと見て、読んだ気になって買わないのは困る」と考えたからなのです。 写真がとてもステキだったのに、書かないのは悪いなあと思っていたのですが、そういうつもりでしたのでお見逃しください。 写真は、私は自分では撮らないのですが見るのはとても好きで、福田さんの仏像の撮り方も、視点を自在に変えて、無機物ではないような雰囲気を出していることに驚いていました。 また機会があったら拝見させてください。 |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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