2007年 09月 21日

デコレーションとミニマム——森美術館 ル・コルビュジエ展

もし連休に予定がないのなら、六本木ヒルズの森美術館へ行ってみてほしい。
24日まで、ル・コルビュジエ展が開催されているから。

ミース・ファン・デル・ローエ、フランク・ロイド・ライトらと並び称される近代建築の巨匠、という予備知識しかなく、実際に見たことのある作品は、基本設計に関わった上野の国立西洋美術館ひとつだけ。
ヨーロッパの巨匠の作品を体感することは、日本で暮らしている私のような庶民には困難なことだ。
けれども、森美術館へ行けば、体感が可能だ。
かの有名な代表作、《マルセイユのユニテ・ダビタシオン》の住居空間を実物大の模型で展示しているのだ。
マンションの一室の中に入って、歩き回ることができる(しかも二階建て!)。
他にも、ル・コルビュジエのパリのアトリエや、終の棲家となった《カップ・マルタンの休暇小屋》も実物大模型で展示している。
昼のアトリエいっぱいに差していたであろう陽の光や、うねりのついた窓ガラスを通して窓から見えていたはずのパリの風景なども、美しく、巧妙に再現している。
窓のない館内の一角にいることを忘れ、本当にその場を訪れたような気持ちになる、大仕掛けの展示だ。

図面やスケッチだけでは、その建築の本当の姿はうまく浮かび上がってこない。
プロは頭に完成の状態を描くことができるのかもしれないが、素人にはとうてい無理なことである。
この展示の大胆さと緻密さには驚いたし、それ以上に「ありがたい」と思った。
もちろん本当はそこへ行ってみたいけれど、ヨーロッパへおいそれと旅立てない身には、この疑似体験は非常に貴重だ。

見学者をわくわくとさせ、晴れやかな気分にさせる。
この美術館のトップはたいしたものだ。
いろいろな美術館へ行っているが、東京でここほど“見せる”ことに成功しているところはない。
昔ながらの、狭苦しく暗いスペースしか持てない美術館、新築しても大きな箱だけが立派で、展示の工夫がお粗末なままの美術館、人を魅了する美術館というのはなかなか難しい。
才能あるスタッフと潤沢な資金で、森美術館はいつもうまい展示をする。


ル・コルビュジエのことを、実はほとんどわかっていない。
建築に興味はあるけれど、そんなに真剣に勉強するほどでもなく、彼がどんな理念のもとに建築を展開してきたのかもほぼ知らず、ただミーハーとして“とりあえず行っとけコルビュジエ!”のノリで行ってみた。

かの有名な《ロンシャンの礼拝堂》や《サヴォア邸》の模型や写真をはじめとして、多くの作品の設計図やデッサン、縮小模型などを扱っている。
絵画や彫刻も展示してあるが、建築の完成度の高さに較べてそれらは“建築のための習作”“イメージを構築するための手遊び”の域を出ず、数多い絵や彫刻を見れば見るほど、やはりこの人は建築でこそ真に才能を発揮し得た人物だったのだと思わせる。
彼の紹介を読むとき、“画家でもあり、彫刻家でもあった”という表現がされていることがあるが、私が思うにはこれはまちがいで、建築以外の表現媒体は“すべては建築のために”一直線に向かっている道筋の、沿道に散らばった草花みたいなものだ。

彼は数多くの計画都市のコンペにも挑戦しては敗退し、唯一実現したのが北インドのチャンディーガルという街の計画だけだった。
パンジャーブ州の州都として、一から街をつくるという壮大な都市づくりを実現できたのも、他のコンペの題材のように“既存の都市を再開発する”という縛りを脱して考えることができたからであろう。
彼の都市計画は「実現?ムリムリ」と素人目にもすぐわかるほど、理想を過剰に拡大してしまっている。
そう、彼の特徴は、「人には最小限のスペースさえあれば住むことができる」というミニマリズムの理念と、それと相反するようにきわめてフランス的と見える装飾過剰さ、そして意外と派手好き(コンクリートを扱いながらも、色彩に満ちているのが好き)なこと。
矛盾する要素を、建築という具体物でひとつにまとめて答えを出すひと。
展示を見ながら私が感じた印象だ。
どんな人物だったのか、不勉強のためわからないが、夢想家だったことはまちがいないと思う(というか、世に名を馳せた建築家はみんな夢想家ですね)。
やはり、20世紀最大の建築家のひとりだ。
ガラスとコンクリートという素材に無限の可能性を見ていた時代の喜びが、作品に踊っている。

フランスを拠点として活躍していたので、おもだった作品はフランスに集中している。
マルセイユのユニテ・ダビタシオンというマンションには、現在でも人が住まい、ホテルやプール、保育園(絵画教室として使われている)などが、築後50年以上たった今でも機能している。
その映像を見ているだけでも、「いいなあフランス。行きたいなあ、ここに。」と、あこがれの思いが強くなる。
また、フランス東部ロンシャンの礼拝堂の写真は、その禍々しいまでに過剰な曲線の外観と、内部に差し込む崇高な陽の光など、これは一度訪れたら心をつかんで離さない場所だ……という予感に満ちている。

行くことはかなわないかもしれない、でも行きたいなあ。
チャンディーガルにも行ってみたいなあ。
そんな夢の一片を、いっときだけでも見せてもらえる展覧会だった。
最後の最後に、カッシーナ製のLC2(コルビュジエのデザインした椅子)が販売されていたのもおもしろかった。
一脚数十万円もする椅子を、ここで買っていく人もあまりいないと思うが……夢の彩りとしてひととき座ってみた。

*会期終了間近!急げ六本木へ!

by apakaba | 2007-09-21 18:13 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(8)
Commented by ぴよ at 2007-09-21 19:03 x
名古屋の美術館じゃー絶対にありえない企画だなぁ。
・・・文化過疎地ですから(薄涙)
ル・コルビュジエって、名前は何度も聞いた事あるけど、どういう人なんだかさーっぱり知りません。はい。
建築家って顔知ってても意味ないわね。建築物知らなきゃね。
でもこういう風変わり?な感覚の建築家の生涯って気になる。
どんな子供時代で、どういうエピソードがあって、どういう生き方をした人だったのか?調べてみたくなりますね。

それにしてもカッシーナの椅子ねぇ。いや、欲しいですけど(苦笑)
Commented by ogawa at 2007-09-21 21:07 x
ル・コルビュジエはそれほど知っているわけではないけど、
ロンシャンの礼拝堂はいいなぁ。
とてもフォトジェニックな形だもの。

絵画のほうはパスしたい。
キュビズムの絵は苦手じゃ。

24日までか・・・無理です。
明日から24日まで京都で写真展しますので・・・ハハ
Commented by apakaba at 2007-09-21 22:29
コルビュジエレス。
ぴよさん、名古屋では徳川美術館しか行ったことない(あそこはよい)。
建築家の展覧会というもの自体、催すのがとっても難しいですよね。
絵や写真を展示しておけばいいというものでもないし。
これは本当によくやった森美術館という感じ。
ふつうの絵の美術展みたいに、全国を巡回するということもできないし、こういうときだけ「東京はいいぞ」って思うわ。
カッシーナの椅子なんて誰だってイイに決まってる!
でもおうちとまったくそぐわなくなってしまうのはどうしましょう。

ogawaさん、ロンシャンの礼拝堂はスゴそうです。
光の教会でもかなりインスピレーションを受けたけど、ロンシャンはフランスの地方というロケーションも手伝いそう。
角度を変えてみるとがらっと雰囲気が変わって見えるのも、写欲を鼓舞しそうです。

写真展がんばってください。
息子もはりきっています(ていうか張り切ってもう寝た)。
Commented by ぴよ at 2007-09-22 00:52 x
一応うちはね、カッシーナではないけどリビングのカウチは
イタ物のアルフレックスなんですよ。多少は金掛けてますよ。
何しろ子供いませんから、汚す人がいませんし(笑)
だからきっと同じイタブランドなんだしカッシーナもきっと似合う!
似合って欲しい!似合う家に住みたい!←何だよ(薄涙)
Commented by K国 at 2007-09-22 07:30 x
ル、コルビュジエの名前は、建築士の試験には必ず出てきたので
2,3の代表的建物と関連して覚えていたくらいで今は昔。
そういう文化には恵まれていない田舎にいると、羨ましい限り。
文化って時代的に余裕があるときに生まれてる気がする、別府は
大正から昭和にかけて良い建物が多い、しかしそれを残す器量がない、歯抜け状態に残ってますが今考えても惜しい建物が消えた。
絵でも建物でもその頃の時代は良い物が多い、恵まれた今のほうが世界的に見ても不作と思えるのですが。
Commented by apakaba at 2007-09-22 07:47
ぴよさん、アルフレックスいいな〜〜〜。
待てよ、うちのダイニングセットもなんとかいう名前のイタものだった。
すっっっっっっごい汚さ!!
子供が毎日いっぱい上がってくると、家ってたちまち汚くなるのよー。
しかも椅子の脚は犬の噛みあとで折れそう……

K国さん、ガラスやコンクリートのモダニズム建築は、三大巨匠にやりつくされてしまったという感じがするので、同じ手法で考えている限り巨匠を超えることはできないように思えます。
やっぱり勢いのある時代だったんだな。
日本のすてきな建築は滅びの一途なのでしょう。
今からつくれる人もいなくなるだろうし。
建築の文化を継承するのがいかに難しいか、は素人目から見ても感じますね。
Commented by のこのこ at 2007-09-23 13:01 x
遅ればせ拝読しました。

ん〜いわゆる建築家の建築物というものには興味ないのでさっぱり。
若い頃ガウディは見に行きましたけど今となっては街に調和しないものにさほどの価値を感じず。(だからまるごとガウディのグエル公園は好き)
イスラム建築とか、何々族の家並等、世界各地の伝統家屋には興味シンシンですが。

それにしても「見せる」展示にこだわるのはいい傾向ですね。
世界中いろんなミュージアムに行ってても見せ方に感心する所ってホント少ない。もっとアタマ使えよ、と思ってしまう。

メキシコの国立博物館は良かったなあ。言葉分からなくても予備知識ゼロでも興味わかせてしっかり理解させてしまうすばらしい博物館でした。
Commented by apakaba at 2007-09-25 15:56
のこのこさん、本当は国とか地方自治体とかがもっとがんばって公営の美術館をうまく運営するべきだと思うけど、森美術館は圧倒的財力を見せつけられました。
芸術の秋なので、いろんな展覧会もいっぱい始まります。
楽しみ。


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