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あぱかば・ブログ篇

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2008年 01月 12日

2007年に読んだ本、Best10!(その1)

恒例のベスト本。順位はなし。
おととし、まったく本を読まなかったので、1年前にはベストをそろえるのも一苦労だったが、昨年は反省して読書量を増やした。
なので10点に絞るのがかえって大変だった。


1...
連戦連敗(安藤忠雄 著)


読むことと彼の作品である建築を訪ね歩くことが同義となる、熱気に満ちた名著。
敬愛する建築家・安藤忠雄さんの、建築にかけるひたむきさ、誠実さを思い知らされる。
建築美を満足させるためのひとりよがりな建物ではなく、その地に寄り添いたいという強烈な意志からすべてのアイデアが生み出されていく。
コンペに負けても負けても挑戦しつづける。
サステイナビリティを志向し、風や日光に敬意を払うことで風土をないがしろにせず、コンクリートとガラスという“食えない”素材でいくらでも可能性を提案する。

この本を読んでから安藤建築を訪れると、感慨もちがってくる。
6月に、当欄で光の教会——“イメージ”を獲得するための結晶としてという文章を書いた。
言わずとしれた安藤建築の傑作であるこの教会で、私はひどく日本的なインスピレーションを受けた。

「茶の湯や石庭の、極限まで自然を簡素化・抽象化した果てに現出する、“この世の何処にもない、調和に満ちた平安の世界”、実在しないが故に、その場にいる人間だけがくり返しくり返し、心の中に像を結ぶことを逆説的に許された、“イメージ”のたゆたい……」
そこで受けたインスピレーションを、私はこんなふうに表現した。

独学の人・安藤忠雄氏は、語る言葉もすべて率直、直球勝負だ(本書は東京大学大学院での講義を収録したもの)。
言葉を粉飾することはしない。
徹底的に簡素で、だからこそ講義を聴く者は皆、建築の原点のイメージを獲得できるし、建築を学んだことのない者も熱気が伝染して心を奪われる。


2...
土左日記(紀貫之 著)


男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり。
の書き出しは知らない者のいない、日本最古の仮名日記文学。
土佐から京へ、国司の任期を終了して帰っていく55日間の船旅の様子を書いている。

私には完全に“旅行記”としてカテゴライズされた。
古文の旅行記で今までで最高におもしろかったのは芭蕉『おくのほそ道』だったが、土左日記も、旅につきもののトホホなできごとがすべて収録されているといっていい。
長い自由旅行をしたことのある者なら、誰でも共感してしまうエピソードの数々。
明日こそは発とう、と思っているのに、餞別の宴が連日催されてしまって今日も旅立てずに一日が終わってしまった……とか。
みんな船酔いでゲロゲロと船室でくたばっているとか。
ただの田舎者だとばかり思ってきた無口な船頭が、意外と頼りになり、歌の腕前も達者だったりとか。
単調な景色を眺めるばかりの日々に飽き飽きし、焦燥感の中に、いろんな思い出がとめどなく心によぎっていったりとか。
長旅を経て久しぶりに戻ってきた都会の様子が、目にまぶしく映ったりとか。
とくに、旅の最初から中程までの、とにかく飲み倒している宴会続きの毎日の描写には『……キミら、アル中だろう?』とあきれ笑いが出た。
人間のやっていることは、1000年以上昔でも似たようなものだ。

忘れてはならないのが収められている歌のうまさ。
貫之本人になったり、妻になったり、お付きの女房になったり船頭になったり同乗の年端のいかない子供になったり、自由自在に読み手が変わった設定で、57首もの歌を詠んでいる。
実際に複数の人間が詠んだのか、実は貫之がひとりで創作したのかはわかっていない。
どちらにしても、紀貫之は抜群にうまい歌の作り手であり、ユーモアにあふれた書き手であった。


3...
北朝鮮へのエクソダス——「帰国事業」の影をたどる(テッサ・モーリス・スズキ 著)


日本人の歴史研究者には書けなかったタブーを、イギリス人研究者の手でずばりずばりと斬っていく。
1960年前後に、日本国内に住んでいた朝鮮人(と、その家族となっていた日本人も含む)9万人が、北朝鮮へ“帰国”した。
その帰国事業には、実は赤十字社が深く関わっており、日本赤十字社の代表の人間たちも、舞台裏で朝鮮人たちを帰らせることに奔走していた——という事実をジャーナリスティックに追及していく、まるで小説の謎解きのような要素と、各国間の政治の緊張に否応なしにさらされ、運命をもてあそばれることとなった当時の在日朝鮮人への綿密な取材に基づく、映画のワンシーンのような叙情的な要素が交互に表れ、全ページを疾走していく。
朝鮮人の苦悶が乗り移ってしまったかのように筆者も苦しみを引き受け、時に自分の取材に落ち込んでいる様子もまた細やかに記され、多くの日本人にとって目から鱗が落ちるような大きく重い内容でありながら、重層的に進んでいく場面の仕込みのうまさのおかげで意外にもすらすらと進める。



だめだ、疲れた。たった3点かー。
今日はここまで。
またつづきを書きます。

by apakaba | 2008-01-12 23:35 | 文芸・文学・言語 | Comments(4)
Commented at 2008-01-13 00:33 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by k国 at 2008-01-13 08:55 x
安藤忠雄は人間が好きですね、建物は独特ですが奇をてらってない本当に直球勝負的な建物が多い。
威張ってない所も、職人を尊敬してるけど妥協はしないのもイイ。
建築家になる為に世界放浪の旅から入ってるのが彼らしい。
Commented by ミケ at 2008-01-13 17:26 x
学生時代から古文が苦手で苦手でしかたなかった私には、
古文を読み物として楽しむ域に達していません。
でも土佐日記、すらすら読めたら面白そうな内容でいいですね。
図書館で探してみます♪
Commented by apakaba at 2008-01-14 11:57
本レス。

ええと、土佐の表記は平安までは土左とも書かれていて、題名は土左日記で表記されていたっぽいです。
本文に註を入れた方がよかったですね。
どうもありがとうございました!

K国さん、東京ではあんまり安藤作品が多くないので、関西へ行くたびに観光する代わりにちょこちょこと訪れるようにしています。
地道に建築行脚ですわ。
「連戦連敗」は、本当に文体が(講義録ですが)K国さんの書く文とそっくりで、「K国さんはもしかして、安藤さんの文を真似して書いているのかな?」とまで思ったほどですよ!

本の中に、世界を放浪してさまざまな建築を見たときの感動を率直に語っていて、それもとても心動かされました。
「行く」ことの重要さを感じましたね。

ミケさん、古文は原文だけで読むのは難しいですよね。
それで苦痛になってもつまらないので、脚注つきとか、訳文が全部載っているものとかあるので好みに合うものを探したらいいと思います。
土左日記はホントに本文が短いのでさっさと進みます。
私も古文は年間に一つか二つしか読まないですよ。
やっぱりすらすらとはいきませんもの。


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