2008年 02月 15日
<初めて読まれる方へ> この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。 前回までのあらすじ ポカラに到着し、ペワ湖畔のレストランで一息ついた私たち。 ↑ ポカラの観光地、デビッドフォール。 3月5日(つづき) このあとは、日が沈むまで貸し自転車で散策だぁー、ということにして、サイトーくんと3人でくり出した。道ばたに水牛が寝そべる田舎道を、自転車自転車ランラランと幸せな気持ちで漕いでいく。最初は慣れなくて、かなりあぶなっかしくヨロヨロしてしまった。 乗って初めてわかったけど、自転車って音がぜんぜんしない。音がしないってやはり乗り物としてのポイントが高い!カヌーもそうでしょう。スキーもそうといえる?あと高い車ね。 ポカラは田舎だ。それが本当によおくわかりましたよ。アタシ。 牛は水牛ばかりで、しかも大量。 まずDavid's Fall(デビッドフォール)に行った。 ガイドブックによれば、この滝は、滝壺に落ちた水が、川となって流れずに、そのまま地中に吸い込まれてしまう不思議な滝!とのことで、その文句につられてやって来てみれば、今は渇水期で、完全に干上がっていた。落差のある白茶けた岩場としか表現しようのないところで、我々3人以外に人影もなく、ひたすら静かでのどかだった。 なによここ、あーあがっかり、と一度は落胆したが、気を取り直してよく見ると、こういう時期もそれはそれでなかなかにスゴイと感じられるのである。 私ひとり、岩から岩へと跳びながら、水底であるはずの最下部まで降りてみた。降りてみると、上から見ていたときとはまた感じが変わっておもしろいのだ。 奥へ奥へと進んでみた。するとそれはどんどんスゴイぞ、スゴイぞ、という感じを増していく。 雨期に入ったあとのこの場所を想像してみる。 今にもドドドドーッと、激流がやってくる……と、底に立って考えると楽しいことだよ。まず轟音。激流。飛沫。うーむスゴイ。それがこの静かさだもんねえ。 ヒロとサイトーくんは、はじめはいいと言って降りてこなかったのだが、強く誘って降りてこさせたら、けっこう感動していた。さもあろう(*1)。 *1・・・5年後は雨期の最中で、このときの空想をはるかに超える水量の滝を見て、感動を新たにした。“デビッドフォール”の名の由来は、昔デビッドというアメリカ人が落ちたから、ということで、現在はネパール名“パタレ・チャンゴ”と呼ばれている。 ↑ デビッドフォールの干上がった川底から見ると、こんな感じ。 のどがカラカラだったので、すぐ近くにあるチベット難民部落の売店で、ジュースを飲んだ。15,6歳くらいの、目の大きな少女が、親しげにきぱきぱと話しかけてきた。手作りのイヤリングなどを売るつもりらしいが別にいらない。彼女は実に快活で、関西弁をいくつか話し、イヤリングを耳に当て日本語で「ミミカザリー」、鼻にも当てて「ハナカザリー」、そして胸に持ってきて「チチカザリー」とはしゃぐ。よしなさいよ日本人とくに関西方面!こういう変な言葉を教えるのは決まって関西の奴らなんだ。カタコトの関西弁ほど救えないものはない。 彼女も、物見高く集まってきた子供たちも、みんなチベタンだった。チベタンは何年か前から難民としてネパールに入ってきたらしいが、その辺の事情は知識がなくてよくわからない。ただ、ほんの短時間座っていた限りの印象では、難民という言葉から連想される悲愴さはまるで感じられず、くつろげる場所であった(*2)。 *2・・・またも5年後の話になるが、デビッドフォールを再訪したときに、あの目の大きな少女が、同じように土産物を並べて観光客に声をかけているのを見てしまった。 当時は学生、今は赤ん坊連れで旅行しているこちらの境遇の変化に較べ、彼女のたたずまいのあまりのかわらなさに、言いしれぬ後ろめたさのような気持ちが湧いてきて、そそくさと露店の前を通りすぎてきたのだった。 「さてこれからどーする?まだ日暮れにもならないし。」 「レイクサイド(ペワ湖岸の地域の呼称)を、行けるとこまで、どこまでも漕いでいっちゃエいっちゃエー!ってのはどう?」 「あーそれおもしろい!」 若さ故の無謀さで、私たちはもうガイドブックの地図からはみ出している山道を、馬鹿みたいにがむしゃらに漕ぎ進めていった。無目的なアホらしさで3人ともわくわくしている。とくにサイトーくんがはりきっていた。 我々の宿ホテルパゴダは、ダムサイドと呼ばれる地域にある。風光明媚さには欠けるぶん、レイクサイドよりこちらのほうが、食事やホテルの料金が安い。欧米人に人気でにぎやかなのはレイクサイドだ。初めて見るレイクサイドは、いかにもガイジンが喜びそうな、気の利いた造りのレストランがずらずらと建ち並び、私はその景観にひどく驚いた。ダムサイドは比べものにならない。 それなのに、ひとたび湖畔を行きすぎてしまうと、手のひらを返したようにきっぱりと田舎に戻ってしまう。ここは本当に観光で成り立っている国なのだね、と、カトマンズでも思ったことをまた激しく深く思い知らされた。
by apakaba
| 2008-02-15 23:31
| 1990年の春休み
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Comments(13)
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ogawa
at 2008-02-16 23:23
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ネパールって、目立った産業がないから、チョモランマを中心とした登山、そしてヒッピーなどを受け入れた経緯から観光立国なんですよね。
関西人が地元民に関西弁の言い回しを教える。 不思議なんですけどね、関西人だけがそんなに熱心に教えているわけではないのだけど、なぜかその手の話になると関西弁なんですよね。 ダムサイド、レイクサイドどちらも懐かしいですよね。 今も安宿街は存在しているのでしょうか?
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わたしがポカラに滞在していたのは雨季の最中だったので、デビフォルはたぶんすごい水量だったと思います。ただ、ちょうどわたしがデビフォルを訪れたその日、近くの山村の男女の心中事件があって、滝の周辺は警察関係者と野次馬でごったがえして近寄ることができませんでした。
おまけに翌日から体調をくずして寝込んでしまい、結局、デビフォルは見ずじまいです。 ところで、デビ(デビッド?)という名前のアメリカ人が落ちたから、デビフォルという名前がついたという話はわたしも聞きましたが、これホントなんでしょうか?
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ぴよ
at 2008-02-17 22:24
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雨期と乾期で全く違う様子を見せる場所って、何だか神秘的よね。
その両方を(しかも日本から遥か離れた場所なのに)見れたなんて すごくラッキーな体験だと思いますわ。 貧しく資源の乏しい国や街は、わずかな観光にすがって生きて行く しか方法がないんだろうなぁ。 でも日本だって田舎に行けば駅前だけ多少整っているけど少し離れるとあっと言う間に鄙びた農村風景・・・なんてトコロが今でも大半だと思いますよー(苦笑)
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apakaba at 2008-02-18 08:11
ネパールレス。
皆様見捨てないでくれてありがとうございます。 ogawaさん、すみません関西人代表になってしまったようで。 このころは、まだ関西に友人がひとりもいないような状態なので、私もけっこう辛辣ですね。今ならこんな書き方はしないはずだけど。 ダムサイドは静かで落ち着いていて、レイクサイドはいかにも華やかでガイジン好み、学生のころはダムサイドのほうが好きだったけど5年後に行ったときはいかにも観光地っぽいところも好きになっていました。 好みも変わるものです。 午後の幽霊さん、こちらにもありがとうございます。 このあともしばらくポカラの話が続きます。 私は二度目はゼロ歳児を連れてひとりで行ったんですよ。 おもしろいところでした。また行ってください。 David's Fallという名前の真偽はよくわかりませんが、あのあたりも現地名に戻すのが盛んなので、パタレ・チャンゴの呼称に戻りつつあるのかも。 ぴよさん、ゼロ歳児連れても再訪したいほど、ネパールはヨカッタですわ。 それだけにマオイストには本当に嫌になるわ。 日本はすごい都会かすごい田舎のどちらかには魅力があるけど、中途半端な都会・中途半端な田舎は魅力ないですねえ。
なるほど。高度な経済活動はよほど洗練された国でないと無理なんですね。そうなると観光は飛びつきやすい経済活動なんですねぇ。節操が無いカンジになるとがっかり・・ですけどね。
日本はどー見られているのでしょう・・。 変な日本語を教えるシーンっていろんな紀行文で出てきます。 ストレートに笑ってしまいますが、大体関西人やね。教えるの。
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apakaba at 2008-02-19 08:03
GDPゲキ低、のみならず識字率ゲキ低な国だと高度な教育を受けた人間が育たないので、手っ取り早くタクシー運転手や土産物売りや、観光ガイド(ネパールなら山岳ガイドや荷物持ち)で働いてしまうということになるのでしょう。
識字率アップも大事ですが国を牽引する高学歴の人間がいっぱい出てこないと、少数の上部の人間に簡単に左右される国家ということになってしまうし。 日本の悩みとは全く別次元で悩んでいる国ですね。 関西人ばかりが言葉を教え込んでいるわけでもないのでしょうが、あいつら目立つからなあ。言葉が。 決して方言を隠そうとしないし。
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はなまち
at 2008-02-19 12:48
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そもそも方言という認識ないし。
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apakaba at 2008-02-19 14:02
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のこのこ
at 2008-02-19 14:11
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友達がこの前ネパールに行ってきて写真をみせてもらったけど、
なかなかいいですねぇ、ネパール。 このところ毛軍でカトマンズ荒れまくりとか空気が汚すぎとか、あんまりいい話を聞いてなかったので興味すら薄れていました。 なんだか圧倒的にぽけ~っとリラックスできそうな雰囲気と風光明媚な感じで。 若い頃は電気も水道もいらない・・・とにかく何もないところがイイ!と思ってしまいますが、大人になってくるとちょっと一息つける優雅なひとときが楽しめる場所も良くなりますね。 子連れならなおさら。 とはいえ・・・私、一人ならまだ何にもないところが好きです。冒険心!
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たびちゃん
at 2008-02-20 01:32
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う~~ん、少し違和感が
識字率は、実感としては中国よりは、あるような気がします。統計では中国は70%になっていますが私の工場従業員で名前以外の字を理解するのは10%もいませんでした。おまけに、お嫌いな<方言>がある。日本と違って、マンダリンと広東語などの間に中国間通訳を置いて会議しないと会話にならないレベルです。マンダリン識字となると極端に低くなるでしょう。 ネパールの私の家は日本で言うと長野の山の奥深くという場所ですが、中学生はかなり英語も喋れますから、統計上の50%の識字率というのは若い人を対象にすると違和感があります。英語はかなり喋れますし、私立の学校では中学から英語で授業をしていますから、日本の大学生よりは英語は喋れます。 大学の進学も、そこそこですが、鶏と卵が反対で、出ても働くところが無いだけで、あればいい仕事で働きたいとみんな思っているわけです。 で、海外出稼ぎということになって、海外からの送金が最大の収入源で、フィリピンと同じ構造です。 東大の医学部の大学院にいたのも、結局は働く場所がないからアメリカで医者になっています。 次は寄付、援助。その次に観光です。
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たびちゃん
at 2008-02-20 01:32
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日本も明治維新が終わって新政府になった頃は余り変わらないわけで、蟹の缶詰、が最大の輸出品目でしたが、別に何かにすがって生きているとは誰も思っては居なかったはずで、ネパール人も同じで、プライドを持って生きています。
観光的には、ポカラにもヘリコプターでチェックインできるファイブスターのホテルもありますし、カトマンズにはハイアットとか日本のハイアットより立派なホテルも数多くあります。おまけに日本のビジネスホテル程度の価格で泊まれますから、バックパッカー的にでも、一般的にでも旅は、快適に出来る環境はあります。あまりに安いほうが強調されすぎている嫌いはあります。 実感として、貧しい国という感じは余りしません。田舎でも一応は一戸建ての家があるし、食料はそこそこ自給できるし、見た目ではなく、実感としてですが。
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たびちゃん
at 2008-02-20 02:31
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政治の問題が問題だ、という事はそうですが、観光客である限りは問題が無いとも言えます。今までで観光客が誤って毛派につかまったのは一回ですが、すぐに釈放されています。政府がらみだと念に3000人程度は過去に殺されていますが、観光客が殺されたのは一度も聞いていません。もっとも、一般犯罪としてなら別でしょうが。しかし、これは、世界中何処の国にでもあることです。
ちょいと、全体に違和感があったので、いらぬコメント書いてしまいました。 ネパールは遠い国ではなく、北海道観光旅行に行く感覚で、誰でもが行ける国だという事で、快適なホテルは、ほぼそろっているし(ポカラ、チトワン、ダージリン、カトマンズ、などなど)今後は観光客の単価を如何に上げるか、がこの国の将来には大事なので、余りガイドブックに惑わされず、バックパッカーのみならず、<普通の人>がどんどん押しかけて行くことが、この国のためになる、という事だと、よく、現地の人間とは話しています。 JTBあたりで、カトマンズ、チトワン、ポカラ、ヘリの旅、現地オプションツアー14万円、などを組んで貰えれば有難いし、もう、充分設備は整っているということです。
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apakaba at 2008-02-20 08:10
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アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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