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あぱかば・ブログ篇

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2008年 04月 14日

1990年の春休み.82 ネパール篇

<初めて読まれる方へ>
この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。
前回までのあらすじ
ホテルパゴダの息子ダンラジの案内で、サランコットの丘へ登山しようとはりきる私たち。

3月6日(つづき)
 朝食後、ダンラジとともに登山口までバスに乗る。
 ところで私たちはいつもの癖で、ダンラジにニックネームをつけようとしたのだが、うまいアイデアがなかった。そこで、ふたりで適当に漢字を当てて「団羅辞」と表記することに決定した。口に出すと同じことなのだが、一応その瞬間にはこの字が頭に浮かんでいるというわけである。突然ではあるが、この場でも今からはカタカナをやめて「団羅辞」もしくは短く「団」と記すことに決めたのでよろしく。早く慣れてください。
 ちなみに、なぜこんなことを考えついたかというと、ネパールのことを漢字では「尼泊爾」と表記すると知ったのがきっかけであった。まーどうだっていいことだけど。

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登山中の二人を、先に登って待ちかまえて撮る。

 団羅辞とおしゃべりしながら、なんとなく山登りは始まった。
 彼は予想に反して、英語がずいぶん上手だった。飲み込みがとても早い。こちらがなにか言うと、すぐその言葉を覚えてしまう。さすがホテルの子である。
 彼はいつでもニコニコしていて、こちらが声をかけるとふりむく瞬間からもうすでにとびっきりの笑顔になっているのだ。笑顔は嬉しいけど、ひねくれ者の私から見るとどうも営業スマイルのような気もしてならない。なにしろ365日、ガイジン客にまみれて生活しているのだからね。プライバシーもなさそうなうちだし。あんな笑顔が培われても無理はない。とはいえ、そういう憶測を忘れさせるほど、魅力的で素朴な笑顔なのである。

 彼も、お兄ちゃん同様、ブリティッシュアーミーになるのが夢だという。
 今月の25日に、その試験を受けるのだそうだ。3月25日といえばもうあとちょっとだ、あれれ我々の卒業式と同じ日ではないか。かたや入試、かたや卒業かー。
 毎日、朝夕に、試験に備えてトレーニングを欠かさないという。それも、40キロの荷物を額に掛けて、急坂を全速力で駆け上がったり降りたりするというすごい内容であった。軍隊はちがうのう。
 とかなんとかしゃべっているうちに、山道から大学の校舎が見下ろせた。
 あれはエンジニアになるための大学だということだった。団は、アーミーの試験に落ちたら、大学に行くというのだが、毎日斜面を上がったり降りたりしているのに、あんな立派そうな大学に入れるのだろうか?というか、大学生になって幸せだろうか。
 でも、こんなに小さい子みたいにニコニコしている団が、合格して傭兵となって生きるのも、幸せといえるのかなあ。人の夢にガイジンの私が首を突っ込むのもはばかられるので、それ以上は尋ねなかった。

 映画の話もして、アーミーになりたいくらいなら、ラブストーリーよりアクション物の方が好きかな?と私が聞くと、即
 「ラブストーリー!」
 と言い切った。その表情は、男というより中学生くらいの女の子みたいだ。ただレンアイというものに憧れを持っている、なんの経験もないけど、という顔だ。
 私が、この旅行中どこにいても流れていたヒット映画の歌を唄ったら、ものすごくウケていた。
 いっしょに大声でハミングしながら、頂上をめざす。

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これが「ニンジャ」姿。ニンジャとくのいち。

 彼は笑顔ばかりかギャグもまったく子供くさく、タオルを顔にぐるぐる巻き付けて「ニンジャ!」とかヒジョーに素朴にヤッテしまうのですね。まるでチビッコと遠足に来ているようではないか。
 というわけで、私は団に対して、急速に異性としての興味を失ってゆき、カメラマンに徹して、ヒロと団を残して坂を駆け上ってはあとから登ってくる二人を撮る、ということをくり返していた。
 ヒロはとても嬉しそうだった。しかし彼女は、運動神経はいいはずなのに山登りは不得意らしく、完全に息が上がってしまっている。私のことも撮ってほしかったが、残念ながらそんなことは頼めそうな様子ではなかった。

 このようにして登りつめたサランコットの頂上は、簡素な展望台のようなコンクリートの敷地になっていた。そしてそのコンクリートの地面には、びっちりとゲジゲジがいた。
 私は最初、なにかの植物の種子だとばかり思って、触ろうとしたら、団があわてて
 「かゆくなるから、触っちゃダメ!」
 と止めてくれた。あぶなかった。
 あらためて虫だと知ると、なんというおぞましさであろうか。足の踏み場もないから、周囲を展望するためにはぐじゃぐじゃとゲジゲジをつぶしてしまうしかなかった。

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サランコット頂上より、ヒマラヤとポカラのまちなみ(まちなみ?どこに?)。

 そうこうするうちにも、マチャプチャレにはみるみる雲がかかってきてしまった。
 山を仰ぎ見るのはあきらめて、ポカラの町を見下ろしてみると、本当に小さくかわいらしくて、田舎びたところだと思った。山はいいなあ、楽しいなあ、と思う。本当に山は気持ちいいことだよ。

 しかし!私はこの強すぎる陽射しと戦わなければならないのだ。
 いい雰囲気でしゃべっている二人はおいといて、そっと展望台の裏手に回った私は、景色を見ているふりをしながら、持参してきた日焼け止めを塗り直しに取りかかった。
 ところが!汗をかいた上に塗りたくったせいか、日焼け止めを塗れば塗るほど、顔に白いポロポロした垢のような変なものが出てきてしまったではないか。あせって手をうごかすほどに、ポロポロは新たに生まれ出る。コドモとはいえ、団にこの顔を見せるわけにはいかないぞ、と、ウエットティッシュでこすったりして、実に苦労した。その間ずっと山を見ているふりをしているのも大変だった。
 素晴らしい景色に囲まれながら、私の山頂でのひとときは、こうしてアホらしく費やされていったのであった。

 団は、頂上にしゃがんだまま、いつまでもいつまでも、山とポカラを眺めていた。
 そのまなざしは、ふるさとへの愛情にあふれていた。私たちにつきあって留まっているのではなくて、純粋に、ここが好きなんだということが、その姿から伝わってきた。
 私は、「団羅辞!」と呼びかけ、顔をふと上げた瞬間(もちろんすでに目は笑っている)を撮った。とてもいい写真が撮れた。

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噂の団羅辞。ブロマイドのようです。

by apakaba | 2008-04-14 18:06 | 1990年の春休み | Comments(6)
Commented by キョヤジ at 2008-04-14 18:11 x
山の天気っつーのはままならないもので、ワシが登った時もマチャプチャレ&アンナプルナは雲の中だったわい。
晴れたかな?と思って写真を撮ろうとするとすぐに雲が流れてきてなぁ。

それにしても棚田が懐かしいのぅ。
耕して天に至るてな感じで、山頂までびっしり棚田だったよなぁ。
Commented by apakaba at 2008-04-14 18:17
ぎゃああ、早い。アップして5分後かよ!
これでキョヤジさんがどんなにネパ記を待っていてくれたかが身にしみてわかりました。
できるだけどんどん書いていきます。
Commented by ぴよ at 2008-04-14 20:26 x
一番上の棚田の写真、本当にキレイね!
でもやっぱり婦女子としては団羅辞のブロマイドに惚れる♪
営業スマイルじゃないよ。きっとぴよの事が好きなのネ♪←アレ?

日焼け止めを塗るのに、隠れてコソコソするのが乙女よねぇ~
ぴよなんて当たり前に「日焼け止め塗り直すわー」って言って
衆人環視の中で堂々と顔を真っ白にしますけどね。
でも自分も20歳ソコソコの乙女時代だったら必死に隠れてコソコソ
やったのかなぁ・・・うーん。ぴよはきっと当時でも堂々と塗ったな(苦笑)
Commented by apakaba at 2008-04-14 22:53
ぴよさん、さっそくどうも。
棚田はやせて峻険な土地の工夫だねえ。

団羅辞かわいいでしょう。
これは、このポーズでぼーっとポカラを見下ろしていて、ただ顔だけこっちに向けただけなんだけど、完璧にポーズが決まっていて、シャッター切りながら「きゃー」だった。

日焼け止めってスキーのときにも一苦労だったでしょ。
あと、寒くて唇が歯にくっついちゃって、口紅が前歯にひっついてたり。イヤよねー。
あれ、ナゼ化粧の苦労話に盛り上がるのか。
次回は食べ過ぎですっかりデブになった私が出るかもん。
Commented by sora at 2008-04-16 23:06 x
屈託の無い笑顔。カメラ目線。
あづ師匠のポートレートのモデルのような古典的なポージングがたまらないっすね。

よーく写真を見ると、想像を絶する景色だね。

しかし↓の絵、うまいね!すごい才能じゃん!
似顔絵ネタを希望。
Commented by apakaba at 2008-04-17 07:25
soraさん、あづ師匠はご自身のミリョクで笑顔を引き出しているんでしょうが……この少年は自分でこのアイドルブロマイドスタイルをすでにキメていたんです。

棚田が多いというのは、それだけ畑作にとって土地が厳しいということですね。
旅行者として見ている分にはステキですが、この急斜面を仕事場にしているのは、大変でしょうねえ。

あー絵は、絵は私のウイークポイントで。
ほんと、ヘタクソです。これはまぐれなの。


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