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あぱかば・ブログ篇

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2008年 04月 18日

1990年の春休み.83 ネパール篇

<初めて読まれる方へ>
この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。
前回までのあらすじ
団羅辞とともにサランコットの丘へ登山。ポカラは田舎だ、そして団羅辞はコドモだとしみじみ感じる。

3月6日(つづき)
 ホテルパゴダに戻ると、あっさりと団は去っていった。
 実は、これほど朝からベタベタと仲よくしていたので、おヒルを共にせねばまずいのでは……という懸念があったのだ。このホテルの食事はおいしくないらしいし……せっかくのおいしいネパールなんだから、おいしくない食事は一回もしたくない。
 団のかわりというわけでもないが、サイトーくんが部屋にいたので、彼を誘って、きのうと同じ店へ食事に行った。

 期待に反して、私の頼んだサンドイッチはかなりヒサンなおいしくなさだった。パンが、持つそばからポロポロと崩れていってしまうのである。考古学じゃないんだから。パンとして形を保っていようという意志がまるでないのであった。
 そしてなんだかしらないけどこっちの人は、玉ネギをちょうどレタスのように考えているらしく、涙が出るような生玉ネギがどっさりとはさまっていた。
 一方、サイトーくんの“チャイニーズカレー”は、味見させてもらったら久々にインドの苦しさを再現させるような、自信に満ちた辛さであった。
 彼はまともなものを頼めばいいのに、いつもああしてワカラナイ線を狙って失敗してしまうのだった(ちなみにゆうべは“インドネシアナントカ”というまずい串焼き)。
 それにしてもどこがチャイニーズだったというのだろう。器は中国柄だったけど。

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午前中、サランコットへ向かう途中の村落にて。

 サイトーくんと別れて、部屋に戻ると、ヒロはまた団に会いたいらしく、そわそわと落ち着きない。ゲームをやろうとしきりに言う(木の盤の上に置いたオセロみたいな駒を指ではじく遊び)。そんなかったりーことやってらんねー。
 私は連日の寝不足プラス早朝登山ですっかりくたびれ、眠かったので動かなかった。ヒロはそんな友だち不孝な私を見限って、隣室のサイトーくんの部屋に遊びに行ってしまった。

 私は、半ば意地で一人ベッドに寝っころがっていた。
 私自身は団に執着する気持ちはないが、ヒロが団に執着するのはなんとなく面白くない。今まで仲良く(ばかりでもないけど)やってきたじゃんよー、置いてかないでよー、という気分である。隣の部屋からはサイトーくんと、遊びに来ていた彼の後輩とヒロの楽しげな声が聞こえてくる。その声を聞きながらしばしウダウダしていたが、やっぱりおもしろくないので、結局私も仲間に加わった。

 サイトーくんの後輩は、平手という名前のおしゃべり好きな男で、平手(後輩なので呼び捨てに決定)の住んでいる学生寮での話や、アメリカを旅行した話などを聞いていた。
 和敬塾(という学生寮)バナシを長々と聞いた。村上春樹がいたのだそうで、ワタナベトオル(『ノルウェイの森』の主人公)もいたという設定なのね。それにしても、話を聞いたら並みの体育会よりずっとスゴイ。
 もういきなり大学の俗ネタにまみれてしまった。
 アメリカ話がコワかった。
 やはりアメリカは行けないこわすぎる。と思っちゃった。緑のヨダレ男や歯のないマリファナ男やretiring roomの前の黒人の群れや、逆境が多すぎるでしょう。

 私は、もっと外へ出てポカラを見たり寝ころんだりしたかったのに、いたずらに時間が過ぎてしまった。平手の話はそれなりに笑えたが、なんだか学食の隅でセルフサービスの薄いお茶を何杯も飲みながらくっちゃべっているような感じがして、懐かしくもアホらしいひとときであった。あとの3人もおそらく同じように感じていたはずだが、立ち上がってその場を切り上げることができない状況って、あるのよね。

 結局外出もせずに午後をおしゃべりに費やした。
 みんなで屋上に上がって山の写真を撮っていると、平手の友人の市之瀬くんが遊びに来た。平手と同じく、日本人宿スルジェハウスに泊まっており、イッチという小学生じみたニックネームだが、さめた態度でジョークも冴えていて、なによりなんにでも感動してしまう騒がしい平手をきっちりと水を差して抑え込んでくれるところが気に入った。
 まったく、平手のカンドーぶりには疲れる。本当になににでもカンドーしちゃうので、かなり幸せな人生なんだろうと思う。そしてそういう人の例外に漏れず、やっぱり長渕が好き(トーゼン「つよし」と呼ぶ)。ああいう人は、旅行をしたら楽しいだろうな。「ネパールほんといいっスよねえ!ねえセンパイ!」ばっかりじゃ、普通は旅行し続けられないけどね。

 そのままこの面子で夕食を食べに、宿から2.5キロほど離れた“ハングリーアイ”というガイジン向けレストランへ行った。男女5人が自転車でランララン(美空ひばり。古すぎ)と田舎道を漕いでいくのはうれしハズカシである。
 しかし、一本道のはずなのにいつの間にかみんなばらばらになってしまい、心細くなった私は恐ろしいほどの真っ暗な夜道を無我夢中で疾走し、ハングリーアイに息せき切って一番に到着してしまった。
 あれ?みんなはどこなの?とまたも不安になっていると、あとの4人が相変わらず和やかに追いついてきた。なんのことはない、私がはじめから速く漕ぎすぎていただけだった。
 あんなに暗い道をひとりぼっちで無灯火で(ボロ貸し自転車だから)走ったのは生まれて初めてだった。あれは本当に心細かった。
 バフ(水牛)ステーキはいつものように石のように硬かったけれど、異常に食いしん坊な私たちは、うまいうまいと食べてしまった。

 その時に知ったのだが、イッチはどこを旅行しても、日本語のみで押し通すのだという。
 注文にしても、「お姉ちゃん、ちょっとちょっと、これ一つね。」とメニューを指さす。「ワン?」と聞かれたとしても、「そ、ひとつ。」と言い返し、決して、絶対に一言も、英語や現地語を口にしない。私たちの手前、英語を使うのが照れくさいのかもしれないが、やっぱりある程度は英語で歩み寄るべきなんじゃないのオ、と思った。

by apakaba | 2008-04-18 18:21 | 1990年の春休み | Comments(6)
Commented by ぴよ at 2008-04-19 09:47 x
何だかムダに青春を楽しんでいるなぁ。羨ましい・・・
イッチのキャラには笑った。お前はうちのママかと!
もっともうちのママは本当に日本語しか喋れないからだけどさ。
せめて「THANK YOU」くらいは英語で言えるだろ、といつも思う。

写真の顔、ほっぺがツヤツヤしてる・・・コレが若さだ。くそぉ。
Commented by あづま川 at 2008-04-19 18:17 x
サランコットの丘は、ダンプスで1泊した翌日に訪れました。サランコットまでは尾根づたいの山道でなかなか快適、あとはポカラまでまっしぐらに下るだけだったからけっこう楽だった覚えがあります。

あーそれと「ハングリーアイ」も記憶にあるよ。ぼくもそこで一度食べた気がする。水牛ステーキじゃなかったけど。
Commented by apakaba at 2008-04-21 16:32
ポカラレス。
ぴよさん、青春旅行記だからねえ。
内容も文章も写真も、若くそして馬鹿馬鹿しいのだ。
イッチみたいな旅行者って、私などは理解できないというか正反対ですわ。
私はとにかく英語あるいは現地語を、しゃべりたくてしゃべりたくてしょうがない性格なのです。
私の母も、日本語一辺倒で押し切ってしまう。
「それで通じる。がはは」と得意がるが……

あづま川さん、ダンプスに行かれたら、もっとのんびりできたんだけど。
山って、少しでも奥に入るとがらっと風景が変わったりするでしょ。
それを知っているだけに、惜しかった。
ハングリーアイはガイジンなら一度は行くってとこでしたねえ。
Commented by sora at 2008-04-21 21:47 x
赤裸々な人間模様というか、びみょーな位置関係がおもろいねぇ。今だから、客観的に見たり、書けたりするのかしら?
それにしても、ジモティ化してますね(失礼)。

そういえば、全然関係ないけど、数年ぶりに「小説」を買いました。オースターにしました。何にしようか相談しようかと思ったけど。
とりあえず、一番ページが少ないのを選びました。
「幽霊たち」。
Commented by apakaba at 2008-04-22 07:37
このあとまだ赤裸々です。まー20年近く前だから時効だし。
こんな、若い女の子がぐちぐちつぶやいている旅行記なんて、つまらないだろうとは思うんだけど。でもつきあって読んでくれる人がいるのはありがたいですね。

このバカみたいな服装はね。
わざと女を捨てたような恰好にしているだけなんだよ!!!と、一応言い訳してみる……ボディラインの出る服や、おしゃれな服装はしないように心がけました。現地男性とのトラブルを避けるため、当時の若い子はみんなこういう恰好でしたね。
まあ、服装よりなにより、一番のトラブル回避術は美人と二人連れで旅することですな(ほっといてくれ。)

おお、オースターいきましたか。
では項を改めて!
Commented by apakaba at 2008-04-22 07:59
オースターつづき。
「幽霊たち」いいですね。とても好きです。
ストーリーを追うばかりが小説じゃないんだ、というか。
なにか起こりそうでなにも起きてこないというか。
主人公の“ブルー”が、眠れぬままに、羊を数えるように、身の周りの「黒いもの」や「青いもの」を次々連想していくシーンがとくに好き。

この「一人連想ゲーム」シーンを、どうしても原文で読んでみたくて、ペーパーバックを読みました。
英語はニガテなので、「Ghosts」だけで断念したわ。
あと、オースターで好きなのは「ムーン・パレス」だなあ。
私は、今ごろになってやっと!Coyoteの柴田元幸特集号を読み始めましたよ!おせーよ!
巻頭の、旅する柴田先生のカットはいいですね。
モデルとして絵にならないおじさんが、風景にはまっていく……目からウロコでした。


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