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あぱかば・ブログ篇

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2008年 04月 23日

1990年の春休み.84 ネパール篇

<初めて読まれる方へ>
この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。
前回までのあらすじ
ホテルの息子団羅辞とサランコットの丘へ登山し、午後は日本人旅行者とだ〜らだ〜ら。夜はガイジン向けレストランで。観光客の王道まっしぐら。

3月6日(つづき)
 平手とイッチはスルジェハウスに戻り、私たちもホテルパゴダに戻った。
 すると偶然なのかなんなのか、我々の部屋の前に団羅辞がいた。私は気を利かせてさっさと部屋に引き上げ、ヒロはそのまま廊下に残って団とおしゃべりをしていた。
 どうもヒロは団のことをかなり本気で好きみたいなのだ。すごいことだ。
 私も、ヒロがあまりに彼を「いい」と言うものだから、ついつられて結構いいかも、と思っていたが、なにしろネパール人で、年下で、もう会えない確率が高くて、今後どう変わっていくか予想もつかない団である。とてものめり込む気にはなれないでしょー。帰ってしまえば、気持ちも冷めるに決まってる。

 でも、この、絵に描いたような逆境をものともせず、ヒロがあそこまで夢中になるのはめったにないことだし、よかったと言ってもいいのかな?まあそういうときほど燃え上がるものだけどさ。
 団の前では、笑い方もしゃべり方も、ふだんとぜんぜんちがっちゃってる。実にカワイクなっちまってる!これじゃー言葉にしなくても、いっしょにいる間中「アナタが好き」と言っているのと同じではないか。私も好きな男の前では、知らずにそうなっているのだろうか……(はたと振り返る)。

 しかし、一人で部屋の中でじっと待っているのは、つまらないことだよ。さっきから、1,2,3……と数を数えている声がしているが、あれはなんだろう?エクササイズの成果を、団が披露してるのか……腕立てかなあ?などと勘ぐり、ついドア越しに耳をそばだてていると、全く間隔が乱れず、79,80……などと言っている。しかもウフフなどと笑い声まで聞こえる。おいおいウソだろう。と、もう少しでドアをぶっとばして出て行きそうになった。
 あとで聞いたら、脈を測っていたというのですね。紛らわしいじゃないの。立ち聞きして一人であせって、馬鹿だった。

 いつの間にか、声が増えている。アレ、団のお姉さんふたりも加わっている。しかもサイトーくんの声までする。ふたりきりにしてあげた意味がもはやまるでなくなってしまったよ。そして果てしなくしゃべっている。
 私はしびれを切らして、二度、もう切り上げなさいとヒロに言いに行った。
 これには理由がたくさんあった。
 こんなに夜遅くにワイワイやっていたら、朝早く起きるトレッキング客に迷惑だろうし、団やお姉さんたちも疲れて眠そうだけれど、彼らはあくまでいい人たちだから、自分からは決して寝たいとは言い出せないはずだ。こっちから、もう眠くなっちゃった!とか言って引き上げなければ、いつまでもつきあってくれる人たちなのである。
 それに、少しでも長くいっしょにいたい気持ちはわかるけど、しょせんは別れていく運命である。今後の団にとって、あまりヒロがクローズアップされるのは、苦しいのではないだろうか。

 ……と、そのときは思った。
 でもよく考えてみれば、そんなの大きなお世話だな。ただひがんでるだけだ。
 したり顔のおせっかいとヒロに思われても、しかたがない。私が面白くないから、と受け取られるのはいやだったけど、たしかにその通りだったのだ。こんなとこまで来て、自分の醜い心と戦うことになるとは。

 それにしても、ヒロを見ていろいろ考えてしまったよ。
 もし私なら、こんな逆境なら誰にも知られないうちに、その気持ちを握りつぶしていっただろう。ヒロは、去年のことがあるから(*1)、今年はもう後悔したくない、と思っているのだ。まあその気持ちもわかる。自分が後悔しない方向へ持っていくのが、なんにせよ一番いいんだろう。

*1・・・彼女は1年前にもこの宿に泊まり、そのときから団のことをいいなと思っていたが、親しくなるチャンスを持てずに終わってしまっていた。

 私も、もし、コントロールの限界を超えるほど相手を好きになったら、そのときは逆境なんておかまいなしに、感情のままに動くだろう、と思ってきた。
 今までは、もう自分の意志では抵抗しきれなくなったところにおいて、初めて恋愛は動く、と信じてきた。動かざるをえないほどの激情とか、そういう力を信じてきた。でも、なんか突然、そういう状態にまで気持ちを高めていく、持っていくのも、自分しだい、自分の感情のコントロールしだいだ、というふうに感じた。
 久しぶりに愛について考えちゃった。
 愛についての考察は、いつでも出口がなくそしてアホらしい……。

by apakaba | 2008-04-23 17:00 | 1990年の春休み | Comments(4)
Commented by ぴよ at 2008-04-23 22:59 x
そもそも旅先でどんなイケメン+超性格いいヤツと出会っても
「所詮旅の出会い。先のない恋愛なんて時間のムダ」という考えで生きてきたので、ヒロ嬢の気持ちに同調は出来ないぴよです。
本気?になれるそのパワーが羨ましい。
それは単なる若さのせいだけでなく、気質の問題でもあると思う。

眞紀さんの行動は、正論に裏付けされた多少の羨望と嫉妬か?
あれこれ逡巡するのもまた若さの成せる業。
青臭い感情の惑いが、今のぴよにはむしろ羨ましく見えるワ・・・
Commented by apakaba at 2008-04-23 23:27
いやー、でも先のない恋愛ってのめりこむじゃーん?
で、恋の相手が出てきてくれない私は、オモシロクナイパワー全開ってとこなんですねえ。
Commented by 満腹ボクサー at 2008-04-24 16:32 x
高校の国語の教科書で三木清の「人生とは旅のようなものである」(だったかな?)という文を読んだような気がする。
おれなんか、人生そのものが先の見えない
旅みたいなものだから、恋なぞするだけムダなんだが、
それでもしちゃうんだよな、これが。
Commented by apakaba at 2008-04-25 08:38
恋ほど経験値を活かせない所業はないな。
毎回初めてだもんね。
回数は重ねても、相手はちがうわけだし。


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