2008年 10月 03日

フェルメール展——“女”に向けて切るシャッター

フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展から1年が経ち、今度はとうとう、フェルメール作品を7点、一気に鑑賞することができた。

東京都美術館で開催中のフェルメール展に、二度出かけた。
一度目はあまりの大混雑に、鑑賞どころではなく、すっかり気分を害して帰ってきただけだった。
あんな古くてせまくてぼろい美術館がフェルメールを7点展示するなんて無謀もいいところだ。
器と展示作品のランクがちがいすぎるというのは、鑑賞者にとっていい迷惑である。

美術館への不満はさておき、二度目はタイミングがよかったようで、多少はゆっくり見られた。

多くの人間が、「フェルメール」という名を聞くだけで気持ちが高揚するというか、“うわずってしまう”ところがあると思う。
300年以上昔にこれほど傑出した画家がいたということも驚異的だし、生涯に残した作品点数の少なさや、謎に満ちた私生活と人物像も、近現代の作家にはないロマンを感じさせるのだろう。
昨年には、典型的な反応として、すっかり“うわずって”しまった。
「牛乳を注ぐ女」の美しさは、殴られたような衝撃だった。
あれひとつでこれほど衝撃を受けるのだから、7点もつづけて見たら、感激で失神してしまうんじゃないか?とまでは思わないが平常心は保てないだろうと予想していた。
だが、実際はその逆で、たくさんの点数を一気に見たおかげで、かえって冷静になり、客観的にこの作家を鑑賞することができるようになった。

したいことの明確な人……別の言い方をすればパターン(様式)が見える。

女が好きだ。
異様に光に満ちた室内だ。
窓は向かって左にある。
光を、現実にはないレベルにまで強調することで、写実から一歩、女の内面にまで踏み込んでみせる。

解説文に、「同時代のピーテル・デ・ホーホは女性を“母”というモチーフとして取り上げ、母性を礼賛したのに対し、フェルメールは女性を赤ん坊や子供とはいっしょに登場させず、女性単体として題材に取り上げることによって、その女性の内面を切り取った」というようなことが書いてあり(文はこのままではないが文意はこんな感じだった)、フェルメールにほぼ予備知識のなかった私には、この解説が非常に目新しく感じられた。

「リュートを調弦する女」に見られる、窓辺へふと目を上げた女の表情がまさにこれだった。
ポージングはキープできるとしても、このモデルがずうっと同じ表情を浮かべ続けていたとはとうてい考えられないし、見る者には、彼女がなぜこの表情を浮かべているのかとさまざまに想像を働かせるにちがいなく、それ以前にこの顔には誰でも目を惹きつけられる。
写真以外では決して捉えるのことのできなさそうな一瞬の表情を、300年前の絵筆を使って、きっと長い時間をかけて、じっくり描き込んでいったのだろう。
それが不思議でならない。
なぜ彼だけが、これほどまでに突出していたのか、どうしてもわからない。
他のオランダの作家たちも、それぞれに美しいが、フェルメールとは比べものにならない。
少なすぎる生前の情報と、少なすぎる作品を引き比べては、美しさに打たれてただ立ちつくすしかないのだ。

彼のシャッターのような瞳には、ふつうの人間には見えないものまで見えていたし、見えない世界をあたかも現存する世界のもののように見せようとした。
生きている間に、まだ見たい。
「真珠の耳飾りの少女」を、死ぬ前に一度、見てみたい。

by apakaba | 2008-10-03 22:37 | 歌舞伎・音楽・美術など | Comments(9)
Commented by ogawa at 2008-10-03 22:54 x
「リュートを調弦する女」と「手紙を書く女と召使い」「ワイングラスを持つ女」どれも左からの光、それに浮かび上がる女性。
17世紀、写真なんて無い時代に「写真」を見せてくれた光の画家・・・圧巻ですね。

彼そのものが写真機だったのかもしれない。

長年見たいと思っていた「小路」も現物をみれて満足でした。
これは印刷とは違う世界ですね。
ほんと、あとは「真珠の耳飾りの少女」を見たいですね。
Commented by ぴよ at 2008-10-03 23:09 x
ぴよもいよいよ今週日曜に突撃すんぜー☆
フェルメールってきっとすげーストイックそうな顔して、実はむっつりスケベだったに違いない!って高校時代思ってた。
何でそう思ったのかな?絵が余りに美しかったからかな。
Commented by apakaba at 2008-10-04 00:43
フェルメールレス。
ogawaさん&ぴよさん(乱暴な括りだ)、展覧会の衝撃自体は、「牛乳を注ぐ女」ただ一点という昨年に及びませんでした。
あれは、白と黄色と青の強いコントラストがとっても素人好みで、構図が非常に不思議で、世にもめずらしい宝石でも見るような気持ちになったものでした。
今回は、あのガツーンとくる感じはなくなり、よりカレの魅力を分析的に観ることができましたね。

>ほんと、あとは「真珠の耳飾りの少女」を見たいですね。

そうなのよ。

>フェルメールってきっとすげーストイックそうな顔して、実はむっつりスケベだったに違いない!って高校時代思ってた。

そうなのよ。

見て回りながら、しきりとコリン・ファースの顔が浮かび……あはは。
あれは完全にスカーレット・ヨハンソンの映画だったけど、謎のむっつりスケベ・フェルメールには、コリン・ファースがよくはまってましたね。
きのう絵を見て、あの映画が実にうまく作られているということを改めて感じましたわ。
Commented by タカモト at 2008-10-04 02:21 x
みんな、芸術家だなぁ。
そのフェルメールっての知らないし。(無学な俺様♪)
どっちかと言うと「ブラッカイマー」作品が好きでして。(苦笑)
過去、嫁の付き合いで(付き合い当初)「ダリ展」に行ったなぁ。
あーアンディ・ウォーホルも行ったけ。(合ってるか?)
コイツは面白かった。

つーことで、突っこんだコメ書けないね。(苦笑)
Commented by apakaba at 2008-10-04 06:56
タカモトさん、いや、あはは。
誰でも鑑賞してゴタゴタ言うことは簡単で、創作をする人が芸術家なんだ!
見てるだけじゃ一般人だよ!
(一応「フェルメール」と「ブラッカイマー」の名前のかぶってる部分をしばらく探した。どこもかぶってねーぞ)

ダリとウォーホルっていうのもずいぶん選択が現代だね。
現代モノだと懇切丁寧な解説付きじゃないと「なんだこれー」になりそう!
Commented by のこのこ at 2008-10-04 12:57 x
タカモト氏、えらい!わたしゃ知らないものに関してはコメントできなくて指くわえてみてたわ。
てなわけでコメ。
フェルメール、どんな絵を書く人か今初めて知ったわ。
20代の頃にいろいろ大物どころは見たけれど、未だ見たこと無いってことは点数が本当に少ないのね・・・・。
光の魔術師といえばレンブラントは大好きです。同じ頃なのでしょう。レンブラントも憧れていて、そのうちたった一枚のホンモノを目の前にしたときには衝撃を受けたものです。
づくづく当時のオランダはすごかったってことねー。スペインものもすごいけど。 
観てみたいわ。
たまには上京した時に美術館にでも行こうかしら。
Commented by apakaba at 2008-10-04 13:05
のこのこさん、タカモトさんはコメントの天才だもの。
いつも「なんでそんなに天才なんだー!」と思って拝読してます。

フェルメールは来ないから実物を見る機会がないというだけで、“真珠の〜〜”は絶対見たことある絵だよね。一度見たら忘れないし。
フェルメールもみんな大好きだけどレンブラントもみんな大好きですねえー。
過剰に劇画調というか……ドラマチックだもんね。
フェルメールは会期がまだ長いのでゼヒ。
これを逃したら死ぬまで7点一気見は無理だよ!
Commented by sora at 2008-10-05 06:56 x
フェルメールは結局行けそうににないけど、やっぱり混んでいるんですね。

フェルメールはいいですね~。「適正露出」で撮っているって感じですね。個人的にはそう思います。中央重点測光で女性とその周辺に露出を合わせている・・。

僕は、オランダと言えば断然レンブラント派なんですよね~。大好きです。こっちは露出アンダー。しかもスポット測光。一度実物を見て見たいです。

フランダースの犬でネロが見たがっていたアントワープのルーベンスの絵も見たいところです。ネロが命をかけてまで見たかった絵はどんな絵だったのか・・多分バロックすぎるような気がするけど。

Commented by apakaba at 2008-10-05 11:48
soraさん、え、でもあと2ヶ月やってるんだよ。
行けないですか?
もう死ぬまでイッキミはありえませんよ!

フェルメールは、写真をやるヒトは写真の目で見るみたいですね。
被写界深度とか露出とか……
レンブラントの黒は「く、黒すぎる」とビビるくらいに暗いですね。
秋は東京でいい美術展がいっぱい。うれしいな。
東京都写真美術館にも行ってくださいよ。
あと、目黒の庭園美術館も、ちょっぴりだけ未公開部分が公開されるし。

ルーベンスの絵がどんなだったのかわかりませんが、とりあえず、絵って、実物を見て「なーんだ。たいしたことない。コピーで十分」と思うことってないですよね。あはは。当然なんだけど。


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