あぱかば・ブログ篇:台北2012
2014-09-21T23:37:54+09:00
apakaba
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者)
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胡蝶の夢ひらひら台北 7(最終回).タビビト初心者は公共浴場「瀧乃湯」と予想外のラストへ突入
http://apakaba.exblog.jp/18194178/
2012-07-07T11:11:15+09:00
2012-07-07T11:10:45+09:00
2012-07-06T20:33:52+09:00
apakaba
台北2012
北投温泉博物館を見学して、さすがに朝食抜きで歩いているのが限界になった。
「へえ、スタバがある。モスバーガーもある。期間限定ナントカバーガーだって。どう?」
と娘の「コシヒカリ」に聞くと、
「いいよスタバもモスも。日本で食べられるもん。わたしは、せっかくだからこっちの食事がいい。」
私だってもちろんそう思ってる。
ちょっと試してみただけだ。
プラスチックカップに、小さなプラスチックのれんげがついた安食堂に入ると、
「こういうとこ好き!見てこのひどい器。笑うー。でもすごくおいしい。」
と喜んでいた。
「さあ、せめてひとつは温泉に入ろうよ。」
「え、おかーさん、今から温泉に入ったら、ホテルの集合時刻に間に合わないよ。ホテルのロビーに12時集合でしょ。」
「まあねえ。でもそんな早く行ったって、どうせぼけっと座って待ってるだけだよ。フライトは夜の6時過ぎなのに、昼の12時に集合なんてバカバカしい。」
「でも、団体行動……」
「おかーさんは団体行動は苦手だ。」
旅行社からしたら最悪な客だが、馬鹿正直に集合してもソファに座って待っている時間が長くなるだけだとだいたいわかっている。
高級温泉旅館あり、水着着用の公共温泉あり、どこに入るかは選び放題だが、こぎれいな温泉や水着着用なんてつまらない。
できる限り地元密着でいきたい。
瀧乃湯(ロンナイタン)という非常に小さな温泉、というより古い日本の銭湯のようなところに入る。
ネット検索では「清潔感が、日本人にとってはキツイかも。他のきれいな温泉のほうがいい」という情報があったので、迷わずここにした。
なるほど、噂にたがわず相当にボロボロだ。
まだ午前中だというのに、すでに地元のおばさん・おばあさんが5,6人いた。
皆さんあられもない姿でくつろぎ、大きな声でおしゃべりしたり、へそのあたりをこちらが不安になるほど激しく垢すりしたりしている。
シャワーなどというしゃれたものはあるはずなく、お湯はとにかく湯船から汲むしかない。
これではたしかに、家のお風呂やイマドキのスーパー銭湯しか入ったことのない日本人にはキビシイのかもしれない。
脱衣所はこんな感じ
向こうに見える緑色の部分がお風呂
うちは平気だが、たしかに清潔感や高級感とはほど遠いかも
お湯は、やけどしそうに熱い。
たまに行く東京の銭湯も熱いが、もっとずっと熱い。
歯を食いしばって、かけ湯をしてから入る私の様子を、常連のおばさんたちはおしゃべりをやめないままさりげなくチェックしている。
娘は「熱いっ!」と飛び上がり、どうしても湯船に入ることができず、結局お湯を汲んでは水でぬるくしてかけることしかできなかった。
そこへ日本人の若い女性二人連れが来た。
いかにも女子旅な子たちで、どう見ても施設の選択を間違えてしまったようである。
ふたりとも、
「シャワーないの?」
「どうする?」
と、顔が引きつっている。
やがて二人とも、体を流さずにいきなり湯船にじゃぼんと足を突っ込んだ。
「熱い!」
と足を引っ込めるよりも早く、地元おばさんたちの怒声がいっせいに飛んでくる!
「あんた!いきなり入ったら汚いじゃないか!体にお湯をかけて、きれいにしてから入るんだよ!股を開いてちゃんと洗いな!足も!マナーを守ってくれなくちゃ困るよまったく!」
……と、言っているのだと察した。
その剣幕と股を洗うジェスチャーで、彼女たちもいっぺんにわかったようで、手桶であたふたと体を流している。
そうか、私がかけ湯をしているのも見ていて、合格だったわけだな。
ぶざまな女の子たちの様子は可笑しかったが、地元のお客さんたちからすれば、私たちは招かれざる人間だ。
外からの観光客を呼び込むための温泉施設ではなく、地元客だけで十分にまわっているこの銭湯(どうしても銭湯と言ってしまう)では、我々よそ者はマナーを守って、お互い気持ちよく使わせてもらおう。
娘はといえば、“ボロい”とか“古びている”ということへの耐性がきわめて高いようで、お湯は熱すぎたが平気で過ごしていた。
瀧乃湯の母屋の犬は、幸せそうに眠っていた
集合時刻を大幅に過ぎてホテルに戻ると、当たり前だがフロントの若い女性に遅刻を叱られる。
息子くらいの、若い彼女の流暢な日本語に聞きほれる。
そして私が
「えっ、そうだったんですかあ。遅れましたか、すみませんでした!」
と、すごい名演技でしらばっくれるのを、娘はあきれ果てて後々まで言っていた。
いったん集合して、全員集まっていることを確認すると、空港へのバスが出発するまでまた2時間くらい自由時間になった。
もう一箇所観光することは時間的に無理なので、徒歩で10分くらいのスーパー「カルフール」に行く。
ここで昼ごはんにしようかと思ったが、娘は初日に食べた肉まん屋が忘れられず、
「わたしまたあそこがいい。帰る前にもう一度行きたい。」
という安上がりな子なのである。
カルフールには1階にマクドナルドが入っていて、ちょうどお昼時で満席である。
娘は、
「温泉のそばで食べた麺のお店とかのほうが、ずっとおいしいのにね。」
と、タビビトな言葉を漏らす。
カルフールの食料品コーナーをまわると、またしても娘は
「イカがこんなにいっぱい!」
と、山積みのさきいかに吸い寄せられてしまう。
私もいいかげん頭に来て、
「屋台のあぶったイカならおいしいのはわかるけど、なにもパック詰めになってるさきいかを買う必要はないんじゃない?」
と言ってしまった。
すると、「それもそうだね。」とすんなり納得し、今度は鶏肉のパックを見つけて驚喜している。
丸ごとの鶏のパックに、トリの顔がついたままなのである。
「きゃあー!トサカがついたままだ!わたし、トサカを食べてみたいんだー。すごいすごい。これを買えば、トサカも食べられるよね。ああ、いいなあー台湾。わたし台湾に住んでもいい。」
しつこく写真を撮っていた。
カルフールの上階に子供向けのゲームコーナーがあり、なんと娘は「ここで遊ぶ!」と言う。
お小遣いをコインに替えて、次々とゲーム台を行き来していて、私はすっかり飽きてしまった。
無邪気にゲラゲラ笑いながら遊んでいる台湾の子供たちはかわいいけど、最後のスポットが、ここかぁ〜。
私にとってまったく予想外の終わりとなった。
どうしてこうなる?
どうしてこうなる?バスケのゲームに夢中な娘。メガネは士林観光夜市で買った伊達メガネ
ゲーム台に犬を平気で載せる神経がワカランよ
立ち食いの肉まんとともにジュースも
私だって台湾は初めて来たのだ。
故宮博物院で、白菜や豚角煮が見たかった(ご存知ない方はお調べください)。
高級台湾料理店に行ってみたかった。
台北のインドカレー店というレアな店にも行きたかった。
動物園でパンダが見たかった。
茶芸館でお茶を飲んでみたかった。
タピオカナントカとかマンゴーナントカとか、甘い物も試したかった。
松山空港内のスタバ。新年のくじ引きでもらったぽち袋には金魚が描いてあった。辰年(中国では金魚は龍になるといわれるめでたい生き物)にちなんでいるのだろう
松山空港はまだまだ工事の途中だった
一人なら、全部まわれただろう。
まあ、でもいいや。
“自分でつくる旅”は、“連れて行かれる旅”とおもしろさがまったくちがうってことを、娘がわかってくれれば。
チャイナエアラインに初めて乗ったが、機体はボロかったけど機内食はおいしかったー!
松山空港にバスが着くと、娘は
「胡蝶の夢だね。」
と、各所にちりばめられた蝶のモチーフを見ながらにっこりする。
「そうだね。」
「うふふ。」
(おわり)
おまけ。
「コシヒカリ」が台北で最後に撮った犬。]]>
胡蝶の夢ひらひら台北 6.和洋折衷の申し子「北投温泉博物館」
http://apakaba.exblog.jp/18184183/
2012-07-04T13:02:00+09:00
2014-09-21T23:37:54+09:00
2012-07-04T10:47:54+09:00
apakaba
台北2012
最終日は朝ごはん抜きのまま、郊外の新北投(シンベイトウ)温泉へ行ってみる。
ホテルから出て西門駅へ向かう途中、肉屋の前を通りかかると、肉のかたまりが吊り下げられており、生の豚足なども無造作に転がっている。
娘が好きそうな光景だと思っていると、思ったとおり、目をきらきらさせて写真を撮っている。
私は今さらカメラを向けるほどめずらしく感じていないが、娘はなにしろこういう肉屋は初めてだ。
旅の初心者はかわいい。
新北投駅にあった楽しげなオブジェ。
新北投温泉のある新北投駅まで、
「さあ『コシヒカリ』さんが自力でおかーさんを連れていってください。」
とやってみるが、もう3日目だというのに、あいかわらず調べるのにもたもたしている。
乗り換えの口をまちがえているので
「そっちでいいのかなー。ほんとにそっちかなー。」
と言いながらあとから着いていくが、もう自分が正しいと思い込んでいるのでどんどん行ってしまう。
かと思うと目的地の逆方向のホームで電車を待ってしまう。
「駅の表示は読んだかなー、進行方向はどっちかなー。」
大人相手なら苛立って叱り飛ばすところだが、立派なタビビトにするためには辛抱なのだ。
堂々とした新北投駅
子供たちが小学生だったころにも、よくこういうことを渋谷駅などでやっていた。
「これから乗り換えて銀座線に乗ります。おかーさんを改札に連れていってください。」
「こっちよ!はぐれないで!」と怒りながら子供を引っ張っていくよりも、子供の後ろについてしまって「連れていってください」とやるほうが、子供は真剣になって駅の表示を読むようになり、外出が“連れて行かれる”のではなく、自分の責任で歩く行為になる。
「ちゃんと着きました。ぱちぱちぱち」と褒めてやれば、いつか一人で出かけるときの自信になる。
セブンイレブンにいた犬を、例によって手なずける「コシヒカリ」。写真を撮りまくるのを辛抱強く待つ
小学生に勉強を教えるのも同じで、初めから正解と解法を教えるよりも、まずまちがった答えを出してしまった子に、
「ほほう。なるほど。じゃあ、どうやってこの答えを出したのか、私に教えて。」
と頼む。
最初は勢い込んで私に解説をし始めた子は、やがて明らかに破綻した箇所にくる。
そこで「……あれっ?」としどろもどろになったときを捉えて、
「……だよねえ?ここでまちがえたねえ?」
とにっこりして確認する……目をのぞき込むと子供は「えへへ」と照れ笑い……一方的に教え込むより、ずっと気の長い話だ。
でも身に付くのはこの方法だ。
高級ホテルのような市立図書館
新北投駅から温泉町へは、ゆるやかな上り坂になっている。
だらだらと歩いていると、日本に帰ってきたかのような感覚になる。
大きな温泉旅館が建ち並び、整備された細長い公園がつづく、のどかなところだ。
最終日にやっと寒さがゆるんで陽が出てきたので、ますますうれしい。
ここでの最初の目当ては、温泉博物館である。
和洋折衷の建築に興味があった。
日本統治時代の公共温泉浴場を1998年に博物館として改築したという建物は、1階部分がビクトリア様式、2階は日本の伝統的な木造建築の様式とのことだ。
聞くだけでは大丈夫なのかと不安になるが、いざ目にしてみると、美しさに見とれる。
混血児が純血の人間には決して醸し出せない独特の魅力を持っているのと似ている。
なにかが別のなにかと出会って交じる/混じるという文化は、私の好きなテーマだ。
カーテンに木枠の窓、障子と畳の大広間の廊下には西洋風のランプ、レンガ造りのバルコニーに瓦を載せた木造の庇がかかる——しっちゃかめっちゃかのようなのに、愛らしく、静謐ささえ湛えている。
おだやかな気候と、おだやかな人々の手で保存されているからだろうか。
銭湯風の下駄箱に靴を入れて、スリッパになる
風光明媚な新北投は、台湾映画のハリウッド。格好のロケ地だったという。ここで台湾映画のダイジェスト版を上映している
掃除が行き届いていてきれいな博物館
日中に入浴すれば、ステンドグラスの色がお湯に映ったことだろう
高級なガラスを使っているため、もし割れても修復をしやすいように、図案のガラスが細かく分かれているという
微妙に水がたまっていて汚く見えた、男性用の大浴場。9×6メートル。奥へ進むほど深くなり、一番深いところは130センチ。50〜60人が一度に立って浸かったとか。建築はすばらしいが、その入浴方法はちょっと……
大浴場を取り囲む回廊
実際はもっと明るいが、ステンドグラスを撮るために露出アンダー
回廊の床は洋風
タイルがていねいに敷き詰められた腰湯(?)
女湯は男湯に較べてトホホな小ささだが、ここでも和洋折衷の趣を感じることができる
周囲の緑としっくりなじんだこの美しい博物館は、なんと入場無料である。
台北郊外に行くなら絶対に入場する価値がある。
(7(最終回).タビビト初心者は公共浴場「瀧乃湯」と予想外のラストへ突入へつづく)]]>
胡蝶の夢ひらひら台北 5.九份からオタクビル、マッサージ店でとまどう
http://apakaba.exblog.jp/18148196/
2012-07-02T17:13:00+09:00
2012-07-06T09:05:01+09:00
2012-06-25T20:22:47+09:00
apakaba
台北2012
金瓜石から九份へは路線バスで行く。
バスを降りて歩き始めると、娘の「コシヒカリ」はたちまちイカの匂いに吸い寄せられてしまった。
またかい……私は店の外で待ち、自分でお店の人とやりとりして買わせた。
娘はあぶったサキイカを
「日本のイカよりおいしい!」
と何度も言うが、私にはちがいがあまりよくわからない。
おきまりの観光コースをぶらぶらと歩く。
基山街(きざんがい・ジーシャンジエ)のアーケード商店街を流し、あれこれ土産物を買う。
ふだんはしゃれっけのない娘がチャイナファッションに興味を示しているので、うれしくなって普段着に着られそうな服を2枚買ってあげた。
豪雨でもアーケードなら平気
ここのパイナップルケーキは非常においしかった
暗がりもあり、ちょっとした探検気分にもなれる
衛生状態が微妙に気掛かりだがインドに較べれば平気
たしかに、観光向きの楽しいスポットだ。
雨が残念だが本来は見晴らしがいいはずだし、傾斜地を利用した街並みは土着的でもあるが洗練された店も多く、子連れでぶらぶらしていても危険を感じない。
基山街を抜け、金山堂という祠のそばの展望台へ。展望絶望
アーケードがなくなると傘を差して急坂を歩くのがちょっとつらい
映画『非情城市』の撮影地として有名な茶店。とくにおいしくもなく、高くて、ガラガラ
さすがに疲れ、寒さが耐えがたくなってきて、帰りはタクシーを使うことにした。
太ったおじさんの運転手さんは、我々の泊まっているホテルの名前がわからない。
わからないままにしばらく走ってから、娘が
「万年百貨に行きたいから、ホテルじゃなくそこで降ろしてもらおうよ。」
と言い出す。
万年百貨とは、西門町のホテルの近くにあるショッピングセンターである。
きのうも行って、娘が気に入っていた。
というのも、ここは台北随一の「オタクビル」と呼ばれていて、日本のアニメやマンガのキャラクターグッズがどっさり集合しているのである。
私はまったく興味がないが、娘は少年ジャンプで連載しているマンガのカレンダーがほしいと言い、今日また来て買おうとしていた。
そこで、無名なホテルよりショッピングセンターの名前のほうがわかってくれることに賭け、
「ワンニエンバイフオ(万年百貨)?」
と尋ねてみる。
すると運転手さんは敏感に反応し、くるっと振り向いて
「ワンニエンバイフオ?おお〜、ワンニエンバイフオ!」
我が意を得たり!あとはデモ行進のシュプレヒコールのように
「ワン・ニエン・バイ・フオ!ワン・ニエン・バイ・フオ!」
と全員で叫びながら、台北市内へ戻った。
タクシーの車内も、この寒いのに冷房がかかっていて、雨にぐっしょり濡れた体にはつらかった。
しかし太った運転手さんは満足げであった。
娘は、万年百貨で目当てのカレンダーを自力で買う。
私はまた店の外で待っていて、自分でコミュニケーションをとるようにさせている。
ひとまわりしてみたが、プラモデルの店、安物のアクセサリーの店、ゲームセンターなどが並び、私には無縁なスポットである。
娘がいなかったら、まず来ることはなかっただろう。
食べ歩きの肉まんだけでなくて、少しはまともな店でごはんを食べることにした。
北平一條龍餃子館というところで、まあ一般的な中華料理の店だった。
温かい麺でやっと体がゆるんだ。
まったくこの寒さは誤算である。
どんなに寒くてもビールは不可欠である
豆もやしの向こうにあるのは娘のNikon D40
ホテルに歩いて戻ると、娘は学校の宿題とお絵描き(が趣味らしい)をやり、私は目の前のマッサージ店に行ってきた。
ゆうべも行って今日も同じ店へ。
プチトマトの飴がけ
いつも、アジアのマッサージ店では「ここは男性客に性的なサービスをするだろうか?」とちょっとだけ気になる。
男性客に性的なサービスをしてもしなくても、私の体を楽にしてくれればべつにかまわないのだが、別室から男性客のうめき声というかなんというか、「ウウッ、うーん」「ああ〜、あぁ〜〜」といったような、快感の声が漏れ聞こえてくるのは落ち着かない。
あの声が、純粋に体をほぐされた快感の声なら問題ないし、日本のまったく健全なマッサージでああいう声をあげるお客さんはいるものだが。
きのうと同じ、小柄なおばさんが担当して、小柄な体に似合わない怪力で全身を揉んでもらった。
今まで経験したマッサージで一番怪力だったように思う。
ここもご多分に漏れず室内が冷えていて寒いのがつらかったが、施術が終了してからおばさんの顔を暗がりの中で見ると、額に玉の汗をかいている。
汗をかきながら、カールした長い髪を振り乱してサービスしてくれて、終わると放心の表情でタバコに火をつけている。
どちらかというと不美人なおばさんなのに、そのさまは、背筋がぞっとするような色っぽさだ。
性的なサービスを受けてもいないのに、せまくるしい暗い個室に共にいるおばさんは、まぎれもなく性的な存在である。
「ここはやっぱり、アレか?あの手のサービスつきの店か?」
おばさんの色気におされて、ムクムクと疑念が湧いてきた矢先、おばさんはつたない日本語で
「あしたも、きてネ。」
と、名刺に自分の名前を書き入れて私に渡してくる。
私が“明日は来ないよ”と思いながら受け取ると、タバコをはさんだ指で私の頬やあごをさっと撫でながら、日本語で
「カワイイねえ。」
と言う。
なんだかもう、おばさんの手を振り払って早く帰りたいような、もしかしたら明日も行くと「こんなの初めて!」な大変なサービスを施してくれるのかと想像してしまうような瞬間である。
(6.和洋折衷の申し子「北投温泉博物館」につづく)]]>
胡蝶の夢ひらひら台北 4.金瓜石と、犬写真
http://apakaba.exblog.jp/18135588/
2012-06-23T23:22:00+09:00
2013-12-19T11:20:02+09:00
2012-06-22T18:47:30+09:00
apakaba
台北2012
新仕界大飯店の真向かいにある食堂
育ち盛りは眠い盛りだ。
中学生の「コシヒカリ」は、旅先であろうと容赦なく寝ている。
9時半を過ぎても寝ている。
いくらこの旅行は娘の好きにさせようといっても、さすがにこれでは寝に来たみたいなので、
「『コシヒカリ』さん。そろそろ起きましょう。どこにも行けなくなっちゃう。」
と起こす。
朝ごはんを食べるためにホテルの真向かいにある食堂へ。
「コシヒカリ」は、ホテルの朝食ビュッフェよりもこういう店が好きだろう。
予想どおり、貼り出されたぼろぼろのメニューと、店主のおじさんが片時も手を休めずに立ち働く様子をかわるがわる見ては
「わー!こういうとこ好き!どれもおいしそう!どうしようわたし全部食べてみたい。ああどうしよう。明日もここに来る?今日と明日にわけて考えよう……肉まんは絶対食べるとして、でも明日も肉まんは食べたいし、うーん。」
と一人で言っている。
「どう、おかーさんが計画するほうが、ツアーよりよっぽどおもしろいでしょう。」
「うん。ホテルの朝ごはんだと飽きちゃうもん。」
私の朝食は温かい豆乳にヤウチャッカイ(油条)。しかし娘は……
そんなに食うのか!すでに手におにぎり持ってるし!大根餅と小籠包(とメニューには書いてあったが、実際はミニサイズの肉まん)は、少し手伝いましたが
今日は金瓜石(きんかせき・ジングアーシー)と九份(きゅうふん・ジュウフェン)に行く予定だ。
バスに1時間近く乗り、まず金瓜石に向かう。
私は体験型博物館のようなモノが好きで、ここの目当ても、「黄金博物園區」である。
ここは日本統治時代に金鉱山として栄えていたが、その後閉山し、今ではエコミュージアム(人が生活する地域全体を“博物館”と見なす)となっている。
鉱山の跡のトンネルを歩いたり、砂金取り体験をしたり、山の景色を楽しみながら、点在する博物館や資料館を見学したり……あれこれと頭に思い描いていた。
ところが、室内でさえダウンコートを脱ぐことができないほどの寒さに加え、土砂降りの雨である。
バスを降りるやピクニック気分は急速に消え去る。
それなのに、娘は
「ここ!犬がいっぱいいる!」
と、バスから飛び出し野良犬を追いかけては写真を撮りまくっている。
まだ「黄金博物園區」の入口もくぐっていない。
犬だらけだ
娘は大の生き物好きである。
部屋に入ってしまった小さな昆虫さえ、手で包んで「ほらお前、こわくないよ。よしよし、おとなしくね。」などとやさしく話しかけて外に逃がしてやったりするくらいだ。
娘は旅先でひととおり写真を撮るが、ピンボケだったり水平が傾いていたり、まあ、さしたる見どころはない。
だが動物の写真、なかでも犬の写真はばっちり撮る。
撮っている様子を見ていてわかった。
犬を見つけると、まずにっこりして眺める。
遠くからパチリ。
一歩近づき、にっこりしてパチリ。
さらに近づいてにっこりしてパチリ。
徐々に距離を詰めていって、最後はぴったりくっついて、撫でながらパチリ。
最初のカットから最後のカットまで、決して急がず、犬が警戒を解くまでいくらでも待つのである。
動物・子供・異性、生き物全般を撮るための王道だが、娘はこれを誰かに教わったわけでもなく、“いいカットをモノにしたいから”という野心で実践しているのでもない。
ただ、「かわいい!」と思っているだけなのだ。
旅行中、私も何度もいっしょに犬の写真を撮ったが、やっぱり娘の撮った写真のほうが、ずっと愛情にあふれている。
1回シャッターを切るごとに「んー、かわいい!」と言いながらにっこりしているのだから当たり前か。
それにしても、この犬写真のおかげで、台北での観光は絶望的に短くなっていったのもたしかだ。
私はつい先を急いでいろんな観光地に行きたくなってしまうが、子供というのはたっぷり時間があるものだなあ。
「台北の犬はいい子が多いけど、どの国の犬もいい子だと思ったら大まちがいだからね。インドの犬なんかみんな狂犬病だよ。しかもなんにもしてなくても噛みついてくるんだよ。外国で、あんまり犬を信じすぎちゃだめだよ。」
一応、タビビトとしての基本的注意を付け加えることは忘れなかった。
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(ここから、「コシヒカリ」の撮った金瓜石の犬写真
篠つく雨だがものともしない「コシヒカリ」
途中何カットか撮って、これが最後の寄り
雨宿りしていた犬
まず遠くから
少し寄る
何カットかののち、最後の寄り
(ここまで)
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この天気の中、よくやるなあ。ドレスの裾はドロドロ。この建物は「四連棟」といって、日本統治時代に日本人職員の宿舎だった。2005年に修復され、館内見学ツアーをしている。我々も見学した
当時の木材も用いて、当時の建築工法で再現したという。すばらしい再現ぐあい
非常に広大で、いくら時間があっても足りないくらい
極寒・土砂降りの中を山登りしてでも行きたかったのが、この鉱山を所有していた日本鉱業株式会社の建てた「黄金神社」だった。
今では神社は柱だけが残る跡地になっているが、写真で見て、不思議な風景だと思って気になったのと、この辺は娘の好きなアニメ『千と千尋の神隠し』の舞台ではないかといわれている一帯なので、連れていけば喜ぶだろうと思ったのである。
この鳥居が見えてワーイと思っていたら、まだまだ先は長かった。日本人の女の子二人連れががんばって登っていた
だが、丘の上への道のりは運動不足の身には存外にきつく、連れていくどころか娘に置いていかれそうになる。
傘が役に立たないほどの雨で全身ずぶぬれになって、やっと神社跡に着いた。
からっと晴れ渡った空の下で見るのと、この悪天候の中、傘の下から見上げるのとでは、ここの印象はまったくちがうものだったと思う。
ついに、着きましたー!……って、ほんとに柱だけが残っている。
後ろから。
1933年に建立され、太平洋戦争後に廃社となったというが、この奇妙な場所に立つとはるか昔の遺跡にいるような気分
『千と千尋の神隠し』に出てくる食堂街の前の丘はここがモデルではないかというが……見えないのでどうにも判断しかねる
娘の口から、
「ワーほんとに千と千尋の神隠しに出てきた感じだ!」
という言葉が出てくることを夢想してきたのに、せっかくの丘の上に立っても霧でなにも見えない。
「もう、ここの博物館はいいんじゃない?寒いし、疲れちゃった。九份に移動しようよ。」
三毛菊次郎邸。日本統治時代の最後の工場長のおうちだったらしい。日本のどこかに戻ってきてしまったような景色
とにかく、ここにはいつかもう一度来よう。
まだまだ、見どころがたくさんある。
今日は下見ということで。
(5.九份からオタクビル、マッサージ店でとまどうにつづく)
※娘が生き物好きだという話はこれまでにも書いた。
“この子には敵わない”「コシヒカリ」小4
残酷・異常・動物好き?「コシヒカリ」小4
死に対する好奇心「コシヒカリ」年長・「アキタコマチ」小3・「ササニシキ」小6
どれもモノスゴイです。是非。]]>
胡蝶の夢ひらひら台北 3.夜市をハシゴしながら
http://apakaba.exblog.jp/18125408/
2012-06-21T10:42:00+09:00
2012-06-23T23:59:30+09:00
2012-06-20T09:48:12+09:00
apakaba
台北2012
「コシヒカリ」の大好物はイカだ。
台北ではあちこちでイカをあぶる匂いがしていて、娘はいちいちフラフラと吸い寄せられてしまう。
イカは消化が悪くてお腹が変に膨れるので、ふだん食事の前にはあまり食べさせない。
でもまあ、旅先だから好きにさせるか。
華西街観光夜市の門。思ったより人出が少なく、拍子抜け
人出が少ないからちょっとヒマ
屋台のおばさんがあぶっているのを、「うわあ〜、あぁーん!」と悶絶しながら待っている。
「ああっ、くるくる丸まってきたのを、もう一枚の網で押さえつけて、まんべんなく火が当たるようにしてるんだ!すごい!」
イカのことになると真剣そのものである。
肉まん大好き、イカ大好き、安上がりでけっこうだが、私としては、せっかくの女同士の旅なのだからもう少し乙女な食べ歩きを想像していた。
台湾名物タピオカドリンクとか〜。
マンゴー載せかき氷とか〜。
娘もそういう甘いものはもちろん好きだが、肉まんやイカのほうがもっと好きなのだ。
なにより、ダウンのコートを着て震えているのに、冷たいドリンクだのかき氷だの、考えたくもない。
夜市をハシゴしてみたが、本来なら夜市の華であるはずの冷たいものの屋台は、どこもまるっきり売れていなかった。
それでも娘は根性でスイカジュースを飲んでいた
おおっ、キンマだ!やっぱり日本じゃないなあ。私が興奮していると娘は不思議がる
はじめに行ったのは龍山寺のそばの華西街観光夜市である。
娘は私の旅の話を聞いて「ヘビとかカエルとか食べてみたい!」と、ずっと言っていた。
この夜市は売春街(今はないらしい)の近くにあって、精力をつけるという名目のもと、ヘビやスッポンを出す店が並んでいる。
だが、ここへたどり着く前にさんざんイカを食べて、案の定お腹が膨れてしまった娘は、
「うーん、お腹が空いてない。今日はいいや……」
と、あっさりあきらめてしまった。
何ヶ月も前から、これらを食べさせてやろうと楽しみにしていた私は、甚だ失望した。
「だからいつも言ってるでしょう!イカなんか食べてるからいけないの!」
と言ってやりたいのをグッとこらえる。
私は旅先では決して人とぶつからないようにしている。
それというのも、親子・友達・夫婦、今までいろんな相手に、旅先でつい語気を荒げて、気まずくなった経験があるからだ。
しかも、初めての“自分の自由にしていい旅行”で、毎日「勉強やったの」「ていねいに歯磨きしなさい」「姿勢が悪いよ」「もっと早く起きて支度しないと」と怒られつづけている母親から、ふだんと同じように怒られたら、気分がしぼむだろう。
「しょうがないねえ。じゃあ、さすがに夕飯がイカだけってわけにはいかないから、なんかテキトーなものを食べ歩きして、今夜は済ませちゃおう。」
「えっ、いいの?(私はふだん食事や栄養バランスにとてもうるさいので、にわかに信じられない様子)うん、そうしよう!わたしまた肉まん食べたい!」
ええーまたですか……
MRTの自動券売機から私のプリペイドカード(Easy Card)が出てこなくなったので、駅員さんが直しているところ。彼とは日本語でなく英語で会話する。若者には英語中心
MRTに乗って士林観光夜市へ移動する。
ここは台北一の規模と集客力を誇るらしい。
そぞろ歩く人々の顔は、屋台のライトに照らされて、ピカピカとしている。
だが、たしかに食べ物にはあれこれ目移りするものの、売り物はとてもではないが財布を開けたくなるようなものではない。
誰が部屋に飾るのか疑問を感じる飾りの壁掛け。
かわいくもかっこよくもないプラスチックのおもちゃ。
派手なだけのデザインのTシャツ。
万国共通、どこへ行っても土産物の市場はこんなものだが、ここも安っぽさが目につく。
大粒タピオカ入りドリンクの屋台を、娘はほんもののカエルの料理が出ると勘違いする
ガイドブックで見て娘が絶対食べたいと言っていたいちごの飴がけ。見てのとおりの味だが食感がいい。ウマイ。ただしいちごの新鮮さがすれすれだったりする
金魚すくいが好きな娘は、ここではエビ釣りをやっていた。
釣ったエビはその場で焼いて食べられるというのだが、とうてい食べる気になれない、グッタリしたエビたちである。
エビの放された水からして、すでに妙なにおいを発している。
釣れてしまったら食べるべきかなあと考えていたが、ボウズであった。
メチャクチャ盛り上がる人々
大人気のフライドチキン「豪大大雞排」。名前から想像がつくとおり、薄いがばかでかいフライドチキンを立ち食いする。下拵えをする当番→揚げる当番→スパイスを振って袋に入れお金を受け取る当番、の3人で大行列をさばく
下拵え当番の彼はとても疲れている模様
マスクをしないとくしゃみが出ちゃうのだろう。スパイスをかなり効かせている。たしかにおいしいが、二人で分けても胸焼けしてきた。日本人の団体もたくさん並んでいた
ごくごく小さな行動半径ながら、初めて一日台北を歩いてみて、私は“なんともいえない不思議なところだ”という感覚にとらわれる。
ここを訪れる外国からの観光客の「ほとんどが日本人」だということ。
台湾は日本びいきだとか、日本語で不自由なく旅行ができるとか、話には聞いていた。
しかしここまでとは思わなかった。
夜市を歩く外国人で、日本以外の国からの旅行者は、いるにはいるがごくわずかだ。
台湾の人々も、「外国人観光客≒日本人」と心得ている。
サービス業に就いている人で日本語を流暢にあやつる人の割合は、私が今まで行ったことのあるどの外国よりも、比べものにならないくらいに高い。
これほどまでに、日本を第一のお客様としている国があったとは。
日本人など見たこともなく、英語が一言も通じないような国を歩いたこともあるが、そのときは“日本はまったくマイナーな国だ。そして英語がまるっきり役に立たない場所も、いくらでもあるんだ”という、居住まいを正すような感覚を持った。
台北を歩いて、これと正反対の方向の、しかし同じくらいの驚きを覚える。
地理的な近さと歴史的な縁の深さにより、台湾は私の想像を遥かに超えて、日本を見つめている国であった。
旅には、遠いほど価値があって近いと価値がないなんてことはまったくないんだなあ、という思いをまた新たにする。
(4.金瓜石と、犬写真につづく)]]>
胡蝶の夢ひらひら台北 2.一人旅のできる女の子
http://apakaba.exblog.jp/18121151/
2012-06-19T14:31:00+09:00
2012-06-22T09:57:40+09:00
2012-06-19T11:15:47+09:00
apakaba
台北2012
一人旅のできない女の子にはなってほしくないと思う。
「連れてってー」と恋人や旦那さんの腕にぶら下がるオンナより、自分で世界のどこにでも行かれるほうが、ずっと魅力がある(もちろん、状況次第で使い分けるのが賢いですが)。
自分で旅をすれば、たとえ安楽そのものな台北で肉まんひとつ買うことだって、忘れられない冒険になる。
「コシヒカリ」のこれまでの旅は、当たり前だがすべて人任せだ。
家族が行き先を決めて、ただついていくだけ。
パッケージツアーに乗れば、添乗員さんやガイドさんが頼りで、地図ひとつ確認することがない。
「今度の旅行は、全部『コシヒカリ』が決めてね。おかーさんはついていくからね。」
と、何ヶ月も前から『地球の歩き方』を渡しておいた。
前回、“娘はおしゃれやショッピングに興味がない”と書いたが、チャイナテイストのファッションは気に入ったようで、ショッピングのページを見て「これかわいい。わたし、こういうのを買いたい。」と言い始めた。
おかーさんうれしい。
なにしろ、兄たちのお下がりの男物の服しか着たことのない子なので。
肉まんと麺を食べて元気になると、
「靴を買いに行こう。わたしのお小遣いで自分で買うから。」
と言う。
ショッピングのページで、布製の靴に刺繍の施されたハンドメイドの靴を見たという。
「じゃあ、案内してください。地図を見てね。まず、ここはどこかな?どの通りかな?」
自分一人ならすぐスタートできるが、なにしろ生まれて初めて、旅を自力でコーディネートするものだから、娘のスタートは甚だ遅い。
「ええとー今どこにいるんだろう。わかんない。」
漢字で書いてあるから、標識を見ればわかるよ。おかーさんは地図を持ってないんだからあなたが頼りよ。
「あ、わかった。さっきファミリーマートがあって、国泰世華銀行?なんて読むのこれ?この銀行がもうすぐあるから……。うん、もう大丈夫。きっとここを右に曲がったところにあるはず。」
旅慣れていることに加えて、私は視力がとてもいいので、街を歩いていても遠くの標識や地下鉄の入り口などをあっという間に発見できる。
娘は旅慣れていないことに加えて、視力が非常に悪い。
コンタクトレンズを使ってはいても、目の向く速さがぜんぜんちがう。
それでも、
「標識はあったかなー。おかーさんはもう地下鉄の入り口のマークを見つけたよ、どこにあるでしょう。」
と、ひたすら辛抱強く娘のあとをついていった。
我ながら気の長い話だ。
このペースでは、いくつもの観光スポットを断念することになるだろうが、かまわない。
長年の塾のセンセイ経験でも、この“ひたすら、子供を待っていてやる”ことは結局あとで身に付くと知っている。
小格格鞋坊(シャオガァガァシュエファン)は、刺繍された靴が小さな店内に所狭しと並び、娘は目をぱちくりさせている。
じっくりと選び、おかみさんと日本語でやりとりしている。
そして本当に、自分のお小遣いで払っていた。
「日本語のわかる人がいっぱいいるから、楽だねえ。」
エコノミーホテルなだけにものすごいせまさ。窓の外は雨
不思議な風呂場。バスタブにしてはあまりにも小さいが、中に腰掛けチックな半端な段差があって、足湯はできる?
テキトーな設計をうかがわせる、やたらと幅の広い廊下。つねにしけっぽいにおいがしている。部屋より、廊下に出た瞬間のほうが、安宿を実感する
やっとチェックイン時刻の3時になったので、ホテルの部屋に入れた。
格安ツアーでよく利用される「ニューワールドホテル(新仕界大飯店)」は、西門町にある。
部屋は至極せまいが、ロシアでサイアクなホテルを経験していた「コシヒカリ」は、へっちゃらである。
私は、ホテルの、というか台北の意外な寒さにほとほと参っていた。
台湾は暖かいとばかり思っていたのに、1月5〜7日の台北は東京の真冬よりいくらかマシという程度であり、室内のエアコンは冷房だけで暖房がない。
二人とも、ホテルの室内でもダウンのコートを着たままだった。
これはまったくの誤算で、旅行の楽しさが何パーセントか殺がれたように思う。
今夜は台北名物の夜市を満喫したい、との娘の希望で、寒さに震えながらまた出かけた。
娘の先導で歩き、まずは龍山寺へ。
台北最古の仏教寺院で、建築の装飾が見事だというので、「お寺もひとつくらい見ておく?」
途中、茶葉店の軒先でタツノオトシゴの干物を見かける。
「ほら、あんたが好きそうなものが。」
と教えると、先を歩いていた娘は「うわー!」と駆け寄ってくる。
「すごい!かっこいい!いいなあこれ、わたし友達に1本ずつお土産にする!」
「バカね、こんなの喜ぶのはあんたくらいよ。ふつうの女の子は不気味がるに決まってるでしょう。」
娘は、生き物が大好きで、こういう変わったものが大好きなのだ。
香港で大きなトカゲの干物を見つけて、小3だった娘に買って帰ったら、
「おいしそう。わたし、食べてみたい。」
と、なんの迷いもなく、スルメイカを食べるようにかじりついた子である。
タツノオトシゴも、買ったらその場でかじり始めるんじゃないかと思ったが、あいにく店番が一人もいなくて買うことができなかった。
夜の龍山寺は文句なしの名所であった。
いくら子供に予定を任せるといっても、たまにはど真ん中の観光名所もいいものだ。
すばらしい装飾にしばしクチあんぐり
みんな寒そうな恰好をしているでしょう。
(3.夜市をハシゴしながらにつづく)]]>
胡蝶の夢ひらひら台北 1.台北の第一印象
http://apakaba.exblog.jp/18118846/
2012-06-18T21:55:00+09:00
2012-06-19T14:33:56+09:00
2012-06-18T21:06:00+09:00
apakaba
台北2012
「おかーさん、“胡蝶の夢”って知ってる?」
「んんんー?なんだっけそれ。うーん、わからない。」
「あのね、昔、中国のお坊さんが、“自分も蝶になりたいなあ”って思っていたら、夢の中で蝶になっていて、自分が蝶になったのか、蝶が自分になったのか、わからなくなっちゃったんだって。そういう話。それが“胡蝶の夢”。」
「うーん?そんな話だったっけ。」
「うん、だから、この空港で蝶がいっぱいなのは、“胡蝶の夢”からとってるのかなーって思ったの。」
本当は、お坊さんではなくて「荘子」だったのだが。
台北の松山空港は、随所に蝶のモチーフがあってかわいらしい。
それを見て、娘の「コシヒカリ」が言ったのだった。
娘と二人で旅行をするのは初めてだ(先に連載していた「娘の行きたい京都へ行く」は、この台北旅行のあと)。
娘は祖父母に連れられてロシア(自作の旅行記はこちら)やイギリスに行ったりしているが、いずれもパッケージツアーで、美術館巡りなどが多く、芸術に興味のない娘には苦痛だったらしい。
決められた食事(イギリスのじゃがいも攻めには心底閉口していた)や集合時間厳守なども嫌がっていた。
「わたし、たぶん、ごちゃごちゃしている市場とかを歩いてへんなものを見つけたり、食べ物も勝手にそのへんで立ち食いしたりするほうが好きなんだと思うの。
よそ行きの服着てバレエ見たりレストランで食事するのとか、ぜんぜんしたくないのに。」
二泊三日の台北。
航空券とホテルだけの、HISのバーゲンツアーだ。
実は私も、台湾は初めてだしスケルトンツアーで海外旅行をするのもまったく初めてのことである。
夫をおいて、子供と二人で旅行をするのは三度めである。
長男を6歳でヨルダン・シリアに連れていき、0歳児の次男をネパールに連れていった。
娘だけ、今までどこにも連れていっていないことが気になっていた。
息子たちの場合とちがって、娘は14歳。
私より体も大きくなり、自分のことは自分でできるし、荷物だって私よりたくさん持てる。
しかも、「おかーさん、“胡蝶の夢”って知ってる?」なんて質問までしてくる。
小さい子供との旅行も思い出深いものだったが、この旅行も楽しそうだね。
免税店のお茶売り場。凝ったコーナーであった
松山空港でツアー客が集合すると、現地添乗員さんの指示に従ってバスに乗せられ、いきなり免税店へ連れて行かれる。
早朝に羽田空港から来たので、まだホテルのチェックイン時刻になっていないためだ。
30分もお土産タイムをとられても、なにも買うものがない。
娘は、おしゃれやショッピングにまるっきり興味がないので、楽というか張り合いのない女の子である。
親戚用の烏龍茶だけ買ったが、そこの店員さんたちは娘のことを「かわいいねえ、美人ねえ」と褒めてくれた。
当たり前だが、自分一人で外国を旅をしていると、自分が主役だ。
注目を浴びるのはワタシ。
でも娘といっしょだと、注目は自然と若い女の子に集まり、私はたんなる保護者という扱いになる。
人々の反応はきわめて露骨で、おもしろい。
これは娘を持っていて、娘と旅行したことのない女性にはわからない実感だろうなあ。
娘といると、ひしひしと“世代交代”を感じる。
でも、注目されなくなって悔しいとかいう気持ちではなく、自分を褒められるより娘を褒められるほうが素直に嬉しいし誇らしいものである。
その反面、娘のいない女性は、死ぬまで自分にスポットライトが当たっていてうらやましいなとも思う。
私は、人といっしょに旅行をするときは、最大限相手に合わせることにしている。
今回は娘のしたいことをできるだけ叶えるつもりである。
「水晶餃」がおいしくて娘は感激していた。「帰る前に、ぜったいもう1回食べたい!」
まずは大好物の肉まん立ち食い。
大学時代、第二外国語で中国語(北京語)をとったかすかなおもひでのおかげで、数くらいは言えるので、それで注文すると、娘は
「おかーさんって、いったい何ヶ国語しゃべれるの!」
とびっくりする。
数字だけでも、子供からすると尊敬のまなざし。
雨を除けてアーケードに入り、そこで肉まんやあんまんを頬張り、
「手がベタベタになっちゃった。」
と言うので、
「しょうがないね、雨で洗えば。ほら。」
と、アーケードからぽたぽた落ちてくる雨垂れで先に手を洗ってみせると、これも尊敬のまなざし。
私はあなたに較べたら、そうとう旅の先輩ですからね。
肉まんだけでは育ち盛りの乙女にはまるで足りず、麺の店にも入る。思いがけずしゃれた内装
「コシヒカリ」の、台北の第一印象はすばらしくいい。
「おいしーい!」
「みんなニコニコしてやさしい!」
「なんかこの古びた感じ、楽しい。こういうところが歩いてみたかったの。」
彼女はアジア向きだ。
(2.一人旅のできる女の子につづく)
※松山空港に蝶のモチーフがたくさんあった本当に理由は“胡蝶の夢”ではない。
台湾は、世界一、蝶の棲息密度が高い国なのである。]]>
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