2010年 09月 07日
8月の最後の3日間、夫とふたりで、瀬戸内海の島のひとつである直島(なおしま)を旅行してきた。 高松の港から直島に渡るフェリーは、乗船開始時刻10分前にようやく船着き場に入った。 細いタラップは一方通行だから、下船するお客さんがすべて降りてから乗り込む。 わずか5分程度の停泊で、さっさと出港していく。 まるで路線バスの気軽さだ。 50分間の乗船時間は、あっという間に過ぎた。 瀬戸内海は、茫漠とした大海とちがって、島影の織りなす風景が刻々と変わっていくし、超大型の貨物船ともたびたび行き交うから見ていて飽きない。 船室内は、学生らしきお嬢さんたちや、まだ新婚気分のカップルのような、若い乗船客が目立つ。 直島観光協会のおじさんたちが、小さなホールに机と椅子を並べて、船の時刻表や食堂などの情報が書かれた島内のパンフレットを配っている。彼らは 「このパンフレットをお取りください。なお、島にご宿泊されずに、他の島へ移動されるかたは……」 などとひっきりなしに館内放送で呼びかけているから、若い乗船客とあいまって、なんだか修学旅行の引率の先生たちみたいだ。 我々は年齢からいうと引率のセンセイ側だけれど、ガイドブックも持っていない手探り旅行者なので、素直に観光パンフレットをもらいに行く。 このパンフレットは滞在中をとおしておおいに役立った。 宮浦(みやのうら)港に着くと、すぐにホテルの送迎バスに乗り継がなければならないのだが、運転手さんに 「ちょっとだけ写真を撮ってきていいですか!すぐ戻ります!」 と声をかけて、港の突端へと走る。 あれが、目当てだ! 草間彌生氏のアート「赤かぼちゃ」は、同氏が好むかぼちゃモチーフの作品のなかでも世界最大である。 遠くからでも、近寄っても、異様でナイス。 シンガポール旅行記でも、未来的ショッピングセンターの屋上庭園に置かれた草間作品をわざわざ見にいっている(第4回)。 本当に、来たんだなあ……と感慨深く思いつつ、また駆け足でバス乗り場まで戻った。 長年、この島にあこがれていた。 過疎と高齢化に悩む小島が、現代アートとの融合によって見事に再生した、というニュースだけはずっと前から知っていたが、単発のお祭り騒ぎでは終わらずに、ずっと来島者を惹きつけつづける理由はなんだろう? 安藤忠雄建築のホテル、ベネッセハウスってそんなにステキなの? ベネッセハウスのレストランのお料理がおいしいと聞いているけれど、そうはいっても田舎っぽいセンスだったりしないの? “アート”の言葉が空回りしているような作家たちの自己満足で島を荒らしたりは、していないの? そんな心配もある。 けれども、大好きな杉本博司や安藤忠雄、どうしてもそのミリョクから逃れられない草間彌生などのビッグネームをはじめとして、東西のアーティストが集結して作品をつくりあげているのだから、やはり素直に、「見たい!」と思う。 さあ、どんな体験になるか、期待と心配が半々である。 というのも、なにしろこの旅行は、私が夫に日頃の感謝を込めて飛行機からホテル、レストランの食事まですべてプレゼントしているのだよ。 これでこの旅行がいまひとつであったら、今年の夏休み最後の思い出が台無し(私のお財布も台無し)になってしまうのだ! ベネッセハウス“パーク”棟のエントランス。 ベネッセハウスは、安藤忠雄氏の建築であり、自然の地形をなるべく壊さないように(彼のコンセプトはいつもそうだ)、4つの棟にわかれている。 我々が泊まるのは、“パーク”という名前で、高級ホテルのお値段ながらも比較的安価なうえに、レストランやスパ棟、お土産のショップも併設されている便利な棟である。 安藤建築に泊まるというだけでも感激なのに、ホテルの敷地内には、アート作品がびっくりするほどたくさん展示されているという。 エントランス脇の階段を降りてみると、なんとー!なんとー!なんとー! 杉本博司の作品が、惜しげもなくどっさりと展示されている! 興奮して、いろんな撮り方を試しつづける我々。 暗いからいろんなちがった撮れ方になり、難しい。 有名な作品が、こ、こんなにいっぱい……到着早々、幸せの絶頂に達する。 しかも安藤建築と杉本作品は、たいへん相性がいいのね。 3日間の滞在中、ここを通るたびにえもいわれぬ幸福感に包まれていた。 初めて杉本博司の作品展に行って驚いた5年前(「杉本博司 時間の終わり」)の感動や、初めて光の教会を訪れた3年前(“イメージ”を獲得するための結晶として)の感動が、また新鮮に込み上げてきた。 なんか理想的なスタートよ! “パーク”棟には、まだまだいろんなアートが隠れているみたいだし! このまま、このホテル内をうろうろしているだけでも、幸せいっぱいの滞在になりそうだが…… いや、やはり出かけよう。 ホテルの敷地散策は夕方でも夜でもできるが、島に点在する美術館は閉館時刻が早いのだ。 宿泊客専用の島内循環バスに乗れば、暑い道を長く歩かなくてもすむ。 やっぱり、ベネッセハウスに泊まってよかった。 (その2・李禹煥(リ・ウーファン)美術館へつづく)
by apakaba
| 2010-09-07 12:26
| 直島旅行2010
|
Comments(10)
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kaneniwa at 2010-09-07 13:22
お連れ合いが石油会社に勤めておられる関係で、
ドバイからやって来て3年間家族ぐるみのお付き合いをして、 今年の春からUAEのアブダビに引っ越しすることになった奥さんが この直島のご出身でした。 お連れ合いはうちの野球チームで 「東海チャッカマン・背番号9」 としても大活躍してくれました。 三人のお子さんも、うちの三人の子どもと仲良しでした。 家族ぐるみでよくバーベキューパーティなんかもしましたが、 直島出身の奥さんは 「この町は本当に素晴らしいところ」 というのが口癖で、 長く住んでいる私の気がつかないこの町の魅力を たくさん教えてくれました。 恩返しは、直島に行って直島をほめまくることかな。 「森を愛する者は森に愛され、 海を愛する者は海に愛される」 (藤森宣明) BYマーヒー
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banana
at 2010-09-07 17:26
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お、直島だ。こんど帰国したら行こうと思ってたところなんです。有能なガイドブックにめぐりあえた感じ。ついでに、お値段なんかもチラチラと公開していただけると、参考になって助かります。
個人的には安藤忠雄の建築のなにがいったいよいのかぜんぜん理解できないけど、かれの設計による東京の某豪邸にじつは拙作が置かれていて写真でみるかぎり、けっこういいのですよ。ここも次回帰国のおりの見学予定地。 続編、楽しみにしてます!
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ぴよ
at 2010-09-07 23:12
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>自然の地形をなるべく壊さないように
と言うと、普通は「自然との共生→古民家風な建物」という発想にならない? 安藤氏の一見無機質に見えるコンクリート打ちっぱなしの建物群が 景観にピタリとハマるのが妙ですよね。とても面白い建物です。 蔦が育っていますね。もしかしたら5年後・10年後に訪れると また違った顔をこの建物は見せてくれるのかもしれませんね。
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のこのこ
at 2010-09-08 03:48
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この前友達に今度一緒にベネッセハウス行かない?
と誘われたけれど、しまじろうの世界とは程遠いオトナで高級でハイソな世界なのでしょう?子連れで行って楽しめるの? と答えたんだけど… もちろん旅好きだから興味はある。 でもとりあえず安藤建築にもピンとこず、その他現代アートの方のお名前も一人も知らない無学な私には無理かなあ…と、冒頭から意気消沈。
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saltyspeedy at 2010-09-08 10:19
上陸直後のフェリーのうしろに広がる空と雲が希望あふれる感じですね!
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apakaba at 2010-09-08 18:21
直島レス。
マーヒーさん、さらに人を愛する者は人から愛される……となれば、言うことなしですが。なかなかそううまくいかない世の常よ。 直島出身のかたと親しくしていたとは、驚きです。 さっそくその奥様とお話したいけど、アブダビは直島より少し遠いですね。 直島のいいところも、語ってくれるといいな。 bananaさん、いつも貴ブログ読むばかりでコメントしないでスミマセン。 「その1」のお値段は、高松〜直島のフェリーが500円くらい。 ベネッセハウスは食事込みと食事なしで差がありますが、一泊三万〜十万の間を行ったり来たりというくらいでしょう。 高松のうどんは東京よりだいぶ安かったです。 安藤建築は、好きな人と「どこがいいの?」という人にわかれるし、私は好きですが「どこがいいの?」と問いたい気持ちもよくわかります。 私はけっこう関西の建築もまわりました。 でもbananaさんの有機的な作品(と、勝手に想像している)と安藤建築は、これまた相性よさそうです! 私も東京の豪邸に潜入させてくださーい!(かなり本気です!)
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apakaba at 2010-09-08 18:34
直島レスつづき。
ぴよさん、コンクリートはすごくおもしろい素材で(自分の家として住みたくはないけど)、不思議とでしゃばったところがない建築になるのですよ! まちがっても乃木坂の国立新美術館みたいな造形には、ならないです(あっ)。 蔦がキレイだなと思って、エントランスのところをつづけて撮ってみたのだけど、蔦って建物を傷めるのよね。 建物に蔦をはわせるには、それなりに覚悟がいりますよね。 でもきっと、秋にはロマンチック、夏には涼しげ、生い茂ってきたらドラマチックになることだろう。
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apakaba at 2010-09-08 18:37
直島さらにつづき。
のこのこさん、そう、しまじろうのベネッセなのに、なんでこんなにイケてることになっているのかが、謎でしょうがないです。 ベネッセの社長という人がよほど文化事業に長けた才能のある人なのか、なんなのか……どっちにしろ、オトナ〜なホテルであることには変わりないのだけど、でも幼児や、ベビーカーで赤ちゃん連れてる人もいっぱい。 ただ、その子たちはみんな、食事中にすっごくおりこうさんだったので(いないみたいに静か)、それも不思議だったわ。 そういえば、和食のレストランは、小学生以上でないと入れなかった。 遊べる浜もあるし、アートの点在する庭園を散歩するのもいいと思う。 基本的には大人向けだけど、コンパクトな島なので、散策は子供でも十分楽しいと思うわ! ayaさん、「希望あふれる感じ」ってステキ! 実はこの旅行は、すご〜く体調が悪くて、地面を這うようにしてまわったのですが、写真はそんな事情をはねかえす上天気です。 たくさん載せていくので、おつきあいください。
直島への取り組みや、ベネッセが岡山に本拠を構え続けることを私は好意的に感じています。
逆に、東京(首都・都会)のお偉いセンセイが地方の時代とか共生とかをノタマッテいるのを聞くと辟易します。自分の位置は変えないまま、遠くから指揮する輩って、大嫌いです。 しかし、東洋の国って、なんでこんなに首都や大都市に人口が集中しすぎるのでしょうか。東京、ソウル、北京、上海、何か遺伝子の違いでもあるのでしょうかね。欧米は適当に分散しているようですが。満員電車や満員バスも東洋の傾向のようですし。群れていないとダメなのかな?
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apakaba at 2010-09-13 07:56
直島その1レス。
グッドバランスさん、コメントたくさんありがとうございます。 岡山が本社のベネッセ社員は、東京での仕事が夜になっても「これから岡山に帰ります」と帰っていくとか(夫談)。 交通網が発達すると、出張も日帰りで大変だけど、地方に大きな会社があるのはいいことですね。 ソウルも北京も上海も行ったことないので、体感したことがなくてなんともいえないですが……「群れていないとダメ」というのは、やや的外れなように思いました。 旅行ひとつとっても、イタリア人団体パックツアーなんて、すごい人数じゃん。 群れまくってるなーと。 でもイタリアには、ローマ以外にもいい街がたくさん。 たんに日本の地方都市に魅力を感じられない人が出ていってしまうという問題だと思っています。 |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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