2011年 04月 17日
はじめに 東日本大震災の5日後、3月16日から、ひとりで香港・マカオに行ってきました。 去年の12月から、「3月半ばなら、やりくりすれば仕事の休みも都合がつけられるし、浪人生の長男も進学先が決まっているはず。よーし旅行に行っちゃおう!」と、ひそかに計画をすすめていました。 元旦からバリとシンガポールに行ってきたばかりなのに、また? というよりバリ・シンガポールの計画と香港・マカオとが、同時進行だったのデスカ! と思われるでしょうが、私には、旅行がほぼ唯一の趣味なのです。 ほとんど病的に旅行が好きです。 旅先を香港・マカオに決めてからというもの、ずーっと楽しみで楽しみでウキウキしてきました。 ものすごく綿密な旅程を立てては再検討、また一から立て直してはにやにやして……この冬は幸せでした。 ところが、あの震災のせいで、幸せな気持ちは吹き飛んでしまいました。 出発の朝まで、行こうかやめようかと迷いましたが、思いきって行きました。 旅行中も、幾度となく「やめたほうがよかったかな」と考えたりしていました。 一人旅なので、手書きの日記を書きつづけていました。 この旅行記は、たった8日間の記録ですが、おそらく長大な連載になるでしょう。 私の旅行記は、いつものことですが長いわりにほとんど旅の情報価値がありません。 皆さん、長さに飽き飽きすると思いますが、どうか最後までよろしくおつきあいください。 とくに最初のうちは、旅を満喫する気分になれず暗くて不安な心情をつづっています。 読んでいて楽しくないと思いますが、これも旅の記録の一端として、割愛せず載せていこうと思います。 そのうち明るくなっていきますからね。 (そして長いけどモチベーション維持のために、是非コメントくださいね〜。) ※タイトルにはだいぶ悩みました。 香港・マカオは、昔から日本人にとってごくありふれた旅先であり、リピーターもたくさんいるところです。 「もっと冒険的なところにあちこち行ってるアナタが今さら、なぜ香港・マカオ?」と思う人もいることでしょう。 でも私にとっては、どの旅先も等しくおもしろいのです! なぜなら旅が大好きだからです。 この旅行記は、香港・マカオはほぼ初心者の私が、“香港・マカオ通”の人にこそ読んでもらいたいなという気持ちを込めて、あえて挑戦的に「あなたを連れて行く」という言葉を使いました。 いろんなおもしろいスポットが、どんどん出てきますよ! -------------------------------------------------------------------------------- 3月16日(水)曇後晴 旅の日記を、いつからつけなくなっただろう。 最後まで書ききったのは2000年のインドまで。 2002年のウズベキスタンは、途中まででやめてしまった。 この旅行が、たのしみでたのしみで仕方がなかった。 12月から動いていたし、この3か月というもの読書はほぼ香港・マカオの「歩き方」のみ。うれしくて楽しみで、ふつうの本が手につかなかった。 それでも、読書がストップしていたことを、ちっとも後悔してなかった。 私にとってここまで集中できて、ここまで夢中になって打ち込めるものって、やっぱり旅しかないんだなーということがわかるから。 旅日記を10年ぶりに再開してみようと思ったのも、見せることを前提としてブログ用に書く、ということに飽き、若かったころの旅日記の原点に戻ってみたくなったからだ。 まあそうはいっても、この日記も帰ってくればやっぱり不特定多数の人間に読ませることになるのはわかって書いているのだが、それでも、帰ってきてしばらくたってしまってから、写真を見てどうにか記憶を掘り起こして、どうにか形にして、「こんなのおもしろくないかなー」「長すぎるかなー」と迷い、読みやすい、軽く読める短めなものを書けば書いたで欲求不満。 昔の、自分のためだけに書いていた旅日記のほうが、よほどリアルで、自分でもおもしろいし感動してしまう。 書いている本人がつまらなかったり、無理するなんて愚かなことじゃないか。 だから今回は、文章の推敲はひとまず措いても、より正直に、よりリアルタイムに、より自己中心的にいく。 どれだけ長くなるかわからないが、どうせ旅はすぐに終わる。旅が終われば旅日記は終了。 終わりが決まっているものなんだから、自由に長く書いたっていいじゃないの。すぐに、日本に戻るんだから。あのニッポンに。 しかし……これほど楽しみで、興奮しきっていた旅行だったのに、あのとんでもないことのせいで、めちゃくちゃな気持ちになってしまった。 最後の最後の最後まで、迷ったけど、夫の態度がはっきりしていたから開き直れた。 「大丈夫でしょ、キャンセルする必要ないよ。行ってらっしゃい。」 と言う子供たちもすごいが、原発の最新情報を見ていた夫が、 「東京が今すぐどうにかなるわけじゃないし、むしろ長期戦になる。何日か旅行に行ったところで、戻るのは自分の家。東京から出るわけにはいかないんだ。同じことだ。」 と言ったことで、諦念の気持ちが湧き上がった(諦念というのも妙だが、いろんな意味で覚悟したということ)。 心配で心配で仕方がないけれど、できることなんてなにもないじゃん。 食料はあるし、家族は健康でぴんぴんしている。 だったら何日か留守にしたって、同じじゃん。 隣の親(私の親が住んでいる)は「こんな非常時にとんでもない。行ったって楽しくないからキャンセルしなさい」と激怒していたけど、空港から電話して、むしろ私は落ち着いた。 人を安心させるには自分が安心してないと無理なのね。 たかだか旅行だ。 帰れば思い出になっちゃうだけのこと。 今朝起きてすぐに、原発の状態が悪くなっていることを知り、かなり暗くなるが、やはり夫はすごい人だと思った。 結婚して20年……私のすることを「ダメだ」と頭ごなしに反対したことは一度もない。すごい強さだ。 日本が、このあとおそらく何年にも渡ってきずを残すことに、まさになろうとしているときでさえ。 なにもない状態のときに出られたら、どんなによかっただろう。 ほんの何日か前まで、私の計画は完璧だった。 (フライトやレストランなどの予約の)キャンセル待ちは次々ととれるし、思い煩うことはなにもなしに大いばりで出かけられるはずだったのに。 一夜にして、非国民、不謹慎、“こんなときに”と謗られることになる。 遊びって、タイミングだよなあ。 いつもどおりでいられることが、なんとありがたかったことだろうか。 でも、夫は私より弱いところもたくさんあるんだ。 彼が強く、しっかりしていられるのは、私がいるからなんだと気づいた。 私と生きてきた年月が幸せだったから、「今日一日を楽しく生きよう」と言えるんだと。 彼のすばらしい強さは、私といっしょに作ってきたんだな。 不全感の強い人間は、不安でイライラして、自分の不満の原因を外に見つけようとする。 私がいなくなって、夫は大丈夫かな。 それこそ、ずっとtwitterとか見つづけてしまわないだろうか。 私も、今回は初めて空港で搭乗ギリギリまでネットで原発情報を見ていたが、あまりにも情報が速いのも、人よりつらさを引き受ける時間が多くなってしまうと思った。 二人で、クルマに乗っていた時間(朝、出勤前に夫が羽田空港まで送ってくれた)、朝食を食べていた時間、まるで二度と会えないような感じさえしていた。でも空港にいる人々は、皆そんなに悲壮には見えない。とても不思議な感覚だった。この人たちはみんな、ぜんぜん情報が入ってないんだ……と思うと。 そう思ってしまうと、誰もかれも皆マヌケなように思ってしまうが、もしかしたら皆わかっていて、大騒ぎをしていないだけなのかもしれない。もしかしたら、この中には、被災地に縁のある人もいて、それでも通常の仕事をこなしている人もいるのかもしれない。というより、きっといるだろう。一度そのように考えを変えると、周りの人々が、今度は誰もかれもかわいそうに思えてきて、泣きたくなってくる。 やはり、私の心が不安定なのだろう。 1月のバリ行きのときにはまるで気がつかなかったが、到着エリアだけでなく、出発エリアにも千住博がふたつあった。 しばし見入って、心を静かにする。 飛行機に乗ると、もう観念した。 そしてそれなりに、眠ったり映画を観て過ごす。 機内映画は『わたしを離さないで』があったが、これはちゃんと観たいので、こらえて『バーレスク』にした。歌と踊りがいっぱいの明るそうな話がいいなと思った。 クリスティーナ・アギレラ嬢は、やっぱりかわいくてよかった。 すごく細いがやたらムネが大きい(ほしのあきのように)のは、やはりほしのあきのように入れ物なのだろうか。でもそうわざとらしくも見えないし。などと考えていると、原発のことがだいぶ薄れた。 やはり、じーっと家にいて、ひっきりなしに新しい情報をとってばかりいるよりも、べつのことをしたほうがいい。 (2につづく)
by apakaba
| 2011-04-17 00:31
| 香港マカオ2011
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Comments(11)
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キャヤジ
at 2011-04-17 00:54
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ほほう。
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apakaba at 2011-04-17 01:22
キャホウ!
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agsmatters05 at 2011-04-17 02:45
読みました。読ませていただきました。第一回目。
うん、たしかに、長くなりそうだわ。 でも、気になりますよ、先のこと。 だって、香港、マカオ、行ったことないんですもの、わたし・・。 旅行中の記録と、アップするときの「現在」の時間が重なったり、ずれたりするのも、きっとほっとけないのでは・・・?。キョウミ、しんしん。^_^
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タカモト
at 2011-04-17 08:32
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8日間!
そりゃぁ長くなりそうだねぇ。(笑) それだけあれば香港マカオは完全に制覇できたっしょ。 まーマカオでのバンジー体験していることを願うが。(笑) まー我家の場合は震災当日の出発だったんで諦めましたけど。 羽田までの交通が完全に無かったし。 ちなみに旅行代金は全額返ってきますた。 まーその出発日なら俺でも行ったなぁ。 正直、それはそれで(自粛とか)これはこれだし。(娯楽とか) ダメだよ、バーレスクはせめてDVD(テレビ)で見ないと!
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ぴよ
at 2011-04-17 12:48
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香港・マカオ未踏の私も連れてってもらえるでしょうか?^^;
うちのダーだったらきっと大反対しただろうなぁ~。 アナタが羨ましいわ。強くて頼り甲斐のある夫を持って。 その強さを作ったのがアナタだというのもとても頷けるけど。 あー。私って「夫作り」に完全に失敗したのねー(涙
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banana
at 2011-04-17 16:14
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ダンコと旅立て! 去年、知り合いが家族旅行(夫婦+小学生2名)でバリにくる前夜、こどものパスポートの有効期限が切れているのに気づいたけど熟慮のすえ、こどもを置いて夫婦だけでダンコと旅立ってきましたよ。
震災3日後、ひとり友人がバリに来ましたが、出発日成田エクスプレスは不通、品川からタクシー飛ばして成田にぶじ到着。 眞紀さんとおなじく去年の暮れから予定していた旅行だから、あきらめきれなかったみたい。 ところでこの文章、最初にアップされたときにくらべて短いんだけど、カットされましたか?...ユメでもみていたんだろうか。
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のこのこ
at 2011-04-18 00:10
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うわあ~なんと一人旅でしたか! しかも8日間の大旅行。
ご主人とラブラブ旅行は申し訳ないけど読む気になれませんが、一人旅なら読めるかな。と思ったらやはりご主人登場で…羨ましいですほんとうに涙 香港マカオ、私も未踏で今行きたい、というか未踏且つ三人連れても行けそうな国の筆頭なので、楽しみにしていますね。
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apakaba at 2011-04-18 11:48
香港マカオ1レス。
ミチさん、さっそくありがとうございます。 長大連載になってしまうだろうけど、せっせと手書きで日記を書いていたのでそれを書き写すだけなので、けっこう簡単です。 今のことを書くとどうしても暗くなってしまいがちだし(1回目も十分に暗いですが、2回目からいきなり明るくなります!) タカモトさん、バンジーやってないって……最初から希望を打ち砕いてスミマセン。一人でやっても誰も褒めてくれないしつまらんよ! ああいうのはわいわい友だち同士ででもないと! 3月15日がちょうど原発が非常にまずくなって、16日出発だったのでかなり動揺していました。 旅行中に次の大きな地震とかがなにもなかったからよかったけどね。 『バーレスク』はよかったなあ〜。日記原文には「タカモトさんが、クリスティーナ・アギレラがかわいいと言っていた」と書いてありました。
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apakaba at 2011-04-18 12:01
香港マカオ1レスつづき。
ぴよさん、意外と未踏という人もいるんだね。 私が韓国も台湾もハワイもグアムもすべて未踏、というのと同じようなものかな。 あまり、ばっちり観光スポットというところに行っていないので、もしかしたら読んでもよくわかんないかも。 では8日間も一体何をしていたのでしょう…… 夫はバリ&シンガポールでもわかるとおりの、へなちょこで女の子みたいな男だけど、この出発の朝は感動しました。 bananaさん、そんなわけでダンコと旅立ってます! 長さが変わったように見えるのは、おそらくMore機能(つづき部分が隠されている)のせいではないかと! のこのこさん、このあとは夫はほとんど出てこないです(当たり前だよ) 香港は空気がひどく悪いのと、地下鉄中心で地下へ降りていくのにベビーカーだとメンドクサイかな。 マカオは石畳がベビーカーにはメンドクサイかな。でも私も、ネパールの石畳すらないボコボコガタガタの未舗装道路を根性でベビーカー押してたしな。現地のひとをとっつかまえて赤んぼ抱っこして進んだり……それに較べたらまるで快適で東京くらいのレベルかも。 ただし空気は東京よりずっと、ずっと悪いです!
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えみぞう
at 2011-04-18 12:47
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最近、心にずしん と来る事があったんですが、 眞紀さんの文章見てすごく救われた気持ちになりました。ありがとうございます。
8日間の旅日記楽しみ!私が最後に香港行ったのって返還半年前だったから随分様変わりしてるんだろうなぁ^^
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apakaba at 2011-04-18 13:04
えみぞうさん、こんな暗いスタートではみんな嫌な気分になって、読み続けられないのでは(人に愛される旅行記を書きたいです!)と思ってたので、こちらこそうれしいです。どうもありがとう。
返還前の熱気も知りたかったな〜。 でも当時は、「香港なんて、いつでも行けるし興味なし」と、中東や南アジアばかりに目が向いていました。 今ではどこも等しく、楽しくなりました。 |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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