2011年 05月 10日
3月18日つづき。(前回分はこちら。スタートから読まれるときは第1回分からどうぞ) 衙前圍村(アーチンワイチン)に限ったことではないと思うが、村の人々は写真を撮られるのを好まないとどこかのページで読んだので、遠慮がちに入っていく。 ナルホド、昔ながらの風情のある場所である。 しかし、どこもとんでもなくボロいぞ。これはスクラップしなくてもスクラップ同然なのでは……朽ちていくに任せるという状況なんですが……と、なんだかんだと写真を撮り歩く。 細い路地が碁盤の目になっていて、たしかに外からは家の中がわかりづらく、閉鎖的な構造だ。どこが玄関かもわからない。 しかし村の正面の入り口からずっとまっすぐ行くと天后廟があり、制服を着たおじさんらしき人が廟の入り口の脇にイスを置いて座ってず〜っとこっちを見ている。 あの人が気になって、いつ怒られるかとびくびくしたままカメラをあちこち向けるのも気が引けて、彼の目の届かないところでこそこそ村の様子を撮ったりする。 だがきわめて小さな村なので、結局はあっという間にその一番奥にある天后廟に到着してしまった。 (いつつぶされるのかは知らないが)つぶされることが決まっているこの村のために、めずらしくお金を置いて線香の束を買い、手を合わせた。 ところが、し慣れないことをするものだから線香をうまく立てられず、制服のおじさんにお任せする。 おじさんは英語が一言も話せないようだがおかまいなしに広東語で線香の扱い方を説明してくる。 参ったなと思っていると、彼はそのまま私を相手に猛然とおしゃべりをし始める。 私が、自分のことをヤップンヤン(日本人)と言うと、おそらく彼の昔話なのだと思うが、自分が前に会った日本人の話かなにかを息つく間もなくしゃべりまくり、その上いきなり歌を唄い出すし、初めはあっけにとられていたが、どうやらまったくもって同じエピソードを果てしなくくり返している模様で、歌(「カリーサカリワー、ホリーサカリワー」とかなんとかいう)も10回以上そのフレーズを唄い、あいまに「アリガト!」と直角におじぎも入れるので、ひょっとしてこの人は頭の具合に問題のある人なのではないかと疑った。だが彼の活き活きした表情や、よどみない口ぶりや目の動かし方からすると、ごくふつうの人のようである。第一、肩には「香港警備」という徽章もつけている。いくらなんでも、知能に問題のある人が警備の職にはつけないであろう。 「アリガト!」というおじぎも、彼が昔なにかで会った日本人の真似をしているようだ。 つまり彼はものすごく人好きで、話し好きで、しかも孤独なのだ。5分ほどの苛烈なおしゃべりに笑ってつきあい、切り上げた。彼は再生ボタンからスイッチを切るボタンに切り替えられたキカイのように、フッと黙りこんでもとの人に戻った。そしてさっとどこかへ消えていってしまった(木のイスごと)。 目の前に来たバスに乗って、チョンキンまで戻ってきた。 漢字が読めるというのは実にスバラシイことだ。一瞬でバスの行き先がわかるので、漢字が読めない国の人よりなにをするにも圧倒的にアドバンテージがあるよね。 おとといの夜にちょっとだけ行ってみたウッドランズを再訪してみる。 チョンキンマンションの地下にできたという新しいこぎれいなショッピングモールだが、思っていたほどおもしろくない。これは数年で閉鎖か?と思う。 やたらきれいでシャレたつくりをしているが、お客さんがちっとも入っていない。 多少なりとも人がいるのは飲食店だけ。 ご多分に漏れず、私も蘭芳園(ランフォンユン)で15ドルのミルクティーを飲むだけにする。 蘭芳園(ランフォンユン)は中環(ヅォンワン)にある老舗の喫茶店で、このウッドランズに初の支店を出したというので、とりあえず看板メニューのミルクティーだけでも試してみようと思った。 評判どおり、たしかにおいしい。 でも湿地公園で飲んだアイスミルクティーもおいしかった。老舗の味はやはりちがう!と唸ってしまうようなものでもなかった。 レトロチックにまとめた店内はなかなかよろしい。 お茶のあと、荷物を受け取りにホテルへ。 朝のうちにチェックアウトは済ませて、スーツケースだけ預かってもらっていた。 ちょうどレセプションに日本人がいた。 四十絡みの小太りな男性で、英語もぜんぜんダメっぽい。マダムを相手に奮闘している。 両替をしようとしているらしいので、レートはこのチョンキンの中では大きくは変わらなかったなどとアドバイスする。 「ありがとう!そういう情報助かります!」と感謝されて、ああ昔々、こういう会話をタビビト同士で交わしていたことよ……と、なつかしい気持ちに一瞬だけ浸った。 こういう口コミの旅を、もうずーっと、10年くらいしていなかったんだな私は。 彼は東京在住のようだが関西弁バリバリで、地震のことを私が聞くと、(原発は)よくはないが食い止めている状態だと教えてくれた。 それを聞いてものすごく安心した。 テレビのニュースではおそろしい映像ばかりくり返し流すし、国外に逃げていく外国人の様子が流されるのでまさか放射線量がそこまで高まっているわけがないとは思いつつ気が滅入っていたのである。 とくにインドのニュースの作りはなんじゃありゃ。 いかにも悲しげなBGMをかけて、悲惨な被災者の短い映像を何度も何度も何度も何度も、しつこく流す。インド映画とまったく同じノリでインド映画なら楽しめるがこの調子でニュースもかよと思うと呆れる。 これでは映像に毒される。インド人のマインドとは一体なんなんだろうか。しかし中国のテレビもややそれに近い。アドレナリン噴出国家のニュースはこんな調子なのか。 それでもその日本人に、連休だから旅行ですか?と聞くと、 「そういうつもりではなかったのだけど、電車が動かなくて自宅待機とかになっちゃってどうせ仕事にならないから。」 と言う。 また少し心配になる。 あまり旅慣れていない感じの人で、私のことを「もしかして広東語べらべらとか」と言う。あまり親切にしていっしょに旅しましょうとか言われてもメンドクサイので、旅の安全を祈って別れる。 (12につづく)
by apakaba
| 2011-05-10 18:53
| 香港マカオ2011
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Comments(8)
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ogawa
at 2011-05-10 22:18
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おお、まさしく「囲」だ、こんな場所にあったのですか?
あの時、土砂降りでなかったら時間はたっぷり会ったので探しにいっていたはずなのに。 あれから10数年経っていますが、まだ残っていたのですね。 写真を見る限り、10数年前の鑚石山(ダイヤモンド・ヒル)と同じ雰囲気ですね。 鑚石山は香港返還後、1年足らずで更地になっていましたが、囲は、この様子だとしばらく大丈夫そう。 う~ん、行ってみたいぞ。 次、香港行くまで残っているかな。
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apakaba at 2011-05-11 07:47
ogawaさん、ogawaさんの代わりに行ってきました!(ウソ混じり)
ogawaさんの旅行記を読んでいなかったら、例の『香港路線バスの旅』に書いてある村の記述を読んでも、ふたつがつながらなかったと思います。 偶然に導かれて旅をするほど楽しいことはないですね。 だからこそ、ガイドブックや人の旅行記を緻密に読んで、自分で計画することも意味あることだと私は思うのです。 ダイヤモンドヒルはバス路線のスタート地点として数度行きましたが、もう再開発で、ドデカイ無味乾燥な建物群になっていました。 このよくワカラナイ「圍」村も、そうなるんですね。 いつ壊されるんだろう?
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ぴよ
at 2011-05-11 23:16
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apakaba at 2011-05-12 18:06
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at 2011-05-13 18:49
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
こんにちは~(^o^)
今、すごい不思議な感覚で読んでいます。 第11話の冒頭の写真を見たとき、「ここ、そのうち無くなるから、見に行ったほうがいいな」と感じました。 第10話で、再開発のため取り壊し、の記述があられますが、読み飛ばしていたようです。写真が語りかけてきたとしか思えない感覚。 さっき、作りかけのプラモデル(ガンダム)の重要な部品を無くしたと思って、しばらく凹んでいました。 ところが、ひょんなところに引っかかっていたのを発見し、神様に感謝していたところです。 脳に風が吹いているのかな?ただでさえ風通し好いのに(^^ゞ
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apakaba at 2011-05-14 14:30
カギコメさま、お知らせありがとうございます!
実は、ウソだと思われそうだけど、きのう吉祥寺で雑貨屋さんの横を通ったときに、「かわいい財布だなー。ピンクのお花の財布のお話はどうしただろう」と、思い出していたのですよ。 とてもうれしいです。 メールでご連絡しますね! あと、twitterもフォローありがとうございます。 あちらは読むだけで自分からはほとんどなにもツイートしませんが、よろしく。
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apakaba at 2011-05-14 14:36
ぐっどばらんすさん、村の入り口の写真は、おどおどしながら撮ったのでシンメトリーが崩れていて不満でした。
でも写真の出来不出来よりも、「今から入ります」という気持ちと、滅びゆく村の写真記録という意味で、ヘタだけど採用しました。 第12回の写真を見ても、「隅に余計なものが入ってるなー」「構図が甘いわー」と、反省することばかりです。 どうしてもっと、吟味して撮らなかったのだろうと悔やまれます。 それでも図々しく載せちゃう。 写真ってやっぱりそのとき限りだもんね。 うちの息子たちも、小学生のころ、さんざんガンダムやクルマのプラモデルを作っていましたよ。 男は黙ってプラモデルだ! |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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