あぱかば・ブログ篇

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2011年 06月 13日

あなたを香港・マカオに連れて行くよ・23

3月21日つづき。(前回分はこちら。スタートから読まれるときは第1回分からどうぞ)

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清水湾への道中のまんなかへんに、香港科技大学がある。ロータリーをひとまわりして、すぐにもとの道に戻った。
そのとき、“帰りにここに寄ってみよう”と決心した。
バス停がずらりと並んだロータリーには学生がいっぱいいて、名門大学のキャンパスを歩いてみたくなった。それに、往きと帰りとまるで同じバスというのも芸がない。でも帰りにはすっかり夜になるかもしれないなあ。まあ夜遅くにほっつき歩いていたって誰にも責められない自由の身だからいいか。
早々にホテルに戻ってもしょうがないもんな。




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2階建てバス2階席最前列で、例によって本のコピーを膝に置いて景色を確認

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大気汚染の中心部とは空気がちがう!

清水湾が近づくにつれ、せっかく持ってきたページのコピーを、実際にたしかめる喜びを味わえなくなってきてイライラする。
天気がひどく悪くなり、雨まで降ってきてしまった。あんなに晴れていたのに。傘持ってこなかったよ。
記述のとおりの風景のはずなのだが、なにしろ視界がきかず何も見えないのだ。まいったな。

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限りなく心細い終点

終点の清水湾に到着したときには、私ともう一人の女性の二人きりだった。
その人は何か用があるらしく、浜辺へのコンクリートの階段をさっさと迷いのない足どりで降りていき、私もあわてて追いかけるようにして(なにしろ霧雨でひとけもなく、どこをどう歩けばいいのか見当がつかないため)その人につづいて階段を降りたが、段の途中で左右の木立に一瞬気をとられている間に、うす紫の服を着たその女性のうす紫は、霧の中に溶け込んでしまった。

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私があとを追って砂浜に出たときにはもうどこにも姿がなかった。
水の中に入ってしまったのかと少しだけ沖を見ようと努力するも、霧雨のせいでなにも見えない。
足どりもふつうだったし、なぜこんな夕方に海に降りていくのかが不可解だが私だって来ていることだし、砂浜を通ると自宅への近道になるとか、そんなことだろう。

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よく、えんえんとつづくサバクを車で走っているときに、いきなり人間が歩いていたり立ち止まっていたりしてギョッとすることがある(炎天下なのに)。
そこまで過酷ではないにせよ、日本の離島などでも、人家の見あたらない山の中のバス停におばあさんが一人きりで待っていたり、下車していったりするが、ああいうのはただもうびっくりするし、「あの人には勝てない……」という気持ちに、なぜかなる。

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青い海が輝く太陽の下で手まねきする……水着を持ってきてもいず、まして気温も海水浴をたのしむほどには達していないけれど……香港中心部とのギャップと、その青さにつられてうっかりと一歩二歩、踏み出しそうになる……誘惑に、勝てるだろうか……?
……などという妄想を、“清水湾”の名前を見て以来、描いてきた。ここ何か月もだ。
今、うす紫の人が消えた海岸の光景は、その妄想から最も遠く離れたところにある。
6時をすぎてうす暗くなってきており、濃い霧で視界はふさがれている。海は青くない。
雨が次第に衣服を重くする。

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だったひとつ、妄想と一致していたことは、早すぎる季節だが待ちきれずに水着になって海に入っている人の姿だった。
年はわからないが、比較的しまった体の男女が、水着でいた。なんとなく、よかった。
砂遊びをしている幼い子供たちもいた。
ということは、うす紫の人が消えた今、最もこの海辺で場違いなのは、私だなあと悟った。
ひとめで短期旅行者とわかる。
ちゃんと本のとおりのバス旅を満喫できたことだし、予想と似ても似つかぬゴールの光景にがくぜんとすることもできた。帰ろう。

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暗くなったバスターミナルで待っていると、時おり、濃霧の中から忽然とバスが現れる。
自家用車はほぼ通らず、その、たまーに現れるバスのどれに乗ったらいいのかよくわからない。
そのうち、そのターミナルでたった一台だけしばらくの間停まっていたバスが発車するので、それに乗った。
一人きりでこのまま待ちつづけるのは、心細かった。

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清水湾のバス停を出てすぐに、おじさん一人が乗り込んできた。
彼は、始発から乗っていた夫婦とたちまち意気投合して話し始める。
どうやら海で獲った貝のことを自慢しているようだ。
おじさんは得意げに「こんなに獲ったよ!ほーら」とばかりに、大声で話しながらびくの中身を見せる。中には網が入っていて、ザーッと中の黒い小さな貝が網ごと持ち上げられた。おじさんおばさん夫婦は感心しきりである。
そのうち、こまめに停まるバス停ごとにお客さんが乗ってきて、わいわいとにぎやかに皆で話している。今出会ったばかりのはずだがすごいうちとけ方だ。これぞローカルバスという風情。

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こういうにぎやかさがなつかしく、心地よい。
思っていたよりも、震災は私の心の深くをふさいでしまっていたらしい、ということが、いきなりわかった。
誰も私のことを異邦人として注目しないし、意識していない。私は彼らのおしゃべりのまんなかにいるのに、まったく存在していないみたいだ。それでもこの知らない者同士のひとときの盛り上がりを、通りすがりにちょっとたき火に当たらせてもらうみたいに、あたたかく感じる。
たちまち盛り上がる田舎っぽさと、私に注意を払わない都会慣れした感じがちょうどいいバランス。(これでもっともっと外国人がめずらしいところだと注目されて面倒。)

24につづく)

by apakaba | 2011-06-13 18:30 | 香港マカオ2011 | Comments(2)
Commented by minmei316 at 2011-06-16 18:41
お天気がよければこの記事の内容も
すこし変わっていたのでしょうけれど
わたしは好きですね、この記事。
哀愁漂ってる感がいい。
わたしはapakabaさんのこの記事を読んで
霧雨の清水湾を見に行きたくなりましたよ。

やべ。わたし、病んでるか?? (笑)
Commented by apakaba at 2011-06-16 23:38
minmeiさん、前回分に抜粋した、『香港路線バスの旅』の文章に「この地名は裏切らない。」とあったのに、そしてその一文にあこがれてここまでバスに乗ってきたのに、こうまでも見事に期待を裏切られると、気持ちいいくらいです。

しばらく文芸調の旅行記がつづきますが辛抱ください!


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