あぱかば・ブログ篇

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2012年 02月 13日

ミカエルは天の使いだ!——『ドラゴン・タトゥーの女』

“フィンチャーが『ミレニアム』シリーズを撮る”と知ってから、公開に間に合わせようと、この年末年始は原作のシリーズをぶっとおしで読んでいた。
厚い文庫6冊を読み終えて準備万端。
今回は、三部作の一作目にあたる。

オープニングが、呼吸を忘れるほどのすばらしさだ。
ツェッペリンの『移民の歌』のカヴァーが爆音で響き渡り、不吉な予感が画面からドロドロと流れ出るような、極限まで暗い、絶え間なく挑発的な映像。
胸がどきどきする興奮と、ビーンと体の芯がしびれるような陶酔感が同時におしよせる。
このオープニングを見るためだけにもう一度劇場に来てもいいと本気で思った。
自宅ではぜったいにこの息を呑む感覚は味わえないであろう。

ストーリーはどちらかというと古典的な“密室サスペンス”もの。
大富豪ヘンリック・ヴァンゲル老人が、40年前に失踪したままでいる親族の少女ハリエットの行方をさがすため、雑誌『ミレニアム』の記者であるミカエル・ブルムクヴィストに極秘の調査を依頼する。
ヴァンゲル一族が住むのはスウェーデン北方の街ヘーデスタから、さらに橋一本のみでつながったヘーデビーという孤島(だから一種の密室事件である)。
最初は乗り気でなかったミカエルだが、いつの間にか謎解きの魅力にからめとられ、島に住み込んで調査をすすめる。
だが一人ではこの一族の謎を解くのは不可能と知り、助手としてリスベット・サランデルという若い女性調査員を雇う。
彼女は極端に無口でやせっぽちで無表情で反社会的と受け取られる外見をしているが、調査の腕は超一流だ。
二人の力で、謎は徐々に解かれていくのであった。

三部作、文庫6冊分をぶっつづけで読んでもまったく飽きさせなかった原作を、フィンチャーがどのようにまとめあげるのか……たいていの場合、原作がいいと映画は失望するものだから……と、(フィンチャーならやってくれる!という)期待も大きかったが同じくらいに(セオリー通り、失望パターンかも、という)心配もあった。
見てみての感想は、
「やっぱりフィンチャーはすごい」
よくもあれだけの長編を、158分にまとめたものだ。しかも少しも飽きさせることなく。
原作を読んでいなくても、きっと次々出てくる登場人物たちすべて「こいつが犯人か?」と、いかにもあやしそうに思うだろうし、読んでいる者には、あの暗く寒い島の風景が、夢中で読みながら思い描いていた風景とぴったりと同じ(よりクリアであり、いかにもフィンチャーらしい、さらに暗く不吉なトーン)であることに興奮するだろう。
カーチェイス・アクション・派手な爆発シーンなど、映像ならではの強みもたっぷりと見られる。
原作を読みながら「これが映像になったら、どんなにいいだろう」と想像したものだ。

主演がダニエル・クレイグだと知ったとき、かなりとまどった。
原作のミカエルは一本気な正義漢だが、さして腕っぷしが強いわけでもなく、どちらかというと気さくでハンサムな優男といったイメージだ。
身の危険が迫ったときは、小柄なリスベットに命を助けられたりしているへなちょこなのだ。
だがきわめて女性にもてるし、きわめて女性関係にだらしない。
自分からアプローチしなくても、引きも切らず女が列を成して「抱いて!」とせがんでくるタイプ(しかもすべてに誠実に対応することができる)。
ダニエル・クレイグは、もっと男くさくてマッチョで、ピンチのときも一人で敵をやっつけてしまえそう。
これじゃ原作者スティーグ・ラーソンが意図していた“ふつうの男と女の役割を逆転させたかった。女のようなミカエルと、男のようなサランデル”という構図が崩れてしまわないのかな?
だが、さすがにダニエル・クレイグは、そんなジェームズ・ボンドなままのダニエル・クレイグではありませんでした。
きっちりと、へなちょこになっていた。
映画評ではリスベット役の新人女優ルーニー・マーラの好演ばかりに注目が集まっているが、彼女がいいのは見る前からなんとなく予想できただけに(初登場シーンの後ろ姿の歩き方だけで“この女、ふつうの人間とちがう”と十分感じさせる)、ダニエル・クレイグの見事なミカエルぶりは、原作を読破したばかりの私にはよけいにうれしかった。
黙っていればいい男だが、そこはかとなくがさつで隙がある。
そこが憎めない。
鉛筆をくわえる、資料のページをめくるたびに指をなめる、飛行機の中でスコッチと水の瓶をいっぺんにカップに空ける、めがねを聴診器みたいに耳から顔にぶら下げてしまう。
“ブンヤっぽい(雑誌記者だけど)”とでもいったらいいのか。
そのへんの細部の作り込みが、ものすごくミカエルをミカエルらしくしている。

ひとつ残念なのは、ミカエルとリスベット・サランデルのつながりと、ミカエルの放埒な女性関係をもう少し描いてほしかったというところだ。
158分、謎解きが忙しいのは察するが。
調査会社の上司アルマンスキーが目撃する、ミカエルの冗談でリスベットが大笑いするというちいさなシーンは、是非挿入してほしかった。
ミカエルに惹かれていくリスベット・サランデルの心情は、続編ではますます大事になる。

さらに、彼が女好き……というより来る者を決して拒まない、しかも完璧に満足させてしまうという天与の資質は、『ミレニアム』シリーズをとおして非常に重要なことだと思うからだ。
年増でも、人妻でも、少年のように痩せたカラダでも、筋肉隆々の巨大な女でも、彼は迫ってこられれば等しく誠実にベッドインして満足させる。
ミカエルは、すべての女にとって、天からの使いのような男なのだ。
大天使ミカエル。
彼の前でなら、すべての女は心も体もありのままをさらけ出せる。
ものすごい才能だ。
つまり彼は、すべての女の欲望の対象であると同時に、すべての男のあこがれの対象にもなりうるのである。

原作の題名は『ミレニアム』ではなく、『女を憎む男たち』だという。
この大長編小説は、つねに男が女を不当に蹂躙しつづける。
各章のはじめに、スウェーデンでの性暴力についてや、アマゾネスの伝説など、フェミニスティックな示唆に満ちた挿話が載せられている。
ステキな北欧の国スウェーデンという、多くの日本人の幻想は即座に打ち砕かれる。
過酷な過去を持つ孤高のヒロイン、リスベット・サランデルは、女性の怒りと復讐心の権化としてある。
そのリスベットでさえ、ひととき心をゆるしたのがミカエルなのだ。
ミカエルだけが、暴力をふるう側の男と、ふるわれる側の女たちとの、唯一の橋になっているのだ。
このあたりの描き込みがやや少ないばかりに、ミカエルがただのへなちょこないいヤツになっているように見える。
続編でさらにベッドシーンを充実させることを、強く希望する!
そしてダニエル・クレイグの局部が見たい!
毎度思うが、なぜモザイクなのか。
あのきたならしいモザイクのせいで、監督の意図とはかけ離れた絵になってしまっていることだろう。
必要があるからこそ局部を映しているはずなのに。
フィンチャーだって怒ってるぞきっと。
第二作『火と戯れる女』が待ちきれない。
ああ、なんとかして、ダニエル・クレイグのモザイクを取っ払えないものだろうか……!?

by apakaba | 2012-02-13 21:09 | 映画 | Comments(9)
Commented by タカモト at 2012-02-13 22:27 x
俺はルーニー・マーラの局部が見たい!
不特定多数での局部公開はキビシイのかと。
きっとDVDになればどちらの願いも叶うのかと。

俺は原作を読んでいないのでどれだけ原作に忠実なのかはわからないけど。
まーでも、わからないのはそれはそれで面白いけど。

とにかく数ヵ月前に何の知識も無く見た予告編でやられた俺。
かっこよすぎるてスタイリッシュ過ぎて。
全くセリフのない予告編でやられたぜ。

確かに。
あのオープニングでもうまいったね。
あれはダニエル・クレイグ主演の007のオープニングとか、
タランちゃんのオープニングをもっとドロドロした感じでサイコーでかっこよかった。
が・・・確かに面白かった、「星よっつー!」なんですけど。
あまりに予告編の出来とオープニングの出来から言ったら、
もっとクレイジーな演出でもよかったんぢゃねーかなぁ。
狂気とかではないんだけど。

嫁と俺の一致した意見。
本編終了後が長すぎ。
リスベット・サランデルの恋心はあそこまで必要だったのか?
最後のシーンで彼女が可愛く見えてしまって一気にクソ恋愛モノに成り下がったか。(笑)

まーそれを差し引いても4☆ですけどね。
Commented by apakaba at 2012-02-13 23:44
ルーニー・マーラの局部は当然、見たいよ!
彼女なら、もう一コくらい局部周辺にピアスしててくれるか?って期待させるよね?
ネット情報では「パイパ○か?」という噂もあったし……しっかり映っていれば「ナルホド、リスベットらしい局部ですな!」ってみんな納得すると思うしね。
やーん早く見たい、待ちきれない。

あの予告編見てやられないやつはどうかしてるでしょ。
とっぴょうしもなくカッコいいもん。
予告だけ何遍見てもいいやと思っちゃう。

リスベット・サランデルの恋心は、このあとけっこう重要になってくるので、私はもっといちゃいちゃしてもよかったと思ってた。
ミカエルとの不思議な友情というか結びつきというか腐れ縁というか……なんかほほえましくて痛々しい感じの。
映画だとそのへんの描写が弱いかな。
きっと続編では補うと思われ。

そして原作ではミカエルのベッドシーンはあの10倍はあったので……いささか拍子抜けしました。
Commented by agsmatters05 at 2012-02-14 02:49
はーい、あぱかばさん、Facebook のほうから入ってきました。面白かった、まきさんのこめんと。脱帽です。私、原作を全部読み、スエーデン製とハリウッド製の映画両方見て、どれもこれも、スティーグ・ラーセンがらみはまるごと大好き、ラブでちゅよ、というかんじでしたけど、まきさんの上の記事の迫力、緻密さ、そして大胆さには、まったく参りました。私も書きたいことちょっとだけ残ってるので、ブログに書きたいと思ってるけど、マキさんの記事で倍ぐらい楽しませてもらいました。なになに、出だしの音楽?またみなくっちゃ・・・全然覚えてないわ。そうそう、女の心を持つ男という設定の主人公だから、007シリーズのアクターがやるのは、逆の意味でハンディーがあるわよね。先入観というか・・・。私、最後近くの拷問シーン、先を知っているのに、見るのがつらかった。要するにものすごっく単細胞でできてる観客でしたからね。それにしても天才ハッカーの報復は胸のつかえがスーっととれました。まだまだいろいろ書ききれないけどとりあえずこれで。
Commented by apakaba at 2012-02-14 07:42
ミチさん、ミチさんがブログで『ミレニアム』を大きな字で推してくれなかったら、私も興味を持つことはなかったかもしれません。
ほんとにありがとうございます!
スウェーデン版は見てないけど、きっとフィンチャー版がレンタルされれば、いっしょにレンタルの棚に並ぶようになるでしょうね。

スティーグ・ラーセンはこのあともまだまだ書くつもりだっただろうから、死が悔やまれますね。
リスベット・サランデルの双子の妹もまだ登場してないし。
あの筋肉隆々の女性のその後も。

まあ小説と映画は楽しみ方も切り替えないと、というのはありますね。
私は、よく書いているように、映画はなによりも「俳優の演技」に注目しちゃうタイプなので、今回のミカエルっぷりには舌を巻きました。
ダニエル・クレイグが俳優としてあんなに大化けするとは。
チョイ役時代を思い返すと感涙です!
リスベット役も、ミリ単位の表情筋の動きで心情を表すのだから実にすごい人です。
足早なのにのそのそした歩き方ひとつで、常人とはちがう雰囲気ばっちりだし(登場シーンの歩き方には参りました)。
Commented by apakaba at 2012-02-14 07:42


それにしても、あの映画はやっぱりフィンチャーでしたね。
オープニングのツェッペリンはフィンチャーの世代にはどまんなかだし、猟奇的なシーンでエンヤをもってくるのは『アメリカン・サイコ』へのオマージュかな?と思ったり。
頭を怪我したミカエルが「ちくしょう!ものすごく痛いよ!」といいながらベッドルームでパンツ一丁で痛がっているところ、後ろから見ると半ケツです……とか。
あの半ケツを見たら、そりゃあリスベットでなくても服脱いで突進しますよね。
さすがフィンチャーでした。
Commented by Akiko at 2012-02-15 18:56 x
私もいちいち痺れましたよこの映画!去年「ソーシャル・ネットワーク」(私の中でほぼトップ、「英国王のスピーチ」より断然良かった)、今年これですからねぇ、フィンチャー節さいこうです。オリジナル、本作、原作、どれも違うから語りたくなりますね、ミカエルはセシリアと寝るべしとか、とかリスベットの人物造形が可愛すぎるとか…Twitterも賑わうわけだ。いよいよ原作2・3を読む気が起きました←まだ読んでないという
Commented by apakaba at 2012-02-16 08:02
Akikoさん、ツイートのほうで「映画のほうがよかった。原作ではリスベットのミステリアスな魅力がなくなっている」というようなことを書いていたでしょう。
あれがとても興味深かったです。
あの時点では、まだ公開前だから、映画とはスウェーデン版のことですよね。
「ナルホド、映画から先に入った人はそんなふうに原作を読むのか!」と、新鮮でした。

ルーニー・マーラはまったく名演でした。
なにかしゃべっても、言い終えるとふーっと心の殻の中にもどってしまうときの動き方なんかホントにすばらしいです。

1と2&3はちがう話というか、1は謎解き風味だけど2&3はもっと大きな話、虐げられる女性への怒りというのがテーマなので、いつのまにか1のことは忘れちゃう感じ。自己紹介みたいなものだった、というか。

リスベット・サランデルはふつうの若い女性として生きたいのに、なかなかそうできず(生い立ちと、本人の特殊な才能も邪魔して)、ああいう性格になってしまったという悲しさ。
それだけに、大天使ミカエルとのベッドシーンが重要で、あのあえぎ声は大変かわいくて「やっぱりふつうの女性なんだ!」としみじみしてしまいました。
Commented by ぴよ at 2012-02-19 00:05 x
昨日記事だけ読みに来て、そのまま夕飯の支度とか色々やっててうっかりコメすんの忘れてましたすいません(ペコペコ

やっぱモザイク問題だよねぇ(←まずここなのかw)
私も「イマドキモザイクなんて流行んねーぞ(怒)」って思ったもん。
なんかさー、あのモザイクがよけい絵をいやらしく下品なモノにしてるような気がして仕方ないんだけど。
そして確かに眞紀さんがご指摘の通り、私もリスベットが何故ミカエルだけにはあんなにすんなり心を開いて行くのだろう?って映画見ていてちょっと引っかかったんです。
きっと原作ではそこら辺りの心情とかがもっと丁寧に描き込まれているんだろうな~とは思ってました。

まーでも面白かったよ。フィンチャーの演出も良かったし!
原作だからこそ細かく描き込める心象風景もあるだろうけど、映画だからこそ描ける不気味感だったり暗闇に上がる爆破の火柱の鮮やかな色だったりという動画の魅力もふんだんに生かされていたし、そしてなにより話自体が非常に練り込まれた脚本で古典本格ミステリとして謎解き遊びも楽しめる、近年稀にみる当たりミステリでした♪
Commented by apakaba at 2012-02-19 00:53
ぴよさん、モザイクはずっこけたよね!
私、とにかく局部にうるさいじゃない?(そうなのか?そうです、バリでもそうだった)
「このシーンのダニエル・クレイグ(のモザイク箇所)は、一体どの状態になっているのだろう」というのが、本心から知りたいの。
だってやっぱり純粋に気になるもの。

大長編ものといえば「ロード〜〜」と「ハリポタ」だけど、私は二作とも原作を読んでいなくて、「ロード〜〜」はそれなりにおもしろかったけど「ハリポタ」はとにかく忙しくてなにがなにやら……でした。
子供たちにつきっきりで解説してもらいながら見てたけど、「ところでクイディッチって誰?」とか「あのレイフ・ファインズの人は結局死んだんだっけ。どうやって死んだんだっけ?」とか質問しはじめる始末。
終わってみればハーマイオニーちゃんの美しさしか覚えてない。

だからこれも、原作抜きで見た人は、「リスベット・サランデル、なんか意味不明だけどクールでナイス」とか感じるのかなあ?と考えたりしてた。
原作を読んでしまうと、純粋に映画を楽しむことは難しいし、読まないと「ハリポタ」の二の舞になりそうでこわいし。
原作ありの映画って、鑑賞が難しいわね!


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