2012年 07月 04日
5.九份からオタクビル、マッサージ店でとまどうのつづき(1.はこちら)。 最終日は朝ごはん抜きのまま、郊外の新北投(シンベイトウ)温泉へ行ってみる。 ホテルから出て西門駅へ向かう途中、肉屋の前を通りかかると、肉のかたまりが吊り下げられており、生の豚足なども無造作に転がっている。 娘が好きそうな光景だと思っていると、思ったとおり、目をきらきらさせて写真を撮っている。 私は今さらカメラを向けるほどめずらしく感じていないが、娘はなにしろこういう肉屋は初めてだ。 旅の初心者はかわいい。 新北投温泉のある新北投駅まで、 「さあ『コシヒカリ』さんが自力でおかーさんを連れていってください。」 とやってみるが、もう3日目だというのに、あいかわらず調べるのにもたもたしている。 乗り換えの口をまちがえているので 「そっちでいいのかなー。ほんとにそっちかなー。」 と言いながらあとから着いていくが、もう自分が正しいと思い込んでいるのでどんどん行ってしまう。 かと思うと目的地の逆方向のホームで電車を待ってしまう。 「駅の表示は読んだかなー、進行方向はどっちかなー。」 大人相手なら苛立って叱り飛ばすところだが、立派なタビビトにするためには辛抱なのだ。 子供たちが小学生だったころにも、よくこういうことを渋谷駅などでやっていた。 「これから乗り換えて銀座線に乗ります。おかーさんを改札に連れていってください。」 「こっちよ!はぐれないで!」と怒りながら子供を引っ張っていくよりも、子供の後ろについてしまって「連れていってください」とやるほうが、子供は真剣になって駅の表示を読むようになり、外出が“連れて行かれる”のではなく、自分の責任で歩く行為になる。 「ちゃんと着きました。ぱちぱちぱち」と褒めてやれば、いつか一人で出かけるときの自信になる。 小学生に勉強を教えるのも同じで、初めから正解と解法を教えるよりも、まずまちがった答えを出してしまった子に、 「ほほう。なるほど。じゃあ、どうやってこの答えを出したのか、私に教えて。」 と頼む。 最初は勢い込んで私に解説をし始めた子は、やがて明らかに破綻した箇所にくる。 そこで「……あれっ?」としどろもどろになったときを捉えて、 「……だよねえ?ここでまちがえたねえ?」 とにっこりして確認する……目をのぞき込むと子供は「えへへ」と照れ笑い……一方的に教え込むより、ずっと気の長い話だ。 でも身に付くのはこの方法だ。 新北投駅から温泉町へは、ゆるやかな上り坂になっている。 だらだらと歩いていると、日本に帰ってきたかのような感覚になる。 大きな温泉旅館が建ち並び、整備された細長い公園がつづく、のどかなところだ。 最終日にやっと寒さがゆるんで陽が出てきたので、ますますうれしい。 ここでの最初の目当ては、温泉博物館である。 和洋折衷の建築に興味があった。 日本統治時代の公共温泉浴場を1998年に博物館として改築したという建物は、1階部分がビクトリア様式、2階は日本の伝統的な木造建築の様式とのことだ。 聞くだけでは大丈夫なのかと不安になるが、いざ目にしてみると、美しさに見とれる。 混血児が純血の人間には決して醸し出せない独特の魅力を持っているのと似ている。 なにかが別のなにかと出会って交じる/混じるという文化は、私の好きなテーマだ。 カーテンに木枠の窓、障子と畳の大広間の廊下には西洋風のランプ、レンガ造りのバルコニーに瓦を載せた木造の庇がかかる——しっちゃかめっちゃかのようなのに、愛らしく、静謐ささえ湛えている。 おだやかな気候と、おだやかな人々の手で保存されているからだろうか。 周囲の緑としっくりなじんだこの美しい博物館は、なんと入場無料である。 台北郊外に行くなら絶対に入場する価値がある。 (7(最終回).タビビト初心者は公共浴場「瀧乃湯」と予想外のラストへ突入へつづく)
by apakaba
| 2012-07-04 13:02
| 台北2012
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アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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