2012年 11月 21日
ファン歴25年の蔵前仁一さんと『旅行人』のことという話を、今年の1月に書いた。 このときのお話にあった、インド先住民のアートの展覧会が開催された。 インド各地で、蔵前さんが個人で集めたアート作品である。 「インドのいろいろな地方で、脚光を浴びたり浴びないままだったりしながら制作されてきた、愛らしくカッコよくソボクで奇妙で前衛的で土着的で先鋭的で懐古的な……いいようもなくおもしろい“芸術品”の数々」と1月に書いたとおり、トークイベントでの写真を見ただけでも、そのアートの独創的な魅力に驚いたのだが、実物はやっぱり、胸に迫る鋭さがちがっていた。 インド先住民とは、アーリア系の人々がインド亜大陸にやってくる前から住んでいた民族を指し、現在は500部族、5000万人がいるという。 5000万人というとすごい数のように見えるが、人口12億を突破したインドで、しかも500もの部族にわかれているとなれば、それぞれは全き少数部族である。 そんな人たちが、3000年もの間、各々の文化を伝え続けてきているのである。 3000年って。 日本だったら縄文時代の終わりくらいか。 え、進歩がない? いや、進歩はきちんと、その文化の中でしている。 彩色は今ではポスターカラーやアクリル絵の具になり、伝統的手法の絵の中に電車や自動車が違和感なく描かれている。 インドの人々に、人間は、動物は、神は、世界は、こんなふうに映っているのか! 今年は、よく美術展に出かけた。 森美術館で開催されていた「アラブ・エクスプレス展」は、期待はずれであった。 アラブ美術にはあれほどの独自の伝統があるのに、西洋のアート表現をトレースしている限り、その枠から出られないと感じた。 対して、「ボストン美術館展」「KORIN展」「大阪市立東洋陶磁美術館コレクション展」「毛利家の至宝展」「お伽草子展」など、日本美術の展覧会は、どれもよかった。 日本美術と西洋美術、どちらがすぐれているかなどと考えるのはナンセンスで、西洋を模倣しない日本美術は実に美しかった。 伝統を捨て去ることは、かならずしも進歩とはいえない……しきりとそう思った。 このインド先住民アートには、それらの日本美術の展覧会を見たときと同じ感動(西洋を模倣していない美しさ)と、「これらのアートは、だんだんと消えていくのだろうか?」というせつなさを覚えた。 インド国内では、「カースト制」に代表されるような、出自の差による少数部族への無理解という問題があるのかもしれない。 だとすれば、アートの生き残りには外国からの注目がきわめて重要であるはずだ。 蔵前さんのような人が、もっともっと世界中に現れて、世界のアートシーンで注目されるといいなあ。 きわめて貴重なコレクションだ。 インドという国に興味があるかないかではなく、アートに少しでも興味のある人は、絶対に見るべきコレクションだと断言する。 アートの奥深さ、世界の奥深さに、胸がいっぱいになる。 神楽坂 光鱗亭ギャラリーにて、11月25日まで。
by apakaba
| 2012-11-21 09:08
| 歌舞伎・音楽・美術など
|
Comments(0)
|
アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
ご案内
直島の旅行情報 blog links (エキサイトブログ以外) 彼の地への道すがら 三毛猫日記 ムスリムの女たちのインド 王様の耳そうじ 細道 紀行地図へと続く道。 「いい子」をやめたら人生がきらめく! greenmanbaliの日記 すきなものだけでいいです Avance(アヴァンセ)でいこうっ ライオンシティからリバーシティへ カテゴリ
全体 映画・ドラマ 歌舞伎・音楽・美術など 生活の話題 子供 国内旅行 旅行の話 ニュース・評論 文芸・文学・言語 健康・病気 食べたり飲んだり ファッション ベトナム2023.3 ソウル2022.11 思い出話 サイト・ブログについて 1990年の春休み 1990年の春休み.remix ver. 香港・マカオ2006 シンガポール2010 直島旅行2010 バリ&シンガポール2011.1 香港マカオ2011 香港2011夏 バリ&シンガポール2011.11 台北2012 家族旅行香港マカオ2012 ボルネオ 台湾2013 ヨルダン・シリア1998 イスラエル1999 エッセイ フランス インド2000 香港2013 スコットランド 大腸がん闘病 ソウル2023.1~3 シンガポール2023 台北旅行2023 未分類 最新のコメント
ライフログ
お気に入りブログ
Tatsuo Kotaki 草仏教ブログ ガタム ( ghatam ) 子供部屋 紅茶国C村の日々 梟通信~ホンの戯言 みんなのヒンディー語教室 勝手に僻地散歩 Atelier Kotaro SALTY SPEEDY シニアバイクマンⅡ FC2ブログに移転しました 旅行・映画ライター前原利... 塩と胡椒 いいあんべぇブログ 折原恵のニューヨーク写真... ブログパーツ
以前の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||