2018年 04月 01日
春休みのドライブ旅行に行ってきた。 ここにはなんどもかよっているけれど、いつ来てもガラガラ。 今回の展示は後期展示で、1年前に前期展示にも来たがさほど大きな入れ替えはなかった。 いつ見ても、気持ちが沈鬱になる。 人間の肉体も、心も、やっていることも、そんなにかっこいいことではなくて、進歩がない。 筋肉がなくたるんだ体と、感情のない、疲れだけが宿る表情。 キリストの受難も、イェルサレムのアイヒマンも、今日、くりかえされている虐待や殺戮も、みんなこんな表情で行われてきたのかもしれない。 同時開催で、丸木位里・俊の作品展もやっていた。 原爆を描いた大作は撮影自由。 死んで水の中に沈む子供に目がいく。 ピカソはゲルニカを描き、ビュフェも戦争で傷ついた人を描いたが、日本でもこういう絵を描いている人たちがいた。 今の世界で起きている紛争や戦争は、報道写真でしか目にすることがない。 戦争の絵を描く人は、今いるのだろうか。 私が知らないだけなのかな。 IZU PHOTO MUSEUMの展示は凡庸。 これだけ誰でも写真を撮る時代になると、 写真家(映像を含め)の仕事はますます難しくなるだろう。 江之浦測候所は、杉本博司が立ち上げた小田原文化財団のアートである。 ちょうど桜と菜の花が満開のときに重なり、最高のアート日和だった。 解説を読みながら歩かないと、どこにお宝が隠れているかわからない、探検型アート。 これは冬至の日の出が通る道。 冬至の日の出が通る道は、海に向かって張り出していた。 隧道の上を歩くのは、風が吹くとちょっと怖い。 人が立っている。 白木造の舞台は、光学ガラスでつくられた能舞台。 茶室の沓脱ぎ石も光学ガラス。 このガラスは、春分秋分の日の出の通り道にあたる。 しかし、このあたりで徐々に我々は気づいてくる。 この場所は、すべて……“シャレ”でできているんじゃないか!? シャレといって悪ければ……これらはすべてイメージのため、自然への回帰に向かって行くための大仕掛けだ。 だって、いくら冬至の日の出だの春分の日の出だのといったところで、その光を実際に見ることができる人はいない(この施設は定員制で、日の出・日の入りの時刻に見学者は入れない)。 いるとすれば、杉本氏本人くらいじゃないの。 やっぱり。 待庵を模したという茶室は、一見ありがたそうだが、裏手に回ると垣根は竹ぼうき(杉本氏はこれが好き)、屋根はトタン屋根。 そして軸には「日々是口実」。 にやにや笑っているような筆致。 諧謔の人・杉本博司の茶室だ。 のどかな風景にたたずむ「亀石」。 これもシャレだ。 頭は首都東京を向く。 敷地内には、歴史的価値の高い石や、文化資産である石がふんだんに使われている。 しかしこの亀石はとくにそうしたものではないようだ。 “おもしろい”とピンときたら、置くのだ。 杉本氏の諧謔のあとをたどり、見学者は歩き回る。 石舞台を踏んで楽しむ。 「冬至の日の日の出」「春分・秋分の日の出」「夏至の日の出」などの、太陽の通り道を生真面目に確認しながら歩く。 実際には見ることのできない、太陽の通り道を。 ここにまっすぐ日が差す。 ここに光が当たる。 そのさまを思い浮かべながら。 いい季節だったので、のんびりと過ごせた。 雨だったり、暑かったり寒かったりしたら、かなり印象が変わるだろう。 杉本氏の諧謔の果てにある、日本と現代文明への危機感と、土地に根ざし自然を信仰する純粋な気持ちを感じとれる。 しかしすぐに感じとれるというほど、やさしくもない。 彼の頭にあるイメージに追いつくため、自分を今一度試されるようなアート施設であった。
by apakaba
| 2018-04-01 15:56
| 歌舞伎・音楽・美術など
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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