2005年 11月 30日
きのう、母が非売品のこの写真集を持ってきた。 「共同が今年で創立60年だからもらったの。いろんな写真が出ていておもしろいから見てごらんなさい。」 ソフトカバーながら立派な写真集だった。 共同の記者、カメラマン、提携する海外の通信社のカメラマンが撮影した60年分の報道写真を集めたもので、社員やもと社員に配布したらしい。 私の父は、生前、共同通信社の社会部に所属していた。 ロッキード事件を追っていた最中の1977年、過労で亡くなった。 こういう報道写真集を見ていると、なぜか決まって、’72年から’76年ごろ、私の記憶ができはじめてから父が亡くなるまでのころ(5歳から9歳)のページを、自然とめくっている。 なぜだろう。 家にいるときの父が、休みの日でも出勤前でもつねにニュースを求めていたから、それをそばで見ていたから、なのだろうか? 中山律子さんのボウリングブーム。 浅間山荘事件。父も行ったらしい。 「恥ずかしながら」帰っていらした横井さん。 日中国交回復して、カンカンとランランが来た。 石油危機で、私もトイレットペーパーの使いすぎを怒られる。 「巨人軍は永遠に不滅」長嶋引退。 「記憶にございません」小佐野賢治喚問。 3億円事件時効成立。 そして’77年1月27日、ロッキード事件田中角栄初公判、2月11日に父が他界した。 このあたりの事件やできごとは、自分で新聞など読む年ではないから、すべて家でしゃべっている父や母の声で、覚えているのだ。 あのころ、家族の会話の中に、時事ニュースがあふれていた。 そういう仕事の家庭なのだから当たり前だけれど、父が亡くなって、母がかわりに共同に勤め始めてからは、親子でそんな会話を交わすこともなかったから、あの、ほんの4,5年間は、幼い子供にしては異様にニュースに触れていたと思う。 「眞紀、新聞を踏むな。うちはこれでメシ食ってるんだ。」 という言葉とともに、一番よく覚えている父の口癖は、 「読書百遍、意、自ずから通ず。この言葉を覚えなさい。」 だった。 生き急いでいたとしか思えない。 たった5歳か6歳の子供に、魏志の故事成語なんて……。 私も父のように新聞を書いてみたくて、3億円事件の時効成立直前、自分で特集を組んでわら半紙に号外の新聞を作ってみた。あの白バイ警察官の似顔絵も描いた。 時効成立が'75年だから、記事を書いたのは7歳くらいだ。 父は私の新聞を見て、満足そうだった。 久しぶりに父親のことを思い出したな。
by apakaba
| 2005-11-30 15:45
| 思い出話
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Comments(14)
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あづま川
at 2005-11-30 20:34
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眞紀さんが本を読むのと文章を書くのが好きなのは、
幼いときの家庭環境のたまものなのですね。 とくに女の子って父親の影響が大きいような気がしますし。 男の子だと、中学になったあたりで父という存在に猛反発したり するじゃないですか。 でもその前に死別を経験したら・・・ぼくならどうするだろう。
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K国
at 2005-11-30 21:31
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私のオヤジは83歳になっても、元気で車に乗って動き回ってる
その代わり私にとっての祖父さんはオヤジが9歳の時になくなった 両親とも亡くなってるので、丁稚奉公したらしい、小学校も満足に行ってない、私にとっての祖母は母方のオバサンなのです 一緒に暮らしてたので、私が一番影響を受けたバアチャンです オイルショックに頃は、淡路島に居てそれまで無茶苦茶に忙しかったのがピタッと仕事が止まってしまった 一年ほどは自分たちで型枠や鉄筋を組んで仕事をしてました 直ぐにもとの忙しさに戻りましたが、それまでは威張ってた職人の 頭が低くなったので、監督は楽になりました 私が新婚ほやほや時代ですね
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ogawa
at 2005-11-30 21:46
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この記事は読むだけにしようかな・・・と思っていたのだけど。
「共同通信」で引かれたなぁ。 カメラマンとして共同通信の採用試験を受けて面接・ペーパー試験 をクリアして、その次が課題の写真を提出することでした。 その時の写真の一枚は「田中角栄に有罪判決が出て、その号外を配っている」写真でした。 最終面接まで行って不採用だったけど、あの写真だけは今でも印象に残っています。構図も覚えていますよ。 眞紀さんのお父様とは直接関係無い話で申し訳ないですが、 やはり私にとって共同通信社は特別なメディアですね。
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apakaba at 2005-11-30 22:05
はなまちさん、時事と自分の人生をつきあわせて眺めてみるのは、とても感慨深いものです。
ああ、これも歴史の1ページ、これもか、と思ってしまいます。 ケイマンにペーパーカンパニー、ありましたねー。 あづま川さん、私にはほぼ父親がいないので、いわゆるファザコンともまたちがいます。姉は高校生だったので、ちょっとそんな感じでしたが。 小さいころ、「生き急いでいた」父は、とにかく原稿用紙をつきつけて、なんでも文章に書かせました。それがイヤでね……この話はまたこんど書くよ。 まあ、死んじゃったものは悪く言われないので、社内的にはわりと伝説のヒトだったみたいです。 50周年誌に社会部長が書いた追悼文には、泣きそうになりました。 いったん
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apakaba at 2005-11-30 22:18
つづき。
K国さん、半生語っちゃったねー。 どの時代に何歳だったか?ってけっこうリアルな問題ですね。 私は学園闘争、三里塚闘争、連合赤軍、あたりは記憶がないので、ちょっと悔しい気分です。 ogawaさん、ogawaさんを落としたけしからんヤツは、ひょっとしたら私や母も知っている人かも……どうもズビバゼン。なにしろ小さい会社なので。 母は「陰の社長」とか呼ばれちゃって、最後のほうずいぶん威張っていました。おばさんは強いんですよね。 いま共同はスター記者とか出さない感じでおもしろくなくなってしまいましたが、一昔前は本当に、きら星のような人材がいたものです。 ……メディアバナシは長くなりそうなのでまた次回!
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紫陽花。
at 2005-12-01 06:12
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全てのマスコミを目指す学生の憧れの会社であり、難関中の難関の会社を「小さな会社ですから」とさらっと言えるあたり、「私の文章などまだまだです」と言う眞紀さんの奥深さがしのばれますね。
私の父は田舎であったし大家族の長男でもあったので進学ままならず、生涯学問に対する憧れをもっていたようでした。父に訊くと知らないことはなんにもないなーと、今思えば漠然と感じていた子供時代でしたね。そんな父を見ながらも、のー天気な母の遺伝子を受け継いでしまって。。
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apakaba at 2005-12-01 09:09
小さい会社って、つまり2000人しかいないので、大企業の人数ではないですよね。
正社員は少なく、外の人間を使うということでもあるんですが。 じつは報道写真も、いい写真はAPばっかりだったりします。 すぐれたカメラマンを養成するという会社でもないし…… 今はスターも出さない方向ですが、一昔前は、教育問題の横川和夫氏、匿名報道の浅野健一氏、作家になられた辺見庸氏、みんな父が育てた方々です。 私も今は子供に知識がないとバカにされ……「おかーさんはどうしてそんなになにも知らないんだ!」とあきれられ。そんなもんですよ。
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apakaba at 2005-12-01 09:11
ssnostalgiaさん、トラバありがとうございますーー!カンゲキ!
書いてヨカッタよ!
記念写真集、興味深いです。
ロッキード事件って77年だったのか(すみません・・・あほで)。 社会の教科書に出てきたような気がする。 >私も今は子供に知識がないとバカにされ…… そんなことないですよ! 魅力ある文才をお持ちですし。 カリスマ主婦ですよ!
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ssnostalgia at 2005-12-02 08:22
こちらこそありがとう。
「WATARIDORI」是非。
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apakaba at 2005-12-02 10:23
マツイさん、社会科の教科書に載ればもうそれは「ニュース」じゃなくて「歴史」ですよね。
メインサイトでヨルダン・シリア旅行記連載中です。読んでねん。
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apakaba at 2005-12-02 10:25
ssnostalgiaさん、ワタリドリずっと気になっていました。
寝てしまうぞと知人に言われたこともあり、いまいち触手が……でもssnostalgiaさんの「豊穣をもたらすコメたちよ。」の呼びかけには、かな〜りぐぐっときましたね。 ゥオッッッケエエエエエエエイ!! さっそく借りてみるよッ!
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八島 秀二
at 2013-09-27 10:07
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父と子のドラマ こころ熱くなりました。 たとえ僅かでも、こうした濃密な日々があったから今の神谷家の家族像があるのでしょうね。 顧みて、私は息子にどれだけの深い言葉を贈っているか? と悩みました。 ところで恥ずかしながら、、は横井庄一さんかな、、。
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apakaba at 2013-09-27 16:32
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アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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