あぱかば・ブログ篇

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2006年 09月 08日

1990年の春休み.38 パキスタン〜インド篇

<初めて読まれる方へ>
この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。
前回までのあらすじ
ラホールでの沈没生活を終わらせ、二人に戻ってインドとの国境へ。

2月19日(つづき)
 カシミール地方の印パ国境紛争がお話のなかのことのようにしか感じられない、のどかな国境である。
 パキスタン側のチェックポストであるワガーでパスポートを提示し、出国手続きをする。
 私たちと同行することに決められたはずのカナダ国旗トレーナーのインドおじさんは、先ほどのVIPルームでの約束など忘れ果てたかのように、自分の出国スタンプを押されるともたつく我々にまるでかまわずさっさと一本道を行ってしまった。
 私たちは国境越えにあたってとくにこの人におすがりする必要も感じていないので、行ってしまわれても実際面での不都合はないのだけれども、袖すり合うも多生の縁というか旅は道連れ世は情け的な心境になりかけていた矢先にこんなドライな態度をとられたのでちょっとがっかりした。
 しかしまあ、道は一本なのである。我々もただちにザックを背負ってよたよたと後を追う。

 イミグレーションのオフィスを出ると、降って湧いたように現れた大量の男性が青組とオレンジ組に分かれてリレーを始めようとしている。運動会。んなわけないでしょう。一瞬本当にそう思ったのだが、よく見ればポーターたちであった。ここは中間緩衝地帯が200メートル以上あるので、ポーターに荷物を持たせる人もいるらしい。そういえばカナダ国旗のおじさんもそうだ。
 運ぶ行き先によって青とオレンジに色分けしているのだろう。
 彼らは、近づくのが怖いほどに仕事への執着心にあふれていた。
 さあっ運ぶぞ〜っという気迫が、彼らを取り巻く土ぼこりとともにもうもうと立ちのぼっている。
 揃いも揃って恐ろしくやせていて、目をギロギロむきだしている。なかにはなぜいまだに生きてるのかわからないようなすごいじいちゃんもいて、それがひとたび大きな荷物を担ぎ上げると走っているとしか言いようのない早足でどびゅーんと土ぼこりの彼方に去ってしまう。
 「もしかしてこの国の人ってひどく健康なのかな?」
 「リキシャマンもみんなやせこけてるけど漕ぎまくってるもんね。」

 我々がポーターの仕事ぶりに驚いている間にも、カナダおじさんとの距離はどんどん開いていった。
 するとちょうどそのとき、左後方から国境警備用と思われる1台のジープが近づいてきて、我々に併走し、盛んに手招きをするのである。なんとラッキーなのだ。かよわいガイジンの娘っこを乗せてくれるわけね。これでカナダおじさんに追いつける。サンキューを連発して片足をステップにかけると、笑いながらもけげんそうなドライバー。実はたんに道の端を歩けと注意していただけだったのでした。恥ずかしいでしょう。
 「だけどさー、乗っけてくれたっていいよねえ。」
 「そうよけちけち!」
 とかなんとか言っているうちに、やっとインド側のチェックポスト、アターリーに着いた。カナダおじさんはここにいて私たちを待っていてくれた。

 そしてそこで、なぜか卓球をやることになってしまった。
 広いオフィスの一角に台があって職員たちが遊んでいたのでちょっとにこにこしたら、ラケットを貸してくれたのである。こんなところにいるのが長引くのはおじさんに悪いなと思ったので、「やってもいい?」とおずおずと聞くと、「5分だけ」と言って木の丸椅子に腰掛けて私たちが遊ぶのを眺めていた。
 はじめは冷たい人かと思ったけどいい人なのね。

 ところで私たちはこのオフィスで、全旅程中最大のピンチを体験した。
 卓球を楽しんだあと、お礼を言ってオフィスをあとにし、タクシー乗り場までまたしばらく歩く。そのとき突如としてヒロが形相を変えた。目玉が落っこちそうではないか。
 「たいへんっ!パスポートがないっ!」
 私のもない。
 身体がびしっと凍り付く。
 どーしてどーしてどーして……、疑問詞が除夜の鐘のように頭のなかでくり返しこだました。
 「あっ、あっ、あそこだ、卓球やったとこ、」
 「イミグレだ!」
 私たちは次の瞬間、カナダおじさんにザックを投げつけるように預けて、猛烈な速さで走り出した。途中、青組軍団が道いっぱいに広がってさっきと同じように仕事をしていたが、今や私たちのほうが何倍も速くて何倍も目をギロギロさせていた。

 ぜえっ、ぜえっ、と息を切らしてオフィスに飛び込むと、職員たちは先ほどとまるで変わらないのんきな態度で私たちを見て、
 「ランニング?ユーアースポーツマン。」
 卓球だけじゃなくて君たちはランニングもするのかい。スポーツマンだねえ。と茶化された。
 パスポートは二つともちゃんとそこにあった。よかった!走りながら泣きそうになったよ。
 ああそれにしても、卓球に興じてパスポートを置き忘れるとは……。こんな初歩的で致命的な失敗を自分たちが犯すなんて想像すらしなかった。しっかりせねば!

by apakaba | 2006-09-08 16:50 | 1990年の春休み | Comments(6)
Commented by キョヤジ at 2006-09-08 18:05 x
馬鹿だねぇ・・・・・と言えないんだな、ワシ。
やってるからなぁ、ネパールで。
アドレナリンが分泌されると、暗闇でも走れる事を知った夜・・嗚呼。
Commented by apakaba at 2006-09-08 18:27
ネパールの夜は暗いからのう。ハンパじゃなく。
Commented by Morikon at 2006-09-09 00:25 x
旅先じゃないけど、パスポート落とした経験アリ。
落としたのが当時の最寄り駅で、
連絡もらうまで紛失してたのに気づいていなかった、
我ながらバカチンだぁ・・・。
Commented by apakaba at 2006-09-09 07:19
なーんだ、ふつうのことなのかぁ

……いやそんなはずないぞ。
たまたま集まってしまっただけですよね。(パスポートを落とすヒトが、この場に)
Commented by のこのこ at 2006-09-16 01:04 x
あるある。
ありますよなんかケロっと忘れちゃう時って。
イランではパスポートを必ず宿に預けるんだけど預けたまま丸一日移動して次の街へ。
気がついたのは宿でパスポート預ける時。
我ながらのんきすぎ。でんわ連絡して普通にそのまま観光して二日後戻って受け取りました。
イランではパスポートをポトリと落とし、気がついた子供たちが走っておいかけてきてきてくれたことも。
これはマジにラッキーだったな。
Commented by apakaba at 2006-09-16 17:51
のこのこさん、着実に読んでいてくれてうれしーわ!
でも、けっこうあるのね忘れてしまうこと。
私はこのエピソードのとき以来、いちどもないです。
ほんと、恐怖体験だった。


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