2007年 02月 13日
図書室改造、どうせ“読み聞かせ”をやるなら あれから2年近くたって、やっと、私の夢だった「夏目漱石『夢十夜』第三夜を読む」ことができた。 今まで、6年生相手には、『注文の多い料理店』『坊ちゃん』など、おかしさがあってテンポのいい本を選んできたが、「今日はこわい話ですよ。」と言って、トーンを落として読んだ。 夢の中で、自分の子供をおぶっているが、その子は盲目で、幼いくせに大人のような口を利く、気味の悪い子供だ。 その子の指図になぜか従うようにして森に入っていき、ある杉の木の根元に来ると、 「お前が俺を殺したのは、今からちょうど100年前だね」 と言われ、突然に、自分が100年前、この杉の根元で一人の盲目の男を殺したという記憶がよみがえる。 よみがえったとたんに、背中の子供が石地蔵のように重くなる——という、わずか2ページほどの短編だ。 「私は、6年生の皆さんには、絵本よりも大人向けの、文学を読みたいと思っています。『夢十夜』は全編を読み通すにはちょっぴり難しいですが、第三夜は簡単な話なので読んでみましょう。 今日、家に帰っておうちの人に『今日は夏目漱石の夢十夜を読んだよ』と言ってみてください、きっとびっくりされますよ。」 6年生全員が息を詰めて、やや古めかしく難解な語句など気にも留めずに聞き入っている。 やはり、漱石は凄い。 間(ま)を空けたり詰めたり、子供たちの顔を見渡したり、背中に背負った子を振り向くようにして読みながら、漱石の文章の凄さを声に乗せていくことに、奮い立つような快感を覚える。 「雨はさっきから降っている。路はだんだん暗くなる。ほとんど夢中である。ただ背中に小さい小僧がくっついていて、その小僧が自分の過去、現在、未来をことごとく照して、寸分の事実も洩(も)らさない鏡のように光っている。しかもそれが自分の子である。そうして盲目である。自分はたまらなくなった。」 海外に文豪は数多くいるけれども、こと音読においては、母語ですぐれた文章を読む快感に勝るものはない。 今回ももちろんぶっつけ本番だったが、読みながら、私はうれしかった。 図書ボランティアを始めて約2年の間に、少しずつ私のことを覚えてもらってきた。 “本を読んでくれる人” “劇のときにすごくお芝居がうまい人” 校内放送で、私が声を当てた人形劇のビデオが流されると、それぞれのクラスが騒然となるほどの爆笑だと、「アキタコマチ」と「コシヒカリ」が言う。 「この声!『コシヒカリ』のおかーさんだぜ!」 と、自分のお母さんでもないのに自慢そうにある男の子が言っていたという。 そうやって「あ、あのおばさん」と認知してもらえば、私が読み聞かせに来るだけでもう図書室は静かになる。 そこで絵本などでご機嫌を取ったりせず、「あなたたちになら、もう読めるはず。このおもしろさ、この文章の凄さがわかるはず」という態度で接してあげれば、どんなに本が嫌いな子でもぐぅーっと引きずり込まれてくれる。 それがびしびし伝わるから、本当にうれしい。 6年生向けは、3月の分も頼まれた。 あと1回、卒業目前、なにを読んで送り出してあげようか。 (夢十夜 全文)
by apakaba
| 2007-02-13 19:05
| 文芸・文学・言語
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Comments(9)
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Morikon
at 2007-02-13 20:23
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作者も題名も覚えてなかったけど、
内容は記憶に残ってた。 ・・・この話は漱石だったのか(汗)
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apakaba at 2007-02-13 20:24
いやーゲゲゲの鬼太郎でしょ?@子泣きジジイ……
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Morikon
at 2007-02-13 20:46
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いや、映像や聴覚ぢゃなくって、
この目で読んだ覚えがあるのさ・・・
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apakaba at 2007-02-13 21:14
すぐに子泣きジジイが浮かんでしまうところがもの悲しいな。
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はなまち
at 2007-02-14 06:42
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K国
at 2007-02-14 07:19
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こういうのを聞くと、子供の頃にあった恐怖ポイントを思い出す。
薄気味悪い所で、そこを通る時には全速力で走り抜けていた。 今見ると道路が広くなって、なんでもない場所になってしまってる チョット寂しいような。
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apakaba at 2007-02-14 09:23
はなまちさん、それは最低気温が高くてお布団が暑くて寝汗かいたんでしょう(ふつうのレス)。
K国さん、恐怖ポイントねえ、ありましたね。 子供には家の中にもあるんですよね。 どんなせまい家でも。そこを通っておしっこに行くのがイヤとか。
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apakaba at 2007-02-14 14:22
You poor boy,Mr.Hanamachi.
Do not catch a cold,take care!とな。 |
アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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