2007年 04月 21日
(表題は「はみだしっ子シリーズ」から取ってみたんだけど、知ってる人はいるかな……) “連れて行く”という言葉に、昔から抵抗があった。 はみだしっ子シリーズというのは1975年から81年まで連載されていた漫画で、「つれて行って」は最終回分のタイトルなのだが、その当時から、「連れて行くっていったいなんなの?」という意識がはっきりとあった。 当時の私は、中学生だ。 単行本になった漫画のこのタイトルを見て、ストーリーとは関係なくそう感じたのを覚えている。 連れて行く、という言葉でイメージするのは、無力な幼い子供。 年長者に手を引かれて、知らない場所へ“連れて行かれる”。 もしくは、無力な幼い子供を演じる女。 「連れて行ってぇー」おいしいお店、ステキなデート、綿密に計画してすべて手配ずみの旅行に。もちろん、お金も払ってね。 漫画とちょうど同じころにヒットした松田聖子の『赤いスイートピー』の出だしにある“春色の汽車に乗って海に連れて行ってよ”という歌詞にも反発があった。 あなたはその海に行ったことがないの、行き方知らないの? 時刻表も路線図も読めないの? カレに電車賃もみんな払ってもらって手を引っ張られて行くの? 中学生特有の苛立った気持ちを感じたものだ。 私は、男性に向かって「連れて行って」という言葉を今まで言ったことがない。 言うことがあるとすれば、その場合はふざけてます。 プライドが許さないです。 10代のころからひとりが好きで、一人旅が好きだったから、誰かに手を引かれるようにしてどこかへ連れて行かれるのは居心地が悪く、歩いた気がしない。 デートやレストランはさておき、旅についていえば、パックツアーしかしない人とか、同行者に旅程をすべてお任せにして、手を引かれるような旅をする人は理解しがたい。 それで楽しいのかな、と素朴に思うし、自力で計画して実行した旅に較べて、思い出が鮮烈ではないだろうにとも思う。 きっと、旅にそこまで多くのものを求めていないのだろう。 お金を払って苦労するほどのことでもなく、軽い娯楽のひとつ。 その人がいいのなら、それでもいい。 私は自分で時刻表を調べたり、思いがけない宿に入ることになったり、伝わらない外国語で必死に話そうとしたりすること自体が好きなので、自由旅行しかしたくない。 けれども、自由旅行にはトラブルはつきものだから、私もさんざん親や夫に心配をかけてきた。 旅に関しては、結婚前から肩身の狭い思いをずーっとつづけている。 心配かけてごめんなさい、私が自由旅行が好きなばっかりに……と、心の中ではぺこぺこ謝ってきた。 先月、ニュージーランドに長く行っていた夫が帰ってきて、いろいろ土産話を聞いていた(詳しくは、ニュージーランド土産話)。 私の関心はごはんやお酒のことなどで、「お昼なんかは、どこに食べに行ってたの?」と聞いた。 夫はこう言った。 「いやー俺もさ、君とふたりで旅行するようになって、あちこち連れて行ってもらったおかげで、街を歩いていても、どの辺りに安くてうまいものが食える店があるのかとかが、なんとなくわかるようになったわけ。中華とケバブならとりあえずハズレはないぞ、とか。だから、まあそんなようなものを食ってたよ。」 ちょっぴりだけ耳を疑った。 君にあちこち“連れて行ってもらった”? 「俺ってそれまでホームステイとか、親や婆さんの行くパックツアーでいっしょに行くとか、あとは完全なキャンプ場とかそれくらいしか海外旅行したことなかったから。街に出てちょこっと横町入ってケバブサンド食えばいい、なんて発想はまったくなかったもん。あれは君のおかげだよ。」 私は夫を旅に“連れて行った”のか。 手をつないで引いて行った覚えはないし、お金も多くは彼が払っていた。 でも精神的には、旅慣れない彼を連れて行っていたんだな。 テキトーに人としゃべったり、商店に入ってものを買い出したり、勘で街歩きをする私を見ていたんだな。 その言葉を聞き、今まで、婚約当時から彼を置いて自分だけ出かけていたことで感じつづけていた罪の意識が、少しだけ軽くなったのだった。 そうか彼を“連れて行っていた”のか……“連れて行く”という言葉を、夫はごく自然に口に出していた。 中学生のころからずーっと感じていた抵抗感が、すっとなくなった。 連れて行くって言葉も、悪くないねえ、と。
by apakaba
| 2007-04-21 23:56
| 旅行の話
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Comments(13)
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K国
at 2007-04-22 08:50
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私も連れて行くタイプですね、連れて行かれた経験は地区のバス旅行くらいか。
10歳の時に別府まで片道40キロを自転車で模型店まで、買い物に行って以来、一人旅がやめられなくなってしまった。 バイクにテントで旅行するとお金はそんなに使わない、一日3000~5000円程度で充分、半分はガソリン代。 動力が自分の自転車の時は1000円だった。 行き先も漠然と地域で行って、そこで地元の人に聞いたりしてめぼしい所を廻る、有名な名所は行くとガッカリが多い、凄いと思うのと半々か、知られていない素晴らしい所を見つけると嬉しくなる。
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ogawa
at 2007-04-22 08:52
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読んで考えた。
中学生以降に「連れていってもらった旅」というのが修学旅行 以外ないということ。 学生時代、友人達と行く旅でも旅程を組んでいたのは自分だった。 なんかそれが当たり前の感覚なのかな。 「行きたいところへ行く。」そのためには自分でスケジュールを組む。 ただそれだけ。 妻は、新婚旅行が初めての海外旅行でした。 その後も家族で旅するときは私が組むというのが当たり前なので 妻からすれば「連れていってもらう」のでしょう。 と言っても、私が「連れていく」という感覚はまったく持っていませんでした。 妻は良く言います。「あなたに海外に連れていってもらったから アジアは良いなぁ、と思うようになった。」と、私からすると「自分が 行きたいから連れ回した」だけなんだけど。 娘を見ていると間違いなく「連れていく」タイプですね。
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与太郎
at 2007-04-22 09:31
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ここに書き込む人は別として、眞紀さんのように自力で
どの国でも一人で行ける日本人は、男女ともほとんど いないでしょう。 外国は行きたいが連れて行って、と言う状態だと思います。 それも、英語を使う機会がないから、言葉の心配で一人旅を しにくいと言うだけのことだと思います。 英語教育を受けていないヨーロッパの一般庶民よりも 100%英語を習う日本人の方が英語は、遙かにレベルが高い ということは一度一人旅をしてみないとわからないでしょう。 そうはいっても、実用レベルとなるとまた別で、全く英語を 使う機会がない日本人は世界から大きく遅れているというのが 実情のようです。 そういうことで、善し悪しは別として、結論として日本人の 海外旅行は「連れて行って」と言うことになるでしょう。家内の 兄はまもなく80歳になり、外国語など全くしゃべれないが、 数年前農協の旅行で敦煌に行ってきたそうです。敦煌など 一個人が一人で行くにはあまりに心配なところですが、 連れて行ってもらえるならこういう旅行もいいものかも 知れません。
つきあいでの温泉旅行は、時の幹事氏の引率に従うしかなく、そういうの、いっぱいあります。
そもそも旅行の詳細計画なんぞたてる暇もなく、行きと帰りの飛行機チケット、若干のホテル予約ぐらいですかね。 ガイドブックは飛行機の中、着いてからぐらいですか。 前回はかばん丸ごと盗まれて、身ひとつとなったから、フランス語圏で辞書もなく、それなりに大変ではありましたが、結構何とかなりましたね。 警察署観光なんてね。
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花岡じった
at 2007-04-22 11:15
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つーことは「私をスキーに連れてって」も違和感あるかぁ。
旅行で言えば間違いなく俺が嫁を連れてってる。 お金の工面(まー借りる訳ではねーが)行き先、予約・・・ 全て俺が段取りしてるし、現場でもだいたい俺の計画で動いている。 まー、それはそれぞれの性格であって嫁は不満もなく俺もそれはそれで楽しいしぃ。 うふ♪ やっぱり旦那の影響デカイのね。
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のこのこ
at 2007-04-22 12:45
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いやんっ!
「連れってって」 っての、超あこがれるぅぅぅぅぅ~~~~~!!!! いいじゃん~~~かわいいじゃん~赤いスイートピーの世界じゃん! でも。 たとえばアフリカだの中東だの、自分趣味の領域の旅となると「連れてってもらう」なんてレベルは無理! どこ行っても楽しいデートなら「つれてって」でいいじゃん! かわいくないこと言っちゃダメよん。
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apakaba at 2007-04-23 09:30
連れて行くレス。遅くなりました。
K国さん、連れて行かれるバス旅行ってあきれるくらい眠ってしまいますよね。 道中、目をつぶっているからますますよく覚えていない。 バイクや自転車なら目をつぶっていることがないから、風景もしっかり覚えていますね。 旅は、見たものよりも、温度とか湿度とかを先に思い出すことってありますね。 ogawaさん、新婚旅行記は初々しくてヨカッタですよ。 連れて行く妻を気遣うogawaさんがまたよきかな。 あまり我の強い人がパートナーだと、それも疲れます。 旅のスタイルを主張し始めるような人とは、なかなかいっしょに行動しにくく、衝突します。 だからogawaさんタイプには、連れて行って♪な奥様がちょうど合ってるんじゃないかな。
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apakaba at 2007-04-23 09:36
連れて行くつづき。
与太郎さん、言葉が通じないのもおもしろいんだけど、ピンチのときは困りますね。 英語の「1,2,3」も知らない場所を旅すると、自分が実は英語ぺらぺらなんだ!と自覚しますよね。 でも、私はたとえば値段交渉などの場面で、ぼけーと何時間も粘って、「あなたの子供のころはどんな子だった?よくお父さんに叱られてたの?」などと、商談にまったく関係ない話をしたりするのが好きなので、そういうときは英語のありがたさを感じますね。 英語まったくダメな相手だとそういう無駄話ができないので、数字のやりとりのみになり、私には味気ないんです。 はなまちさん、連れて行かれるバス旅行ってあきれるくらい(以下同文) はなまちさんのような旅立ち方が理想なのかなとも思います。 あまり綿密に計画しちゃうと、そのとおりにいかなかったときにあわてそう。 私みたいにバスに乗り遅れるとか、電車で寝過ごすとか…… 警察署ツアーも、二度としたくないでしょうけど一生の思い出ですね。 通常、やりたくてもできないし。
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apakaba at 2007-04-23 09:48
連れて行くさらにつづき。
じったさん、もちろん私をスキーに連れてってもアウトです。 (ついでにいうと、細川たかしの「矢切の渡し」もアウトです、連れて逃げてよーついておいでよーは、イケマセン。) だって私ってば高校生のころから、一人でスキーに行ってた。 変人だよ今考えたら。一人で宿に泊まって、スキースクール入ったりして。 うーん奇妙な高校生だった。 じったさんも旅行記イイですよ。 連れて行く妻を気遣うじったさんが(ogawaさん宛以下同文) 一人じゃなくて二人で行くなら、二人とも満足できなくちゃ二人旅の意味がないものね。じった家はうまくいってると思いますよ。 のこのこさん、多分ね、中学生くらいのころは、男に寄りかかっている女っていうのが我慢できなかったんだと思う。 男に尽くして、自分の意志は二の次で、カレの好きなように振る舞ってもらい、それがあたしの幸せなの。みたいなのが。 でも大人になったので、男女の関係はそんなふうに表面的でも一面的でもないことを知りました。 今は場面に応じて連れて行ってを連発してます。 はなまちさんに「一力亭つれてってー」とか腕にぶら下がるくらいのことは、……ヤッテシマウノダ
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はなまち
at 2007-04-23 11:36
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基本的にあそこらは、おぢさんの牙城。
みだりに女性立ち入りはいけません。
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apakaba at 2007-04-23 12:03
おぢさんはなにをするのだろう
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はなまち
at 2007-04-23 13:40
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Whip and candles! Oh! No! Madam。
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apakaba at 2007-04-23 13:43
sigh...I cannnot believe that...はなまちさんまさか。
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アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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