2007年 05月 24日
5月の歌舞伎座は、恒例の団菊祭だ。 市川団十郎と尾上菊五郎をメインに据えた演目。 昼の部に行ってきた。 歌舞伎で、真にいい演技を見たときに感じるカタルシスを今日は得られなかった。 なにもかもが、もう一歩。 セリフが入っていない役者が多く、安心して見ていられない。 間合いにもうひとつ、“溜め”がない。 “あと0.5秒、溜めてから次のセリフが出ていたら、感動のツボになるのに……”と残念になることが多くあった。 海老蔵の「斬られ与三郎」は、見目麗しさは天下一品だが、セリフが走っているし、所作・セリフの解釈ともに現代劇風。 現代劇なんか観に来ているのではない、こっちは歌舞伎を観に来ているんだ。 歌舞伎を見せろ。 あと10年は修行という感じ。 しかし彼は御曹司だから、厳しい指導をあまり受けていないように見受けられる。 歌舞伎役者としての出来は、同世代の菊之助に完全に抜かれている。 菊之助の女形ぶりは見事な美しさ。 演技力も、いつの間にこんなに上手くなったのかと感心した。 与三郎の名台詞、「しがねえ恋の情けが仇ァ……」は、海老蔵では任が足りないが仁左衛門が演じた3年前にはゾクゾクッと来た。 即座に仁左衛門の域に達することはもとから期待していないが、あの海老蔵の美貌を活かしきれないのはもったいない。 色事ばっかりマスコミからクローズアップされるのもそろそろ卒業するべきだ。 三津五郎の所作の美しさには見とれたが、脚本が凡庸、脇も凡人で引き立たず。 歌舞伎十八番の『勧進帳』は、団十郎がセリフで転び、吉右衛門や幸四郎が演じるときの、心の底を揺さぶる弁慶が観られず消化不良だった。 と、どうも残念なことつづきの演目であった。 たとえば吉右衛門の弁慶は、冒頭に書いた“溜め”はこちらの望みどおり、しかも期待した以上のものを必ずくれるのである。 今日、昼の部を通して観てつくづく感じたのは、演劇は、役者が変わると別の芝居になるということ。 歌舞伎は、観たことのない人よりは観ている方だから、まるで同じ演目でも、役者によって感動のあまり涙が出たり、居眠りしてしまったりしている。 今日はだいぶ居眠りした。 だから、一度や二度、たまたま歌舞伎を観て「観た」と言ってほしくない。 歌舞伎に興味があったら、心の底から感動する演技をいつか観てほしいと思う。 えらそうにと思われるかもしれないが、何度も見比べて実感し、感動できない日には本気で落胆しているからこそ言う(だって安くないんだもん)。 『勧進帳』などは好きな演目だから数えきれないほど観てきたが、思わず涙があふれた瞬間の心の揺さぶりはまざまざ思い出せるのだ。 今日はいまひとつの公演となったが、大好きな役者がバリバリ活躍しているから歌舞伎は楽しい。また行こう。
by apakaba
| 2007-05-24 22:52
| 歌舞伎・音楽・美術など
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Comments(7)
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ぴよ
at 2007-05-24 23:44
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歌舞伎、生まれて此の方ただの一度も見た事がありません。
能は名古屋城に「名古屋能楽堂」があるから何回か見た事あるけど (でもいいとこ5,6回)歌舞伎には縁がない。 だって名古屋には歌舞伎座がないんだもん。 たまに地方公演で来るけど、チケなんか即完売で手に入らない。 名古屋って文化過疎地なんですよ。 歌舞伎について語れる人ってカッコイイなぁ~って憧れる。 日本古来の伝統芸能が身近に感じられる人って本当に羨ましい。
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apakaba at 2007-05-25 07:53
なかなかコメントしづらい系の話題にありがとう。
やはりこういうときは地の利のありがたさを感じます。 思いついたら、席さえ贅沢言わなきゃぱっと観に行けるもんね。 能は見たことないです。 顔の演技を封じられて、様式美の中でどう演技するんだ?っていう興味はすごくあるけどね。 やっぱり、演劇でも映画でも、観ていてググッと入れ込む(感情移入)のは顔の表情であることがほとんどだもんね。 歌舞伎役者はテレビにもいっぱい出ているけど、別人と思っていただきたいの。 歌舞伎役者は歌舞伎やってこそ生きている価値があるわよね(ワイドショーネタばっかりじゃなくて)。
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kajikko
at 2007-05-25 12:28
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つまらん突っ込みだけど、役不足の使い方間違ってない?
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apakaba at 2007-05-25 13:49
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apakaba at 2007-05-25 14:06
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喜楽院
at 2007-05-26 16:03
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20年以上前だ。都内に住んでいた頃、一度だけ
誘われて「歌舞伎」を見に行ったことがある。 内容はものの見事にサッパリ忘れている。 「お前が見に行ったのは、ありゃ『能』だよ。」と 言われたら、否定できないくらいなにも覚えていない。 場所はどこだったのだろう?。 都内中央区内のどこかだったような気がする。 そんなに客席が沢山あるところではなかった。 私を「歌舞伎」に誘ってくれた、隣に座って 一緒に観た人のことだけは、やけに覚えている。
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apakaba at 2007-05-26 23:10
喜楽院さん、それはまちがいなく歌舞伎座でしょう。
思いがけずせまい劇場ですよね。 取り壊しをするしないで何年ももめています。 それにしても >私を「歌舞伎」に誘ってくれた、隣に座って 一緒に観た人のことだけは、やけに覚えている。 ううーん、これはココを突っ込むべきなのでしょうか……悩みちゅう…… |
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以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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