2007年 11月 27日
<初めて読まれる方へ> この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。 前回までのあらすじ 日本に残してきたミタニくんに手紙を書いて、ひとまず一息。 カトマンズに来てすでに2日たっているのに、いったい我々はなにをやっているんでしょう? ↑ カトマンズ随一の観光名所、ボダナート。 3月4日(日)晴 きのうは洗濯と闇両替で終わってしまったので、今日はきっちり観光することにした。 まずGPO(中央郵便局)に行き、きのう書いた手紙を出した。 ヒロにはミタニの問題をあまり話していない(愛に発展しなかったら恥ずかしいから)ので、出すまでの間なんとなく中身を透視されているような気分で落ち着かなかった。 さて本日の目的地は、ボダナートとゴカルナ森である。 ボダナートは、街の東約7キロに位置する、チベット仏教(*1)の聖地である。ここのストゥーパ(仏塔)は世界最大であり、付近にはチベット人がたくさん住み着いているという。 *1・・・ネパールの国教はヒンドゥー教だが、カトマンズでは、ヒンドゥー教と仏教が同等に信仰されている。 そしてゴカルナ森というのは、サファリパークのようなところで、クジャクや鹿や猿などが広大な森にいるらしい。 どちらもなんだかツーリストの鑑が訪れそうなところだが、まー今日もヒマだし、いいか。 というわけで、まずリキシャを選ぶ。群がるリキシャマンたちは、口々に250だの300だのと途方もなくふっかけてくる。そういう奴らはほっといて、まだ13歳かそこらの子供のサイクルリキシャに決めた。彼はただ一人、ボダナートまで片道35ルピーで行くと言ったのだ。ゴカルナ森を廻ってこのGPOまで戻り、しめて100ルピー(500円)ということで交渉が成立した。 ものすごく華奢なリキシャの少年は、ペダルを漕ぐたびにやたら上半身がハデに左右する。ウワーはりきってるなあ、と頼もしくなる。しかしこんなに痩せていて、大人ふたりを乗せて大丈夫なんだろうか。坂道になっても降りてくれとは絶対に言わない。かわいそうなので自主的に降りてしまう(*2)。 *2・・・これは人のいい日本人旅行者がよくやってしまうことなのだが、インド人やネパール人の乗客がそうしているのを見たことがない。あくまでも座席にふんぞり返っている。 途中から、偶然に少年の友だちが加わった。 黄色い野球帽をかぶり、カバンを提げた男の子が、道ばたに立っていて、私たちのリキシャにずうっとくっついてきた。 私たちは最初から最後までこの子がキライだった。子供のくせに、妙に深刻そうに顔を近づけ、下からのぞくような目でささやくようにしゃべる。うう気持ち悪い。体つきもリキシャの少年とは正反対でデブッとたるんでいる。すぐにシェキとニックネームをつけた(お忘れでしょうが、パキスタンにいたころ一番嫌いだった奴の名前)。なんでついてくるのじゃ。なんで我々のかわいいリキシャの少年とあんたが友だちなのだ。 ボダナートまでの道は遠かった。そして上り坂ばかりだった。上り坂になると私たちは歩き、少年はリキシャを押すのだが、それがものすごく速い。どこにそんな力があるのだろう。きっと全身が筋肉なのね。 日焼けを避けて幌を掛けていたが、ぼろいのですぐ閉じてしまい、結局役に立たなかった。でもあの粗悪な幌はなかなかに味わい深い。 ボダナートはまったくの観光地で、私はあまりおもしろくなかった。 白いお椀を伏せたような大きくて低い塔の上に、金色の帽子をかぶったような仏の眼が描かれていた。宇宙のすべてを見通す眼だということだが、なんだか大きすぎるわりには、偶像と象徴のどっちつかずの造形という印象を持った。ありがたみは感じられない。 お椀のフチに当たる壁に、500ml缶くらいの大きさの、円筒形の回転するモノがずらりと一列に並んでいて、それをみんなムキになって(かどうか知らないが)回しながら歩いている。あれはいったいなんなのでしょう。円筒には模様が刻んであり、結構重い。これがなんだか一番まともにありがたい(*3)。 *3・・・これはマニ車といって、チベット仏教の聖句「オムマニペメフム」が刻まれており、これを回すだけで、お経を唱えるのと同じ功徳があるという。 少年が私たちのカメラで写真を撮ってくれたが、たんにカメラを触ってみたかっただけらしく、フレームに人物と背景を入れるなんてことはまるで考えていないようだった。どんなひどい写真になることやら。 彼は出店でぶどうを買い、私たちに分けてくれた。種だらけだった。 ぶどうの皮と種をペッペと吐きながらあちこち案内してもらった。しかしその間もシェキと一緒なのが気に入らない。こいつは急にフッといなくなったり、いつの間にかまたリキシャに乗り込んでいたりする不気味な奴なのだ。 お寺の境内に入ってみると、なぜか女の人ばかりが集まって、念仏のようなものを唱えて、これからまさに食事が始まるところだった。まずは仏様にさしあげる。そのごはんはとてもおいしそうだった。 ↑ 堂内の仏様のうちの一体。 お堂の中には、だんだんだん!という感じで三体の仏像がある。仏像とあっさりいうには迫力がありすぎる。3人?とも顔がぴかぴかの金で、人間の顔の大きさの3倍はある。右側のはエンマ様なのか、おそろしい形相だ。日本の仏像とはぜんぜんフンイキがちがう。ちがう国の仏なんだなーと思った。チベット仏教の仏像を見たのは初めてだったので、圧倒されるばかりであった。 それにしても真ん中の仏像の顔が大学で同じクラスの井上さんによく似ていた(そういうこと、言っていいのか)。 少年は、仏様にきちんと手を合わせていた。美しい姿だった。宗教ってスゴイ、となんとなく感心する。
by apakaba
| 2007-11-27 18:47
| 1990年の春休み
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Comments(10)
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キョヤジ
at 2007-11-27 20:57
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マニ車も知らないで行ったとは・・・。
恐るべし、小娘。(笑)
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apakaba at 2007-11-27 21:08
今でも小娘なのよーっ。ひゃー!
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ogawa
at 2007-11-28 00:00
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apakaba at 2007-11-28 08:21
ボダナート行っていないんですか!
スワヤンブナートは行ったのかな。 私はスワヤンブーのほうには行っていないです。 自分で書いていて、自分ではないような……なんちゅう稚拙な観察なんだろう、知識もなく、勘だけ頼りで楽しもうとしているんだろう、と、当時のバカさ加減に書いていて呆れました。 一人旅だったら、もっと素直に、いろいろ調べたり、感心していたと思います。 相棒がこのときネパール2回目で、すごく思い入れが強くて、その様子を隣で見ていると、かえって白けていくというか、イマイチ旅に浸る気になれなかったんですね。 これも二人旅ならではの功罪だろうなあ。
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満腹ボクサー
at 2007-11-28 12:19
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>まずGPO(中央郵便局)に行き、きのう書いた手紙を出した。
ヒロにはミタニの問題をあまり話していない(愛に発展しなかったら恥ずかしいから)ので、出すまでの間なんとなく中身を透視されているような気分で落ち着かなかった。 そうか。登場人物をすべて知っている人間に、ここを読まれるのも恥ずかしいんだろうな。 ちなみにオレの恋は、愛に発展することなく、思い出、後悔、未練などに発展するものと決まっております。
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キョヤジ
at 2007-11-28 12:39
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ぴよ
at 2007-11-28 16:46
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マニ車、ぴよも昔知らなくて調子コイてグルグル回しまくってたら
「そんなに回さなくていいんですよ」と、暗に「やめろ、テメー」という意図を含んだ口調でガイドさんに止められて、マニ車とは何ぞや、という事を教えて頂きました。 アホです。すいません(涙)
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k国
at 2007-11-28 18:37
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今回も甘酸っぱいお話があるかな?と思いましたが・・。残念。
ボダナート、これは見たいなぁ。いろんな紀行文で登場しますから。 しかしキテレツな仏像ですなぁ。癒し・・てくれそうにないなぁ。 怒られそう。 明王といい勝負しそうだ。
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apakaba at 2007-11-29 08:25
ネパールレス。
満腹ボクサーさん、そうです、とても恥ずかしくて嫌です。 キョヤジさん、パシュパティナートはとてもよかったです。 私が行ったのは、この旅ではなく、赤んぼ連れのときでしたが。 ぴよさん、「やめろ、テメー」あははははは……わかるわ。 知らないっておそれを知らないことだよねえ。 でも失敗を繰り返して、分別ある旅行者になっていくのね。 K国さん、日本にもいっぱいありますよね。 日本のは大きいのが多いですが。 soraさん、いつも甘酸っぱいとうんざりされるので……というか自分がうんざりなので……しば〜らくは、ただの旅行記ですよ! このとき初めてチベット仏教に触れ、感想はご覧の通りですが、そのあと急速にチベット仏教が好きになり、今では「チベット仏教展」とかあると必ず行ってしまいます。 |
アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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