2007年 11月 30日
<初めて読まれる方へ> この旅行記は、私が大学卒業旅行でタイ・インド・パキスタン・ネパールを一ヶ月半まわっていたときの日記を、不定期に載せているものです。文章(註・レート換算含む)はすべて22歳当時のままです。 前回までのあらすじ カトマンズ観光の目玉としてめだまさま(ボダナート)へ。 かわいいリキシャ少年とも意気投合して楽しい観光。 ところが次の目的地ゴカルナ森への道中が…… 3月4日(つづき) 私はゴカルナ森に多大な期待を寄せていたので、ボダナートのあとうきうきしてリキシャに乗り込んだ。 暑くなってきたので、アイスキャンデーを買った。チベット仏教の青年僧たちがおいしそうにかじっているのを見たのだ。しかしそれは傍目に見るのとまったくちがった味がした。ちょっとがっかり。 それにしてもゴカルナは遠い。 遠いなあ、おかしいなあ、いやこんなはずはないぞ。とだんだん心配になってくる。ボダナートから2キロで着くはずなのに、と思ってあたりをよく見ると、どうももと来た道のようだ。 「GPOのほうまで戻って来ちゃったよ!なんでこうなるの?あれほど何度も“ゴルカ・ヴァン”って言っといたのに。」 「え、ヒロ、“ゴルカ”じゃなくて“ゴカルナ”だよ、ちゃんとゴカルナ・ヴァンて言わないから、この子どこに行っていいのかわかんなくなっちゃったんじゃないの!?」 「うそーゴルカじゃなかったっけ?私勘違いしてた。わからないからとりあえずスタートしたとこに戻ってきちゃったのかなあ?」 「ここまで戻っちゃったら今日はもうゴカルナまでは行かれないよ。時間がないもん。チェーンの調子も悪いし……。」 「……。」 リキシャのチェーンが何度もはずれて、もはや漕ぐのをあきらめてほとんど手押しで帰ってきているこの少年に、とてもUターンしろとは言えなくなってしまった。 二人対一人の沈黙が流れる。彼は黙々とリキシャを押している。このときはホント、気が滅入った。ゴカルナに行けなかったのもショックだし、少年の心がとつぜんまったく見えなくなってしまったこともショック。 かなしいとか怒りたいとかいう積極的な感情ではなく、なにを考えているのかわからないブキミさ。どうせ彼のことだから策略があるとかいうのではないだろうが、それ以前に、ひたすら気持ちが下降していってしまう。 とかなんとか言ってる間に、ついに振り出しのGPO前に着いてしまった。 少年は、仕事は終わったとばかりに振り向く。 やはりゴカルナのことはまるっきりわかってなかった。 はじめに100ルピーと交渉しておいたので、ゴカルナには行ってないけど100払おうとした。 ところが、彼は300だか500だか、突然法外な値段を要求してきたのだ。なんてことだ。下降どころか墜落してしまいましたよアタシ。 しかし!ここで甘いカオはできない。 「100で十分だよ。だって一番最初には、ここからボダナートまで片道35で行くって言ってたんだから。往復で70、ボダナートの案内を入れたって100以上払うことないよ。」 と私はがんばりたかったが、ヒロは 「140……くらいは払っておこうよ。チェーンがだめになってるし、これ以上けんか腰になりたくないし。気まずいじゃない。」 と言う。 周りには例によってあっという間に人だかりができている。 あんたがゴルカとか言ってるから妙なことになったんじゃない、どっちにしてももう気まずくなっちゃってるじゃん、と思ったが、結局はヒロの意見に従って140ルピー払い、その場を去った。 あーまったくいやになる。楽しかったのは行きのひとときだけだった。 少年も結局はしたたかな働く人である。最初の交渉から額を変えるのはフェアじゃないが、あんなふうにつり上げても払う人がいるってことだろう。 いったん気まずくなると二度と立ち直れない。だって言葉がわかんないもん!なに考えてるのかたしかめられない。 一番最初の35はただの言い値だったのか、とか、途中で100にしたからこれなら上げてもイケると思ったのか、とか、どんどん悪く考えてしまう。 ゴカルナはあきらめたが、後味の悪さはもう拭いようがなかった。 言葉の通じにくい世界で、信じどき、信じる程度ってむずかしい、と二度三度思ってしまった。
by apakaba
| 2007-11-30 17:45
| 1990年の春休み
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Comments(6)
こういうシチュエーションだけは基本的には日本では体験というか遭遇しないですよね。まぁ、結構なことだと思いますけど。
契約という概念というか、それ以前に約束するという概念というか、自分の言ったことを守るという基本的行動規範が無いのかなぁ。 「信頼」という言葉が無いのだろうか。信頼されたら、また、次の仕事が来て・・・そして儲かる・・。そんな悠長なこと言ってられないのかなぁ。。 いろいろな旅行記で↑のような交渉&決裂のシーンを見て来ました。今も昔も変わらないようですね・・・。
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ぴよ
at 2007-12-03 00:16
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で、ゴカルナは結局行かず終いなのか?
(それは今後の展開のお楽しみネタなのかしら) それにしてもヒロってオンナ、甘いなぁ。 ぴよなら絶対に最初に言った金額しか払わないけど。 そこで上乗せしちゃうから「日本人は後乗せOK」になるのよ。 相手が例え年端もいかない少年だったとしても、彼は立派に金を稼いでいる「商売人」なんだからさ、 そこんとこ妙に同情するのって逆効果だと思うんだよね。 ぴよの言い分って・・・単にケチってだけじゃないよね? いや、ケチなのは認めるけど、そーじゃなくてさっ←必死の言い訳
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apakaba at 2007-12-03 10:04
ネパール。
soraさん、やっぱり、「生きることへの切迫度合い」もちがうし、「与える」とか「もらう」ということへの概念(宗教的な意味も含め)も根本的にちがう、というのも大きいんだと思います。 彼らからしたら、富める者(旅行者)が多くお金を出すのは当たり前のことだし。 そうはいっても、ひとくくりに「彼ら」ともいえないというか、中にはほんとに適正価格でものを売り、適正価格でお客を運ぶという人もいるので、それの見極めも難しいし。 つねに自分がテストされているような感覚ですね。 それが「嫌だ」と感じる人は、こういうスタイルの旅には向かないのでしょう。 ちがう価値観で生きる人間のいる世界を知るというのも大事だしおもしろいですけどね。 この、リキシャ少年も、今は立派な大人でしょう。 もしかしたら、今では「昔は観光客をぼろうとして悪さしたものさ。でもそんなことはしちゃいかん。」とか言い出すいい親父になっているかもしれない。 そんなことを想像するのも楽しいです。
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apakaba at 2007-12-03 10:12
ネパールつづき。
ぴよさん、私と正反対の子といっしょに旅行していたので、私はこういうスタイルの旅行は初心者だったし、彼女はベテランということで、反発を覚えながらも勉強にもなった、というところです。 私は当時血の気が多くて、喧嘩上等というスタンスで、とても肩にチカラが入っていました。 彼女は、無益な衝突は避け、できるだけ笑顔のままで交渉し旅をしたいという気持ちを持っていました。 私からするとイライラするんだけど、やはりその態度には学ぶものがあるというか……なんでもけんか腰では、自分も楽しくない、と。 このシーンでは、私も自分の言い分が正しいと思っていた。 でも、いつでも正解の行動ができるわけでもない……失敗を繰り返して旅が気持ちよく進むようになるんだなあと思うわ。 で、ゴカルナ森は結局未踏の地のままですわ。 翌日はポカラにあらよっと飛びます。
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満腹ボクサー
at 2007-12-03 11:29
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apakaba at 2007-12-03 12:50
ああもうそれ以上は書かんでよろし、ていうより書いたらだめだ
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アバウト
以前はエイビーロード「たびナレ」や「一生モノ https://issyoumono.com/」などでウェブライターをしていたが今は公立中学校学習支援教員のみ。 子供のHNは、長男「ササニシキ」(弁護士)、次男「アキタコマチ」(フランス料理店料理人)、長女「コシヒカリ」(ライター・編集者) by 三谷眞紀 カレンダー
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