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あぱかば・ブログ篇

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2008年 07月 10日

見た夢の情景をそのまま書いてみる

こんな夢を見た。


家からさほど離れていない街を歩いていた。
近所の繁華街に似ているが、入り組み合うアーケード商店街の中央に伊勢丹と東武百貨店が隣り合っているので、架空の街らしい。
雨上がりの陽を受けて、あちこちキラキラと光っている。
白っぽい化粧ブロックの歩道も濡れていた。
せまい商店街はどこかの国のバザールのようで、いかにも安物といったへなへなの革鞄屋だとか、ディスプレイか片づけ忘れたのか判然としない、布を広げた生地屋などが軒を連ねていた。
だが異国情緒というほどの無国籍ぶりでもなく、雑踏を歩くのは皆日本人だったし、空き地の雑草などもそのへんに生えているのと同じ、ありふれたものだった。

悲しい気持ちで歩いている自覚はなかった。
しかし、雨上がりだったはずの明るい空がまた急速に暗くなり、驟雨がおそってきた歩道のどたばたぶりを見ていると、なにもしたくないのになにかしなければ、と、追われるような気持ちになってきた。

私は商店街の中央にふたつ並んだデパートのうちのどちらかに行くつもりでいた。
でも道に迷ってしまった。
傘がないのでずぶぬれになってきて、バッグからタオルハンカチを出して頭に載せてみたが、とても小さいハンカチなので、河童のお皿のような具合でまったく雨除けの用をなさなかった。

もう帰ろうと思い、駅への道と思われる道を歩いていた。
ふと気づくと、それはふたつ並んだデパートのうちのどちらかの脇を通る道だったので、そのまま入り口から入れば、買い物はできたはずなのに、こんなにみっともなくずぶぬれになってしまって気分も萎えているのに今さらいいや……と思った。
少し体も冷えてきていた。

駅に通じる、広場というほどでもない、ちょっとしたロータリーのようになっている場所で、
「あなた、傘にお入りなさいよ。」
と、声をかけられた。
見知らぬご婦人だった。
“ご婦人”という呼び方は時代がかっているけれど、“女性”というのもしっくりこないし“おばさん”というほどフランクな雰囲気でもない、“おばあさん”“老婦人”というには背筋がぴんとまっすぐ伸びすぎている、半分白髪のショートカットは美容院から帰る途中のようにきちんとしていて、白地にグレーの大きな柄物のスカートスーツスタイルの人だった。
スカートは年配のかたにふさわしく丈が長めで、すらっとした直線的な体に似合っていた。
細い目に軽そうなフレームの眼鏡をかけていて、お化粧もちゃんとしているがいくらまじまじ見てもその顔に見覚えはなかった。

「そんなに濡れていたらいけないわ。いっしょに差しましょう。」
と、二人で入るには明らかに小さすぎる傘を差し掛けてくれた。
白くて模様はなく、ペパーミントグリーンの縁取りがしてあるごく当たり前の傘だった。
誘われるままに、「ありがとうございます。」といって傘に入り、化粧ブロックの歩道を並んで歩き始めた。

そのご婦人が、手をつないだ。
私はややぎょっとした。
背の低い私が、すらりとしたご婦人に手をつながれ、傘もご婦人が持っているので、まるで自分が小さい子供になったようだった。

「あなたの心の気がかりなことや悲しいことを、心の中に押し込めておく必要はないのよ。あなたは心と反対の行動を無理してしようとする癖があるの。それはよくないことだわ。素直に出すのがなによりいいのよ。」
そう言われても思い当たることなどないような、だが誰にでも当てはまるような言葉を傘の中でかけられた。
ご婦人の手は温かく、このどしゃ降りだというのにさらりと乾いていた。

私は、初対面のその人に甘えてみたくなった。
というより、傘に入れてもらって手をつないで黙って歩いているのだからすでに十分に甘えていた。
ご婦人のほうは、朗らかで落ち着いた声であれこれと話をしていた。
手はつないだままだ。
とても、心地よい。
けれどもだんだん、“この人にどこかに連れて行かれてしまうのではないか?”と思い始めた。

迷っているのか故意なのか、またロータリーに戻ってきてしまった。
ロータリーでは、傘の無料貸し出しをしていた。
まだたくさん置いてある。
傘は立ててあるのではなく、横に倒して、縁日でバラ売りになっている花火のようにずらっと広げられていた。
それはすべて、白無地にペパーミントグリーンの縁取りのしてある、なんの変哲もない傘だった。
「あっ。あの傘はもしかして、この、お持ちの傘と同じものですか?ここで借りたのですか?」
とご婦人に尋ねてみた。
私もその無料貸し出しの傘を1本借りれば、そのまま駅へ行って電車に乗って家に帰れる。
ご婦人ともここで別れられる。
ところがご婦人は、
「ちがうのよ。似ているけど、あの傘はこの傘とはちがうものなのよ。さあ、行きましょう。」
と、貸し出しの場所から離れてしまった。

ご婦人といっしょにいる心地よさと不気味さが、同じ大きさに胸の中でふくれていった。
どっちを選んだらいいのだろう。
どっちも選べない。
また空が明るくなってきて、雨脚は弱くなった。
私はできるだけ自然なタイミングでつながれていた手をほどき、思いきって言ってみた。
「私は、デパートに行こうと思っていたんです。だからデパートに着いたら、もうけっこうです。この道でいいと思います。お世話になりました。」
それに対して、ご婦人がなにかを言った。
穏やかな態度を崩さないまま、なにかを私に言いかけた。


それなのにそのとき、目覚まし時計が鳴って、傘もご婦人も永久に消え去ってしまった。
よろよろと起きて、台所に立ちながら、霧がかかったようなはっきりしない頭で、ご婦人の最後の声を聞き取ろうとむなしく努力した。
もちろん起きてしまってから夢の声を聞き取れるはずがないのであきらめ、「あなたの心の気がかりなことや悲しいことを、心の中に押し込めておく必要はないのよ。」とか、入り組んだ雨の街の様子を忘れないうちに文章に書いてみよう……と考えていた。

by apakaba | 2008-07-10 11:37 | 生活の話題 | Comments(23)
Commented by メリー at 2008-07-10 12:35 x
ほにょー、、、  
ほんとに、いつもいつも、不思議な夢を見るね~。
「ご婦人」 なんかあるよ、きっと。 
なんか。。。       ( ̄▽ ̄)ナンテネ
Commented by さると at 2008-07-10 13:03 x
ほにょー
それはもしかして未来のご自分?
手を繋ぐという行為は何でもないようで、実は結構意味のあることなのかもしれませんね。
Commented by キョヤジ at 2008-07-10 13:12 x
ほにょー、、
目的地に障害があって辿り着けない・・・。
導いてくれそうでいて胡散臭いご婦人・・・。

鬱積してるのではないのかな、と。

夢診断がおじょーずな人って誰だったっけ?
診断してもらえばぁ。
Commented by apakaba at 2008-07-10 14:30
夢レス。
メリーさん、これくらいのボリュームの夢は、書かないだけでざらなの。
毎回書いていたら、どっちが現実だかわからなくなっちゃう!

さるとさん、いやー私よりだいぶ背が高かったよ。
手触りとか、すごく細かいところまでしっかりしている夢をよく見ます。

キョヤジさん、鬱積ですか。
アレがたまっているのか。アレってなんだろう!

>夢診断がおじょーずな人って誰だったっけ?

誰だろう、suzeさん?
こういう具体的な道具立ての夢って、あまりにわかりやすい診断になりそうね。
Commented by Tner-Harold at 2008-07-10 14:51
素敵なブログを書いていますね。
貴方の素敵なブログをお手本にして、
書いてゆこうと思います。
私は若輩者であり、ブログ暦は浅いです。
是非、ブログに関して、コメントを残して
くれませんか?
先輩としてアドバイスを求めています。
Commented by apakaba at 2008-07-10 15:25
トナー・ハロルド様(思いっきりカタカナ表記にしました)コメントありがとうございます。

夢で見た情景をそのまま書くのは、小説を一から考えて書くのとは似て非なるもの、ですね。
前者は、いわば暗ーい部屋で一度きり見た、映りの悪い映画を思い出しながら、文章にしていくようなもの。
後者は、まず映像を頭の中で広げてから、それに従って書いていくような。
どちらにせよ、文章を書くのってたのしいですね。

トナー・ハロルド様の長大な小説には驚きました。
モチベーションを維持するのも大変かと思います。
励みになる言葉がほしいときもあるでしょう。
でも創作活動って、そんなにリズミカルにぽんぽん飛び出るものでも、ないですよね。
時には、ファンの皆さんの期待が重たくなってしまうことがあるかもしれません。
期待に早くこたえようとして、質を落とすのが一番馬鹿馬鹿しいことで、本末転倒ですね。
インプットがなくアウトプットばかりでは、いずれ枯渇してしまいますね。
釈迦に説法のお節介でしょうけど、質の高さをキープしていってください!
応援しています。

って、あああっ。
そちらのコメント欄に、書くのでしたね……おっちょこちょいでスミマセン。
Commented by Tner-Harold at 2008-07-10 15:40
すごいです。
そんなに読むのが早い人に驚きです。
僕は読むのが遅いです。
Commented by apakaba at 2008-07-10 16:16
トナー・ハロルド様、あはは、やだなあ。
そんな40話以上も一気読みできるわけないじゃないですか。
3話分一気読みしただけだということを白状します。
薄情だと思わないでください。

私も遅読なので、なかなか読書もはかどりません。
でも読むのは好きですよ。
たまに渾身の書評とか映画評とか書いちゃったりします。
(あと何日かすると、渾身の書評ができあがるはずですが産みの苦しみ中です。)

トナー・ハロルド様のバイタリティーの足もとにも及びませんが、私も書くことが長年の趣味なので、「書くためには、読まねばね」ということをつくづく感じています。
自分がレベルの高い文章を書きたかったら、レベルの高い文章にたくさん触れなければ、すぐ限界がきちゃいます。
お互い、遅読組としてがんばりましょう。
なんか情けない組分けですが。
Commented by ogawa at 2008-07-10 21:43 x
伊勢丹と東武。
ハンカチと傘。
雨と晴れ。
ご婦人と眞紀さん。

文章の書き方から三次元ではなく、二次元のどこか平面的な印象を感じます。
一つのサークルの中という閉じた空間での対の比較の夢の表現。
う~ん、面白い。

そして夢の終わり。
夢って不思議なもので、何かの結論が出る前に目が覚めてしまうのですよね。
Commented by タカモト at 2008-07-10 21:44 x
そりゃぁ疲れるわな。
寝たらこれだし起きたら弁当だし。(笑)

最近、ハッキリとした夢見んわなぁ。
Commented by apakaba at 2008-07-10 22:02
夢つづき。
ogawaさん、「こんな夢を見た。」は漱石の向こうを張って……ナンテ、ちょっとあやかってみただけです。
ちょいキリコ風?不安な感じがね。
夢の終わりが唐突なのは、結末すれすれのところから巻き戻しのようにスタートしているんじゃないかなと疑うときもあります。
(「巻き戻し」という言葉は、考えてみたらもう死語なんでしょうか。)

タカモトさん、どっと疲れるよ。
ものすごくロマンチックな夢とか、ラブロマンス系とかアドベンチャー系を見たりすることもある。
でもいずれにせよ、こんな調子ですごく具体的だから疲れる。
夢をあまりバシバシ見るって惰眠だというけどねえ……
Commented by ぴよ at 2008-07-10 22:05 x
ここまでハッキリと夢を覚えていられないわー。
いつも目が覚める数分前くらいの分、しかも起きた直後は覚えてるつもりだったのに、気付くと忘れてる。

何か深層心理を表しているっぽい夢な気がするが・・・
Commented by apakaba at 2008-07-10 22:09
ぴよさん、私の深層心理なんてどうせ水たまり程度の浅さよー。
深層も表層もだいたい同じ。
だって見たニュースとか前日あったこととかがあっという間に夢に出るんだから。
べつに、内容については気にしていません。
ただ、上のレス中にも書いたように「暗ーい部屋で一度きり見た、映りの悪い映画を思い出しながら、文章にしていく」ようなことが、チョトおもしろかっただけなのん。
Commented by kaneniwa at 2008-07-11 00:35
夢のなかに出てきた、年上の人のアドバイスは
聞くようにしています。

最近、年下にいろいろなことを教わる機会が多いのですが、
マーヒーは素直に聞いているふりをして、実は素直に
聞けないことが多いようです。

先日も、まだアマチュアですが、
Reiちゃんという、大阪のブルースシンガーの
ギターテクニックがすごいので、何度も録画を再生して
眠ったら、

夢のなかで死んだおじいちゃんがストローハットを
かぶった黒人になって出てきてくれて、Reiちゃんの
曲をアコギの弾き語りで演奏してくれて、
場所は、アメリカ南部のどこかの街のグレイハウンドバスの
乗り場で、南部なまりの英語(だと思うのですが)
「ほりゃ、ワシが歩きだすように、跳ねる感じで弾くと
うまくいくのじゃ」 と、教えてくれました。

マーヒーの場合、ユングが言う 「老賢人」 がわかりやすく
夢に出てきてくれるみたいです。

私は死んだおじいちゃんのことなら、何でも素直に聞けますから、
喜んで、夢のなかで、そのギターを習います。

その夢のなかでの自分は、少年だったなぁ。

BYマーヒー
Commented by apakaba at 2008-07-11 07:48
マーヒーさん、あはははは!!
やだなあ。こんなスゴイ隠し球を出されたら、全部持って行かれちゃうじゃないかー。私の長文の努力がすっかり霞んだわー。

おじさんで、夢にストーリーがあり、しかも細かいところまで覚えている人ってほとんどいないように思います。ああ、すみません。おじさんというのはこの場合マーヒーさんのことです。
やっぱり、前回分のレスを引きずりますがマーヒーさんは子供心のある大人としか言いようがありません。
子供心が残っていないとこんな夢は見られないし覚えてないですよ。
目が開いた瞬間に消え去ってしまいます。

しかしとてもいい夢ですね。典型的な情景で。
歩き出すとき、ぴょこんと一瞬つま先立ちになるような歩き方をする人っていますね。無駄に上下するというか。
弾き方の答えは心の中に持っていたということですねえ。
Commented by 那由他 at 2008-07-11 08:41 x
出だしを読んで、すぐ「夢十夜」を思い出したんですけど、やっぱりそうだったんですね。

私もいろんな夢を見ます。
妙に細かかったり、ストーリーができてたり、色や香り、手触りが印象に残ったり。
夢に関しては、思うところがたくさんあります。

自分が登場するのと、観客のように見ている(存在はしないまま)夢と二通りあります。

夢は不思議ですね。
暗号で書かれた、心からの手紙…でしょうね。


Commented by apakaba at 2008-07-11 09:53
那由他さん、女の人のほうが夢は詳しく覚えているという印象があります。
「夢十夜」堂々パクリに反応してくださってうれしいわ。
あれのなかに、好きな夢がいくつかあります。
私はいつも私が主役で、翻弄されるばかりという筋立てですねえ。
人の夢の話ほど聞いていて飽きるものはないともいいますが、それだけパーソナルなものなんでしょう。
敢えてこんなにたくさん書いたのは、ちょっとチャレンジしたくなったの。
Commented by kaneniwa at 2008-07-11 21:57
やだぁ、眞紀ちゃんたらぁ。
マーヒーけっこう真面目に書いているのよぉ。

30歳前後の時に、ある臨床心理士の講座のお手伝い
をしていたことがあってぇ。

そこで、見た夢を、この眞紀ちゃんのブログ記事ぐらいに
詳しくノートに書いていくことをすすめられたのよぉ。

同時にして、その行間に、赤いペンで、その夢を見た時に
どんな気持ちだったかも、書き留める練習をしたことも
あったのよぉ。

だから、最近の夢でも、けっこう詳細まで再現できるのよぉ。

BYマーヒー

Commented by apakaba at 2008-07-11 22:07
わ、わかりました。
子供心も女心も夢心もある大人と呼ばせてくらさい。
もうおじさんだなんて申しませんぺこぺこ、へいふく。
夢の記憶には「覚えていてやるぞー!わすれるもんかー!」という気合いも重要な気がしますね。
たいていは、目覚めた瞬間に現実生活の予定がどどっと襲ってきて、覚えていても現実生活の予定になんら価値のない夢のことなど、早くデリートしたほうがいいように心が動くんじゃないかな。

しかしマーヒーさんは本当にいろんなことをなさっているんですねえ。
私も黒人のおばあちゃんの姿となって、マーヒーさんの夢枕に立ちとうございます。
「マーヒーよ。ワシの言うことをとくと聞けよ。吉田ブログは挫折してはならんぞ。必ず完訳するのじゃぞ。」
Commented at 2008-07-12 16:20 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by apakaba at 2008-07-12 16:32
ナルホドーナルホドーナルホドー!
そんなふうに分析されると、もう絶対にそのとおりであるように思ってきました。
うん、絶対にそうだよな。
ありがとうございます。お見事。
Commented by kaneniwa at 2008-07-17 01:43
このブログ記事に触発されたか鼓舞(インスパイアー)されて、
私も見た夢をそのまんま、なるべく克明にブログに
そのまま書いてみました。

BYマーヒー
Commented by apakaba at 2008-07-17 10:12
マーヒーさん、ご案内ありがとうございました。
おもしろいです!!!!!
思わず3連投してしまいました。えへへ。


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