人気ブログランキング | 話題のタグを見る

あぱかば・ブログ篇

apakaba.exblog.jp
ブログトップ
2008年 09月 18日

インド映画と『源氏物語』

インド映画と『源氏物語』_c0042704_2135477.jpg


インド映画のダンスシーンに大変しばしば登場する振り付け。
男性が後ろから女性を抱きしめ、首筋にキス。
女優はその一瞬に、陶酔と切なさを交えた表情をするのがお約束。
コーシローはしつこくされて単に嫌がっていますが。

インド娯楽映画では唇へのキスシーンはめったに出ないが、首筋や腕、頬などには愛の表現として出てくる。
いわゆる洋画では、説明としてキスシーンが挿入される感もあるが、インド映画のダンスシーンはその代わりとなり、感情の高まりを歌と踊りで表現する。
これがよいのよ。

インド映画は支離滅裂で馬鹿馬鹿しくて嫌い、という人もよくいる。
しかし私は歌舞伎や映画や文学など、いろいろなジャンルをとおして、“虚構を極めると真実が宿る”と思っている。

先日、お友だちと『源氏物語』の話をしていて、同じようなことを言った。
およそこの世で考えられる限りの、すべての恋愛パターンが、1000年前にすでにたったひとりの作家から記されてしまっている。
ミーハーな読み方だろうと文法の研究だろうとマニア的読み方だろうと、読めばあれほどのどでかい虚構には驚くほかないし、物語のどこかに、自分を投影するなどのリアルさを感じるにちがいない。

ふたりの関係を説明するためのキスシーンよりも、体とまなざしをフルに駆使したダンスのほうが、よりリアル。
すべての“肝心なシーン(性愛シーンとか)”は、かならずなにも具体的なことが書かれずに次のシーンへとつながってしまう『源氏物語』は、より妄想をかきたてる。
こういう表現手法が好きだなあ。
そっちのほうが、成熟した芸術だと思えませんか?

by apakaba | 2008-09-18 22:41 | 文芸・文学・言語 | Comments(12)
Commented by kaneniwa at 2008-09-19 00:21
“虚構を極めると真実が宿る”とは卓見だと思いました。

知り合いのインド人が言っていたことですが、 
リチャードアッテンポロー監督の 『ガンジー』 がインドで
上映された時、歌はないし踊りはないし笑いはないという
ことで、映画館で観たインド人たちはエンディングで
大ブーイングを起こし、暴動寸前の状態になったといいます。

私はまだ学生時代のことで、「暴動寸前ってことはないだろう」
と眉唾でしたが、その後、私もインド映画の定型というか、
お決まりのような世界のことを知ってから、まんざら誇張では
ないと思いました。

確かに、ガンジーの威徳をたたえる映画であるにしろ、
インド人の監督であれば、せめてラストシーンは、
大勢のエキストラにダンスをさせ、ガンジーをほめたたえる
歌を大合唱させ、その中心にいるガンジーは
(なんせ死にかけているので)踊らずとも、その虚構世界を
極める表現をもってガンジーの威徳が大勢の人々のなかに
今も活き活きと、躍動するかのごとくに息づいていることを
示すのでしょうね。

BYマーヒー
Commented by apakaba at 2008-09-19 08:15
マーヒーさん、『ガンジー』は真面目な映画でしたねえ。
ベン・キングズレーの迫真のそっくりぶりには驚きました。
そもそも娯楽映画ではないので、歌と踊りとコントシーンは入れようがないですね(ていうかそこまでインド人大衆に合わせる必要もないわな)。
きっとインド人大衆はアッテンボローの映画を激しく誤解して期待してしまったのでしょう。あはは。

もしインド娯楽映画仕立てだったら、瀕死の床につくガンジーさんもダンスシーンではシーツをはねのけて中心で踊り出すくらいの離れ業はやりますね。
それでこそインド式に虚構を極めるということで。

いったん
Commented by apakaba at 2008-09-19 08:23
つづき。

今、新訳版が出たので『カラマーゾフの兄弟』を再読していますが、やはりモノスゴイ強硬な虚構ッぷりに惚れ惚れしてます。
インド映画も源氏物語もカラマーゾフも、とにかくストーリーテリングの才に尽きますね。

私は、なんとなく日本でのインド映画の評価が、不当に低いというか、あの高い表現手法・俳優の名演技・ダンスの芸術性を見ようとせず、むしろ低レベルな娯楽ものという先入観を持たれている気がしていて、忸怩たる思いなのです。
これについては、実に言いたくないことですが、インド映画を“(遠い異国の)ワケノワカラナイ”ものとして笑止に付し思考停止するという、日本人の悪い癖が出ているとしか思えないです。
まあ、あまり国内で認知されていないというのはありますが……もっと上映されないかなあ?
Commented by kaneniwa at 2008-09-19 21:23
なるほど、瀕死のガンジーがシーツをはねのけて
群衆の中心で踊り出す演出があって、
Long Live Gandhi ! 
連呼が生きてきますね。

BYマーヒー
Commented by apakaba at 2008-09-19 22:01
連呼というのは、魂に意味を届かせる場面においてひじょーーーーに有効ですね。
声に出して「唱える」ことの力は、フツーにぼけぼけ暮らしていると気づきにくいものですが。
誦経をたまーに耳にするとき(すんません、たまーにで)、そのことを強く感じます。
歌のサビのリフレインもそうですが。
Commented by タネジャ at 2008-09-29 23:12 x
インド、ニューデリーより、インド人です。日本ではインド映画が知られなすぎることは把握でしたが、「ガンジ」についてそんな情報が、と、ショックです。まずは公開の82年に「ガンジ」がインド国内に大ヒットしました。しかも、それ以来ガンジ誕生日の10月2日に必ずテレビで放映されます。インド映画は大きく変化をしたにも関わらず、今だに日本で10年前にヒットした南インドのB級「踊るマハラジャ」がイメージですね。去年東京国際映画際で受賞したインド映画「ガンジ、我が父」は観ましたか?歌、ダンス全くなく真面目な映画で、視聴した日本の報道にも大好評でした。こういった映画が今年間40本以上出ていて、都市部や副都市部で普通に上映され、売れている作品も多数です。「Eklavya」や「Taare Zameen Par」をお勧めします。Taare..は相当感動をされ、泣いた人が多いです。できれば、選択してみてはいかがでしょう。最近の娯楽映画ではOm Shanti Om、Bachna Ae Haseenoをお勧めします。インド人は今160チャンネルを越えるテレビを観ていて、昔とまったく違って、映像を厳しく選択していることを把握しておいてください。
Commented by apakaba at 2008-09-30 15:54
タネジャさん、ニューデリーからありがとうございます!感激しました。
インド映画の、日本での上映の少なさについては、上映時間が長いというのが最大のネックだと思います。
一日当たりの動員数が減ってしまいますから。
「ガンジー・我が父」は未見ですが、アニル・カプールの製作ですか。
アクシャイ・カンナーも、娯楽系よりシリアスな作品のほうが、繊細な雰囲気をうまく出せそうですね。

「ムトゥ」が98年になぜあれほどヒットしたのかは、私もわかりませんでした。
もともとタミル娯楽ものはあまり得意ではないのですが。
でも「ティラナティラナ」はやっぱり名曲だと思っています。
A.R.ラフマーンの音楽は新しくて好きです。
なので、マニラトナム監督とラフマーンの音楽でタッグとなったシリアス作品「ディル・セ」はとても好きです。
ジャティンーラリトのような、昔ながらのリリカルな音楽も好きですが。
Commented by apakaba at 2008-09-30 15:54
タネジャさんつづき。

私はそれなりにシリアスな作品にも、ダンスが入るとうれしくなります。
カマラハサンの「ヘイ・ラーム」でしたっけ。ムスリムのシャールクと友情を深めるという……あれなども、ダンスシーンはかっこいいなと思いました。

私も不勉強でシリアスものはあまり見たことがなく、さかのぼってグル・ダットなどはいくつか見ました。
あとは「ボンベイ」とか。

インドには何度か行ったことがありますが、富裕層とそれ以外の人の間で、好むものに隔たりがあるのかなという気はしました。
私はどちらかというと、シリアスななかにも娯楽性を求めたいタイプなので(といっても、若い女優さんは美しく踊れる人が減りましたが)、ミュージカルシーンには幸せな気持ちになります。

いろいろ教えてくださってありがとうございます!
インドにはとても興味があるのでまたたくさん教えてください。
Commented by タネジャ at 2008-10-01 20:09 x
あぱかばさん、コメントありがとうございます。インド映画色々と観ているようですね。上記のコメントに対して、追加で申しますと、
「--上映時間が長いというのが最大のネックだと思います。」
に関して言いますと、シリアスなインド映画はまず2時間を越えることがありません。そして今の娯楽映画の60%以上が2時間内に収められています(歌、ダンス入りでもです!)ただ、大型娯楽映画は2時間30分がほとんどです。が、昔みたいに3時間もする映画はインド人は誰も観たくない時代なので、めったにないものです。Lagaan、Jodha Akbarは例外です。
Commented by タネジャ at 2008-10-01 20:31 x
あぱかばさん、引き続きです。  Rehmanの音楽はインドの若い人には大人気ですが、どちらか言えば、ヒンディ語のムンバイ発映画(ぼりーウッド)の彼が手がける年間数本のサントラです。今年は「Jaane Tu。。」がとても気に入りました。やはり彼は音楽センスがいい。さすがにロンドンとニューヨークのブロードウエーの作品2本のサントラを手がけているほどの実力派です。ちなみに「ボリーウッド」という言葉は欧米メディア発で、インド映画界には嫌われます!(最近はインドメディアでも使われることもありますが) 「ミュージカルシーンには幸せな気持ちになります。」インド人にはよく理解できます。結婚式、人のお祝い事、パーティ、ほか個人をまつわる会にみんな楽しく歌ったり、踊ったりするのが好きで、それが映画の一部としてミュージカルという形に入っていてもごく自然に見られてしまい、いい曲はサントラが売れます。と言いながら、映画にも歌にもセンスがなければ売れなく、今ミュージカル曲にはお金と時間がかけられます。シリアスな映画は増えていくにしても、個人的にはインド映画はセンス良きの歌、ダンス入りの楽しい娯楽映画はなくなってほしくないと思います。
Commented by apakaba at 2008-10-01 23:12
タネジャさん、うわー本当に再訪してくださるとは思いませんでした。
たいてい、通りすがりで一度きりコメントしてくれると終わってしまうので。
とてもうれしいです。
とくに、インド映画に関しては語り合う人がほぼいないのでとてもうれしいです。
リンクのサイト拝見しました。
がんばって活動していらっしゃるのですね。
久々にアーミル・カーンを見て懐かしかったですね。
私の中では、彼は「ラージャー・ヒンドゥスターニー」とか「ランギーラ」なんですよ。
ぱるーでぃーすぃぱるーでぃーすぃじゃなーなひーん。
むじぇちょーるけー。むじぇちょーるけー。
とか唄われると涙ですねえ。
Commented by apakaba at 2008-10-01 23:13
タネジャさんつづき。

>個人的にはインド映画はセンス良きの歌、ダンス入りの楽しい娯楽映画はなくなってほしくないと思います。

そうそう、そうですね!私も同感です。
娯楽映画に非常によく出る婚礼関係のダンスシーンは、視覚的な美しさもピカイチですね。
「クチュクチュホタヘ」や「DDLJ」など、やや古いですがやっぱりとても好きです。
めへんでぃらがけらくなどーりーさじゃけらくな。とか、よく車の中でサントラを聴いていますよ。

私は映画だけでなく、インド文学も読んでいます。
ロヒントン・ミストリーの「かくも長き旅」とか、カンナダ語の小説も読みましたよ!K・P・プールナ・チャンドラ・テージャスウィ「マレナード物語」というものでした。
あと、ハニフ・クレイシ「郊外のブッダ」もものすごくおもしろかったですね。
日本国内でこういう本を読んでいる人はとても少なく、せいぜいジュンパ・ラヒリが知られるようになったくらいです。
もっともっと、インドが知られるようになるといいなと切に願っています!


<< ひとの手に身をゆだねる      またシャールク、そしてエスニッ... >>